第6話 お弁当に入ってたら嬉しいよね。
「──…地下墳墓に有る入り口を潰すのですか?」
『そうだ』
「それはまたどうしてでしょうか?」
魔導具のテストを終えた俺達はチビ達をジゼルさんに任せて残りの全員で、迎賓館でこれからの事を打ち合わせていた。そこでセリスに代わって出て来たセレスがそんな事を言い始めた。
『一つは場所を限定することで管理し易くする為だ』
「他にもなにか有るのでしょうか」
『……念の為だが、万が一にも瘴気の発生を防ぐためだ』
彼女の意見に一同は深く頷いて同意した。考えてみればあの場所には暗黒時代の遺骨も安置されている可能性がある。故にもし、悪意のある者達があの場所でおかしなことを行って万が一でも瘴気が溢れたら……街に不死人やモンスターの出現する可能性が出てきてしまう。地下墳墓には浄化の魔導具が設置されて居るために今は問題ないが、それが壊されでもしたら……。それがトリガーとなって大扉に何かが起きないとも言えないのだ。
「…確かにそんな事が起きてしまっては、街が内部から滅んでしまうかもしれませんな」
ロッテン男爵は彼女の言った言葉の先を考えて想像したのだろう。真っ青になって早急に対策をと呟いていた。
『そこであの執務室には衛兵の詰め所を置け。隣にあった物置部屋と合わせて使えば問題なかろう』
「なるほど! では早速その様に手配しましょう」
男爵と辺境伯はそう言って家令さんを呼んで話をしていた。
その後も色々な話を詰めていき、明日には早速行動開始すると決めて解散となった。
◇ ◇ ◇
「──…あの、ここは俺達が泊まっている迎賓館なんですが」
「はい…存じております」
「あはは! お姉ちゃんきれ~な服です~」
「…ま、マリーちゃん! だだだめでしゅよぅ!」
”がたん!” ”うひゃぁ!”
「あら、大丈夫ですか? サラちゃん」
「痛いですぅ……ふぇ? は、ひゃい! だだいじおぶグッ! あうぅ! ひたかんじゃったぁ」
あ~あぁ。子供達が居るからもうこのまま有耶無耶にされそうだなぁ…。まぁ、飯食ったら帰るだろ。
「ノート! からあげってなんじゃ?!」
「…何だよ突然! びっくりするじゃんか」
もう王女様が付いて来たことは諦めて許容して、部屋で寛いでいる時にセリス達がシェリーやキャロと話していたのは知っていたんだが、どうやらピクニックの話になっていたらしく、俺の言ったおかずの定番である唐揚げにどうやら感じるものが有ったらしい。
「──…で、それを油で揚げるんだよ。下味をしっかり付けるから冷めても旨いんだぜ」
「良し! 今夜はそれを食いたい! 材料を貰ってくるから作ってくれ!」
「…え? 今からか」
そう言いながら時間を確認すると、夕刻まではまだ時間がかなりありそうだったので、じゃぁ書き出すから貰ってきてくれと頼んで作ることにした。話しているうちに俺も久しぶりに食べたくなったからだ。
◇ ◇ ◇
迎賓館にも簡単ではあるがキッチンが備え付けられている。食堂に集まった皆が注目する中、貰ってきた材料を眺めて見ていた。
「…これがこっちの鶏肉かぁ」
確かに見た感じは鶏のもも肉と胸肉だった……大きさ以外は。俺の知っている鳥の胸肉やもも肉は精々が手のひらを目一杯広げたほどの大きさだった。だが目の前に有るのは、一抱えほどの大きさが有る。どう見てもでかすぎるのだ。そこで何の鶏肉なのかと聞いたら、普通に卵を生むニワトリだと言ってきた。だがどうやらこっちの世界のニワトリは大型犬ほどの大きさがあるそうで、畜産種では有るそうなのだが俺の想像を超えていた。だから卵の大きさも違うと思って聞いたら、直径は十センチほどと聞き、そこまでデカくはないんだとちょっと安心した。まぁ肉は切り分けて使うから良いか。
そこから俺は皆に言って、肉の大きさを指定して切り分けていって貰う。もも肉は皮付きのまま。胸肉は皮を取り、繊維を断ち切るようにと教えながら。
味付けには、にんにくを少なめにし、生姜っぽい物を摺り下ろしてもらう。これはチビ達がやりたがったのでジゼルさんと一緒にやらせた。そこに胡椒と醤油を混ぜ、切った肉を揉み込むように漬け込んでいく。途中気付くとなぜか、この屋敷のシェフたちも混ざっていたが、気にしたら負けだと思いそこはスルーした。
そう言えば前も和食を作った時にも居たな。まぁ良いか…そうして肉を揉み込んだら、そのまま寝かせて十分味が染みこむまで放置する。
「次は何をするんですぅ?」
「いや、下拵えはここまでだよ。後は付け合せの野菜をサラダにしたり他のものを作るんだけど…それはそっちで準備できますよね」
「はい。他になにか用意するものがあれば準備いたしますが?」
「じゃぁ、前に作った米をお願いします。味噌汁と米。それだけ出来れば完璧ですから」
「畏まりました。おい、米と味噌の準備を」
そう言って彼らは自分の職場へ戻っていった。
「さぁ、今の間に使った道具なんかを洗ってしまおう!」
「「「は~い」」」
チビ達と一緒に洗い物をした後、片付けをキャロたちに任せて俺は油の準備を始める。そこでシェフに聞いた所、ここで使っている油の種類はオリーブオイルとラードが主体だと言われた。そこで少し悩む。ラードで揚げ物は間違いない。…しかし! 精神的におじさんの俺にはちと厳しい…。オリーブオイルは温度にさえ気をつければ、栄養価が高く衣もかなりサクッと揚がる。但し、匂いの問題が有るのだ…。炒めもの程度やアヒージョには良いのだが、好みが分かれるからなぁと一人で悩んでいると、セーリスが側に来て聞いてきた。
「どうかしたのか? なにか問題でも?」
「いや、この料理には結構な量の油を使うんだけどさ、少し匂いに癖があって…」
「匂いに癖?」
「あぁ、これを使おうかと思うんだけど」
俺がそう言ってオリーブオイルを見せると、彼女はそれに顔を近づけ嗅ぎ始めた。
「…うん、いつも使っているオリーブ油だな。これがどうかしたのか?」
「い、いや…匂いとか気にならない? 味にもこの匂いがつくんだけど」
「は? ノートはこれが気になるのか? この油は誰もが普通に使うものだぞ。私はそっちのほうが少し気になるくらいだが」
そう言って彼女が目を向けたのはラードの方だった。確かにこっちは動物性だからもっと匂いはキツイ。だが揚げ物にはすごく合うんだというと、この油は確か高級品だと言われた。
「……あ! そうか。…こっちではこれが主流で使われているんだ」
そうだ! 確か地球でも古代から使われていたのがオリーブオイルと胡麻油だった。揚げ油としてもオリーブ油が使われていたんだった。
「ありがとう! うん、じゃぁオリーブ油で行こう!」
「へ? あぁ、わかった。火を使うのは危ないからチビ達は見学にさせるぞ」
そうして、魔導コンロの上に深めのフライパンを置き、オリーブオイルを流し込んでいく。大体深さの三分の一程度で止めて揚げ油の準備は出来た。
衣は本当は片栗粉が良かったんだが、知らないと言われたので、小麦粉を使うことにした。パンに使う物ではなく、ケーキ用だというとすぐに通じて薄力粉を準備してくれた。
すべての準備が整い、コンロ前には俺一人。他には肉に衣を纏わせる係と、揚げ終わったものを盛り付ける係と決めていった。
コンロに火をつけ、油の温度を鑑定でメニュー表示にしてまずは百六十度になるまで待つ。その間に衣を付けて準備していく。バットに広げた小麦粉に肉を入れて、コロコロと転がし、だいたい丸くなるように整形して、温度が上がった油に投入する。
”ジュワァ!” ”バチバチ!”
入れた瞬間からいい音を立ててどんどん揚げていく。初めは大きくバチバチと音を立てていた物が、段々とパチパチジュゥワと言う音に変わったら一度揚げて休ませる。一巡して全ての肉を上げたら、一旦油に溜まったかすを取り出し、次の温度を百八十度に設定して二度揚げにする。こうすることで、小麦粉で揚げてもサクサクとしたガワ部分と中まで火が通っても柔らかくジューシーな唐揚げの完成だ。
全ての二度揚げが終わる頃に丁度白米やサラダ、味噌汁なども完成し、食堂のテーブルには中央にどっさりと積み上げた唐揚げを置き、好きなようにとって食べる方式にした。
「…ん~良い匂いだねぇ! 美味しそ~!」
「はいですぅ! ノートしゃん早く来るですぅ!」
「もう待てん! 一個だけ!」
”パシぃ!”
「痛い! 何をするんじゃセーリス!」
「……お祖母様、子供達が我慢しているというのに何て事を」
やばいな、あのままだと終いに暴れそうだ。俺は火を止めた油に、万が一の為に結界を張り、皆の下へ向かう。
「良し! じゃぁ頂こうか!」
「「「はぁい!」」」
全員が一斉にフォークで唐揚げを突き刺し、口の中に放り込む。
「「「………。」」」
「…お、匂いもそんなにキツくないし、衣がサクサクでいいかん──」
「「「うまぁぁぁぁぁああい!」」」
「うお! びっくりしたぁ!」
「何じゃこのサクサクはぁ! 旨い! うますぎじゃぁあ!」
「ホント、あんなに油を使っているのに全く重く感じないわ」
「おいしぃい! やっぱりお兄ちゃんはお料理上手だねぇ」
「ハム! ムグ! おいひいれふぅ」
「凄いですノートさん! これすごく美味しいです! 外はサクサクなのに噛むとじゅわっとして!」
「「はぐはぐはぐ! なにこれなにこれ! 止まらないです!」
「み、ミスリア殿下……」
「プフっ…はは、あははは! 良かったよ一杯あるから皆でいっぱい食えよ」
──…こうして唐揚げはお弁当候補第一位を見事ゲットしていた。
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