第28話 進化
”ブゥゥゥウン!”
拠点内に張られた転移陣が輝いた次の瞬間、その場に蹲ったゲールの姿が現れた。上半身の左半分を失い、左足も膝から下をほぼ溶かされて立って居る事はもう出来なかった。
「──…おい! ゲール! クッソダリぃな! ネヴィル! ゲールが戻ったがヤベェ! リビエラを呼んでくれ!」
「なんだ? どうし──! リビエラ! ゲールが! すぐ来てくれ!」
「──…クフフ……まさか忌避感もなく、戦略兵器を使うとは…いや、この場合は戦術…ハハ、どうでもいい事だな。……しかし、考えを改めんと不味いな」
「おやおやおや、コレはまた手酷くやられましたね、タネ。【極炎】でも喰らいましたか、シタカ」
「……あぁ、似た様な物だ。使ったのは彼女ではないがな」
「──…ほう。セレスさん以外が、神級魔術を?」
「いや、違うが…今はいい。核が融解してしまった、予備の肉体は準備できているか?」
「とりあえずのモノなら有りますよ。先ずはそちらに移してから詳しく聞きましょうかね」
「あぁ。少し、計画の修正も必要になったからな」
そう言ったゲールを、ネヴィルとベイルズが担架のような台に乗せると、二人はそのまま別室に彼を搬送していった。
──…神代の術を使える勇者ですか。……クフフ、是非研究してみたいですねぇ…。
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カデクスの門を潜る頃には既に日は落ち、通りを走る馬車はほとんど見なくなっていた。相変わらず門番は魔導車を見てあんぐりと口を開けていたが、窓からオズモンドが顔を覗かせると慌てて口を閉ざして門を開けてくれた。
「──…やはり、この魔導車の外観は相当違いますからねぇ」
「…そうですね。見た目は鉄の塊に、車輪がついていますから」
後部座席で達観した様な表情で話す、王女とオズモンドを敢えてスルーしたまま、ゆっくりと男爵の屋敷までの路を走らせた。
◇ ◇ ◇
「──…お帰りなさいませ」
屋敷に戻り、魔導車から降車すると家令さんと侍従の人達が出迎えてくれる。そのまま全員の降車を確認して異界庫に車を仕舞うと、家令さんの先導で本邸の応接間へと案内された。
「──ご無事で何よりです。まずはこちらでごゆるりとお過ごしください、主がすぐに参ります」
そう言って家令さんが部屋を後にすると、メイドさん達がソファに掛けた俺達にお茶を並べていく。
「……お師様、不味い状況とは一体どうゆう事なのでしょうか? リビエラと言う者の名を聞きましたが、それが関係しているのでしょうか」
オズモンドは、俺達がゲールとの一件以来、殆ど話さずに調査を終え、ここに戻るまで全く内容を言わなかった事に、我慢できなくなったのだろう。
『──…リア坊、済まんが話は明日にしてくれ』
しかし返ってきた言葉は否だった。そこへタイミングを計ったように二人の男が入ってきた。男爵と辺境拍だ。
「…皆さま、急な調査依頼、誠にありがとうございました。今日はお疲れでしょう、食事が出来ております。話などは明日以降で構いません。さぁ、どうぞ」
──…セレス様、かなり不安定になってるな。
◇ ◇ ◇
「──ロッテン男爵様。申し訳ないが魔導通信をさせて頂いてもよろしいか?」
我慢比べのような食事会の後、オズモンドはそう言って男爵に切り出す。了承を取り付けた後、彼は王女に話を振る。
「ミスリア殿下、申し訳ないが先ほどの事は私が戻るまで他言なさらぬようお願いします。私はこれより陛下と話してきますので」
その言葉を聞いた王女は頷き、辺境伯たちは顔を引き攣らせた。
「──…こちらです」
侍従に案内された個室で、魔導具を作動させて防音結界を張ってから、通信機の電源を入れて直接回線をつなぐ。暫くして通信が繋がると、特殊紋入りの書類を転送して、通信内容を符丁にて送る。
「陛下……ともすれば此度の件、世界を巻き込むことになるやも知れません」
小さく呟いたオズモンドの言葉は、既に切れた通信機に向かっていた。
◇ ◇ ◇
「あ! ノートしゃんおかえりぃぃい?!」
”ドテン!” “フギャ!”
「あはは! サラお姉ちゃん大丈夫ぅ? お兄ちゃんおかえりぃ!」
俺達が宿泊している迎賓館のリビングに入ると、元気な声といつものズッコケが出迎えてくれた。
「あぁ、ただいま。サラちゃん大丈夫? 鼻ぶつけてたけど…」
「いひゃいでふぅ!」
何もない床でつんのめった彼女はスライディングお出迎えと言う新技を披露してくれたが、わざとではなかった様で、ぶつけた鼻を抑えながら涙目で痛いと訴えてきた。
《…もう、相変わらずなんだから…はい》
サラの頭に乗っていたクロちゃんがサッと鼻に触れると真っ赤になっていた鼻はすぐに元に戻り、痛みが消えたようでビックリしているサラ。
「はへ?」
ん? なんでビックリしているんだ? と思った瞬間、セーリスとセレスが素っ頓狂な声を出す。
「「…勝手に治したぁ!!」」
「うお! なんだ?」
「…の、ノートさん…せ、精霊が勝手に…」
いつの間にか側に来ていたキャロが変な事を言うので、振り返ると周りに居た皆が驚愕の表情でクロを眺めていた。何故かシロも慄いていた。
《…マスター、精霊は自由意志で魔法の行使を行えません》
──…ファ?
◇ ◇ ◇
『……こ、こ奴、やはり格が進化しておる』
リビングのソファに皆で集まり、セレス様がサラの頭上に居るクロを看破した結果、精霊としての格が進化しているという事が分かった。精霊とは元々自然に存在する力そのものであり、それらの意思が何時しか固定して集まった集合体の様なモノ。なので魔法をソレ単独で行使する事は出来ない。もしそんな事が出来れば、世界は目茶苦茶になるからだ。故に精霊は精霊術者から魔力を分けて貰ってその願いに応じてしか魔法の行使は出来ないようになっているし、それが摂理として働いている。
そんな精霊にも例外は存在している。
それが上位の精霊たち。セレス様がその代表格なのだが、例えば俺と契約しているハカセもそんな上位の精霊だ。彼らは言わば精霊を監理出来る存在であり、唯一自由意志によって魔法の行使ができるのだ。
「…でもなんでクロちゃんがそんな急に、上位に格が進化したりしたの?」
『──…クロよ、お主今も供給を制限しているのか?』
《…ううん、してないよ。ただ、シロがばかすか食べてるから制限してるだけ》
《我だったのかぁぁぁぁぁああ》
シロはそう言いながら、フラフラと宙を漂った後、ぺしょっとソファの端に落ちて涙を流していた。…ってかシロよ、ばかすか食うってなんだよお前…。
『……な、なるほど。既に管理をしておったのか…それでそのまま進化してしまったのか』
「なぁ、進化するとまずいのか?」
『…いや、不味くは無い。と言うか逆にサラにとってはプラスになるぞ。魔力は増えるし、魔法の範囲も大きくなる』
「じゃあ、問題ないじゃん」
『……いや、サラの場合はシロも居るからな。アレにも頑張ってもらわねばならんな。でないとシロは何時しかクロに吸収されてしまう』
その言葉を聞いた瞬間、シロは絶叫しながらクロに吸収しないでくださいと懇願していた。…頑張れシロ。
「セリスねえ、シロちゃんに何を頑張らせるの?」
シロの頭をいい子いい子していたマリーがそう言ってセレスに尋ねると、彼女はにっこり笑って言い放つ。
『まずは魔力供給の制限と魔法行使制御の向上だな』
──…シロはそのままくにゃっと倒れた。……そして、さっきまでの張りつめたセレスの顔は、いつもの綺麗な顔に戻っていた。
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