第19話 オリハルコンランク
「──は? 嫌疑保留? それは一体どう言う事ですかな」
「は、はぁ。私も先程聞いたばかりでして、今使いを遣った所です」
マキアノの心中は穏やかではなかった。出迎えには錬金ギルドと商業ギルドのグランドマスター二人で来ると聞いていたにも拘らず、門に到着してみれば、なにやらオロオロした表情の錬金ギルドのグランドマスター唯一人。ジュード・キンベイと言うこちらで買収済みの男だけ。聞いたところ、商業ギルドのグランドマスターは現車をチラと確認しただけで、先程の件を話して会館に帰ったと言う。どういうことだと問うて返ってきた返事が今の言葉。一体何がどうなっている? 国で聞いた情報では現在新型の物に関しては、帝国が全て現物を用意できれば王国を出し抜けると聞いていた。そうする事で『迷い人』であるノートの存在自体を疑問視させ、『別件』の買収に取り掛かる予定だったのに。このままでは当初の予定が丸潰れになってしまう。
「──とにかくここで話していても始まりませんな。宿へ向かいたいが宜しいか?」
「こ、これは気づきませんで! はい、宿につきましては手配済みです。こちら──」
貴族門を潜った魔導車の車列が見えなくなり、門が閉じられて先程の喧騒が普段のものに変わる頃、変わらず貴族門を見つめている商人風の男と、側にいる冒険者の一団が居ることに長蛇の列では確認できなかった。
「──アレが国堕としか……」
「……それにしては、慌てた雰囲気が感じられたがな」
「あぁ、どうやら仕込みが上手く行かなかったようだな」
「はは。相変わらず『目』ざといねぇ」
「さぁ、皆さん。いつまでもここに居たら不味いでしょう。我等は国の依頼で来ているのです。見咎められる前に進みましょう」
商人風の男は爽やかに笑顔を見せながら振り返ると、冒険者たちにそう言いながら、馬車へと戻っていく。終始無言だった腰に帯剣した猫科の大型獣の耳を付けた女性が一番最後に振り向きざま、変わった言葉を言い残す。
「──ご先祖様の道行を邪魔立てするは、それが誰であろうと斬り捨て御免でござるよ」
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「──オリハルコン?」
ミスリアの加護の件で部屋中で騒ぎになった後、王族からの熱視線が止まらなくなってしまった。イオーリアは目の色を変えて『私にもなにかお役に立てる事は?!』と言い出し、カストルは『正しく神使ではないですか!』と拝み始め、ゲインズに至っては『カッコいいです! 神様みたい!』とはしゃぎ出してしまった。国王と王妃、宰相など主だった連中達は、平伏しながら『今までのご無礼! 誠、誠にご容赦を~』と涙を流しそうな勢いでズリズリ跪いたまま詰め寄ってきて、ちょっと引いてしまった。その後全員で囲めるソファに落ち着いて、お茶を飲んでいる時に宰相からそんなランクの存在を聞かされた。
「……あぁ、そう言えば国単位での総数が定められた、戦略級の戦闘が行える冒険者たちがその様なランクでしたね」
宰相の言葉に、セーリスが応える。
「へぇ。冒険者ランクってミスリルが最上じゃなかったんだ」
「いえ、ミスリルが最上です。オリハルコンランクと言うのは、あくまで便宜上そう付けられただけです」
俺が感心していると、キャロルがそう言って否定してくる。その便宜上と言う言葉の意味が分からず、彼女を見返すと、隣に座ったシェリーが補足してくれた。
「彼らは冒険者という身分を名乗っているけれど、同時に国の身分として何らかの位も所持しているわ。例えばシンデリスなら、氏族長。帝国なら大公? だったかしら。要するに国の戦略級武器って所。でもそれを国が独占すれば戦力の均衡を崩しかねない。だから冒険者ギルドで表面上管理して、戦争なんかに使わせないと条約が結ばれているのよ。冒険者ギルドはどの国にも加担しないと言う誓約が有るから」
「うはぁ。ややこしくて、メンドクサぁ。でもまぁ考えてみれば致し方なしか。未開地域が多いからそちらになにか有った時の戦力は必要だしな」
「お? ノートにしてはよく分かっておるの。その通り、未開の森や土地にはどんなモンスターや魔獣が闊歩しているか、分からんことだらけじゃからな。──それで? 何故今その話をここでするんじゃ? 確か、この国にも一人オリハルコンは居たと思うが?」
「は、はい。我が国には今『剣聖』が一人居ます。現在彼は所用で王都を離れておりますが、ノート殿の事を気にしておられました」
「……え? 何で気にするんですか?」
「──ドラゴンですよ。彼はジャイアントキリングが大好きな男です」
そう言ってカストルが横から話に入ってくる。ジャイアントキリング? 大物食いって事か? うわぁ、なんか面倒なやつっぽいなぁ。それって要するに戦闘狂じゃんか。そんな風に俺が考えていると、顔に出ていたのか、キャロルが俺を見ながらくすりと笑って話してくる。
「……確かにヘイムスさんは戦うのが大好きな方ですね」
「えぇ、バトルジャンキーと言えるわ」
「な、た、確かに戦闘は得意だが、面倒見もいい人だったぞ」
ここで何故か、キャロルとシェリーが同意し、セーリスが反論してくる。何だ? まるで本人を知っているかのような、話しぶりだな。
「あぁ、あやつの事か。ふん、セーリスにギルマスを押し付けて勝手に田舎に引っ込むとか言いおって、結局は自分で狩りがしたかった馬鹿者じゃ」
──ん? ちょっと待て。……ギルマスを押し付けて消えた?
「なぁ、それってもしかして、エクスに居た元ギルマスの事?」
「ん? お主アレの事を知っておったか?」」
「いや、セーリスにエクスのギルドのことを聞いた時に少しだけ。ってか皆居たじゃん」
「……そうじゃったか。……あれは元々風来坊での、エクスがまだ小さな町だった頃にふらっと現れて、周辺のモンスター狩りをしておったのじゃ。何故それを始めたのかは知らん。じゃがあ奴はその時から言うておったんじゃ。『氾濫』が起きるとな。そうして半年もせん内に起きたのがエクスの街を半壊させた『大氾濫』じゃ。当時はあの町に主だった冒険者は居なかったからの。儂とあ奴とで殆ど寝ずに三日三晩戦ったわい」
「──それが国に認められて、彼はオリハルコンになったのよ。お祖母様は国との縁は嫌がっていたから受けなかったけどね。そうして彼はそのままエクスのマスターになったの。だから、彼にはあからさまな事は出来なかったのよ」
──あぁ、そう言えば組織関連の話を聞いた時、ツマラン理由をこじつけて更迭されたって言ってたっけ。シェリーやキャロの事で……。本当はバックに国の後ろ盾があったから、強くは出られなかったって事か。セリスの言葉を継いだセーリスの話に俺が納得していると、宰相が妙なことを言い始めた。
「セリス様のお話の通り、『剣聖』ヘイムス・コーネリアは変わったスキルを擁していましてな。【先見】という物なのですが、どうやら近い将来起きることを夢に見るらしいのです。『悪夢』と彼は言っておりましたが、どうも悪いことばかりが見えるようで。今回の所用もその悪夢が気になると言うのである領に向かったのです」
「勿体ぶった言い方じゃのう。一体どこのことじゃ?」
──ダリア伯爵領です。
「……ダリア伯爵?」
「はい。ノート殿の活躍によって見つけた奴隷復権派の元締めの一人です。既に爵位剥奪の上、本人たちは御首となって果てておりますが、領を安定させるために賊の壊滅やアジトなどの捜索に向かっている際、彼が現れ同行すると言い出したのです」
「……フム。気にはなるが、今そちらに動くのは難しいの。それに第一、その話を持ち出す意味はなんじゃ?」
──先程の王妃様宛の怪文書です。
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