第13話 謀略
「──……王都にスレイヤーズが来る?! いつだ? いつ来るんだ!」
エルデン・フリージア王国に有る総合ギルド会館の冒険者ギルドのギルドマスター室でリッター・カーソンは通信士に聞き返していた。
「どうやら、国王様と旗艦エルデンに同乗されているそうです」
「旗艦エルデンに!?」
「……はい、魔導車協会に役員のゲイン様から、本人の了解を得て王城の整備室で新しい魔導車を造るらしく、その為の部品や素材調達の連絡が来たそうです」
「新しい魔導車?!」
「はい。詳しいことは解りませんが、その事で現在協会は大慌てで素材集めと関係者をかき集めているそうです」
「中央はその事をもう把握しているのか?」
「おそらく、伝わっていると思いますが……」
「通信室は今使えるか?」
「え、はい」
「人払いを頼む。すぐに向かうので準備しておいてくれ」
「分かりました。では失礼します」
リッターは通信士が部屋を出ていったのを確認すると、机の引き出しから秘匿書類用の用紙と魔石の混ざった特殊インクを取り出し、何やら長文をその用紙に書き連ねていく。
「──……良し、後は──」
*******************************
「……え? セリス、甥って知らないの? ガントさんの兄弟の息子って事……え、兄弟のこと知らなかったの?」
「──……ガントに兄弟がおったなんて儂は知らん! じゃから、甥ってなんじゃ? 兄弟と何の関係があるんじゃ?」
その言葉には流石にその場に居た全員が絶句した。まさかと思ってセーリスを見ると彼女も『まぢかコイツ?!』みたいな顔をしていたので、どうやら知らないのはセリスだけの模様だ。すかさず横に座ったシェリーが説明すると、『ほえぇ~。それを甥と言うのか』と本当に知らなかった様子だった。
「儂らエルダーエルフは長命過ぎる故に、兄弟、姉妹がそもそも少ないからの。それの子供等となると、何百年単位で間隔が空いてしまうから、当人すら分からなくなる時もあるわい! ワハハハ! 大体儂は自分以外には、もうそう言った者達がおらんしの」
そう言って彼女は笑い飛ばしていたが、その言葉を聞いて思い出した。彼女はエルダーエルフとして最後の娘だと言う事を……。セーリスは既に純血ではないためにエルダー種ではない。エルダー種はその種同士でないと産まれないから。
「ん? なんじゃ? 何を皆しんみりしておるんじゃ?」
「……いや、そりゃするだろ。セリスが居なくなったらもう、この世界にはエルダーエルフは居ないんだって思うとさ」
「は? なんじゃ、そんな事を気にしておったのか。エルダー種はユーグドラシルにはまだまだ居るぞ? 年寄りばっかじゃがな。奴らが子を産めばエルダーはまた生まれるぞ」
──なん……だと!
「──……俺のしんみりした気分を返せ! このビバ駄エルフ!」
「ムキャ──! 貴様はまた抜かすか! このクソとっちゃん坊やがぁあ!」
「やかましいわ! ってかクソを足すな! ビバ駄エルフ!」
──いい加減になさい!
長机を割れんばかりの勢いで叩いたシェリーの一喝で、俺とセリスはその場で固まる。すぐさま冷気が足元より這い上がってきて、俺とセリスのブーツが床に氷漬けにされた。ぎょっとして彼女を見ると、物凄くきれいな笑顔でこちらを見つめたシェリーが目を細めながら言葉を紡ぐ。
「こんな所で喧嘩は駄目ですよ。大人しく座りましょうね、二人共」
「「……ハイ! 足を溶かして下さい!」」
◇ ◇ ◇
シェリーの氷の微笑を受けた俺達二人は凍える身体をブルブル震わせながら、ゲインの話の続きを聞いた。するとどうやら、本部の有るグランドマスター達がいるハマナス商業連邦評議共和国からの通達が関係しているとのことだった。先般行われた会議の中で、俺の出した『レシーバー』と『魔導車』の申請がゼクス・ハイドン帝国からケチが付いたらしい。そして紛糾の末、俺自身の迷い人の事自体に嫌疑が掛かったと言うことだった。
「は? 俺の申請と『迷い人』に何の関係が?」
「どうやら帝国が裏で手を回したと思うのだが、錬金ギルドのグランドマスターが難癖をつけて来たらしくてな」
彼が言うには、俺の出した申請の直後に同じ様な申請が帝国側からもあったと言う。そこで精査の為に両国に対して現物の提出を求めてきたとの事。しかし俺はその頃カデクスでゴタゴタしていた為に連絡がつかず、結果として向こうへの連絡もできなかった。……まぁ、そう言えばここ最近はギルド自体に近づいてなかったからな。そうこうしている内に帝国からは、魔導車の現物を持ってハマナスへ向かうとの連絡があり、いよいよこちらへの風当たりがキツくなって来た。その上、俺が迷い人だと虚偽を言っているとも。
そこへ、俺達が事もあろうにその魔導車で堂々と乗り込んできたものだから、これ幸いとゲインは俺達に許可を求めようとした所に貴族のバカが出しゃばったと。
「……なるほど~。それであの船倉での事になった訳ですか」
フムフム……。要するにホウ・レン・ソウがうまく機能しなかった為の不幸な行き違いってやつか。あれ? でも俺のカードにはかなりの入金が有ったけどこれはどういう事なんだ?
「ん? あぁ、それとこれとは問題が違う。エルデン・フリージア王国ではノート殿の申請は既に認可されている。実際図面も有るし、何よりあのガントが認めているからな。故に国内では何の問題もないのだ。ただ、分かってはいると思うがこの中央大陸では、全ての国の物がハマナスで認可を受けないと他国に持ち込むことが出来ないんだ」
あぁ、要するに規格って事ね。世界標準規格『JIS』とか『ISO』とかみたいな。へぇ、そういう事はしっかりしてるんだなと感心していると、ゲインは顔をしかめながら吐き捨てる。
「──要するに利権を丸ごと持って、使わせてやるから金よこせと言ってくるクソの掃き溜め連中だ」
──……あ~あ、ぶっちゃけた。
「……ゲインよ、気持ちはわかるが、それを今言ってはならんだろう」
流石に不味いと気づいた国王が自ら発言して彼を諫めると、俺達に向かって話し始める。
「……ノート殿、内情としてはこういう理由だ。直接無礼を働いた貴族の者にはきっちりと処断する。だがそれ以外の者については温情を願う」
「いやいや、さっきも言った通り、特に怒ったりはしていま──」
「待てノート」
「え? 何を」
俺の言葉を遮って、セリスがニヤリと嫌な笑顔を見せる。
「処分云々に関しては、そちらに任せるから好きにせよ。但し、こちらも譲歩ばかりはせん。ゲインとやら、貴様此奴の造る魔導車が見たいのだな?」
「え?! あ、はぁ。そりゃ見せてもらえるなら勿論だが」
「良し! では部品や素材を用意しろ。完成した魔導車をバラすことは出来んが、新型を二台造る準備をしていた所だ。それを造る材料と場所を用意するなら今回の件はそれで済ませようじゃないか。どうじゃ? お前たちにとってはこれほどの好条件はないと思うが?」
……あ、コイツ! 汚ねぇ! 言うに事欠いて、自分たちの車の材料せしめやがった! うわ! シェリーがすっごいキラキラした目でセリスを見てる。
「──な! ソレは本当ですか! お師様! 私も欲しいんですけどぉお!」
「お、おいミスリア! お前がなんでここで入ってくるんだよ」
「あの、お二人が使うって言ってらした小型の新型でしょう!? ずるいです! 私も欲しいですぅう!」
「「「……新型!?」」」
──……頼む、誰かあの暴走娘の口を閉じて下さい。
結果として、俺は三台。向こうは二台魔導車を造ることになり、図面をまた起こすことになった。
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