第5話 それってどこでもド…ゲフンゲフン
《──…スタ…スター。マスター!》
「んあ? あ! あぁ、こっちに来ちゃったのか」
気がつくと広い部屋に一人でソファに座っていた。
──…アカシックスペース。
別段来るつもりはなかったんだがなと考えていると、シスの分体であるメイがソファの後ろから声をかけてくる。
《お目覚めですか、本日はどう致しましょうか? 情報を閲覧しますか? それとも作業をなさいますか》
「……作業? ここで何の作業が出来るんだ?」
《はい、ここでは情報のあらゆる作業が行えます。履歴の閲覧、整理。それに伴う各種修正などです》
「え? 修正?! 修正ってなんだ?」
メイの言った言葉に思わず聞き返していた。ここは記憶の保管や情報の集積場のはず。それを修正するって事は事象に干渉することじゃないのか?
《…いえ、事象変化などと言う物ではございません。あくまで記憶の修正です、例えば思い違いや言い忘れなど、事実誤認を修正することです。これにより自身の中にあった真実が事実を再認識することで、誤認や勘違いなどといった偏りの感情を、修正することが可能となります。言わば感情の見直し作業のようなものです》
──…真実を信じるな。事実を見極めろ…。
思い出した! あの時言ってた言葉! 履歴を確認して再認識しろって事だったのか! あれ、でも一体何を見直せば良いんだ?
「なぁメイ、俺の今の記憶の中で今までの物と齟齬ってどのくらいあるの?」
《えぇと……マスター、それはどの事柄に関してでしょうか? 指定がないと確認のしようがございません》
「あ、そりゃそうか。……ん~じゃぁ、今の俺がここに来てから、今までの期間でなにか齟齬を起こしている事柄は?」
《……ログを確認…──。完了しました》
「おお! どのくらい有るの?」
《食事に関するものが百七十二件、魔獣に関連するものが三十九件、世界観に関する事柄が──》
「ストップ! ストップ! え? なにそれ、そんなに齟齬が有るの」
《そうですね。指定がございませんでしたので、物忘れや微々たるものも全て含まれていますので》
言われてそうかと腑に落ちる。人間の記憶ってのはとても曖昧に出来ている。それは自分の都合の悪いことは忘れて、良い方に解釈したりして自己完結を行うからだ。すべての事象を正確にそのまま覚えていたら、ストレスがやばいことになってしまうからな。…う~ん、困った。これじゃぁ、どうやって調べればいいか見当がつかないぞ。
《マスター。意識がそろそろ覚醒します》
「…え?」
《現実世界に覚醒しま──》
メイの言葉が終わる前に眼の前の光景がぼやけていき、そのまま俺はリビングで目覚めた。
──…悪魔に関する齟齬が二件、確認されています。
*******************************
「──…メアリ! ジェレミア大司教は今どちらにおられますか?!」
オフィリアをなんとかソファに座らせ、今から湯を沸かそうとした瞬間に大きな声でそう言われた彼女は驚いて湯沸かしの魔導具を落としそうになる。
「……え?! ジェレミア様がどうかなさったのですか」
「…詳しくは分かりません! ですがこの手紙の内容に別れの文言が入っているのです! ケルビン! すぐに彼を探してください」
「え?! あ、あの私が直接でしょうか?」
「一刻を争うやもしれません! ですが、大げさに動くと誰かに気取られるかもしれません! ここはメアリが居ますので大丈夫です!」
そう言われてしまってはケルビンとしては言い返す言葉が出なかった。確かに自分は聖女様の護衛騎士だが、傍に控えるメアリの精霊術も知っている。聖女様とて身を守る程度の魔法は当然扱えるのだ。余程のことがない限り、彼女達に傷をつけることなど出来る者は居ない。
「…分かりました。くれぐれもこの部屋から移動なさらぬようお願い致します。では」
彼はそれだけ言うと、すぐにドアから出ていく。
「…あぁ、何故こんな事になったのでしょう。ジェレミア大司教……」
そんな言葉を零しながらオフィリアはソファに倒れ込む。手紙を眺め、悔やむような目をしながら。
「──…オフィリア様、…とにかく今は待ちましょう。内容は分かりませんが大司教様もなにかお考えが有っての事かもしれません」
「だといいのですが……」
外に飛び出したケルビンはとりあえずと考えて、事務塔に向かっていた。ジェレミア大司教の部屋はこの塔に所在しているからだ。もしそこにいれば良し、不在であったとしても、そこにいる者達に彼の行き先を聞けると考えたからだ。
程なく彼は事務塔へ辿り着くと、その勢いのまま塔に入っていく。
「…すまない、ジェレミア大司教に火急の要件で参ったのだが、彼はこちらにおられるか?!」
入り口を入ってすぐにあった受付のような場所で、大声を上げて彼の所在を聞くと、一人の若い見習いが出てきた。
「あ、あの…ジェレミア大司教様なら、先程お出かけになりましたが? ご用件ならばお預かり致しましょうか」
「どこだ!? どこに向かわれた!」
「ひぅ!」
「あ、あぁすまない。急ぎなものでつい声を荒らげてしまった。どこに向かわれたのだ?」
「…さぁ? そこまでは──」
「ジェレミア大司教なら、オッペンハイマー枢機卿の所だと思います」
見習いが判らないと言いかけた後ろから、使いの用事を終わらせた別の者が言ってくる。それは丁度ジェレミア大司教に託けた本人だった。
「それは間違いないか!」
「…え、えぇ先ほど私がお伝えしてすぐに向かわれたので、他に用がなければ間違いないと思いますが…」
その言葉を聞いたケルビンは軽く礼を伝えて、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
オッペンハイマーには今すぐの返事は難しいと答え、部屋を後にしたジェレミアはあの堅物をどうしたものかと考えあぐねていた。
「ふぅ、まさかこの期に及んで何を悠長なことを考えているのだ、あの唐変木は」
いつしか頭で考えていることがポロポロ溢れてしまっていることに気づいた時、目の前に息を荒げた騎士が現れる。
「──…おや、どうなされたのだ? ケルビン殿」
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「──…これは……ど、ドア自体が消えた」
「…壁しか無い…」
「…さ、触ってもわからない!? い、一体どうなってるんでしょう?」
魔導具完成の知らせを受けた国王達はその物がどの様な物かを確認したいと言うので、屋敷の離れにあった小屋の入り口でテストを行った。結果は現在絶賛小屋にへばりついている国王達の言葉が言うように成功していた。
「どどどどど、どんな魔導具なんですか、これ! 一体どうなっているんでしょうかお師様!?」
「お、落ち着いて、王女様。説明するから」
興奮状態で抱きつきそうになった王女様を引っ剥がし、全員を集めてちゃんと説明する。
「えぇと、まずは今見てもらったのが基本的なこの魔導具の使用例の一つ。隠蔽隔離」
「「「隠蔽隔離?」」」
「そう。今の場合だとこの小屋のドアを隠蔽したんだ。ただ隠すだけじゃなく、存在を隠したんだけどね」
「それって……どういう意味でしょう?」
素直に王女が聞いてきたので説明していく。
「簡単に言うとそこに有る存在自体を別の場所、まぁ別次元なんだけどそこに隔離したんだ。国王様が触っても何の違和感もなく一面が壁に感じたでしょ? つまりこれが隠蔽すると、その周りにある次元が強制的に収束されて、ドア自体が存在しなくなるんだよ。だからドアの手前と終端が周りの壁に繋がってしまい、唯の壁になったって訳。理解できた?」
物理学的に言えば、ワームホールの入り口にドアを置き、出口側に別次元を生成する。するとそのホールは次元収束によって現界している事象を起点と終点にして閉じてしまう。結果そこには、ドアという事象は存在できなくなり、次元の収束点に向かって永遠に現界している周りの壁と言う事象が続くと言う結果が認識される。…まぁこの話をしてもこの世界の人間では理解できないだろうからなぁ。
「──…こ、これが次元マドウ!」
──…へ? 次元魔導? オズモンドさんは何を言ってるんだ?
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