第17話 知らぬは王妃ばかりなり
結局俺が工房から開放されたのは、国に納める車体のベースが出来上がってからだった。その前には当然ながらセリス達の三台をある程度まで完成させていたが。
「──おいノート、車体しか完成していないのは何故なんじゃ?」
「……ここから先は、流通させる物には付けない部品を付けるからだよ」
「……? どうゆう事じゃ?」
《セリス様、それをここで言うと意味がありません》
シスに言われて彼女が振り返ると、音が聞こえるほどの動きで側に居たドワーフ達がそっぽを向く。
「あぁ、そういう事か。了解じゃ。でも試走は出来るんじゃろ?」
「いや、シートもまだ付けてないから厳しいかな。内装自体がまだ無いし」
その後もウニャウニャくねくねしながらなんとかしてくれと言い寄って来たが、そこはノーを突きつけた。そんな事をごちゃごちゃしながら王城にある俺達に用意された部屋に向かう途中で、セリスが何故か気を付けろと言って来る。
「──え? 何で俺達に用意された部屋で、皆がいる場所に行くのに気を付けないといけないんだ?」
「ん~、まぁ入れば分かる。あ、別に攻撃されるとかではないからな」
「何だよ気になるじゃんか?」
そんなやり取りをしながら先導されて部屋の前についた途端、シスが《……なるほど》と言ってステルス状態になる。
「おい! なんで──」
「お~い、ノートを連れてきたぞ~」
「え? あ、ちょっ──」
俺の心の準備もさせないままにセリスは俺の腕をひっつかんで無造作に扉を開けて入っていく。瞬時に感じたのは結界を抜ける感覚と圧倒的な花の香りだった。
◇ ◇ ◇
「──という訳で、儂らの新型はまだ完成しておらん」
「そうなんだ。……それでその特殊架装はどこでするの?」
「今の所、候補とすればやはり、エクスが一番かの」
「あぁ、あそこなら転移で戻れるし、屋敷の件もあるからちょうどいいわね」
「ね、ねぇシェリー、放っておいていいのアレ?」
「あははは! お兄ちゃんなんでそうなるの~?」
「ノートしゃんはいっつも精霊ちゃんと仲良しですぅ」
「ぷふふ! ブハハハ! 相変わらずの相性だなお前は」
「──うるひゃい! ……もうなんれぇ」
部屋の中には花の香りが充満し、精霊達がキャッキャウフフと飛び交っている。いつも見るのと少し違い、頭の上に花の帽子を被った人型を更に小さくした幼児の様な精霊達。それらが部屋の至る所に居て、部屋一面に花が咲き乱れているようになっていた。その精霊達は俺の姿を見つけると一斉に近づいてきたと思ったら、身体中に纏わり付いて這いずり回って喜び始めた。
《ぬははは! お前の魔力のせいだよ!》
「──デイジー? 分かるのか?!」
《当然だろう! 私やハカセも同じ精霊なんだぞ》
「え? じゃ、じゃあこれってどういう事なの? 魔力って?」
《ん? あぁ、ノートの魔力は常に体の表面からダダ漏れだからな》
それを聞いたセリスとセーリスがぎょっとした目で俺を見ながら話してくる。
「え?! じゃあ、あの群がってるのって」
「漏れた魔力を吸収してるという事か」
《……端的に言えばそうなるね》
「「………キモ!」」
「うわぁぁぁあああん! 言うにゃあぁあ! あ、うご! 入るムガ!」
”コンコンコン”
二人から精神的ダメージを食らって半べそになっていると、扉に来客を知らせるノックの音が響く。気づいたジゼルさんがドア越しに誰何すると、ミスリア王女が入室してきた。何時もの明るい雰囲気ではない彼女を見ると、申し訳無さそうな顔で相談が有ると話し始めた。
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──針の筵? 値踏み? 何なのこの嫌な視線。
王宮の中をかなり奥まで進み、近衛が守るドアを潜った先にある大きな部屋に通されると、中には女性と男性が二人ずつ個別のソファに腰掛けて待ち構えていた。中央には一番年嵩のいった女性が座り、その隣にはイケメン。彼の隣には可愛いと言って差し支えない男の子が座って俺を上目遣いで睨んでいる。女性の隣にはミスリアをキツイ印象にした目つきの女性が座って全員が俺を凝視してきていた。その視線に一瞬固まってしまうが、慌てて跪き、自分の身分を奏上する。
「──お、お初にお目にかかります。私は、冒険者であり──」
「あぁ、畏まった挨拶などは不要です。お名前は伺っていますからね。私はエルデン・フリージア王国 王妃のエステラル・フォン・エルデンです、以降お見知りおきをノートさん」
「……私はイオーリア・フォン・エルデン。ミスリアの姉であり、この国の第一王女です」
「僕はカストル・バイス・フォン・エルデン。エルデンフリージア王国第一王子であり、王位継承権第一位を持つ者です」
「………ゲインズ・バイス・フォン・エルデン。……です」
ミスリアが部屋に来てお願いをしてきた後、渋々着いてきたのは王城の王宮内にある王族の私室への私的な謁見だった。彼女は断ってくれてもいいと言ってきたが、師弟関係となった以上、弟子の親が会いたいと言ってきたのを断るわけにも行くまいと考え、こうして出向いたわけなのだが、なんだろう、何故こんな嫌な視線を向けられないといけないんだ?
「……それで、早速ですがミスリアの件についてです、聴くと弟子にしたと伺っております。貴方が迷い人であり、異界の者だというのは聞いておりますが、それで国の王女を弟子にするとは些か横暴が過ぎると思うのですが如何か?」
──なん……だと?
「お母様! 何を仰っているのですか!? お願いしたのは私からですよ! この事はお父様にもきちんとお伺いを立てて──」
「貴女に発言を許しては居ません。私はノートさんにきい……て」
《マスター、落ち着きましょう》
ステルス状態のシスが念話で俺の気を落ち着けようと必死に説得してくるが、俺の気持ちは止まらなかった。
「……では王妃様、何故ここに国王が居ないのか説明して下さい」
俺の刺すような視線に怯んだのか、王妃は一瞬目を泳がせ、直後キッと俺を睨み返すようにして大きな声で言い返す。
「貴方はここがどこか分かって仰っているのですか!? 大体我が国の王をその様に気安く呼べると思っているのか!」
「なるほど。……独断という事で良いのですね。分かりました。今すぐこの国を出ると致します。セレス・フィリアも同時にこの国を離れますので国王にお伝えくださ──」
「待ちなさい! い、今なんと言いました? 何故そなたと共にセレス・フィリア様までがこの国を離れるのです? あの御方は関係ないでしょう!」
「……ミスリア、悪いが話は出来そうもない。王妃様は俺が気に入らないようだ、すまんが弟子の件はここまで──」
”バタン!”
俺が彼女にそう言って振り返ろうとした瞬間に大きな音を立ててドアが開く。
「お待ち下さい! ノート殿! ……あ、あの」
そう言いながら飛び込んできたのは国王であるカーライル・バイス・フォン・エルデンⅤ世。その後ろにはセリスやセーリス達、奥さんズが勢ぞろいで入室してくる。
「どうなさったのですか! 何故ここに王が?」
王妃がまさかという表情で問いかけると、皆の最後尾からゆっくりとこの国の宰相であるブルミア・フォン・ドミニオンが前に出てくる。
「エステラル王妃様、お伝えしたのは私です。まさか王妃様がこの様な文書で惑わされるなどと……」
彼がそう言いながら差し出したのは一通の符丁文。差出人の名はなく、ただ本文のみが書かれていた。
──冒険者ノートにお気をつけを。ミスリア殿下を拐かし、果ては獅子身中の虫となる嫌疑ありや。其の者果たして迷い人かも疑わしき。
「……な、何故その手紙をお前が!?」
「エステラルよ! お前は我等に影が付いて居る事忘れたのか?」
「勿論知っております! それが──! まさか、その文は違うのですか?!」
『──我が付き従う者に偽物などがおると思うのか?』
王や宰相の間を抜けて語りかけるように出てきたセレスが王妃を見ると、その声に驚いて椅子からずり落ちた彼女はパクパクと口だけを動かした後、その場に倒れて気を失ってしまう。
「「「母上!」」」
その様子を見た王子たち三人が同時に彼女に近づくが、イオーリアとカストルはセレスを見て、慌ててひれ伏し跪く。ゲインズだけはその様子にオロオロしながらも王妃の側へ向かっていく。
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