第4話 陽だまりの光景
──…国王との謁見? から三日後、俺達の泊まっている迎賓館の一室で、俺とシスはやっと完成した魔道具を見つめていた。
「…ふぅ~。面倒くさかったぁ! やっと完成したぁ!」
今回の魔導具はセリスからの注文がかなり多かった。できる限り小型にしろだの、魔力を自動吸収するものは頑丈に! 術式部分は気取られぬようダミーを入れろ…等など。おかげで、術式転写を三重立体構造などと言う訳の分からんものが出来てしまった。核の術式部分を次元結界で包んでステルス結界に内包させるという、それってもう別の次元に存在してないか? みたいな核が出来上がった。
起動すれば、マーカーを設置した俺とシス以外は認知すら出来ない魔導具だ。
《…お疲れ様です。各種データ取り込みも完了しました。現物加工は私には出来ませんが、術式転写などはお手伝いできます》
「マジで!? じゃぁ次からはガワだけ作れば良いの?! うひゃあ助かるぅ。……ん? じゃぁさ、シスにもマニピュレーターみたいなものを付ければ作業できんじゃね? 武器の換装だけじゃなくて、マニピュレーターアームがあれば色々出来るじゃん」
《…なるほど、そうしていただけるとお手伝いする範囲も広がりますので助かります》
「良し! じゃぁ素材を──」
余った部品や素材を引っ張り出して、早速試作品から作り始めた──。
◇ ◇ ◇
”コンコンコン”
『どうかしましたかぁ?』
ドアの向こうで、キャロルが声をかけてくれる。多分さっきの大声に気づいて様子を見に来たんだろう。俺はそのままドアを開けて、皆に魔導具完成の報告をした。
「おめでとうございます! 本当に二日で作っちゃうなんて凄いですね」
「おめでとうございますお師様!」
「…え? あ、あはは…ありがとうございます?」
「お? 出来たのか…どれどれ」
そう言いながらセリスは早速と部屋に入って魔導具の確認をしていた。
「お疲れ様…お茶の準備をするわね。珈琲で良かったのかしら?」
精霊術の修行を見ているセーリス以外の皆が部屋の入口に来て、口々に労いの言葉を送ってくれる中に、何故か普通に王女様がいらっしゃる。…まぁ確かに、たしかに彼女の言った言葉は覚えているが……。
「ね、ねぇキャロ。どうしてここにミスリア様が居るの?」
「…あぁ、それはで──」
「おいノート! シスのこれは何じゃァァァア?!」
キャロに説明をもらおうと彼女に聞いていると、部屋の中からセリスの喚き声が響いてきた。
「なんでじゃ! なんでシスに腕が生えているんじゃ? カッコいい! 儂のにも付けてくれ! なぁ? 良いじゃろ? なぁ、なぁ!」
《セリス様…このマニピュレーターは取り付けただけでは動きません。これは私が独立して直接制御していますので。ですからセリス様のゴーレムでは不可能かと思われます》
「…だな。単独機能みたいな物ならセリスが直接命令して出来るかもだけど…」
「なんでじゃ? 欲しい欲しい欲しい! 儂のにも腕欲しい!」
《セリス様、想像してください。腕を四本使って物を掴めますか?》
「──…ファ? なんじゃいきなり? う、腕が四本? 儂の腕は二本じゃぞ」
《えぇ、だからです。セリス様の腕が二本、そしてゴーレムに追加される二本、ゴーレムは自立していないのでセリス様が全てを制御する必要が有ります、ですので都合四本になります》
「──…ムムム、確かに……むぅ~」
そこまでシスに言われて納得したのか、方法を考え始めたのかは分からないが、とりあえず黙ってくれたので気を取り直して振り返ろうとした時、シスに飛びかからんばかりにミスリア王女が近づいた。
「独立!? どどどどどど、どういう事なのでしょうか?! シスさんって、シスさん? は! い、は? え?」
”きゅ~!” ”パタン”
「あ! み、ミスリア王女様ぁ!」
──…なんか、どっと疲れてしまった。珈琲貰いに行こう…。
倒れた彼女を介抱しているキャロをチラと見てから、なんだか面倒くさくなってしまった俺は、そのまま彼女に任せてリビングに向かった。
◇ ◇ ◇
「──…あら、キャロ達は?」
「うん……なんか王女様がぶっ倒れちゃって、介抱してる。セリスはなんか考え中?」
「……は? なにそれ。まぁ良いけど…はい珈琲」
「ありがとう。…しかし王女様はいつから居るんだ? それにあの『お師様』って言うの、どうにかしてほしいんだけど」
「あぁ。……ノート君があの部屋に入ってからすぐ、国王とオズモンドさんを交えて三人で話し合いを持ったみたいなんだけど…。その後国王は号泣して話が出来なくなるし、オズモンドさんに至っては、セリスさんに師事したいって騒ぎ始めちゃって大変だったのよ。まぁ、セリスさんは物理的にオズモンドさんを黙らせていたけど」
その話し合いの場から戻った彼女だけは、終始満面の笑顔でこの迎賓館に来て、国の了承は得たので直接俺と交渉すると言い切って以来、通っているそうだ。
「えぇ…。皆はそれで納得しちゃったの?」
「別に妻にする訳では無いし、……大体ノート君の弟子になったとしても、あの魔術に付いて行けるとは思えないわ。セリス様が引くような魔術なんだから」
シェリーとそんな話をしていると、キャロ達が王女を抱えながら部屋に入ってくる。…と同時に別の扉からはマリーとサラが修行に一段落付いた様で休憩がてら戻ってきた。
「あ! お兄ちゃんが居るぅ!」
「本当ですぅ! もうお仕事出来たですぅ?」
「あ、お疲れ様。もう終わったのか?」
《ノートだぁ! あの魔力玉ちょうだいぃ!》
《おい、デイジー! ったく…ノート、できれば俺にも…》
ぎゃあぎゃあ騒がしく入ってくるが、その言葉になんとも言えずほんわかして、ブレンドした魔力玉を二人に放ってやる。
《……んまぁ~い!》
《ん~コレコレ!》
二人の高位精霊を見ていたクロちゃんとシロがチラチラこちらを見ていたので、こっちにおいでと手招きしてみると、シロは一気に、クロちゃんはおずおずと言った感じで飛んできた。
《あ、あの……》
《ノート殿ぉ! お二方に渡したアレはなんなんでしょ──ムガ!》
シロには有無を言わさずねじ込み、クロちゃんには手渡すように優しくあげる。
《──…!! んまぁ!》
《んホォ──! ノート殿ぉぉぉぉぉお!》
「俺特性のブレンド魔力玉だ。いつもはダメだけど、偶になら二人にもあげるから、サラのことヨロシクな」
俺の言葉に素直にこくんと頷くクロちゃんが可愛らしくて、思わず頭を撫でる。その横に居たシロは我を失ったように、ふにゃふにゃしたまま浮かんでいた。
「の、ノートしゃん! わ、私もしゅぎょー頑張ってましゅ!」
「お兄ちゃん! サラちゃんと私も頑張ってるから頭なでてぇ!」
精霊たちを見ていた二人も我慢できなくなったのか、傍に駆け寄ってきて頭を俺に向けた来たので、ハイハイと答えながら二人も撫でてあげていた。気分は完全にパパである。マリーは言動以外が女性なのでちょっとアレだが…。
「フフフ、子供というのは無邪気で良いものだ」
そんな事を言いながら、セーリスがシェリーと一緒に皆の分のお茶を淹れていると、キャロに介抱されてソファに横になっていた王女が目を覚ます。
「ぅ…う~ん。ここはぁ? あ! お師様!」
「はいはい、まずはゆっくりお茶を飲んで落ち着いてください。話は後で聞きますから」
飛び起きてこちらに突撃しそうになった彼女の前にシェリーが紅茶を置き、その場にいる全員をテーブルに集める。
「……まずはノート君、魔導具の作成お疲れ様でした。あまりゆっくりは出来ないけれど、報告などは私達に任せて今は休んでください。キャロ、セーリス私達三人で国王様たちへの報告に向かいます。ジゼルさんは二人をお願いしますね。セリス様、セリス様はミスリア王女が暴発しないよう一緒にいてください」
「えぇ、そんなの面倒じゃ──」
「では国王への報告、代わっていただけますか? それでしたら喜んで私が残りますが」
「──…わかった! わかった! ちゃんと見ておくわい。…お主、かなり怖くなってきたぞ」
すっごくきれいな笑顔のシェリーを見ながら、セリスはぼそっとそんな事を呟く。傍目で見ていたミスリア王女は顔がかなり引きつっていた。
──…そんな光景が何故か嬉しくて、窓から差し込む日差しのせいかは分からないが、いつしか俺はそのまま眠っていた。
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