第9話 策士
「アハハハ! おじさんそうじゃないよ、こうするんだよ『風よ』」
マリーのワードに反応した風の精霊が、渦を巻き始め上昇気流となって庭に落ちている葉を巻き上げ、一箇所にそっと下ろす。
「おお! 流石はマリアーベル嬢! 風の精霊を完璧に使い熟しておるのだな」
《フーハハハ! いいぞいいぞ! このデイジー様をもっと褒めるのだ!》
カデクスの聖教会での仕事を終えた俺達は、宿泊している迎賓館の前庭でセーリスの監督の下、サラとマリーが精霊術の修行をしているのを見つけたのだが、何故かそこには沢山の侍従や近衛騎士までが居て、チラチラと中央で精霊と戯れているチビ達を見つめている。……いや、正確にはその横で見えもしない精霊を探してニコニコしているこの国の国王を。
「──……あのぅ、あそこで国王様は何をしておられるのでしょう?」
気になった俺は一緒に戻ってきた辺境伯に声をかけるが、まさかの事態に彼の理解も追いついて居ないのか、ぽかんとした表情のまま国王達を見ていた。
「……セーリスよ、なぜチビの修行に国王が混ざっておるんだ?」
見かねたセリスが大きな声でセーリスに声をかけると、気づいた彼女は物凄く嬉しそうな顔をしながらこちらに駆け寄ってくる。
「ノートぉお! 待っていたぞぉお! 早く国王を連れて行ってくれぇ!」
余程我慢していたのか、気を使っていたのか分からないが、彼女は俺にしがみついた途端大きな声でちょ~っとまずい本音をぶちまける。
「はいはい。そんな風に言わない。あとでよしよしするから、ほら国王がしょんぼりしてるじゃん。チビ達は爆笑してるけど……」
◇ ◇ ◇
「──……大変申し訳ない」
国王を前庭から連れ出し屋敷の貴賓室に入ると、ソファに座った王が頭を下げてくる。
「いや、別に謝って貰う程の事ではないので構いませんが、一体どうしてあのような事を?」
国王曰く、俺達が今日魔導具の設置に出掛けていた事は勿論承知している。そこで部屋に籠もってばかりも何だと言うので屋敷内の散策に出掛けたらしい。そこで俺達の迎賓館の傍を通った時にチビ達の楽しそうな声と魔術の発動を見たそうだ。それが気になり立ち寄った所、マリアーベルが引き込んであの状態になったらしい。
「いやはや、まさか彼女が魔法を教えてくれるなどと言い出すとは思わなんだもので、我にも扱えるのかと内心喜んだが……まず精霊が見えなかった。だが彼女達と話すうちに小さかった頃の娘と話していたのを少し思い出してしまって、つい長居してしまったのだ」
「そうでしたか」
国王の言葉に通じるものでも有ったのか、男爵や辺境伯達が遠い目をしながら頷いているが、アンタら娘が居なくなった訳じゃないでしょ。国王なんか王女様が二人共まだ側に居るじゃねぇか。アレか? 年頃になったから、ほぼ無視されてる肩身の狭くなったお父さん的なやつなのか?
「んん! まぁその辺のことはもう良い。まずは報告が先じゃ。カーライルよ、カデクス教会本部の地下に在った大扉の封印は成功じゃ。現地で確認したが、始祖様でも存在の確認が出来なくなった程じゃ。当面の間は問題ないと見て良いじゃろう」
「……なんと! アレはそれ程の魔導具なのですか! もうそれは国宝級に指定できそうなのですが」
「でしょうな。私も離れて見ておりましたが、古代術式から紫電が上がった時はどうなる事かと思うほど凄まじいものでした」
そう言って皆が口を揃えて魔導具が凄いと言っていたが、俺自身にそこまでの実感はなかった。何しろ作った時間は半日程度だし、使った魔石はオークのものだ。大半は設計とデザインに時間がかかっただけで、費用なんて千ゼムもかかっていない。そんな事を考えていたら、シスが念話で言ってきた
《マスター。素材や部品の価格で言えばそうでしょうが、あの魔術公式はこの世界でマスターにしか書けないものです。遺失魔術ではなく、存在しないものを創った自覚を持って下さい》
──……そうでした。
「ノート君、貴方の事だからなんでそんなに凄いんだとか、考えてるんでしょう?」
「そうなんですか? あんなの世界の誰にも作れないのに」
「コイツの事だ、部品や素材の値段しか頭にないんだろう」
「まぁ、そうじゃろう『ノートだから』な」
「「「ですね」」」
……ちくせう。的確すぎてヤダこの人達。
その後リビングでお茶を貰いながら休んでいると、オズモンドさん達が戻ってきたとの報告を受け、部屋に二人が入ってくる。
「我が王……今回の件につきまして国家調査団としての現地調査の終了を確認いたしました。既に現場はこの街の衛兵部隊と男爵様の采配下に委譲致しました。よって以降は速やかに帰城し、今後の件も含めて詳細調査に入りたく奏上致します」
カーライル国王の前に傅き、オズモンドさんが口上を述べる横で同じ様に跪いていた王女様が、彼の言葉の後に続いて言葉を発する。
「……カーライル国王、いえ、お父様。先だってのお話の通り、この地での御役目は果たせました。引き継ぎなど城に戻ってから幾つかございますが、私、ミスリア・フォン・エルデンは正式にノート様の弟子として魔術魔導の道を歩みたく思います。どうかお力添えとご容赦いただきたくここに奏上致します」
──ファ? 何いってんだこのお姫様……。
「──……んんっ! んんっ! ……まずはオズモンドよ、大儀であった。詳細についてはお主に任せるが故そなたの言を認める。ロッテン男爵と話を取り決め、速やかに事件の解決を望む」
「はは! 賜りましてございます」
「……あぁ~、我が娘ミスリアよ。そなたの気持ちは分かった。……しかし、その件についてはノート殿の了承もなく簡単に首を縦には振れん。きちんと了承は得たのか?」
そんな事を言いながら国王はこちらをチラリと窺うように見てくるが、俺は何も答えず女性陣は素晴らしい笑顔で彼をしっかり見詰めていた。
「その事についてはきちんとお話を進めていきます。ですのでまずはお父様にきちんとお許しを頂きたいのです。いかがでしょうか?」
「……ん~~~。今すぐに応えるのは非常になんというか、不味いような気がするような感じが見え隠れしていて……う~~~む」
うはぁ、全く意味のない言葉を言ってる~。
「スレイヤーズの皆様、改めてお話がございます。……まずは私ミスリア・フォン・エルデンをノート様の弟子として、またスレイヤーズと言うパーティの末席に加えていただきたいと考えています。私も魔術師としての腕に覚えはございます。実力としても冒険者ランクでミスリルを所有しております。それに加えて私をこの国の王女として扱ってもらわなくて構いません。ただ一人のミスリアとして扱って下さい。あぁ、王女としての特権は存分にご利用なさってもらって構いませんよ」
彼女は国王が返事に窮しているにも拘らず、完全無視でこちらに近づきそう言ってきた。何故か後半部分を強調するように物凄い笑顔で。
「……流石は王女様、自身の優位性をここまで露骨に使いますか」
「ふむ。ある意味清々しいの」
「私は別に構いませんよ」
「ふ~。強かとはこういう娘の事なんだろうな」
そう言ってきた彼女の言葉に皆は呆れたと言うか納得したような雰囲気で、お前はどうするんだと視線が集まる。
「……え? なにこれ、俺が決めるの?」
「当たり前じゃろうが、この娘はお前の弟子になりたいと言うておるんじゃぞ」
「え~。でも俺国との関係は持ちたくないって言ったじゃん」
「はい。ですのでその事は先程言ったように唯のミスリル冒険者のミスリアとして扱ってもらって構いませんよ」
「ん? それってどう言う意味なの」
《マスター。ミスリアさんは自身のバックやコネは最大限利用しても構わない。だが自分個人は唯の一般人として扱っていいと言っているのです》
──は? そんなズルして良いの?
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。