第8話 封印
「──…はぁ~~。なんだか儂もう嫌になってきた」
「え? なにが」
「何がじゃないわ! 貴様がやった事は儂ら精霊の全否定じゃろうが!」
そう言ってセリスがポカスカ頭を叩いてくる。地味に痛くて面倒くさい。
「痛いよ、何すんだよ。ってか皆はどうしたの?」
「ははは、セリスさんとほぼ同意見です。と言うかノートさんの居た世界って想像ができません」
「…そうね、キャロに同意するわ……。私達の常識は全く通用しないんだもの」
「あぁ、全くだ。神の力だと言われればまだ納得できるが、お前の居た世界の知識だとは……」
《…マスター、今度マスターの知識をリンクして同期させてください》
「…な、なんだよ、人をヘンなモノ扱いするなよ」
「「「変です!」」」
「ぐはぁ! 嫁さんにディスられるのはつれぇー!」
結局全員に変人扱いされながらも、出来ることを確認したので、階段を登りきった監視部屋のような場所を錬金の要領で分解し、入口部分をコンクリート化した土で完全に埋める。そのまま階下に降りてくると階段その物を分解して土砂に改変、改めて行き来出来ないように完全に潰す。
「──……はぁ。やはりこ奴の事はもう諦めよう。『ノートだから』で受け止めるしか無い」
「ですねぇ。こうポンポン解らないことを平然とされると、ついていけませんからね」
「フム……。何度目になるんだろうなその言葉」
「さぁ。ノート君がなにか造る度じゃない?」
《……まさか、私のデータに無い事がまだ有るとは。非常に興味深いです》
──はぁ~。俺、頑張ってるのになぁ……。ま、考えるより進めて行こ。
「よし、これで完全に分離できた。後は大扉の方だけだ」
「はい! 行きましょう!」
「うむ」
「そうね」
「あぁ、行こう」
◇ ◇ ◇
通路を戻りそのまま反対側に進んでいくと、先に魔導具の明かりが煌々と照らされた場所が見えてくる。
「お待たせしました。こちらの撤収作業はどうですか?」
鉄扉手前に作られた簡易詰め所の撤収状態を見ながら、オズモンドに声をかける。
「おお。向こうはもう良いのですか?」
「はい、完全に分離して埋めて来ましたので。カタコンベからの進入はできません」
「……は、はぁ。そうですか。こちらも資材などの回収は終わっています。後は人員の後退と、確認作業くらいですね」
「分かりました。少し大扉前で作業があるので行ってきます。そのまま封印作業も行うので、皆さんはそのまま作業を進めてください」
オズモンドさんにそう言ってから、撤収作業をしている皆に会釈をして、セリスと二人だけで扉前に進む。キャロとシェリーやセーリスはこちらに人を来させない様に通路での見張りを頼む。
──……そこは変わらずに固く閉ざされた大きな扉が有るだけだった。
シスがメインカメラ横のライトを照らし、術式の描かれた表面を映し出して行く。
「──……確かに太古に書かれた封印術式じゃな」
「なぁ、これセレス様でも解らないってどうゆう事なんだ?」
そう、この古代封印術式はセレス・フィリアすら解読できないという事だった。原初の頃から存在している彼女が何故知らないのか聞いたら『これはあの邪神が作った文言が組み込まれた術式なので読めん』との事だった。そう言われて、扉に施された術式をぼんやりと眺める。
術式は円を描くように周囲に意味の分からない文字のようなものが描かれ、中央部に交差した線が幾つも放射状になっていた。中心部に描かれている模様はまるで昔なにかで見たような、カリグラフィーアートのよう……な……?
”ズキン!”
「痛っ!」
「なんじゃ? どうかしたのか?」
突然こめかみに刺すような痛みが一瞬走り、思考が中断される。……なんだ? 何を思ったんだ。寸前のことを考えるが何を考えていたのか思い出せない。ふと扉を見上げたが、特に何かが起きるよな気配は感じられなかった。
「……いや、ちょっと頭が痛くなったんだけど──。うん、もう大丈夫」
「は? まぁ、それなら良いが……。ほれ、さっさと始めるぞ」
セリスの言葉に頷いてから、異界庫に入れておいた次元結界魔導具を取り出す。
見た目は小型のガスランタンのような形をしている。まぁ、形を考えた時に一番近かったのでそう言う風にしたんだけれど。最下部に機構部分を造り、ここに吸魔素装置や循環器などを収めている。光源部にはギルドで手に入った一番大きなオークの魔石を埋め込み、魔力残量を可視化出来るようにした。上部には術式拡散部があり、これを起点として発動するようになっている。
扉の側に近づいていき、シスに探査を行ってもらう。
《状況に変化は有りません。前回と全く同じ状態です》
「それはデータ的にもって事?」
《はい。この先五百メートル以上何の気配も有りません》
「分かった。──……じゃぁ始める。セリス、警戒をお願い」
「ンム。いつでも良いぞ」
彼女のゴーレムがトライアングル状に浮遊しながら俺達の頭上で結界を生成すると、旋回しながら俺達を囲むように動き回る。それを見て取った俺はシスと共に大扉に近づいていく。
”ブウゥゥゥン!” ”ピシリ!”
俺達の接近により術式が発光して魔力を吸おうと嫌な音が唸りだすが、俺達は既に結界を張っているので影響を受けずに扉のすぐ前まで辿り着く。
「……良し、起動と同時に次元結界を発動してくれ」
《了解です。……いつでもどうぞ》
──……起動!
扉に触れた瞬間にそれを起動し、俺自身はシスが張った次元結界によってその場所から切り離される。大扉は俺の魔力を吸い込もうと一気に術式が輝きだし大きな唸りを上げたが、起動した魔導具がその強烈な術式をも飲み込み、その勢いのまま周りの情景が歪み始める。
バチバチと紫電を撒き散らしながら空間に呑み込まれるのを阻んでいた術式も魔導具の次元効果によって渦を巻くように巻き込まれると大人しくなり、そこからは一気に収束されて目の前には唯の壁が現出した。
「──……ふぅ、おっかねぇなぁ。……シス、結界は正常稼働してる?」
《──システムチェック完了。問題ありません。扉及び周囲五メートル半径が別次元に固定されています》
「──……おっ、マップにも反応有るな。しっかしまさか攻撃してくるとは思わなかったよ」
シスの次元結界によって扉との間が切り離されて居た俺はその被害を受ける事なく無事だったが、周りの地面は悲惨なことになっていた。術式から漏れた紫電がまるで鞭のようにのた打ち回った為に、そこら中の地面が割れたり捲れたりと、まるで地震でも起きたかのような状態になっていた。
「終わったのか?」
「ん? あぁ、もう大丈夫だよ」
朦々と立ち込める土埃のせいで視界が奪われた中、セリスが心配して声をかけてきたので返事をする。やがて視界が晴れてくると惨状を目の当たりにしたセリスが驚いた表情でこちらにゆっくりと近づいてきた。
「術式から紫電が奔った時はたまげたが、こりゃまた凄い事になっておるのぉ」
「あぁ、まるで攻撃してきたみたいだったよ。次元結界が在ったから問題はなかったけど」
俺とセリスが話しているのを見た皆が後ろの方からこちらを窺っていたので手を振って応えると、スレイヤーズの皆とオズモンドさんと王女が近づいてくる。
「ノートさん!」わっさわっさ!
「……凄まじかったわね」
「大丈夫なのか?」
キャロは駆け寄ってきた勢いそのままに俺に抱きつき、シェリーとセーリスが直後にそばに来る。オズモンドさんは扉が在った場所あたりで壁を恐る恐る見回して、王女様は地面の状態にビビリながら、近づいてきた。
「お師様……お疲れ様です。しかし見事に何も見当たりませんね」
「の、ノート殿……こ、この壁触っても大丈夫なのかね?」
「大丈夫ですよ、そこはもう唯の壁ですから」
二人にはこの場所に近づいても問題なくなったので、これからの警備をどうするのか打ち合わせをし、鉄扉の場所に衛兵詰所を設置することにして、戻ることになった。
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