第17話 初仕事と初めての経験(値)
光がユマに浸透するように消えると同時にゆっくりと目を開けるサラ。そんな自分とサラを交互に見ていたユマが、何かに気付いたように、声を上げる。
「──痛くない…。え?」
自身の足や身体をぺたぺた触ると、突然顔をサラに向ける。
「──え? あ…あのユマちゃ──」
「あんた魔術使えるのか! すげぇじゃん!」
サラをキラキラした目で見ながら、ユマは言う。しかしサラが使ったのは魔法だ。所謂【精霊の癒し】精霊魔法の最高位魔法。だがユマにその違いは分からなかった。魔術であったとしても癒しは光属性であり治癒師にしか使えない。
だがここでサラは焦ったように、ユマに懇願する。
「ユ、ユマちゃん、この事は誰にも言わないで欲しいんだ」
「ん? なんで?」
「わ、私はほ、ほらこんなだし、よく失敗とするからあんまり知られたくないんだよ。ね、お願い」
サラは何度も自分に自信がない事や、もしこの事が周りに知られると、人前に出て何かをしないといけなくなる事が、嫌だという事をユマに話す。
「ふ~ん、そっか。勿体ないけどなぁ」
治癒師であれば教会や診療所で働けるのだ。当然、高位になれば、賃金だって高い。わざわざ、自分の宿の下働き等しなくてもいい。
だが、ユマは知らない。サラは治癒術師ではなく、精霊術師。精霊術師の癒しは超レアなのだ。
「まぁ、本人が嫌なら私は何にも言わないよ。足だって治してもらったし、何か身体も軽くなったからさ。…ほら」
彼女はそう言って立ち上がり、その場でピョンピョン跳ねたり、サラの周りをぐるりと回りこんだりする。そんな様子をサラは微笑みながら見て、良かったと伝えると、二人で声を出して笑い合っていた。
「へぇ。アイツ……確か宿屋の娘だったよな」
二人の死角となった路地裏で、その囁きは影に溶けていった。
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「──まずは、これとこれに充填頼むよ。……それには火属性を。でこいつは水属性と──」
次から次へと手渡される魔石。黙々とそれに魔力を意識して充填していく。……正に、充電器の気分。って、どんなだよ。
「ねぇねぇセリスさん。これって後どの位有るんです?」
「なんだい? もうへばったのかい?」
余りにもずっと魔石を充填させられるので、終わりが知りたくなって、聞いてみると、いじわるそうな笑みで、聞いて来る。
「いや、別にそう言う訳じゃないんですけど」
素直に疲れていないと感想を言うと、笑みは消えて引き攣りに変わった。……ドン引きするなよ。
「そ、そうなんだ。じゃぁもう二~三個はいけるかねぇ」
そう言って棚にある魔石を探すセリス。あれ、もしかして俺、やり過ぎてるのか?
──こいつぁ本物だ。私でも魔力の底が見えない。……セーリスに話を聞かないといけない…いや、アイツにか──。
結局その日、セリスさんの持つ空の魔石には、全属性の魔力が充填がされていた。
「──。」
「あ、あのぅ」
「あんた、何かの化身かい?」
「は?」
「い、いや、何でもない。これで当分の魔石は十分だしね。まぁ、またお願いするよ、今度は指名するから」
そう言って、依頼票にサインするセリスを見ていると、何故かモヤモヤする。
「なんか、釈然としないんですけど」
「なにがだい?」
「俺、化け物じみてます?」
「ぅん。ちょっと」
「嘘だと言ってよバーニィー!」
「バーニィーって誰だい!?」
サラッと普通にバケモノ認定された為、アニオタあるあるを言ってしまう。
「自重しないとまずいかなぁ」
「バーニィーどこ行った? ま、まぁいいさね。そうだねその方が良いね。普通は二~三個が限界だよ。属性も同じさ。そう言う意味でアンタは魔力の量が異常に多い、というかおかしいからね」
依頼票を俺に渡しながら、ここではそんなものは気にしないで良いとセリスさんは笑って言ってくれた。
◇ ◇ ◇
セリスの店を後にして、市場から大通へ向かう路地でマップにマーカーが点いたので、確認がてら覗いてみると、サラとユマを見つけた。
「珍しい組合せだな、お~い!サラちゃん」
「の、ノートしゃん!」
「ノート? あ、アイツ!」
二人が別々の顔でこちらを見る。一人は驚き、一人は睨むように。
「ど、どうしたんでしゅか? こんなところで」
「ん?別に。依頼で、そこの店に居たからさ。それより、珍しい組合せだね」
そう言いながら、二人の顔を見やる。
「こんにちは、お兄さん。こないだはどうも」
「ははは。怒ってるねぇ。でも、俺は悪くないよね」
「くっ、あぁ。アタシが間抜けだっただけさ」
俺がユマと話している内容に引っ掛かったのか、サラがユマに話しかける。
「ユマちゃん、ノートさんと何かあったの?」
「いや、何にも。ね、ノートお・に・い・さ・ん」
その合図に渋々、苦笑しながら頷き、二人の様子を窺う。どうやら、友達みたいだな。
「仲良いんだね」
「は、はい。少し前にお友達になったんですぅ」
「サラが飯食わせてくれたんだよ」
「そっか。じゃあ俺は行くよユマ? ちゃんだっけ。君もまたね」
──念のためこの娘にも、マーカー付けとくか。
二人のマーカーを確認し、通りを入街口へ向かう。さて次は採取に行きますか。入街口でライセンスを見せ街を出る。
「採取の森までは30分程か」
街道沿いを少し進むと、やがて林が見えてくる。そこを迂回するように街道は曲がっていたが、俺は気にせず、街道を外れてそのまま林の中へと入って行く。
「ここって、最初に降りたところからそんなに離れてないなぁ」
そんな事をブツブツ呟きながらやがて林だった場所から鬱蒼とした原生林のような森へと、周りの情景は移り変わって行く。……ガサガサと下草を分けながら進むが一向に薬草類なんて見当たらない。ってか今更ながらに重大な事に気付く。
「薬草なんてどれだか知らねぇじゃん! 俺はバカか? どうするよ、戻って調べるのか…ってそうだった」
──分類、薬草。鑑定!
頭でスキルを念じる。すると、機械音が鳴り響く。ピピピピイ!
「うひゃっ!」
マップに出るわ出るわ薬草類。そうだったよ、俺には鑑定って言うビッグデータの恩恵が詰まったグー〇ル先生が居るんだった。
へぇ。これってヨモギじゃん。あ、これはアロエだ! ふ~ん、そうか。こっちではマナがあるから薬効成分がそのまま薬草扱いになるんだ。
地球でお馴染みの野草や見たこともない草を間引きしながら採取して行く事小1時間ほど。
「ずっと中腰だってのに痛くねぇ。なんか変な感じ──」
そんな事を呟いていると、耳に音が聞こえ、マップに赤マーカーが点った。とうとう来たか。
ソイツはさっきからずっと機会を伺っていた。
身を低くし、風上から、音を立てないように息を殺して伸び放題の下草に紛れ込んで、ずっとチャンスを待っていた。
突然獲物の動きが止まった。体を伸ばす様に上体を起こした。気を抜いているな、周りを警戒する素振りすら見せない。…今だ!
一足飛びに飛び上がりぞろりと並んだ牙を剥いた。
「ガアッ!」
ガブッ! …よし!喰らい付いた!このまま嚙み切って内臓を…?
「こいつがブッシュウルフか」
──へ?
「すまんね。この体に傷は付かないんだよ。悪いんだけど最初の経験値になってね。…ウインドカッター」
バズッ!
うえぇ、血生臭ぁ。ナンマンダブナンマンダブ…。
ふぅ。正直もっとくるものがあると思ったんだが。足元に転がるそれを見ながら思う。攻撃される瞬間も冷静だったし、俺の精神、何か変わったのか?
スキルの文字化けか、ん~有り得る。身体自体こんなだしな、もしかしてこれがテンプレの鈍感系って奴か、よしきた、主人公フラグ!……そんな感じで一人納得して、そこから三体同じ魔獣を狩っていった。
「ん~、あと一つなんだけどなぁ。この辺にはもういないな」
マップを見るが、周辺にそれらしきものは見当たらない。
「時間的なものもあるし、今日は戻るか」
森の隙間から覗く日を見ながら、街へと向けて歩き出す。行きと同じ様な帰り道で戻ると、全く何もなく戻れた。
入口でカードを魔導器に通し門を抜ける。
「はぁ。無事帰還っと」
「お、無事に戻ったのか」
「ふぇ?」
振り向くと、カークマン隊長が居た。
「ん? あぁ、門の記録名簿にお前の名が有ったからな。冒険者カードで記録されてたから、クエストに行ったと思ったんだが、違ったか?」
うは、其処まで分かるんだぁ。異世界こわー。ってか、おかんか。
「はぃ。無事に戻りました」
「そうか。無事で何よりだ。まぁ、お前ならあの俊足で何とでもなりそうだがな」
肩をポンと叩くと笑いながら隊長は詰所へ戻っていった。色んな意味で気にしてくれてたんだな。いい人だ。
少しほっこりした気分で宿へ足を向けた。
「ただい──」
「ノートしゃん!」
「うぉっ」
丁度、鳩尾辺りへのダイブに言葉が詰まる。痛みはないが吃驚して声が出た。
「お、お帰りなしゃいですぅ」
「あ、あぁただいま」
鼻をぶつけたのか、顔を抑えながらサラが出迎えてくれた。
「あ、あの、ノートさん、ユマちゃんとの事…お母さんには」
「あ?あぁ言わないよ。」
そう告げると彼女はありがとですぅと頭を下げて部屋のカギを渡してくる。
「どういたしまして。鍵ありがと」
そう言って階段を上りかけた時、サラが声をかけてきた。
「あの! お時間ありますか?」
──やだなにそれコワいです。…え、フラグなの、それとも事案なの?
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