第19話 フラグ・ゲッツ!
精霊達との話し合いの後、ホントにホントに大変だった。サラちゃんは
”誰と会うですか? 誰に会わないといけないんですぅ? ”って、やけに饒舌になって、しつこく聞いてくるし。光の精霊シロは噎び泣きながら”これぞ天命!我が世の春が来た!”と煩いし。クロはサラの頭の上で寝てるし(あの子全然喋んなかったな)
なにより俺の監視役の精霊たちはもっと混沌だった。
”俺に名をつけて呼ばれるだけで強制的に契約させられる!”と言い出して、ギャアギャア騒ぎ出して、部屋中を飛び回った。途中で精霊同士でぶつかったり、泣き喚いて命乞いみたいなことをし出す変な奴も居るし。そうして騒いだ挙句、”王に報告に行ってくる!”と言って消えるし。
残ってた、ハカセは全てが真っ白になった様な顔つきで部屋をフヨフヨしていた。
結局、女将さんがサラを探しに来るまで俺はオロオロしっぱなしだった。
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「──…って、聞いてます? セレス様。」
『ダ──ッハハハハハハハハハッ! ヒーヒー!』
翌朝一番で報告と相談のつもりで訪れて話した結果、絶賛セレス様は大爆笑中だ。あ~ぁ。ハカセの奴、指差されて笑われてるよ…アイツ死ぬんじゃね?
『きょ、強制契約って…ヒーッヒヒヒ! なんだそれ?!ブハ~ッハハハ!』
”王様!やめたげてよぅ!””マジひでぇぞ!””マジ卍!”
『──ふぅふぅ…はぁはぁ…マジか?』
やがて、執務机で突っ伏しながら笑っていた彼女は、落ち着く様に笑いを収め、確認するようにハカセに聞くと、泪を流しながら頷くハカセ。
『ノート。こやつが何の精霊か理解しておるか?』
「はぁ、まぁ契約した時にある程度の事は把握しましたし…」
『こやつは我の最初の眷属。故に全ての属性を我と同じ様に管理する立場の者だ。…それを、名を呼んだだけでって、驚きすぎて笑うしかないわ!』
「へぇ。そうなんですね」
『な、なんだ!その気のない返答は!』
「ふぅ。まず、そこについては後で話しましょうよ。それよりも大事な話、先にしたいです」
『おい!俺にとっては最重要事項だ!それを、後回しにだなんて…』
俺の言葉が気に食わなかった様で、ハカセは背の羽根をぶんぶん言わせながら抗議してくる。だけど、今はそんな事より、彼女の方が危険度があると言うと、そこに付いては不承不承に納得する。
『ぬぐぅ。し、しかしだ!お前が俺と契約したという事は俺にマナの供給が必要なんだぞ!』
マナの供給? なんだそれ、マナを飯みたいに喰うって事か? 良く分からなかったので、魔石に充填するような感覚で、手元にマナを凝縮してみる。
「ほいっと」
『───…っ!』
突然の供給に驚くハカセ。だが暫くすると。その顔がにわかに崩れ、大声で叫ぶ。
『──…旨あぁぁぁい!!』
フフフ。そうだろうそうだろう。なにせ、属性をブレンドしてやったのだ。初めての感覚だろう。満足してハカセを見ていると、それをポケェと見ている三人を見つける。良し、ついでに三人にもおすそ分け……っと。
『『『旨あぁぁぁい!!』』』
わはははは! いいぞいいぞ! 俺のマナの虜になるがよい!
『───…おい』
「ごめんなさい」
『……まったく。ふむ、それにしてもヒュームで精霊眼か。しかも光と生命と契約済とはな……』
「やっぱり珍しいんですか?」
『あぁ、全く居ない訳ではないがな。確か、聖教会? の聖女だったかに受け継がれているのは聞いておるが……それ以外は聞いたことがないな。まぁ、ヒュームで珍しいだけで、エルフやドワーフにはたまに居るぞ。…それらも高位の聖職者になっているが』
──え? ……それってもしかしてフラグじゃね?
『まぁ、ともかくその娘達とは早急に会っておかねばならんな』
「急ぎます?」
『ん? 何か不都合があるのか?』
「いえ、ただ、彼女相当の上がり症で。しかも、小心ていうか、人見知りなのか…とにかく、冒険者ギルドに行くって言った瞬間、気絶しかけるほどで」
『なんと難儀な。…確かその娘、宿屋の娘だったな。』
「え? はい。そうですけど」
『では、夕飯時にそこの食堂に向かう。詳しい事はお前の部屋で話そう』
え?! まじで? そのエロバディがあの狭い部屋に…イエア!
『……その顔は何だ。はぁ、このエロガキは……いいか!よく聞け。その娘に会って我がきちんと加護を与えておかんと、ヒュームのそれもまだ成人前の娘だ、魔力量など知れている。そんな娘が分不相応な魔法を発動でもしてみろ。最悪、自身の生命力まで使い果たしてしまうかも知れんのだ、だと言うに貴様と来たら……ったく。もう少し思慮深くなれんのか』
「だって今日もエロフさんなんだもん。……あ、言っちゃってた」
『……ふぅ。まぁ、この見てくれはどうしようも出来んからな。だが、お前はもっと自重しろ!』
「はい」
『はぁ。では今夜だ。今夜にでもその宿に行くのでそれでいいな?』
「了解です」
そうしてサラの事が決まったと思うと、セレス様は、ふとハカセの方を見ながら言葉を選ぶように話し始める。
『それで。この者についてだが……』
「ええ。」
どんな結果になるのかと思い、固唾をのんでセレス様を見る。
『──…どうにもならん。真名としてハカセと刻まれておる』
──…ファ───?!
”あ、ハカセ!””王様!ハカセ落ちた!””ペチャってなった”
真っ青になって裁定を待っていた彼は、その瞬間に浮力を失い、そのまま床にポトリと落ちて動かなくなった。
『──…ノートよ。これでもこ奴は永い時を我と共にしてくれた同胞だ。必ずやお前の善き知恵者となってくれる。…くれぐれもよしなに頼むぞ』
彼女はそう言って真摯な視線で俺を見据えて来る。
「わ、分かりました。偶然とはいえ、こうなった以上、一緒に頑張ります」
『そしてハカセよ。お主も永い間我と共に居てくれた事、感謝している。歩む道は違える事になったが、いつでも逢える……こやつの先導、頼まれてくれ』
『──…我が王よ…しかと賜りました。不承では有りますが契約は成された身。ノートと共に精霊王の仰せのままに』
いつの間にか浮力を取戻し、セレス様の前に立った彼は、そう言って慇懃に頭を垂れて彼女に宣誓した。
──あぁ、なんかカッコ良く纏っちゃった。
◇ ◇ ◇
ギルドマスターの部屋を出て受付に戻ってくると朝の喧騒はなく、残った冒険者達が併設された休憩所で各々雑談したり軽食を摂ったり、受付さんも自分の作業をしたりと、なんだか緩~い雰囲気が漂っていた。
俺はそんな雰囲気の中、お構いなしにキャロルさんの受付に向かう。
「おはようございます!」
「あ、おはようございます。ノートさんは、今朝も元気ですね」
「はい!キャロルさんに会えたので!」
朝のウイッツ、ェアンド・スゥイーツ! なジョークを軽く投げてみる。
「フフフ。ありがとう御座います。私もノートさんに会えて元気が出ます」
おを!キャッチボールが出来るって良いなぁ。お耳ピコピコ、シッポユラユラ…あぁ、辛抱堪らん!
『おい!』
は!? やべぇ、飛んじまうぜ……ってか、ハカセ、それって念話?
『話を進めろ』
……真面目さんめ。
「あ、あの、依頼完了の報告をしに来ました」
「はい。…って、え?! あの依頼もう終わったんですか?!」
「え? はい」
俺の言葉に、さっきまでの営業スマイルが、一瞬素になり、段々ニマァって感じに崩れて行く…なんだ? キャロルさん、どうした──。
「素晴らしい! あんな塩漬けをたった一日で終わらせるなんて!」
「へ? いや、ただ魔石に魔力込めるだけでしたよ」
そう言った途端、ガバァ! とカウンターを乗り越える勢いでこちらに顔を寄せるキャロル。
「何言ってるんですか?!あのセリス様の依頼ですよ! 普通の魔技師なら、二~三人掛かりで一週間程はかかります! 報酬額見ればわかるでしょう?」
──…報酬…額? は?! 言われて俺は、依頼書に書かれていた報酬の欄を慌てて見てみる。そこにはこう書かれていた。
──報酬について。
報酬額については魔石単価とし、当方の定めた量をこなせば一属性につき、日当分をギルドの規定に沿って支払う。
──うん、金額が書かれていないから全く判んない。
「あ、あの、こういう場合、どうやって決まるんです? ギルドの規定って分かんないんですが…」
「え? あぁ、はい。セリス様の日当規定は、判例が有ります。そして、完了印が押された時点で、その全てが支払われるようになっていますよ」
そして彼女は、俺に報酬額を計算しながら提示する。
「えぇと…うひゃ! やっぱり…属性は五つで…は? ぜ、全完……って。ま、まぁ良いでしょう。なんか、ドキドキしてきた…」
──…なんか、おかしな事言ってる気がするんだが…。
「……はい、これが今回の査定額です。まずは属性完了が五種。つまり最低人員で三人です。そして…量的完了が全石完了していますので、日数換算で七日になります。魔技師の日当がギルド規定で千ゼムとなっていますので、合計金額は二万一千ゼルムとなります」
彼女は事務的に話すが、何故だか笑顔が非常に引き攣り、眉がピクピクしていた。
待てよ…確か、この世界での一ゼムは十円の感覚だったから、二万一千ゼルムを円換算すると…二十一万! すげぇ! 一日で地球時代の一か月分くらい稼いじまった!あぁ、だから彼女、こうなってるのか…どうしよ。
「あははは。魔神様の加護のおかげですね」
「ぅぅ! すごいですぅ! やっぱり私が見込んでマスターのお眼鏡にかなった人です! 期待してます! 頑張ってくださいね!」
やべぇ! テンアゲ・マックスになっとる。キャロルさんて、魔術系マニアかなんかか?
興奮した彼女が尻尾をぶんぶんさせながら、目を爛々と光らせた頃、横から誰かが視界に入ってきて、キャロルの頭をポカンと叩く。
「チーフ、落ち着きなさい。」
──ピンと立った耳。しなやかに揺れるシッポ。くりっとした大きな瞳。
そこには、ワンコと双璧をなす存在。ニャンコの綺麗なお姉さんが居た。
「──? どうしました?」
「は!いえ!なんでもないっす! あの…」
「あぁ、私は受付のシェリーです。彼女と同期です。宜しく」
あぁぁぁ! ツンだぁ! だがそこがいい!
「いたぁい!なにすんのよシェリー!」
「何じゃない、手続き進めなさいよ。それと煩い」
そう言って彼女は自分の席へ戻っていく。
「もぅ、叩かなくてもいいじゃない。…むぅ」
ほっぺをぷくっと膨らませながら作業を進めるキャロル。
「あ! ノートさん、ごめんなさいね。私、魔術の適性が低くて…だから、魔術師に憧れていて…だから魔術関連の事になると」
「いや、別にいいですよ。可愛いところ見れましたし」
俺はそう言いながら、超カッコイイ振りをして見せる。ふっ…決まったな──。
「はい。これで手続きは完了です。カードに達成金を入金しましたのでご確認ください……どうかしました?」
……聞いてないし見られてもいなかった。お約束ですね、ガックシ…。
「ブフッ」
「なに? シェリー? いきなり笑って?」
「な、なんでもない…わよ。…グクッ」
───…イエア!
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