第18話 シロさんとクロちゃん
ギシギシと軋む音を響かせて階段を上る。肩越しに振り返ると、小さな彼女が周りを気にするように、足元を見つめながら少し間を開けて着いてくる。そうして互いに無言のまま、ドアに辿り着く。
”ガチャガチャ” ”カチャリ” やけに響く開錠の音。
なになに何なのこの状況。どどどど、どうすりゃいいの?落ち着いた態度とは完全に真逆の心境で部屋へ入る。
「どうじょ」
嚙んだぁ! うひゃあぁぁぁ!
「お、お邪魔しゃましゅ」
噛んでるぅぅぅぅう!!
──ふぅぅぅぅ。落ち着け俺……。
お互いに部屋へ入り、俺はベッドに腰掛け、彼女に椅子を勧める。勿論入口のドアは少し開けておく。
「それで、どうしたの? ユマちゃんとの事なら話さないから安心して良いよ」
「え?あ、いえ。ちがうんですぅ」
──へ? 違う?
「じ、実は、ノートさんに聞きたいことぎゃ」
「………良いよ。ゆっくりでいいから。」
ふっ、ここは大人の余裕ってやつで。って違う! え? まじか。マジで彼女が俺にとっての最初のヒロインって奴なのか? いやいやいや、それは幾らなんでも不味いでしょう。どう考えても彼女はまだ成人もしてない童女だぞ。そんな、そんな子にもし手なんか出してしまったら……。
「ノートさんには何でそんなに精霊ちゃんが」
そうそう、精霊みたいにちっちゃいこの子……え?
「あ、あの。今、なんと?」
「え?あ、あの精霊ちゃんですぅ。何でそんなに精霊ちゃんがノートさんに付いているんです?」
──…ホワッツ?! ナニイッテンデスカ? 精霊がついてる?
──監視もしやすいからの…。
あのドエロフ精霊王! 監視ってそういう事かぁ!その瞬間、俺は意識して周りを見る。
”キャッキャ” ”あ? 気づいた” ”こいつバカじゃね” ”今頃とか”
気付くと俺の周りを何人? もの人型精霊がフヨフヨ浮かんでいた。
「おいっ! いつからだ! 何時からいた?」
”王に会った時からずっとだよ、あんたが暴走しないようにとか色々云われて視てたんだよ”
「あ、あの」
「うはぁ。じゃぁ何か? あの時からずっと付いてたってのか?」
”そうだよ。それにさ、今日の狩りの時、怖くなかったろ? あれ、俺たちが周りに居るから常に平静って効果が掛かってたんだぜ”
…スキルでもなかった。
「の、ノートさ──」
「はぁ、なんだよ。俺Tueeeの鈍感系フラグ来たのかと思ってたのにぃ…」
”あははバカじゃね? それよりその娘の方がチョッと気になるぜ”
「なに? あ! サラちゃん!」
「うひゃ!」
言われて思い出した。彼女が居たんだ。あれ? 精霊の事なんで知ってるんだ? 思って彼女を見ると。
──彼女の周りにも白く輝く羽をもつ精霊と黒に柄の入った蝶のような羽をもつ精霊が居た。
「あ、あのサラちゃん。その精霊たちは」
「え? あ! この子たちはシロさんとクロちゃんですぅ。」
「そっかぁ、シロさんとクロちゃん。初めまして~、じゃなくて! どうして君の傍に精霊が?」
「え、えっとそれは…」
サラちゃんが返答に困ってアワアワしていると、シロと呼ばれた白く輝く羽をもつ精霊がフワリと側に飛んできた。
『やぁノート君。こうやって言葉を交わすのは初めましてだね。我はシロ。光を司る精霊だよ。そしてあちらに控えるはクロ。生命を司っている。以降、サラ嬢共々、よしなに』
そう言って優雅に一礼するシロ。
「──…はぁ」
『さて、身共の主が困っておる故、不肖の身では有るがこの我、シロが主との馴れ初め、語って聞かせよう…。あれは我が主、サラ嬢が初めて教会へと両親に抱かれ参った時の事──』
我ら、光や、生命の精霊は名の如く、尊き場に集まりやすい。よって、教会等は我らの加護を持つ者も居る。まぁ、そこから契約に至れる者はそうそう居ないがな。そうして我らは彼女に出会ったのだ。
初めは可愛い赤子の生誕を寿ぐだけのつもりであった。彼女と眼が合うまでは。
──そう。彼女は我らを視ていた。
彼女の瞳は【精霊眼】だったのだ。ヒュームでこのユニークスキルを持つ者と出会ったのは初めてだった。彼女はその純粋な眼でこちらを見つめ、微笑みながら手を差し出してきたのだ。
──気づくと我とクロはその手を掴んでいた。それが契約とも気づかずにな。
言い切ったドヤ顔の後、優雅に一礼してサラの元へ戻る。
「あ、あのノートしゃん」
「ん? あぁ。大丈夫。へ、へぇそっかぁ。精霊の契約者ぁ!?」
「ひゃぁ!」
「あ、ごめん、ごめん。ちょっと吃驚しちゃったから。」
めっちゃタイムリーじゃんか。さっき本で読んだばっかじゃん。
「じゃぁ、あれだよね。使えるんだよね精霊魔法」
「え、…はぃ」
ん? どうしたんだろ、いきなり俯いちゃったぞ…。
「わ、私。この事は誰にも話してないんです。お父さんや、お母さんにも」
「え? それはどうして」
「私には生まれた時から精霊さんたちが見えていました。でもその事を誰も信じてくれませんでした。道を歩けば小さな可愛い精霊さんが居るのに皆見向きもしないで歩いていく。踏んじゃうんじゃないかって、思って。その事を言っても皆笑って通り過ぎていく。誰も聞いてくれないし、信じてもらえない。だから、話すのは止めました。でも、私は彼らを無視して歩く事は出来ない。だから彼らを避ける様にして私が歩くと彼らは私が見えていることに気づいて集まるようになって…」
──あ、だから何も無い所で躓くのって…。
「それで、よく転んでたんだ」
「そ、それは」
『いや、あれは嬢が単にどんくさいだけだ』
真っ赤になるサラ。…シロ。君ってすっごいKYだね。
「ま、まぁそこはこの際置いておこうね」
真っ赤になって凄いスピードで首を縦に振るサラ。
「う、うん。それで、君と同じ様に精霊を連れてる俺を見つけたんで、この際思い切って相談しようと、思ったってことかな?」
「は、はいですぅ。ノートさんは何時から精霊さんたちと?」
──昨日からです……って言える雰囲気じゃねぇなぁ。
「あぁ、いやまぁボチボチ?」
「──…?はぁ、そうなんですかぁ」
「って言うかサラちゃんはどうしたいの?」
そう。それをまず聞かないといけない。何しろこの娘は既に二体の精霊と契約までしてしまっている。下手すりゃかなりヤベェ事になるかも知れない。そうなる前に何とかして手を打っておかないと…。
「あ、あの、どうしたい。とかはないんですぅ。…ただ」
「ただ?」
「仲良くしたいだけなんですぅ。精霊さんたちはすごく優しいです。私が、どんくさくても何時も助けてくれます。いっぱいお話も聞かせてくれて…だから、だから……ぐすっ」
「ま、待って。泣かないでサラちゃん! 大丈夫、ね、大丈夫だから」
どどど、どうしよう! と、とりま、落ち着かせないと…。等とこっちが何故か動揺してしまい、パニックになりかけている所に、視界の端が、チカチカする。メニュー? あぁ! め、メール? 何でいきなりこんなタイミングで催促するんだよ?
「ぐすっ……? どうしたですぅ?」
「あ、いやなんでもないよ。とにかくサラちゃんは落ち着いて。今、考えるからね」
「ぅぅ、はぃですぅ」
かんっぺきに忘れてたよ。ってか、バッジ付いとる5件て…。
『おい、俺達の事も忘れてねぇよな』
「ンあ? あぁ、ちょっと待って」
──…イラっ! 瞬間、精霊達が後退る。
『……っ!』
「なに? どした?」
『お、おい、その殺気はやめろ。感情を抑えろ』
──へ?
『ふぅ。気づいてないのか? お前は今感情が昂っている、だからそこに怒りが乗ると殺気になる。深呼吸しろ。』
す~はぁ~…す~はぁぁぁ。
『よし。ま、まぁ俺達も急かし過ぎた様だからここは待っておく。彼女の相談なら手伝えるやもしれんしな』
「まじで!なら、どうすればいい?」
『即断だな。まぁ良いが。要するに彼女はただ、俺達と仲良くなりたいだけだ。ただ、それを周りの連中にはまだ知られたくないってだけじゃないのか?』
「…で、合ってる?」
「コクッ」
「おをっ! すげぇな。でどうすれば?」
『おまえ…。ふぅ。そうだな。シロとクロだったな。お前達、セレス様とは?』
『面識はまだないな、だが我らは常にかの御方の存在は感じておる』
『……まぁいい、では俺達が王に話を通す。恐らく彼女との面通しが要るとは思うがそこはノート。お前が連れて行ってやれ』
「OK! 了解だ! で、君の名前は?」
『俺達精霊は自然そのものだ。契約をした者ではないから名はない』
「ふ~ん、そうだなぁ。君はなんか、真面目で、博識だし結構面倒見がいいから、ハカセとかどう?」
『おい! あ!』
俺が軽い感じでそう言うと、ピカッとその精霊が光った。
──ハカセと呼ばれた精霊は、愕然とした表情で固まっている。
”け、契約した” ”うは、マジか” ”強制じゃね?”
周りに居た精霊たちが口々にエライことを言う
──へ?……契約?…なにそれおいしいの?
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