第2話 気づけばフラグはまた増える
「──…はぁ~~。お前というやつは……どうしてこう、肝心な部分で抜けたことを言うのだ」
何故かセリスに説教され、ソファの周りにいるキャロ達も苦笑いで俺を見ていた。
「カーライル王よ、貴様はいつまでここに滞在できるのじゃ?」
突然話を振られた国王は、一瞬ぽかんとしたが慌てて従者に聞き、答える。
「あ、ンンッ…失礼しました。我が滞在できますのは最大で七日ですな。それ以上となりますと移動を考えても一日伸ばせるかどうか」
「…フム、シスよお主とノートで次元結界の魔道具を造るのに何日要る?」
《素材さえあれば二日要りませんがどうしてでしょうか?》
「……フム、素材か。そうじゃのぉ──」
なぜかは分からないが、どんどんセリスが話を進めていく。いつの間にやらシスまで呼び出し、俺のことなど全く無視して凄い道具まで作らされそうになっているなぁと他人事のように聞いていたら、離れた場所から悲鳴が聞こえた。
「──…あ! おいセリス! 国王がなんか泡吹いてるぞ」
「はぁ? なんでじゃ?!」
「お師様! 私達でもやっとどうにか納得して忘れている所に、そんな伝説級遺失魔道具やら、遺失魔術をポンポン言わないでください! そりゃこうなりますよ」
「……そうじゃったか? ノートと居るともう分からんのでな。話はこっちでやっておくから、坊はカーライルを連れて行って休ませてやれ」
「私は残ります!」
何故か大きな声で残る宣言をしたのはミスリア王女。その声にビックリして注目すると彼女ははっきりと言い切る。
「……私をノート様の弟子にしてください! そのお力の一端でも良いのです! ぜひご教授の程! よろしくお願いいたします!」
「──…な! 姫殿下! それはずるいですぞ!」
彼女の宣言を聞いた途端、王の体を支えていたオズモンドさんが振り返って、文句を言い出す。おかげで国王は辺境伯と従者のみが支えることになり、ものすごい可愛そうな態勢になっていた。
「やかましい! そんな話は後にしろ! まずは国王をなんとかしてやれバカモノ!」
セリスの怒声でオズモンドはシュンとなり、ミスリア王女はきゃ! と小さな悲鳴を上げたが、お父様は男の方々にお願いします! と言い切り頑として動かなかった。
「──…ふぅ。もう良い、ではその様にしろ。但し! 弟子云々は後にしろ。ここに居ることは許してやる」
セリスさんの許しを得た王女はニッコニッコしながらソファに座り、鬼のような形相になったオズモンドさんは渋々ながらも国王を支えて部屋を出ていった。
「──…で、次元結界の魔道具なんてどこに使うんだ?」
《恐らく、あの地下の封印扉ですね》
俺の質問に答えたシスはそう言った後、セリスに代わって説明を始めた。まず封印された扉を次元結界で隠すことにより、場所は判っていたとしても手出し出来ない様にさせる事。そうする事で異界の門の開放をカデクスは止めることが出来る。そして各国に有ると言われる監獄城を探して封印しながら、古代の術式の解明を行う。これが当面の目標だとセリスに聞くと彼女は首肯した。
「現在、次元魔導を扱えるのはノート、お前だけだ。それを使って監獄城を巡り、封印するのじゃ。破壊できるのが一番なことは分かっているが、彼奴らの動きが読めん状況下の今はそちらを優先したほうが万が一先を越されても、封印している場所が多ければ被害は少なくて済むからの」
「ほへ~。流石はセリス。なるほどねぇ~伊達に二百ね──」
”バカン!”
「いてぇ!」
「貴様はいちいちそう言うつまらんことを言わんと死ぬのか! このバカタレがぁ!」
癇癪を起こしたセリスをキャロやセーリス達がなんとか抑え、ゴーレムを呼び出そうとした所で俺が土下座してなんとか収まってくれた。
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「──…んん…は! ここは?!」
「気が付かれましたか…ここは奥の寝所です」
「ファ? あ、あぁオズモンドか。我は一体……」
「……ノート殿の数々の規格外に、気が動転されたのだと思われます」
ベッドで目覚めたカーライルは、その場に居たオズモンドや他の従者たちに気絶してからのことを聞くと落ち着いたのか、水を従者に貰い一気に飲み干すと、ため息を吐きながら、言葉を紡ぎ始めた。
「──…とにかく、これでなんとか国の一大事が収まる方向に動いてくれればよいのだが、彼らに任せっきりにする事はできない。我等も出来ることをせねば」
「……あと、もう一つお伝えせねばいけない事が有るのですが…」
「む? なんだ?」
「えぇ、……セリス様がご許可していないので如何ともし難いのですが…姫殿下が…」
「ん? ミスリアがどうかしたのか?」
そこで、辺境伯や男爵達が『え? アンタそれ今言っちゃうのか?』という顔でオズモンドを見るが、それを振り払うようにして国王に告げる。
「有ろう事かノート殿に弟子入りすると言い出しまして……現在彼らと共に打ち合わせを行っています」
──…ファ?
国王はこれでもかと口をあんぐりと開け、目を見開いてオズモンドを見返した後皆を見回すが、おおよそ全ての者が彼と目を合わせることは無かった。
”キュー”
「王よ! お気を確かに!」
そのままベッドに倒れた彼を心配そうにオズモンドが声をかけるが、『いや、それ絶対お前のせいじゃん』と思いながらも誰も突っ込むことはしなかった。
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「──…カーライル王はいつお戻りになるのでしょうか?」
「……さぁ? 魔導船で直接出て行かれたので私には何とも言えないです。…今日の書類はこれで全てですか?」
「…あ、はい。以上でございます、カストル様」
エルデンフリージア王国の城内に有る執務室では第一王子である、カストル・バイス・フォン・エルデンが政務の書類を確認しながら、ブルミア宰相の質問に応えていた。
「大体、出ていったのが三日前です。カデクスに到着したのが昨日。宰相も分かっている筈です。彼の者に会い、話をするにしてもセリス様も同席なされるはず。早くとも後十日程は戻らぬと考えて行動しましょう」
「はぁ。…そ、そうですな。これは失礼なことを申しました。どうぞお忘れください」
ブルミアはそう言いながらも、あまりの彼の落ち着きっぷりに内心舌を巻いていた。今までも幾度か国王の代わりに政務を熟して貰った事はある。だが今回の王の不在はいつもの外遊や、外交ではない。国のいや、下手をすればもっと大きな未曾有の危機が訪れるやもしれないのだ。そんな状況下で一縷の望みを賭けた迷い人への訪問。彼もその事は直接国王から聞き及んで居るはずだ。にも拘らず彼のこの落ち着き様…。本当に十八歳の青年なのか? と考えてしまう。
「──…? どうしました宰相」
「へ? あ、いえ、何でもありません。では私はこれで」
そう言って宰相が出ていった執務室で一人になったカストルは座った椅子に深くもたれかかり、天井を見上げて小さなため息を一つ吐き出す。
「──…その仕草、王とそっくりですぞ」
書棚の影が揺れ、誰も居ないはずの部屋でカストルに声をかけてくる者がいた。
「……あぁ、あなた達は残っているのですか」
「我等は王と王家を護ることが使命。第一王子であらせられるそなたに就く者がいるのは必然」
「それはゲインズや姉さま方にもですか」
「もちろんです」
「……そうですか。それは一安心です」
「なにか懸念でも?」
「──…いえ、…ミスリア姉さまが少し…姉さまは魔術の事になると盲目になってしまうので…彼の者は神級魔術までも使えると聞いたものですから」
「…懸想するやもしれぬ…と?」
「……まぁ、不要な心配事だとは思うのですがね」
──…この大変な時に色恋沙汰はゴメンですよミスリア姉さま…。
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