第10話 水面下
「──じゃ、じゃあこの文のことはもう問題ないと考えて良いんですね」
「……はい、ご心配をおかけするような事になってしまい、誠に申し訳ございません」
オフィリアの切羽詰まった様な質問に対し、本当に申し訳ない気持ちで謝罪するジェレミア大司教。
(……あぁ、なんとお詫びしてもし足りない、それもこれもあの唐変木のオッペンハイマーのせいだ。この際全てを彼女に……いや、そんな事をすれば益々彼女の負担が増えてしまうだけだ。一体どうすれば良い)
「……ジェレミア大司教様、オッペンハイマー枢機卿と何か有ったのでしょうか?」
先程彼を必死で探し出したケルビンが、少し考えた後に聞いてくる。それを聞いたオフィリアはジェレミア大司教を見て何かを感じたのか、探るような目で彼を凝視する。
「──……枢機卿から何か言われたのですか?」
その言葉に思わず肩が跳ねてしまう。
「え、えぇまぁ。ですがその件に関しましては──」
「何を言われたのですか」
なんとか誤魔化そうと話を続けようとしたその言葉を遮られ、オフィリアはまっすぐジェレミアを見つめていた。
「……じ、実は──」
観念したジェレミアは先程の話をオフィリアに包み隠さず話し始める。やがて全てを話した彼がそっと彼女の顔を見ると、こめかみを抑えて目をキツく閉じた彼女が大きく息を吐いていた。
「………まさか、そこまで察しの悪い御方だったとは。それで、どの様な返事をしたのです? まさか同行するなどと……」
「い、いえ、確約はしていません、ですがあちらは枢機卿。立場上断るという事は難しいかと」
「……分かりました。では、こうしましょう。ジェレミア大司教、貴方には私の秘書官として今日これよりその任に就いて貰います。ちょうど書類の山をどうしようかと思っていたところです。メアリ、指名書類を準備して下さい。ケルビン、申し訳ありませんが今一度事務塔へ向かい、文官を呼んできて貰えますか?」
「は! すぐに呼んで参ります」
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「──……兄様、父上はいつ頃お戻りになるのですか?」
「ん? あぁ、あと二、三日だと聞いている。どうかしたのか?」
王城に数有る庭園の一つの東屋で、午後のお茶をしているカストル王子の元へ、侍従とともに現れたゲインズ第二王子が父王の帰還はいつかと訪ねてくる。
「ミスリアもオズモンド卿と共に戻ってくるわよ」
「え?! それは本当ですか、イオ姉様!」
ゲインズにそう言うのは、カストルの対面に座ったミスリア王女をキツめにしたような面持ちをした女性。エルデン・フリージア王国第一王女であるイオーリア・フォン・エルデン。顔つきのせいで性格もきつそうに思われがちだが、真面目ではあるけれど非常に優しい心根の持ち主であり、末っ子であるゲインズはとても懐いている。
「──……彼の者達も同乗してくると聞きましたが、本当ですか?」
「……えぇ、スレイヤーズと言いましたか。全員が二つ名持ちのミスリル保持者だと聞いております」
イオーリアはカストルに同乗してくると聞いた【迷い人】の話をそれとなく聞くとあっさりその内情を話してくる。
「兄様、スレイヤーズとは? 誰が一緒に来るのですか?」
何も知らないゲインズは素直にその事を聞こうとするが、流石にカストルもそこは言わずに笑って誤魔化す。
「今回の父の用件の一つらしいよ。私も詳しくは父から聞かされていないんだ、戻ってきてから聞けば良い」
「ふぅん……そうですか。でも父上が戻られれば、また一緒にミスリア姉様の魔術訓練に付き合ってね」
「……あぁ、そうだね」
カストルはゲインズの言葉に優しく微笑んで答えたが、彼の言った言葉が叶うかどうかは難しいだろうと心の中で思っていた。
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「──王が迷い人を連れて戻る?!」
王城にある財務局の一室で、財務大臣であるミダス・ニールセンは小声で報告者に問いただしていた。国王が突然に旗艦エルデンでカデクスに向かうと聞いたときも慌てたが、迷い人の件はそれこそ寝耳に水だった。現状探られるようなヘマはしていないと考えていたが、迷い人のスキルは異常だと聞いている。万が一を考えねばと思い、すぐにドレファス将軍へアポを取るよう使いを出す。
「あぁ、この文をいつもの手順でアチラに送ってくれ。中央にはこちらだ。くれぐれも間違えるなよ」
「……畏まりました」
使いの者がそう言って部屋を出ていくと同時に締めたドアの影が滲んで揺らぐ。
『──お呼びでしょうか』
「……うむ、ダリア伯爵領は手筈通り進んでおるのか?」
『は! 伯爵家取り潰しの混乱に乗じまして滞りなく』
「……フム。彼らの移動は」
『そちらについても今週中には全て』
「わかった、残りの雑事についても頼む」
『──御意』
その返事がした途端、揺れていた影はピタリと止まり、ミダスは椅子に腰掛けたまま部屋の窓から庭園の東屋を望む。
「──我等が悲願の邪魔はさせん。よもや奴隷復権派こそがただのブラフと気づかぬ様な節穴共に」
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「はぁ……──どうあっても弟子になりたいんですね」
「はい。絶対に損はさせません、足手まといになるつもりも御座いません。どうかよろしくお願いいたします」
そう言って、彼女は俺の前で跪く。正直言って断りたい。が、このままだと話は絶対進まない。周りの皆はもう諦めてるし……。
「分かりました。ただ、言っておきますが俺はこの世界の人間じゃありません。ですから新しい魔術やその類はこの世界の人に扱えない場合が多いです。ここに居る俺の奥さんたちは事情があって使えますが、その理由は教えられません。なので見て覚えてもらうしか有りませんが、それでも良いですか」
「……それは、皆さんがノート様の妻と言うことに理由があるのでしょうか? もしそうならわた──」
「はいダメです。簡単に妻になるとか言われると私は逆に嫌いますが、それでも迫りますか」
「……ヌグっ。分かりました。必ずやノート様に見初められるよう精進致します。何卒よろしくお願いいたします」
「弟子の件だからね! セリスぅ、彼女の事お願いするよ」
「はぁ?! わ、儂が面倒見るのか!? ムリムリムリ!」
「いや、面倒じゃなくて、師弟の部分だよ。多分創造の面ではセリスと同じだと思うから」
「──あぁ、そういう事なら了解じゃ」
「それに、そういった生活の面は自活できるでしょ?」
「──は、はぃ。もちろんですわ……」
思いっきり視線をそらした彼女を見て、暗い気持ちになりながらシェリー達を見ると、苦笑いしながら頷いてくれていた。
「はぁ~~。分かりました。弟子入りを認めます。まずは女性たちと仲良くしてくださいね」
俺の返事を聞いた彼女は飛び上がらんばかりに喜び、すぐさま王に「やりましたわ! お父様! 許可を頂きました!」と報告し、オズモンドの悔しそうな顔を無視して、カーライルに報告していた。
◇ ◇ ◇
「──……へ? 俺達もあの船に同乗させてくれるんですか?」
「あぁ、勿論構わない。王城でリビエラ達の件の打ち合わせをしたいので、逆にお願いしたいくらいです」
「でもノート君、サラちゃん達はどうするの?」
「あ、そっちが有ったなぁ。どうしよう」
「連れていけば良いじゃろう。セーリス、あの二人はどんな感じになっておる?」
「……サラは精霊術師ならば既にゴールドランクで通用しますね。しかも属性はマルチですから。マリーは術師としてはそこ迄では無いですが、契約精霊が高位精霊なので、そこらの賊程度ならば相手になりません」
──へ? まじで?
話を聞くとサラは既に魔法師レベルになっていて、魔力量もそれに合わせてガンガン増えているらしい。精霊王の加護のお陰もあるそうだが、どうやら俺の庇護下に居る者は、神がそれに合わせた加護を与えているそうだ。サラにはセレス以外にマリネラとエギル。マリーにも同じく三柱が付いていた。
「──……はぁ。シス、このままなんかいやぁな流れになって行かないよね」
《……ソレはどちらの事でしょう?》
「え?」
《ハーレムの件なら要件は既に満たしています。戦闘力も同じだと思うのですが》
──じゃあどっちって聞くなよ!
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