第31話 理由
翌日の朝、俺とシェリーセリスの三人で王女の居る迎賓館に集まる。昨日出来なかった報告をするためだったが、応接間に入った途端集まった人たちが騒がしくドタバタしていた。
「なんじゃ? 何が起きたんじゃ、おい誰か説明しろ」
「──…おお! 申し訳ございません、実は昨夜遅くに王城から、魔導通信がございまして……」
「……それがどうしたのじゃ? ここにならそんな事もあろう。ここには宮廷魔導師と王女がおるんじゃから」
「いえ、まぁそれはそうなんですが、…あ、あの今回はこちらに国王が直接いらっしゃると…──」
──…ファ──!?
その後、今ここでドタバタしても始まらんと、セリス様の一言で収め、全員で落ち着くためにメイドたちにお茶を淹れてもらった。
「……ふぅ。それで、なぜ国王がここに来るんじゃ?」
セリスがそう言うと、ロッテン男爵が一通の書類を彼女に手渡す。
「──……。ふむ…。そうか、あのときの真意を聴きたいか…」
手渡された書類を一瞥した彼女は、ふと寂しそうな表情をしながら呟くと、持っていた書類を男爵に返した。
「気持ちとしては納得した。…じゃが、理由としては弱いのぅ、これでは本音が透けて見えるぞ」
彼女はそう言いながら、辺境伯や男爵、王女たちを冷たい目で見据える。
「……先に言っておく。リビエラの件については儂らも手を貸せる。アレには儂個人も理由があるからな。悪魔種にはノートが関係しておるのでこちらも手伝えるじゃろう。それに絡んでくるであろう聖教会もな。じゃが、貴国のお家騒動については別じゃ。国王が会いたいとここに来るのは構わんが、もし儂らに命令なんぞしおったら」
──…その時は覚悟せよ。
その視線はどこまでも冷たく。拒絶の意志をまざまざと見せつけていた。
すると、それまで皆の後ろで黙っていたミスリア殿下が、セリスの前に歩み出て跪く。
「私、ミスリア・フォン・エルデンが名を以てここに宣言致します。──…その時は身命を賭して私が王を説き伏せてみせます。故にどうか、今はお収めください。」
彼女の威圧を込めた宣言にも関わらず、ミスリア王女はそう言ってセリスに奏上する。
それを聞いた辺境伯や男爵とオズモンドは、慌てて彼女の後ろに付き同じように跪き、頭を垂れて宣言する。
「「我等もミスリア殿下をお支えします。どうか、今はお赦しを」」
「…ふん、まぁ良い。別に揉めたい訳ではないからな。今はそんなことより目先の事件のほうが大事じゃ。依頼の結果報告はいるか? もう既に二人から聞いておるとは思うが」
「出来ますればお願いしたいです。リビエラについては我等は、先程の書類以外、昔話程度にしかわかりません」
彼女はそれを聞くと一つ息を吐いてから、エクスで起こった事件を始め、今回の村で起こったことについて推測を交えながらも時系列順に説明していく。その話を聞くにつれ、彼らの表情はどんどん固いものに変わっていった。
「──…で、では今回の件で現れた、あの悪魔種よりも強化された者が現れると?」
「…恐らくな。そうでない事を願うが」
「そんな…あんな化け物が何体も現れたら…この国どころか世界すら……! だから迷い人が!?」
王女がそう言って俺に期待の視線を向けるが、それを頭を振って否定する。
「申し訳ないが、俺はそんな使命を負わされていません。ただ自由に生きよ。そうイリス様に言われてこの世界に来ました」
俺の言葉がよほど衝撃的だったのか、そこに居た辺境伯たちは一様に丘に上がった魚のように口をパクパクさせて、溢れんばかりに目を見開いていた。
「まぁ、そういう理由ですので俺は勇者というわけでも、神の使者というわけでもないです。本当の意味で迷い人ですね」
その発言を聞いた四人は、言葉を失い、ただ俯いてしまう。
まぁ確かにわからなくもない。ここ最近の出来事を鑑みれば、世界がどうにかなるかもしれないと思ってしまう事が、目白押しに起きている。それもこれも皆、俺を起点としてだ。ならば俺がそれを解決していく神の使徒と考えるのは当然だ。現にもうこの世界の人間では手に負えない悪魔種や、ホムンクルスを錬成する狂人が、あろうことか手を組んでしまった。国の重責を担う者たちにとって、俺は一縷の望みそのものに見えるだろう。
だけど俺にとってはそうじゃない。まず助けたい者は決まっている。それに対して邪魔をする者は蹴散らすことに否はない。
──オフィリアを助ける。
この一点だけは譲らない。
この世界で唯一のケンジの思い出でもあり、たった一人置き去りにしてしまった大切な妹。千年もの間、俺を待ち続けるという苦しみの中でも、人を癒やし続け、この世界に存在し続けた大切な彼女を、俺は何があっても救うと決めた。
「今回の事件の首謀者たちは、俺の目標の邪魔になる連中です。だから奴らは叩きのめします。そこは心配しないでください」
俺の言葉に納得はできなかっただろう。だがそれでも今回の件については手を貸すと言ったことで、一応の納得はした様だった。
「──ありがとうございます。では、それらを踏まえた上でこれからの事についてなのですが──」
◇ ◇ ◇
「カデクス教会本部…ですか」
「──はい。お話した通り、許可はもらっています。まずは現地調査を行いたいと思っています。よろしければご同行願いたいのですが」
爆破事件を起こした実行犯が犯行直前に見たと言っていた教会…。聞けばその教会は、ここに街ができるよりも前からこの地に存在していたという。建立は五百年以上前ということらしい。相当歴史のある建物だ。それ故に暗い部分もあるのだとか。
──異端審問官の何らかの施設が地下に存在している。
そう言えばマリアーベルもあの施設から出てきたんだったっけ……? あれ? そう言えば彼女はなんで街のど真ん中に居たんだ?
「なぁセリス。ものすっごい今更な疑問なんだけど、マリアーベルってその教会から出てきたんだよね」
「…はぁ? ──…あぁ、そう言えばそうじゃったな。ゴタゴタしすぎてすっかり忘れておったわ」
「じゃぁ、そのへんの事も分かるかもしれないわね」
シェリーの言葉に俺は頷いて、オズモンドさん達に了承の返事をする。
「──…それでは明日、教会に調査に入ろうと思いますので宜しくお願いします。諸々の手配はこちらでやっておきますので、皆さんには迎えを行かせます。時間は十の刻限前後になろうかと」
「…分かりました。それまでに人員含めて、準備は済ませておきます。では今日は俺たちはこのへんで」
◇ ◇ ◇
俺たちを見送った家令が、オズモンド達の居る応接間に戻ってくる。
「皆様お戻りになられました」
それを聞いた一同は途端に大きなため息を吐くと、ソファに背中を押し付ける。
「──…ノート様の宣言を聞いたばかりの所にアレでは……確かにセリス様がお怒りになるのはごもっともな話だ」
「…えぇ、お父様の急く気持ちは理解しますが、あのような書き方をすれば……勘ぐられても致し方ありません」
送られた書類の最後の部分には、こう書かれていた。
──リビエラは我が国の大罪人である。セレス・フィリア様に処断されたと聞き及んでいたが、未だ真偽不明のまま。その真意をお伺いしたい。
それにエクスの件とカデクスの件に繋がりがあるならば、もはや国の大事になるかもしれん。自国の内情が芳しくない時にこの様な事は早急に対処せねばなん故、我自身がそちらに赴き、直接依頼する。
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