第36話 精霊契約
「──…ち、地下遺跡……?」
その言葉を聴いた瞬間、思考が止まる。……なんだ? 巫女様は今何を言った? 遺跡とはなんの事だ? …ただただ湧いてくるのは疑問符の付いた言葉ばかりで、自身の考えが一向にまとまらない。一体あのカデクスの教会には何が有るというのだ?
「…み、巫女様、地下遺跡とは一体なんのことでしょう? 浅学な私にどうかご教授願いたく」
「──…分かりました。少し長くなりますが宜しいですか?」
そうして巫女様は語り始める。カデクスの本来の姿と、聖教会と我がヒストリアの由来を…──。
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《マスター、この先に巨大な空間が存在しています》
「ファ? 何、巨大な空間って」
シスがサーチを掛けた結果を伝えてきたが、抽象的で分からず、聞き返す。
《…恐らくはこの術式のせいだと思われますが、空間の先が見通せないのです。ただ、この先数百メートル程は確認できました。扉の向こうは半径にして五百メートル以上の広大な広間のようになっているのが、確認できます》
俺が大きな声でシスに聞いたため、注目を集めたせいだろう。シスは周りにも聞こえるような、大きな音声に切り替えて返答してきた。
「──…な?! 五百!」
シスの言葉を聞いたオズモンドが、その数字を聞いて驚愕し、扉の方を窺う。調査団の面々も、その数字の大きさに怖気づいたのか、俄に囁き声が、聞こえ始める。
「……団長! しっかりしてください。この先を見るにはまず、この術式を解除しなければ、いけないのでしょう?」
そんな中で、凛とした声を響かせたのは、ミスリア王女だった。その声にオズモンドも我に返ったのか、取り繕うように咳払いを一つした後、調査団に向けて言葉を発した。
「──…んんっ! 済まない。流石に想定外だったので取り乱してしまった。まずはこの扉の前に、調査本部を設置する。術式調査の為、班の編成も組み替えなければならない。本日の実地調査はここまでとする。ここには不寝番を四人体制で置く。それ以外の者は、撤収作業にかかれ!」
彼の号令一下、調査隊は先程までの雰囲気を切り替えて、一斉に動き始める。騎士たちが不寝番の段取りを始め、魔術師たちが、術式解読のための資料はどうのと言いながら、本部の設置場所などを決めていく。
「──…流石は調練された組織ですね。団長の言葉一つですぐさま行動できるとは」
「…そうね、軍隊って、集団行動は体が覚えているから、指示があれば即座に反応できる」
「へぇ、まるでそんな組織に居たみたいだな」
俺の言葉がおかしかったのか、キャロとシェリーは、キョトンとした顔で俺を見返してくる。
「…へ? 何かおかしなこと言った?」
「…いえ、そうじゃないのよ。…あれ? キャロ…私達の事、ノート君に言ってなかったかしら?」
「へ? …ん~、セーリスさんとの事しか、話してないんじゃないかな? シンデリス内紛の事とか、ちゃんと話してないし」
「そっか……そうね。まぁ、今ここでする話でもないし、機会があれば、また話しましょう。ほら、彼が呼んでいるわ。行きましょう」
シェリーはそう言うと、こちらに来てくれと呼ぶオズモンドたちの方に、歩き出す。
──…フム、無理に聞くこともない事だな。
頭の隅でそんな風に考えながら、キャロルと二人、シェリーの後を付いていく。
「どうしました?」
「いや、申し訳ない。実は相談があります。先程も言った通り、この扉に書かれているのは、古代の封印術式でして。…そこで、その遺失伝説級魔道具をお持ちのノート様達ならばと思いまして。良ければご助力願えないでしょうか?」
──…成る程、オズモンドさん達にとってはシスはそういう対象になるから、そう考えるのは自然だよね…。うん、困った。これは俺のスキルであって、魔道具じゃない。当然シェリー達のゴーレムも、俺が造った完全趣味のオリジナルだ。ここはどう答えれば──。
「なら、セレス様に聞いてみるのが、早いんじゃないかしら?」
俺がどう返事をしようかと思っている所に、シェリーが割って入ってくる。
「……お師様…ですか?」
「ええ。彼女ならば、なにか知っている可能性が、高いと思うのだけれど」
「そうですね。セレス様は長い時を生きていらっしゃるから、術式を見てもらえば、可能性は一番高いと思います」
ナイス! そうだ、セレスに聞けば手っ取り早い。そう考えて、オズモンドを見やると、なぜだか彼は難しい顔をしていた。
「…確かにそれで、教えていただければ良いのですが……。お師様は、そう言ったことに関して、あまり良い顔をされないので…」
「……え? そうなんですか?」
「はぁ。…セリス様はそこ迄ではないのですが、セレス様はやはり、世の理とは隔絶されておりますので…。言わばある意味、神と同格のお方ですから。そういった事には口を出されないのです」
「…あぁ。言われてみれば、彼女もそう言った意味では、そうでしたね。当たり前にホイホイ出てくるから忘れてました」
結局、その場では有耶無耶になり、俺たちは一度、屋敷に戻ることになった。
◇ ◇ ◇
「我らは一度、持ち帰った資料を調査しますので、明日は自由にしていただいて構いません。明後日の朝にまた迎えを出しますので、宜しくお願いします」
「分かりました。では」
男爵の屋敷についた俺達は、正面の本宅前で解散して迎賓館に戻る。ちょうど、その庭に通りかかった所で、サラ達の声が聞こえてきた。
「マリーちゃぁん! 今ですぅ!」
「風よ!」
サラの掛け声が聞こえたと思った次には、マリーのワードが発せられていた。すると、生垣の向こうで風の逆巻くうねりの音が聞こえると、それは渦になって巻き上がり始め、竜巻現象を起こす。それはその場に留まったまま、下草を巻き上げるとやがて霧散し、何事もなかったようにそよいだ風が吹いていった。
「…できたぁああ!」
「おめでとうですぅ! すごいですぅ!」
「…ねぇシェリー……あれって【魔法】だよね」
「──…そ、そうね。精霊魔法だったわ」
「…スキルって、そんな簡単に再取得できたっけ?」
「……魔術なら聞いたことが有るけど…魔法は聞いたことがないわね」
「……いいなぁ、アレ…」
魔術にどうしても憧れの強いキャロルが、涙目になりながら、彼女たちを見つめていた。
◇ ◇ ◇
「精霊と契約できたぁ?!」
俺達に気づいた彼女たちと部屋に戻って、皆でリビングでお茶を飲んでいると、嬉しそうにマリアーベルが報告してくれるが、それを聞いた俺は驚いて、変な声で聞き返してしまった。
「フフフ、変な声ぇ~」
「い、いやビックリしすぎた。え? マジなのセーリス?」
「…あぁ、私自身も驚いたよ。まさか高位の精霊といきなり契約してしまうとは」
「ちょ、ちょっと待って」
そこで、俺は彼女に鑑定を使った。
名前 マリアーベル
種族 ヒューム
性別 女
年齢 26歳
~~スキル~~
ベーススキル
魔力増強 身体強化
ユニークスキル
精霊術
固有スキル
精霊視
~~加護~~
マリネラ神
セレス・フィリア
「──…セレス、お前か?」
加護の欄を見て、すぐに思いついたのは、それだった。彼女が与えた加護によっての再取得。しかし彼女は首を横に振った。
『いや、その加護は、精霊契約の後に行ったものだ。恐らくは固有スキルのせいだろう』
「そう言えば…精霊視ってなんだ? サラの精霊眼とは違うのか?」
『ん~、似ているが少し違うな。サラの場合は魔力を消費しないが、常に精霊が見えるというものだ。マリーはそうではなく、意図して【視る】という行為で、精霊を認識するという物だ。まぁ、こちらも魔力の消費はないようだが』
「ん? じゃあそれって、ある意味サラの上位互換になるのか?」
『いや、上位ではないな、どちらかと言えば下位だ。意識しないと視れないからな』
「ふ~ん。…で、高位の精霊ってどのコと契約したんだ?」
《ふふ~ん! アタシだよ~》
俺の質問にドヤ顔で飛んできたのは、いつもの三羽の妖精タイプの一人だった。
「お兄ちゃん! この子の名前はね──…デイジーだよ!」
《可愛いでしょ! 可愛いって言え! フハハハ!》
「ふははははは! あははは、面白い子だよね~」
──…セレスぅ…高位の精霊ってもうちょっとマシなのを……。
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