第12話 旗艦エルデン
「──……お、お待ち下さい! それは幾ら何でもいきなり過ぎで御座います! ご再考を!」
王女の宣言に慌てて辺境伯が口を挟み、事態を収集しようと周りに居た衛兵達を呼んで、整備室に居た人間たちを拘束させる。
「王女殿下、まずはこの者達を捕らえます。ですが、それ以外の者達が関わっているかどうか現状では解りません。故に早計なご判断は今一度お慎み下さい。ノート殿に於かれましても、此度の無礼はこのフィヨルドの顔で今回だけはお許しを頂きたく伏してお願い申します」
そう言って俺達の前に出てきた辺境伯が、両膝を床につけて頭を下げる。言わば土下座の態勢だった。あまりにも急に行われたため、俺達は呆気にとられたが、それを見ていた整備士の一人が大きな声で喚き出す。
「何故、俺達が捕らえられなければいけないんだ?! 辺境伯様がなんでそんな冒険者風情に頭を下げるのですか? 私はこれでも男爵家の息子ですよ! 旗艦エルデンに乗船している整備技師です! 何故こんな事をされなければいけないのでしょう?!」
その声が聞こえた途端、セリスが前に進んでいく。
「……ほう、お主は男爵家の息子か。では貴様に聞きたいのだが、そこで頭を垂れて許しを請うておる辺境伯本人よりも貴様自身、いや、貴様の家は家格が上なのか?」
「──な、何を言っているのだこのエルフは?! おい! 貴様はブゲラ!」
その男が二の句を告げようとした瞬間、辺境伯の後ろで黙っていたマルクス副団長が問答無用の鉄拳をその息子の顔面に叩き込んだ。
「おい、この阿呆の家はどこだ? 後で調べて私の元へ」
鼻が折れたのか、盛大に曲がった鼻から血を流して白目をむいたまま気絶した男を捕縛している兵士にそう告げると、セリスの方へマルクスも頭を下げて陳謝する。
「この者共には私が直接訓告を与えます。どうか今はこれでご容赦頂きたい」
「──……ふん、儂への侮辱程度はどうでも良い。おい貴様ら、よく聞けよ。我等は国王自身に請われてこの場に来ておる。特にそこに居る男は単独でドラゴンを葬った人間じゃ。唯の冒険者と思うなら、いつでも仕掛けるが良い。じゃが分かっておるな。冒険者は粗忽者。かかる火の粉は払うぞ。その生命でもって購う覚悟が有るなら、いつでも来い。あぁ、国王の助けはないと思えよ」
セリスの言葉を聞いた途端、空気が一瞬にして凍りつく。辺境伯やマルクス副団長さえも動けない。
「──……そなたらはこの御方の事を分かっておらぬようなので話しておくが、このセリス様は、我が国の貴賓であるセレス・フィリア様の直系の孫娘だ。君たちはそんな御方に唾を吐いたのだ。理解できたか? ならば大人しくその縛に付け。沙汰は追って知らせる」
最後尾に居たオズモンドさんがそう言って、大人しくなった連中に向かい話をして衛兵に指示を送る。
その騒動が収まった後、俺達は衛兵達に囲まれるような形で船倉室から移動していった。
◇ ◇ ◇
船倉室から通路を抜け、真っすぐ進んで出て来た階段を登っていく。この先には何が有るんですかと聞くと機関部との返答が来る。少し興味はあったが、まずは移動を優先することにした。上部に上がると個別の部屋が出てきた後に、大きなホールのような場所。そこには調査団の連中と色んな人でごった返している状態になっていた。
「ここは、何の部屋なんです?」
「ここは待機場です。魔導船はその性質上、重量配分が構造部の中心に集められているのです。よって多数の人間の集まる場所が決められています。操船部は上部甲板デッキにある艦橋に備わっていますが、我々のようにこの船で職務がない者達はこういった場所に分散されて待機することになります。勿論私達やスレイヤーズの皆さんは別ですが」
そんな事を聞いていると、フェリーなんかの大広間の客室を思い出す。等級によって別れた客室の中で最も安かったのが雑魚寝室みたいな場所だ。確かに船の中央部に大きな空間は作りやすかったからなぁなどと、少し懐かしい気持ちになっていると、衛兵達が進み始めたのでまた付いていく。
上部甲板に出ると聞いていたので一旦外に出るかと思っていたが、結局外に出ることはなく、連絡通路のような部分を通って操船室の有るデッキ部分へと直接出ることが出来た。艦橋部は船の中央部に配置され、前方には何やら砲台のような物まで見える。アレは何だと聞いたら魔導バリスタだと教えてくれる。
「あのカタパルトには三連の大型槍を搭載できます。弓のような方式ではなく、風の魔術によって射出される構造になっており、そのための術師がそれぞれに配置されています。また槍の先端部には炸裂魔導具などが装備できますので、ワイバーンなどの小型の翼竜程度ならば一発で撃ち落とすことが出来ますよ」
先導するオズモンドが嬉しそうに説明してくれるので、色々聞いていると艦橋の上部に着いたのか、集団が扉の前で止まる。
「国王がお待ちです。どうぞ」
艦橋の操船室の奥には部屋が作られており、そこにはこの船の司令部と会議が出来るような部屋が併設されている。その部屋に案内されて入ると、国王以外に何人かの人間が着席せずに待っていた。
「──話は伺っております。まさかいきなり無礼を働く者が居ようとは……。誠に申し訳ない」
俺達の顔を見ていきなり謝罪をしてきた王が頭を下げると、周りに居た人たちも一斉に頭を下げる。それを見て取ったセリスが王に話をする。
「カーライルよ、まず貴様の謝罪は受け取ろう。それで、儂らはいつまでここに立っておれば良いのだ?」
「は! 申し訳ございません! どうぞお座り下さい」
その返事をもらって俺とセリス、シェリーにキャロが長机に有る椅子に腰掛けるが、セーリスやジゼルとチビ達は奥にあるソファの方へと向かっていく。せーリスはこっちじゃね? と考えたが、マリアーベルが彼女の腕を掴んでいるのを見て、その言葉は飲み込んだ。辺境伯やオズモンドさんと王女は指定された場所でも有るのか、机の椅子には座らず、俺達の対面側の位置にある席に個々に座っていく。
こちら側の全員が着席するのを見た国王の横に居る背の低いやや小太りの男性が一礼の後、話し始める。
「──……皆様お初にお目に掛かります。私はこのエルデン・フリージア王国が旗艦、魔導戦艦エルデンの船長を拝命しております。ジャレッド・マクラレンと申します。船倉内での事につきましては国王と詮議の上、改めてご報告いたします」
「あぁ、その件なんですけど俺は魔導車をどうこうしないと言うのであれば、別に騒ぎ立てるつもりはありません。ただ、どうしてそんなに魔導車を見たいんです? 技術や設計図面等は全て提出したはずですが」
そう言って俺が質問すると、見るからにドワーフの髭モジャオヤジが立ち上がって話し始める。
「あぁ、そちらについては儂から話そう。この船で整備の長を務めるゲインだ。儂はこの船だけでは無く、王城にまつわる車両全般の整備を行っているんだが、魔導車協会の役員も兼務しておる。当然ガントから書類や図面は貰っている。だが、どうしても現物が見たくてな。儂がカズンに命じたんだ。責任は儂が取る」
「……カズン? って下に居たドワーフの?」
「……あぁ、ガントの甥だ。その話をしてちゃんと頼めと言ったんだが、どうやら周りに居たアホな貴族が出しゃばった様でな。すまなかった」
「あぁ、それでセリスさんを見て喚いていたのか」
俺がそう言うと、セリスがポカンとこちらを見てくる。何だと思って聞いてみると、信じられないことを言い出した。
──甥ってなんじゃ?
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。




