第33話 地下施設
「──…ではこれより、教会内部の調査を始める。一班から三班までは、各部屋にある書類の捜索と調査を。四班はシスターの私室を彼女らと一緒に回ってくれ。本部はこの執務部屋とし、伝令を通して逐一報告するように。五班と六班は隠し部屋及び通路の捜索を行ってもらう。本部にはミスリア副団長とロッテン男爵様、フィヨルド辺境伯様に管理をお願いします。では、開始!」
オズモンドの言葉で一斉に、騎士や魔術師たちがそれぞれの担当を行うべく、現場に散っていく。そんな中、俺達が任されたのは六班。隠し部屋や隠し通路の捜索だ。五班の隊長はもちろんオズモンド。なので見取り図を見ながら、どこから回るかを検討していく。
「──やはり、隠してあるのだとすれば、礼拝堂の近辺…もしくは人が寄り付かなそうな場所だろうか…」
捜索の足掛かりと考え、ここにいる全員で見取り図を見ているが、水を差すような形で、俺が言う。
「……あのぉ、探査魔術を使えば見つかるんじゃないの?」
「──…あぁ、もちろん何もされてない場所なら可能でしょう。ですが、このような組織だった場所にあるそういった所にはたいてい隠蔽魔術か、偽装術式が掛かっているので、発見するのはまず不可能だと──」
「…えぇとですね。俺のゴーレムが既に二箇所……見つけているんですよ」
「「──ファ?」」
きれいに揃って皆が一斉に素っ頓狂な声を上げたので、吹き出しそうになるのをぐっと堪えながら、事の成り行きを話していく。
それは丁度、この教会に着いた時点だった。俺たちは冒険者の依頼としてこの場に来ている。ならば、現地についた時点で、最も初めに行う行動を、普通に行っただけだ。現場の確認。そのために探査魔術を使った。
その結果、オズモンドさんの言っていた、偽装術式が幾つか発見された。シスはその確認のためにステルス状態のまま、現地に確認しに行った。そうして先程、行動開始した時点でシスが戻ってきたのだった。
「──…なので、地下墳墓に一箇所。そして……」
俺は床を蹴る。
──…この直下にあります。
◇ ◇ ◇
「少し離れてください。──【術式解除】」
オズモンドさんが、床に張られた陣に向かって発呪すると、一瞬陣から青い炎が吹き上がり、すぐに収まると陣が焼き切れたようになっていた。
「…はぁ…はぁ…結構強力な物が張られていましたね」
彼はそう言いながら、床に現れた取手を引き上げると、そこには地下へと続く石階段が現れた。
「深いな…シス、先行して状況確認してもらえる?」
《了解しました。モニタリング出来るよう、画像共有します》
そう言ってシスが、壁に五十インチテレビ程の大きさの画面を映し出した。
「ノートさん、ノートさん」
「ん? 何キャロ…」
「アナタ、私達だけじゃないって事忘れてない?」
キャロとシェリーにそう言われて、あ! と思って振り返ると、壁の画面には辺境伯と男爵が、オズモンドやミスリア達はシスを眺めて放心していた。
「ま、まさかロスト・アーティファクト!? じゃないですかこれ!?」
「あ、あれ? 二人共、この間の調査の時見ましたよね。あの時のゴーレムですよ」
「……あの時は、喋っていなかったじゃないですか! だからてっきり、遺跡で発見したゴーレムだと思っていたんですよ!」
オズモンドとミスリアは、子供のようにキラッキラッした目でシスを眺め、あーでもないこーでもないと言い合いだしてしまう。男爵と辺境伯は更に酷く、壁をペタペタ触って画面が手に映ったのを見て騒ぎ出す。
「うわ! へ、辺境伯様! て、手に景色がぁぁぁぁあ!」
「男爵! だ、大丈夫なのか?! の、ノート殿ぉぉぉぉおお!」
あちゃー…と思って、キャロとシェリーを見るが二人も呆れた様子で皆を見てため息を吐いていた。
◇ ◇ ◇
「──いいですね、他言無用です。そうすれば、戻ってからちゃんと教えますから。今は仕事に集中です」
四人にそう言い聞かせ、他に居た侍従やミスリアの近衛達は、俺のことをある程度わかっていたので、全員に口止めをしておいた。
「とにかく、ここはこれから調査しないといけないので、別の場所に本部を置きましょう。隣の部屋はなんですか?」
「…物置になっていますね」
「ではそこを、とりあえず整理して、仮本部にしましょう。正式にはきちんと用意して行くという感じでいいですね」
そう言って近衛と侍従達にお願いして、物置の整理と報告に来た伝令に場所の変更を伝えていく。シスは既に調査を開始させていて、キャロとシェリーに映像確認してもらっていた。俺には直接メニューの上部にモニターを出して確認していたが、階段は何度も折り返しを繰り返し、まるでぐるぐると同じ場所を回って居るような錯覚に陥りそうになる。これって確かつづら折りって言うんだっけ?
…シス、どのくらいまで潜った?…
《現在、教会の床を起点として、深度は五十メートルほどでしょうか…まだ続いています》
…術式の可能性は?…
《有りません。実在の階段が続いていま…階段が終了します。…この先に通路が続いています…サーチで異常感知しましたが、問題ありません。前進します》
──そこから更に一本道を進んだ先に扉が見えた。
《この扉にも封印陣が書かれています。解除しますか》
「…オズモンドさん、どうします? 解除するのは出来ますが」
「お、お願いします」
「了解です。シス、解除してくれ」
”バチッ! シュウ!”
扉の陣が一瞬光ったと思うと、煙を上げて先ほどと同じように焼き切れ、シスが扉の鍵部分を熱線で焼く。
《……スキャン開始……サーチ完了。危険物の反応はありません。室内空気が少し淀んでいますが許容範囲です。進入します》
そこは、大きな空間になっていた。天井高は四メートル程だが、縦横に本棚がびっしりと並び、棚一杯に本が隙間なく並んでおり、よく見ると年代らしきプレートが張られていた。本自体には背表紙はなく、大きさや厚さが揃った同じような本が並んでいる。
「…なんだここ? 資料室か?」
《どうやら、同じ内容の本が年代ごとに並んでいるようです…別の扉があります》
次にシスが進んだ部屋は事務室のような場所だった。机が幾つか並び、壁際にはバラバラの大きさの資料が収まっている。
「…事務所だな。完全に」
《そのようですね……マスター、これを》
「──それは……」
◇ ◇ ◇
その後、シスが探査を終えて戻ってくると、二つの班と辺境伯と男爵を仮本部に残し、集めた資料の整理や確認を頼む。残りの班員達で地下施設に潜ることになった。
「…これより、発見したこの地下施設に侵入する。斥候が確認して危険はない事を確認はしているが、十二分ではないので注意は怠らないように。先行してスレイヤーズから入っていくので順次遅れないように! では出発する」
シェリーのゴーレムで、発光魔術を使って階段を照らし、下っていく。十段ほど下っては折り返し、つづら折りのようになった階段ははっきり言って少しきつい。見ているだけでも酔いそうだったのに、実際下ると三半規管がおかしくなりそうになる。恐らくはこの空間が狭く、そして暗いのも関係しているのだろうが、マジできつくなった頃に終りが見えた。
「見てて判っては居たけど…実際来ると気持ち悪いな」
「…そうね、ヒュームには厳しいかもしれないわね。私達には関係ないけれど」
「そうなの?」
「私たちは運動能力に元々魔力の補正が掛かっていますから。激しい運動や、揺れなんかに強いんです」
へぇ~そうなんだ。俺はてっきり犬ってよく自分の尻尾追いかけ回してたりするからかと思ってた。あ、でも猫はあれしないもんなぁ。
”ポカ!”
「いてぇ!」
「……君がそういう表情のときって変なこと考えてるに決まってるんだから」
──…解せぬ。なぜバレたし…。
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