第2話 神の御座所
「ねぇねぇ。地球人さん」
皆が俺の身体に集まっていく中、一人こちらへトコトコ歩いて来たのはちびっこさんだ。
「はい? 何かな?」
「遊ぼ!」
うんうん、子供って純真で、空気なんて読まないよね。
「マリネラは子供じゃないよ。君より、ずっとず~っとお姉さんだよ」
そうなんだぁ。お姉さんかぁ。
でもちびっこだしなぁと思っていると、そのシルエットがにわかに蠢き出す。気付くとそこには、先程のイリスと呼ばれた女性より、超絶ナイスバディのシルエットが居た。
──これでどう?
ス…スバラスィ! 思わずフラフラとそこに近づき、触れようとした瞬間、電撃が俺を貫いた。
”バチィ!!”
「ミギャ!」
痛ぁい! 静電気ぃ! って、俺手なんかなかったよ……。
「ありゃ、ん? ねぇ、イリス様ぁ。この子、特異点持ちじゃない?」
へ? な、なに、特異点て。
「おぉ! やはりか! ほれ、此処。コヤツの身体の胸の此処、ほれ、ここに残滓がある」
のっぽさんが、俺の肉体をこねくりながら、話しだした。
「……特異点持ち、ならばアヤツを……。皆、此処へ」
皆がのっぽさんの話を聞きながら、俺の身体を弄くり、捏ねっている時。一人離れた所で、周りを傍観していたイリス様が、ブツブツとなにかを呟いて居たかと思うと、ふと顔を上げてシルエットたちを呼ぶ。その声に音もなく集まって行くシルエット。つられて俺も行こうとしたが、イリス様が此方に手を向けて、拒否してきた。
(なんだ? ヒソヒソ話し。あ、俺の肉体が……)
のっぽさんの手から離れた俺の身体は、原型を留められなかったのか、またグズグズと崩れて肉塊へと戻りだした。ぼ~と見ていると、その崩れた塊はそのまま、床に染み込むように消えていった。
(さらばだ俺の肉体。50年もの間ありがとう……)
万感の想いを込め、合わせることの出来ない手を合わせ、黙祷を捧げる。
「なに、黄昏れてるの?」
ちびっこに戻ったシルエットが、いつの間にか横に居たので、ビクッとなって周りを見ると、いつの間にやらまた囲まれていた。
「太田零士さん。どうやら、事情が少し変わりました。貴方を輪廻の輪には還せないようです」
イリス様が改まって言ってきた。
「そ、それはさっきの特異点と関係が?」
「はい。原因や経緯は、これから調べないとなんとも言えませんが、このままでは、因果律に影響が出てしまい、最悪、輪廻そのものに影響が出てしまいます」
え? そんなにやべぇの? 俺の今の状況。
「ええ。そしてその影響は勿論ここアストラルフィールドにも出てきます」
ヤダ、なにそれ。怖いんですけど。
「なので、貴方には、特別に身体を創ります。但し、地球には送れません。そもそも、私達はそちらに干渉すること自体出来ませんから。ですので、此方の世界、イリステリアに降りていただきます」
キタ───! 異世界転生! モテモテウハウハハーレムサイコー!
「──? なんのことですか? うはうは?」
──あ! またやってしまった。
「それでは、此れより、貴方の身体を創造し、此方の世界で生活できるようにしていきます」
イリス様はそう言うと俺の【目】をじっと見つめてきた。
そうかぁ。これから、身体の再生をしてもらって…ん? 創造? て言ってたな。あ! そうか、俺の身体、粉微塵だった。一から創ってくれるのかぁ…あ! それなら…。
「あ、あのイリス様! お願いがあります!」
ずっと見つめていた目を伏せ、彼女はどうぞと、促す。
「もし、宜しければなんですが。年齢的なことや、身体的特徴なんかって、要望出来ますでしょうか? (にか!)(どうだ、この営業スマイル!)」
「ある程度ならば聞きましょう。それに、年齢に関しては元々二十歳前後にする予定ですが」
おをっ! 若すぎず、オッサンじゃない! リアル! 完璧!
「あ、ありがとうございます! 年齢はそれで構いません! あとは、容姿なんですが……」
イリス様は本当にヤレヤレ感を全身で醸しながら、それでも聴いてやるよ。と此方に意識を向けてくれている。
よし! ならば!
「ただし! 全ての願いがどうこうできる訳ではないですよ。あくまでも貴方の魂魄が馴染まないといけません。なので、肉体のDNAより、染色体の一部も使います。此れは、貴方の記憶や、魂魄と深く連携しているものなので、過度の期待はしないように」
先手を取られた。あぁ、ウハウハハーレム、出来るかなぁ……。
この時、俺は転生云々のことでいっぱいで忘れていた。全ての感情や、思っていることが皆に筒抜けだってことを。
なら、せめて! せめてフツメンに!
「では! イリステリアの標準的な顔面をオネシャス!」
それを聴いた瞬間、ちびっこは隣で大爆笑である。
「顔の美醜になにかトラウマでもあるのか?」
のっぽさんは、心底わからないと言う感じ。
「はっ!」と、ずんぐりさんは吐き捨て。
あんたらは良いよ! シルエットなんだから! 俺の人生、ミジンコみたいなもんだったんだよ! あくせく、毎日働いて、家に帰って、飯食って寝るだけの人生。もう……もう嫌なんだよ。折角やり直せるチャンスが来たんなら、しかも若返って出来るなら! 俺だって、夢見たって良いでしょう!?
「フフフ。そうだよねぇ。キャッキャウフフもしたいよねぇ」
ちびっこさんが頷きながら、半笑いで納得してた。
──へ? あれ? なんで? あ!!
「……理解りました。極力、なるべく、善処致しましょう」
イリス様ぁ! マジ女神っ! はい入信いたしました。貴女の下僕となりましょう。
「だめだよ太田君。そんな事を思っちゃダメ」
何故か、真面目なトーンでちびっこに諌められた。
「良し、身体の方は此方で管理者とともに我がやっておく。そなたは、そちらで諸々、細々とした事を教えてもらうが良い。あぁ、スキルなども忘れぬようにな」
何やら筋骨隆々そうな、でかい図体のシルエットがそう言うと、イリス様と一緒に俺達から、少し離れた場所へと移動していった。
キタコレ! スキル! 魔術は? あ! 定番はやっぱ、鑑定とアイテムボックスですかねぇ。等と妄想が走り始める。
「フム…そうだな。スキルも良いが、大前提を知らねばな」
のっぽさん。何よ大前提って。
「ホイホイ。お前さんは地球人じゃろ? この世界の理を何も知らんじゃろ」
なんだこの人? おじいさん? みたいな人なのか?
「はぁ~。おい、お前さんさっきから、色々ダダ漏れなのを、我慢して聴いておったが、ボチボチ判っておるじゃろ?」
ちょっと小さい、ズングリしたシルエットが、苛ついたように詰め寄ってくる。
……うん。そうですね。判ってますよ。此処は所謂、神の御座所。
──あなた達は神様。
でもね。それをね、理解できても納得できると思います? 死んだことすら認識していないのに、肉体も失って、こんなですよこ~んな。
フヨフヨ~フヨフヨ~と漂う俺。
そんな状態で、しかも異世界、頭なんてとっくに沸騰して乾きましたよ! 干からびてます! フヨフヨ~~!
「ぬぐっ。コヤツ、逆ギレしとる、エェイ! 鬱陶しいからそのフヨフヨはやめい!」
そう言うと、フヨフヨしている俺を掴もうと手を伸ばしてきた。
バチィ!!
「ぬがぁ!」
痛い目にあったのは俺ではなかった。
「どうなっとるんだ? なぜ儂に痛みが……」
「もう、ノード。さっき、言ったじゃん。彼は特異点持ちだって」
マリネラが呆れたように言う。
「し、しかしさっきは、あ奴が」
「あれは彼が私に触れようとしたからよ。作用と反作用」
うげ!? そうだったのか。てかバレてたんだ。触ろうとしたの。
「お・み・と・お・し!」
マリネラちゃんパネェっす。
「ホイホイ、もう良いかの。では改めて自己紹介から始めようかの」
──俺の前には四人の神様が並んでいる。
姿は相変わらずシルエットだが…そして左のちびっこちゃんから話し始めた。
「ハァイ。じゃあ私からねぇ。私の名前は【マリネラ】愛の地母神。主に人類種の命や、愛を司っています」
「儂は【ノード】主に大地の神だ。まぁ、見た目の感じでわかるじゃろうが、ドワーフ種の守護も兼ねておる」
「フム。私は【エギル】主に魔を司っている」
「で、あそこのデカイのが【エリオス】戦神じゃの。戦ではなく武の神じゃ。そして、あちらのお方が【管理者イリス様】。この世界イリステリアの全ての守護、管理をされておるお方じゃ。最後になるが儂は【グスノフ】本来は、全ての生命の神じゃったが、色々あっての。今は主に農耕や自然を司っておる」
「あと一人、【セレス・フィリア】ちゃんて娘が居るよ。彼女は精霊の王であり、妖精種の源種。きれいなエルフっ娘だよ」
七人…こんなにもたくさんの神様が実在している世界なんだ。
あれ? 人がいて、エルフやドワーフがいるのに、獣人は?
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