第43話 真相
「──…そんな…。新たな邪神だなんて…」
『カーライルよ! それは真の話なのか!? 我が身可愛さに我を謀ってはおらんだろうな!』
「天地神明に誓って! 我も手を尽くした結果がこれなのです」
ここはロッテン男爵邸の本館にある貴賓室の応接間。謁見ということで、それなりに緊張して部屋に入った途端、国王を始めとした要人の顔が真っ青だった。意味がわからず辺境伯に顔を向けると、近づいてきた彼がまずは挨拶をと言うので跪こうとした所、国王の方が駆け寄ってきて俺に土下座した。
「ノート殿! どうか! どうかお願い致します。…このままでは世界が闇に覆われてしまいます! どうか、どうかそのお力を以て世界をお救いください!」
──…正直ポカーンになっちゃったよ。
「ど、どういう事なんですか? いきなりそんな事を言われても分かりません。それに──」
「聞いております、神託を授かっていない事も、救いたい御方がいる事も! 昨日、あの者たちから全て聞き及んでいます。ですが、なればこそ! 貴方にお縋りするしか無いのです。最近の事件や貴方の周りで起こった事は全て、邪神復活の為の布石だったのです! エクスとオズモンドからの緊急連絡を受けてリビエラの復活を知り、大図書館の蔵書をひっくり返して調べた結果、禁書庫に答えがありました。それはこの国がまだエルス・テルアと言う小国だった頃の話です」
そこまで聞いて、俺とセレスはピンときた。
「──…異界の勇者の事ですね?」
『…ならば、聞こう。まずは席にもどれ、一国の王がみっともない。いつまで床に這いつくばるつもりだ?』
◇ ◇ ◇
そうして、部屋を応接間から更に奥のリビングに移し、俺が隔離結界を張ってから、ソファに落ち着く。
「……こ、この結界は一体何なのでしょう?」
ミスリアとオズモンドが、目を皿のようにして張られた結界を確認しようとするが、次元魔導だと言った途端に、黙ってソファに座っていた。…別に危ないモノじゃないんだけどな。
「──…まずはこちらを…」
国王がそう言って側に居た侍従に目配せをすると、ワゴンに乗せていた何冊かの本をテーブルに置く。
「…これが今回禁書庫から見つけた、エルス・テルア国の史実と言う歴史書です。これによりますと異界の勇者様がこの地に降り立ったのは今から約千二百年以上前、現在のエクスの南に存在した村付近だと思われます。この時代は御存知の通り暗黒の時代……。この国も当然ながら、アナディエル教皇国の脅威にさらされておりました。ただ、この国は中央よりかなり僻地に在ったため、そこまで酷い状況では無かった様です」
そこから彼が語ったのは、エルス・テルアの建国の歴史などを語っていったが、驚いたのはそのエルス・テルアの王家の血筋こそが、現在のエルデン・フリージア王国の血統だという事だった。
「勇者様はとても辛く長い旅を強いられたと史実では語られています。中でも特に勇者様が苛烈に戦ったとされるのが教会でした。当時の教会は今とは違い、それ自体が領主のような役割を果たし、その司祭や司教などといった者たちが、現在の領主や貴族のような者たちでしたから。教会内には様々な施設があり、異端者と言う名目で閉じ込め残虐の限りを尽くした牢獄を始め、それはもう筆舌に尽くしがたい事が平然と行われていたとされています。そして、各国に一つはあったとされたのが監獄城と言われる場所。そこは異端者を毎日収監しては地獄の責め苦にあわせて、生かさず殺さずを続け、最期に生贄とするといった狂気の所業を行っていた場所です」
「──…酷いことを…」
王の語る内容にミスリアを始め、女性陣達は顔を顰めて不快をあらわにする。オズモンドや辺境伯達もその狂気の所業に聞くに堪えないのか、表情をどんどん険しくしていった。
そうして王はついに核心とも言える事を話し始めた。
「──そんな狂気の城を勇者様は特に激しく壊滅させておられた。後に解ったことですが、その所業の理由を仲間に話していたそうです。何故徹底的に城まで壊すのか」
──…この城には最後の悪魔の欠片が封印されている。
「…当時はこの言葉の意味が誰にも理解出来ませんでした。…故にこの書物は禁書とされ、当時の宝物庫の奥深くに眠っていたのです。状態保存の魔道具に保管され、この国が出来た後も、ずっと禁書庫に同じ状態で眠っていましたが、ノート殿の言葉により思い出すことが出来ました。これは王家に伝えられた王のみに伝えられる、勇者様の口伝です」
──…監獄の門が開く時、異界の門がまた開く。悪魔を殲滅せしめよ。さもなくば、邪神が今一度目覚め、世界はまた闇に落ちる──。
「恥ずかしい事ですが、我はこの言葉を禁書を読むまで忘れておりました。ですがこの禁書を読んで思い出し、そして確信に至ったのです。ここカデクスの地下に残る、前時代の負の遺産とここ最近の事件の真相を! 世界中にある監獄城はその悪魔の欠片が封印されている場所です。それらを集め、邪神復活を企む輩が存在しています。勇者様はほぼすべての監獄城を壊滅させたと言われておりましたが、後年幾つか発見されています。それを潰していったのが聖教会です。それが全てかどうかは……わからないのです。現にこのカデクスの地下に城が残っています。わざとなのか、壊せなかったのか…真相は定かではありません。そして、復活を望む狂信者が存在している事実……。どうか! どうかお願い致します! 国を、いや世界を! お救いください! お願い致します」
静まり返った部屋で、そう言って国王は俺に向かって土下座のような真似をする。
『やはりこの言葉は勇者のものだったか……』
セレスが横で小さく呟く。エリー達が言った日本語の言葉を、エルデン・フリージアの国王がこの世界の言葉で言う。……はぁ、確定か…。
──…ケンジ……。お前この世界の事、気に入ってたんじゃねぇか。
「カーライル王、お立ちください。……お話は分かりました」
「で、では──!」
俺の言葉に顔を跳ね上げた王が喜色満面でこちらを見るが、俺は一度手で制す。
「その前に幾つかお聞かせください。…リビエラがこれに関与しているのは何故ですか?」
「──…そ、それは─セレス様…宜しいか?」
『──構わん。我がリーダーが聞いているのだ』
「は! リビエラは元々は──」
そうして国王から聞いたのは奴の過去の話だった。エルフの国で奴は何らかの方法で魂の保管方法を知った。それが多分、ユーグドラシルに在った監獄城なのだろう。セレス様はその事を知ったリビエラが、精霊を核に加工した事実を知り激昂、エクスで発見して処断したはずだった。
だがやつは既に自身をも魂を移管させ、隠れて生き延び合成強化体を完成させてしまった。これに関与していたのが奴隷復権派らしい。そこから資金を得たリビエラは、現在もどこかでホムンクルスやキメラを作り、それらがやがては不滅の軍勢となるであろうとの事だった。
──…それにゲール達が乗っかったのか。……ははっ。確かになんにも解っていなかったって事だな。そんな壮大な復活プランを遂行してたなんて。…あぁ、だからそこに俺みたいな神託も何も持たない異世界人が…元勇者の記憶喪失の俺が来たから…異物ってか…。で、元から居た自分たちがこの世界の支配者になりたいから世界って抜かしてたってか……。
「……フフフ、ははは! 確かに無知蒙昧と言われても仕方ないな。──…んの野郎、絶対許さない! セレス! 決めた! オフィリアを救うにはソイツらをぶっ潰さないとダメみたいだ! キャロル! シェリー! セーリス! 悪いけど、俺の我儘に付き合ってくれ! 世界がどうとかじゃなく、俺の大事な妹のために!」
「「「──…ハイ! 旦那様!」」」
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