第25話 再会の男
「──…なんだと! どこだ? どこの村だ!」
息せき切って入ってきた侍従に向かって慌てたロッテン男爵が、詰め寄って怒鳴る様に叫ぶ。それを見て取った辺境伯が落ち着けと男爵を諫める。
「──…それで、現場は何処になるのだ? 開拓村ならば元騎士団の連中が詰めているはずだ」
「はい、…そ、それがこの街から南東部に有る、最東端の開拓村を含んだ集落のコロニーでして」
「…おい、地図をここに持ってきてくれ」
侍従に聞いた話では場所が分らなかった為、マルクスさんに地図の手配を頼む。いったん部屋を出て行った彼が戻ると大きな筒形に丸めた装丁付きのモノを持って来た。それを掲示板に金具を使って引っ掛けると掲示板を覆うよな大きな地図が現れた。
広げられた地図は古い物だった。地図のほぼ中心部にカデクスが有り、そこを取り囲むように大小さまざまな町や村が書かれていたり消されたりしていた。
「…フム、懐かしいモノだな…。君、その開拓村のコロニーは何処かね?」
「は、はい……えぇ、とこちらです。ここに三年前に作られた開拓村が御座います」
彼が指差した部分は成る程、カデクスよりも右下方向に行った場所に線を繋いでいくような形で小さく村が描かれていた。最東端部は森と同化していて、開拓の意味が理解できた。
「──…縮尺定規を」
辺境伯の言葉にマルクスさんが手に持っていた定規を手渡すと、その定規をカデクスを起点にして村へとあててみる。
「……直線距離で四十キロ程度…か」
そう言って彼は定規をマルクスに渡し、何やら考え込み始める。それを見ていた男爵が辺境伯に質問をする。
「…辺境伯様、ここからですと魔導車を急がせても半日は掛かります。衛兵を向かわせたとしてもあそこに居るのは重犯罪者たちです。万が一それらが決起したのだとすれば…衛兵では太刀打ちできません。冒険者に依頼したとして──…!!」
男爵が其処まで言った途端、なぜか王女やオズモンドさんと辺境伯たちが一斉に俺達に視線を向ける。
「「…ここに居たぁ!」」
──…ですよねぇ。僕らは殺戮者ですからねぇ~。
◇ ◇ ◇
やはりと言うか、当然と言うか……辺境伯と男爵が嬉々として俺達に依頼として頼んできた。まずは調査して欲しい…そして敵対勢力が確認された場合は制圧もしくは討伐を依頼するとの事だった。
まぁ、別段断る理由もなかったのも有るが、何よりセリスが煩かったのもあって、依頼を受けた。地図や場所の細かい事をどうするかと聞いて来た時にはシスが地図は既にスキャン済みだったのと、セリスとシェリーがゴーレムを先行させるので問題ないと言った。
そうして現在、異界庫から出した魔導車で移動しているのだが。
「──…コレが、噂の新機構ですか…なんと静かな…しかも乗り心地が…屋敷のソファと変わりません……」
「…う~む。コレは確かに国家で躍起になるのも道理だ…」
「…あ、あのぅ…本当に宜しいのですか?」
「「勿論です! 我らの事はお気になさらず!」」
いやいやいや…んな訳に行くかよ。
そうなのだ、あろう事か、現在オズモンドさんとミスリア殿下が後部座席に座っているのだ。その為に前の座席にはシェリーとセリスが窮屈そうに座っていた。キャロルとセーリスは今回お留守番である。屋敷にはちび達を残して来ているためだ。もちろん念話で繋がっているので問題はないが。
そんな状態で俺達は今、最初の開拓村へ向かって車を走らせていた。車速は時速で五十キロ程度。幾ら街道とは言え、舗装の無い地道だ。馬車の轍や土の抉れたギャップなど、決してコンディションが良いとは言えない道を、魔導車はその起伏を全く車内に伝える事無く、走破していく。
「こんなスピードが出ているのにも関わらず、全く揺れないとはどうなっているのだ?」
「…やはり何としてもコレは欲しいですね。お父様に技術者を……」
なにやら不穏な事を言い出した王女様の声を遮断して前方に先行させているゴーレムの情報を二人から聞く事にする。
「セリス、シェリー、ゴーレムたちは何処まで行ったの?」
「…む? 儂のは前方三百におるが特におかしなものは見たらんぞ」
「…私のは先行してもうすぐ、最初の村が見えて来るころ──…! 見えたわ! …え?! なにこれ?」
その言葉に車をいったん停車させる。
「何か分かったの?」
俺の言葉に後部座席の二人もこちらに身を乗り出さんばかりに寄って来る。
「…ちょっと待って。……ねぇ、この村って放棄された村じゃないわよね」
《はい。データ上では現在進行中の開拓村です》
シェリーの質問に答えたのはシスだった。
「なに? どうしたの?」
「無いのよ…村が…いえ、痕跡は有るのよ。残骸だけど…まさか、魔獣の氾濫でも有ったの? でもそれにしては周りの木々が荒らされていないし…」
「と、とにかく向かって見ましょう。周りの状況を見れば手掛かりがあるかもしれません」
オズモンドさんの言葉に俺も納得し、シスに上空からの監視を頼んで車を走らせた。
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「──…ん? おい! ゲール、ベイルズ! 何かが最初に潰した村に向かっているぞ」
「はぁ? 何だよなにかって。だりぃ言い方するなよ、わかんねぇぞ」
ネヴィルの言葉にベイルズが返答をしていると、ゲールが素材を異界鞄に詰めながらにやりと笑う。
「向こうから来てくれるとはな……。おい! 二人は素材を持って拠点に戻れ! それは俺が相手をする」
「…何が来るか分かるのか?」
「あぁ…わかる。何しろ今一番会いたいと思っていた相手だからな」
「…ノートか?!」
「クソったれ…あのガキにゃぁ俺も借りがあるってのによう」
「ふふ、大丈夫だ。終わらせはしない、挨拶だけだ。それが終われば俺も転移陣で飛ぶ」
「絶対だぞ! さっきみたいに、ついってのは無しだからな」
「………分った。 俺達は先に戻る」
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到着した村はシェリーの言った通りだった。幾つか建っていたと思しき小屋は悉く破壊され、唯一のコンクリート造の駐屯所までが無残な姿を晒していた。しかし妙な事にそこには誰もいなかった。襲われたとか戦闘があったような痕跡がなく、何カ所かで何かを燃やしたような焦げ跡だけが見つかった。
「──…何だ? これは一体どうゆう事なんだ…」
現場を見て回っているオズモンドが焦げ跡を見ながらそんな事を呟き、後を付いていたミスリアが駐屯所を覗こうとした時だった。
《マスター! マップ展開を! 敵勢反応! 数は一! マーカーは赤! これは!!》
──…クラウン!!
「セリス! シェリーと一緒に王女とオズモンドさんを! ステルスを張れ! 今すぐだ!」
「「了解!」」
彼女たちは即座に対応し、二人を確保に走り出す。俺は魔導車を異界庫に入れ、マップを展開して、高速で近づく赤のマーカーを見る。それはものすごいスピードでこちらに向かってまるで飛んでいるような速度で接近してきた。
武装を整え、ガントレットを嵌めた瞬間、それは上空から俺めがけて降下してきた。それをバックステップで飛び退って避ける。
”ズドォォォォオオン!”
まるで落雷が直撃した様な轟音が辺り一面に響き渡る。その瞬間まで俺が立って居た場所は爆散し濛々と土埃が舞い上がり、辺り一面を茶色一色に変えていく。地面が陥没しひび割れが発生して直径十メートルほどのクレーターが出来上がった。そして煙の中に一人の大柄な男の影が立ち上がるのが見える。
──…久方ぶりだな、忘却の勇者よ。
前に出会った時とは全く異なる奴が嗤いながら立って居た。
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