第20話 神様メール
新たなモフモフニャンコを確認し、クーデレ系だと気づいた俺は上機嫌のまま、宿に戻る。宿の扉を潜った先にサラを見つけて、ゆっくりと彼女に声を掛けに行く。
「ただいま、今、いい?」
「んひゃ? あ! ノートさん。…はぃですぅ」
ん~、やっぱりまだ緊張が抜けてないなぁ。このままだとマスターが今夜来るって話すとまずいかも…。
《そうだな。今夜お前が話したいとだけ言って時間を作ってもらえばいいんじゃないか?》
ハカセ! ナイスアイディ~ア!
「あ、あのさ今夜、ちょっと時間作って欲しいんだけど、いいかな?」
「え? ぁ、はぃですぅ。食堂の片づけ終わってからでもいいでしゅ?」
「うん全然OK! じゃ、後で」
よし! 第一関門突破、何とかなって安堵した気持ちのまま、部屋へ戻ると、ベッドにボフンとダイブする。ふぅ。…そろそろ現実を見ようか、俺。
そう。ずっとピカピカしてるメニューの端、バッジは五という表示。つまり、未読メール五通。…えぇと、ここに来て確かまだ三,四日だったはずなんだけどなぁ…なんなんだよこのメールの量は。はぁ~考えても仕方ない…そう思いながら俺はメールの部分を意識する。
一件目
ノートよ。記憶に関して補足事項が幾つか出てきたので報告しておく。
* データベースの情報が少し古い事が発見された。
* 君の魔力保有量に関して若干のずれが確認できた。
* ベース情報においてはアップデート済。
以下の点が報告内容だ。
① データベースについては現在メンテナンスを行っている。よって完了次第、君への情報アップデートも行われる。
② 魔力保有量に関してだが、これは君の肉体の構成材料に依るものが多いことが分かった。要約するに現状、君の肉体構成はイリステリアにおいて最も優れたマナ吸収効果を持っていると推察される。故にいくら、魔力を使用してもその瞬間にほぼ同量が補充されていると思われる。
③ 現状ベース情報のみがアップデートされている
以上が今回の追加情報と報告である。
尚、現在に於いても随時更新アップデートは行っているので不具合などがあれば速やかに連絡するように。
追加連絡。
創造によって作られた魔術やスキルは検証が必要な為、基本的には固有スキルとなる。
詳細が必要になった場合はエギル迄。
一件目から濃い! そしてなんだよこの会社チックな報告書! あまりにも理路整然! 分かりやすいわ! ありがとう! エギル!
《なんだ? 怒りながら感謝とは器用な奴だな》
ハカセが俺の心の叫びに反応していたが、そこは無視して次を意識する。はぁ~一件目でこれだよ。こえぇよ二件目。
二件目
ノート君マリネラだよ~。精霊ちゃん達の事なんだけど~、セレスちゃんにはちゃぁんと伝えて有るからねぇ~。相性もグンバツだから!
なんせ、アタシの加護最大最強に効くから! 契約だってヨユーヨユー! 皆と仲良くしてあげてね~。あ! セレスちゃんをいじめちゃメっだよ。機会があったらまた、そっちで逢おうね。
──ふぅ、この落差。ってか、これのせいか! マリネラ様の加護のせいでハカセと契約しちまったんじゃねぇか!? ふと、ハカセを見ると俺の声が聞こえていた様で、あんぐりと口を開けてポカンとしていた。しっかし、何だよこの文面は…時代が一週くらい古くて逆に新鮮だわ。グンバツなんて、昭和初期じゃね? と思ったぞ。
三件目
錬金について
*薬草ポーションやマナポーション
薬草については記憶や鑑定を使えば良い。地球由来の物も使えるぞ。マナポーションは薬草ポーションにマナを追加付与にて出来る。
*アクセサリー
錬金を熟せば、アクセサリーに効果付与が出来るようになる。形状変化で鉱石や鉱物を使ってもよい、また合金は比重や比率によって効果が変わるので、都度試して自分で良いモノを見つけるのだ。
*魔道具、魔導武具
お主の度量、想像力で創造することが出来る。勿論、何も無い状態からも出来るが、現物があれば、等級は格段に上がるし、強度も違って来るじゃろう。
但し、完全に無からの創造で造ったものは全て神級となるので注意が必要だ。市場に流す事は止めておけ。
錬金とは日々精進する事により進むもの。道は自ずと見えてくる。努力を怠るな。
ノード
ツンデレさんか…真面目なオッサンだな。
四件目
エリオスだ! クエストだ! 先ずは戦え! 実践に勝る経験なし! 身体が覚える! さすれば技は磨かれる! 派生スキルが生まれる!
ノートよ! お主がどのような戦いを我に魅せるか楽しみにしておるぞ!
……これは、削除で良いよな。
五件目
グスノフじゃ。息災そうで何よりじゃ、イリス様からの言伝を伝えるぞい。
『ノートさん。貴方にこの世界の救済を求める事は決して有りません。どうか、この世界で自由に生きてください。もし、貴方が気になる事が有ればいつでも連絡して下さい。…貴方の心に平穏と安寧を、貴方の往く道に幸多きことを。』
イリス様……レスしなきゃいけないな。
皆様。
返事が遅くなり申し訳ありません。内容につきましてはすべて了承いたしました。エギル様、アップデートの件宜しくお願いします。マリネラ様、セレス様に会いましたよ。精霊とも契約しました、名はハカセと言います。ノード様、精進します。
エリオス神、善処して考慮いたします。
グスノフ様、はい。これからも頑張ります。
イリス様 良き言葉を頂き、感銘を受けました。勿体なきお言葉、心に刻んで精いっぱい生きて往きます。
皆様のご健勝、矮小の身ながら祈っております。これからもご指導ご鞭撻の程宜しく御願い致します。拙筆ながら、これにて返信とさせて頂きます。
ノート
──…返信っと。
シュポッ!
はぁ~、何故かすっげぇ緊張した。そろそろ食堂行っとくか。
食堂には夕飯の為の客や早くから飲み始めている客がちらほらと居た。
「こうやって見ると、泊り客より食事客の方が多いんだな。飯が自慢だってのもわかる気がするよ」
奥の椅子2脚のテーブルに着き、周りを見ていた。
「今日は丁度いい時間に来ましたね。すぐお持ちしますので少々お待ちくださいね」
女将さんはそう言って厨房へ入って行った。入れ替わりにサラちゃんが盆にカップを乗せて現れる。
「ど、どうぞ、おみじゅですぅ」
サラが木製のコップを持って水を注いでくれる。みじゅって言う方が言いにくいんじゃないのとは思ってはいけない。
「ありがとう」
「は、はいですぅ」
──それにしてもホント、この宿って落ち着くよなぁ。この食堂なんかは昔、近所にあった定食屋みたいな雰囲気だし、あぁ、あそこのサバ味噌定食…旨かったなぁ。などと、思い出に浸りかけていると、女将さんがテーブルに食事を並べてくれる。
「はい。おまちどうさま。今夜の煮込みは自慢の一品ですよ」
テーブルに並んだ料理を見ると途端に香る、ビーフシチューのような匂い。
「おお!旨そうだぁ!」
「フフ、ごゆっくり」
その煮込みにパンを千切って浸し、一口。
「うまぁい!」
肉の脂の甘みと溶けるまで煮込んだ野菜の旨味、合わさって何とも言えない複雑な深いコク。
ここで、サラダを一口頬張る。シャキシャキと音を立てるほどに新鮮な葉野菜。濃厚な味をさっぱりとさせ、また煮込みへと匙を促す。まるで無限ループのように集中して食べていた。
──…うん。この世界での所謂食べ物系チートは俺には無理だ。自炊程度のオッサンの手料理でどうにかなんて絶対無理だし。大体、調味料の原材料なんて知らない。正直、和食系に関してはまだ見ていないのが残念だが、まだ来たばかり。
グルメ旅ってのも孤独のシリーズっぽくていいかもな。
そんなこんなで食事を楽しんでいると入口辺りで何やらどよめきが聞こえてきた。
”マスターだ” ”ギルマスが何で?” ”精霊使いだ” ”すっげぇ美人”
その女性はついと店内を見まわし、目的の人物を見つけるとつかつかと真っすぐそこに向かって歩き出す。
「待たせたか?」
「いえ。食事を堪能していましたので。セーリス様は?」
暗に食事は? と聞いてみる
「いや、いい。女将さん、エールを」
「おや、お久しぶり。はいはい、少々お待ちくださいね」
──ん? 久しぶり?
「お知り合いで?」
「まぁ、同じ街で暮らしているんだ。たまに飲みにも来ていたからな」
あぁ。お客さんだったってだけか。
「で。あの娘か」
そう言ってサラに目線を持っていくセーリス。
「はい。何か分かります?」
「見ただけでは何ともな…それに始祖様も今はまだ出て来ておらんし」
「はぁ。そりゃそうっすよねぇ」
《………。》
そんな俺達の会話に全く入って来ずに、ハカセだけは別の場所を見ていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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