第32話 三者三様
翌朝、食堂で皆で集まって食事をしながら、今日のメンバーを決めようと声をかける。
「それでさぁ、今日の調査メンバーのことなんだけど──」
「ハイハイハ~イ! マリーが行くぅ!」
「…私はマリーの──」
「いや、駄目だからね、何ジゼルさんまで乗っかってるの?!」
「……むぅ。お兄ちゃん全然遊んでくれないんだもん」
「…そうですね、ノートさんは、最近お忙しそうですから」
「そんなチクチクしないで! 嫌味が地味にキツイ!」
「あはは、ノートしゃんアワアワしてるですぅ」
──…あぁ、いいなぁ~この感じ…ボケとツッコミがなんとも優しい感じ。
「おい、なんじゃ、あの気持ち悪い笑顔は…アレが旦那で良かったのか?」
「お、お祖母様がそれを言いますか! 勧めたのはお祖母様ですよ!」
「まぁまぁ、セーリス。貴女自身が満足していればいいんだから…ね! 昨日だってが…ムガっ」
「わーわーわー!! キャロ~!! あんた何言い出すんだ!」
「…ふぅ。いいじゃない別に。子作りの何が恥ずかしいのよ」
──プシュー…パタン
あ~あ、セーリスは真っ赤になって、またぶっ倒れちゃった…。
《マスター、そんな事を言ってる場合ではないんじゃないですか、そろそろ迎えが来ますよ》
「え? あ! やべっ…お~い、どうするんだ? もう決めないと時間がないよ」
「ん? …今日はキャロとシェリーで行って来い。儂とセーリスはこっちで二人の面倒をみる」
「え? それでいいのか?」
「いいも何もない。セーリス一人でチビ達と精霊どもをいっぺんには厳しいからの。ハカセだけ置いていけ。なにかあれば、シス経由で連絡する」
どうやらセリスは、教会の方の調査には興味がないらしく、セーリスと共に、マリーやサラ達の修行を見てくれる事になった。その直後にタイミングよく迎えが来た。
◇ ◇ ◇
《…良かったのですかセレス様》
『構わん…我が出向いた所で過去は変わらんのだ。…それに、精霊たちを鍛えてやらんといかんのも事実だしな』
「……始祖様。…そうですね、マリアーベルも精霊術を再取得出来そうです。天性なのでしょうが、精霊術より先に、あの三人の内と契約出来そうな程ですから」
そう言うセーリスたちの見守る先では、マリアーベルがいつもの三羽の精霊たちと戯れていた。
*******************************
馬車に揺られて数分で貴族街の門に着く。御者台と門番のやり取りの後、すぐ大門が開かれて、調査団の馬車列が一斉に街の路へと合流していく。先導をしている騎士の乗った馬が、行く先々で交通を遮断して俺たちの馬車が優先的に進み行くと、窓を覗いていたキャロルがあの店のアレが美味しいとか、あそこの服屋に行ってみたいと、シェリーと小声で話しているのが聞こえてきた。
考えてみれば、ここ最近皆で何も考えずに買い物したり、散歩した覚えないよなぁ…などと考えていたら、シェリーがポツリと呟いた。
「…たまにはゆっくり、したいわね」
「そうだね。皆でピクニックとか、したいね」
俺に聞こえないように小声で言ったのだろう。…でもね、そういうのに限ってよく聞こえるんだよ。
「だな。この件が終わったら、行こうよ。お弁当いっぱい作ってさ」
「え?! あ、ごめんなさ──」
「いいんですか?!」
「え? 逆になんで駄目なんだよ。俺はさ、この世界で自由に生きるって決めたんだ! せっかく可愛い奥さんが三人もいて、俺を慕ってくれるマリーやサラも居る。セリスは…まぁいいや。あれ? 俺って何気にウハウハ状態じゃん!? だからさ、行こうよ!」
「「はい!」」
その後、馬車の中では、どんな弁当を作るのかで盛り上がった中に、唐揚げがないことに後から気づいてしまった。
◇ ◇ ◇
「──…団長、今日セリス様は来られていないようでしたが、何かあったのでしょうか?」
オズモンドと二人だけでの車内で、ミスリアは気になったことを聞いてみる。
「…ふむ。聞いた話では、連れて来た娘たちの、精霊術の修行に付き合うそうです。…正直、うらやま──いや、何でもありません」
彼女はその瞬間に全てを理解してしまった。今朝、迎えに行った者の話を聞いた時、セリス様が来ないと聞いて慌てたが、修行の話を聞いて昨日の事を引きずっている訳ではないと皆が胸を撫で下ろす中、一人微妙な顔をしていたオズモンドの事を。
気持ちは分かる。出来ることなら私だって精霊王の導きがどの様なものか、知りたいし見てみたい。それはいくら財を積もうが、叶わない程に貴重な経験になるだろう。…だけど今は国の一大事になるやもしれない調査の真っ最中なのだ。彼だってその事は十二分に理解しているはず。
──子供がおもちゃを取り上げられたみたいな顔をして……。
「…団長、お気持ちは察しますが、部下の前ではご自重くださいませ。これは第二王女としての忠言です」
「──…っ! ははは。すまない、顔に出ていますか」
「はい。稚児が如く」
◇ ◇ ◇
「ふぅ、昨日は肝が潰れる思いでした。…やはり、あのお方達は、我ら人間とは世界が違うと実感しました」
辺境伯と男爵が同乗している馬車は、昨日の事があってから萎縮しきりだった。それはそうだろう。いくら高貴で青い血が流れていようとも、彼らに戦闘経験は幾ばくもない。まして、相対したのは人間ではないのだ。精霊の王と呼ばれる神と同等の力を持つ精霊の原種。もう一人などヒュームのガワだけを模した神の使わせた迷い人。下手な事をすれば国すら相手にできる力の持ち主たち…。一国の王の言葉でどうにか出来るものではないと思い知らされた。ロッテン男爵は、そんな思いを辺境伯に吐露していた。
「──…まさにその通りだな。セレス様が宣言された時、シンデリス内紛時の事を思い出してしまったよ」
「…そう言えば辺境伯様は私兵を率いて参戦なされていましたな」
「…あぁ、隣国であり友好を結んでいる国の一大事だったからな。…あのような凄惨で無慈悲な戦は二度とごめんだ」
「確かに…奴隷狩りなどと、忌々しい理由です。…それを復権させようと画策しておる馬鹿どもが、同じ国の貴族に未だに居ると思うと…憤懣やるかたない」
いつしか話題は国内への貴族同士の派閥問題へと流れていく。隣で黙って聞いていたマルクスと侍従は目を閉じ心の耳を塞いでいた。
──やがて車列は大通りを通って幾筋かを過ぎ、カデクス聖教会本部へと到着した。
「──…司祭が居ない? それはどういう事かね? 前回訪問した時に居た、代理の彼はどうした?」
「彼ならば既に地元に戻っております。彼になにか御用があったのでしょうか?」
「い、いや、そうではないが…調査はこの建物ゆえ」
「伺っております。現在ここには私達シスターしかおりませんが、ご自由にお調べください。シスターの私室に入る場合以外は、同席致しませんので、お好きにしていただいて構いません。…こちらが各部屋の鍵になります。後は簡単にですが見取り図です。では」
教会に着いてすぐ、許可証を持って男爵たちが教会の入り口に居たシスターに声を掛けて、出てきた別のシスターにそんな事を言われ、辺境伯と二人顔を見合わせた後、首をひねりながら戻って来てオズモンドさんに伝える。
「そうですか。言及されることを恐れたのでしょう…ともかくこれで堂々と調べられます。では班分けを行って行きましょう」
──オズモンドの言葉に幾つかの班が作られ、教会の中へと入っていく。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。