第22話 ホムンクルス
応接間には既に王女を始めオズモンドさんや、辺境伯と男爵等と言った主要メンバーに加えて、壁際に近衛騎士やマルクスさんなどが兵装を着込んで物々しい雰囲気になっていた。
「──…フン、えらい出迎えじゃのう…怖気づいたのか? それとも──」
「いえ! 決して敵対などは考えておりません! …正直、恐ろしいと思っております。どうかご容赦を」
部屋の雰囲気を見て、セリスさんが挑発気味に話す。すると慌てて辺境伯がとりなす様に心情を吐露してきた。
…まぁ、さっきの事を考えれば、仕方ないだろうとも思う。ここに居るのは一国の王女様や、宮廷魔導士だ。万が一なんて事が起こってはいけない人間たち。守りを固めて当然だろう。
「セリスさん…構いませんよ。国の重要人物がいらっしゃる場なんですから、気にしません。それよりもさっさと話を進めましょう」
「……まぁ、本人が言うなら構わんが。最も、ここの連中でどうにか出来るとも思えんしの」
彼女の言葉に壁際が一層ピリ付いたが、特段気にする事もなく全員がソファに座った。
「ンンッ…で、では始めましょうか。資料をお願いします」
ロッテン男爵の仕切りでメイドがお茶を、侍従が何やら掲示板のようなボードを全員の見える位置に設置した。そこには時系列順に紙が貼られてあり、追加したり変更し易い様に項目ごとに分けられていた。その横にロッテン男爵が立ち、紙や筆記具などが載ったワゴンを家令さんが持って来た。
「えぇ、それでは議事進行は私が行います、追加があれば逐一こちらで書き足していきますのでどんどん仰ってください」
そうして彼は手元にある資料を見ながら、説明を始めた──。
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「──…これで、完成ですね、デスネ」
廃村の役所の地下ではリビエラが何やら寝台の上に乗ったモノに向かって、ぶつぶつ言いながら作業をしていた。
ソレはどう見ても大柄な人間だった。身長は二メートルを超えた程度、筋骨は隆々としており、見るからに雄々しい体格をしていた。その胸の中心部に、拳大の魔石を置くとその部分が口の様にパカリと開く。歯や牙などは見当たらないが、内側は口腔を思わせる形になっており、奥から触手のような血管が伸びて来て、魔石に取り付く。その血管のような触手が脈動しながら、ずるりと魔石を胸中深くに引きずり込んでいく。その口が閉じて暫くすると、肉体全体がびくりと反応し、四肢が一瞬痙攣する。
「──さぁゲールさん。お目覚めの時間ですよぉ、デスヨ」
「おい、いよいよみたいだぜ」
「──…あぁ、分かっている」
同じく地下室の入り口付近にいたベイルズとネヴィルが寝台に注目していた。
リビエラが、寝台に寝かされた者の頭部付近に移動すると、そこには魔道具が設置されている。そこからコードの束が伸び、寝台にある男の頭部に幾つもの針と一緒に刺さっていた。その魔道具を起動させたリビエラがにやりと口をゆがめて言った。
「さぁ! 我が最高の合成強化体にして、世界の異端者である悪魔! 傲慢の悪魔ルシフェルよ! 今一度この肉体を使い世界に顕現せよ!」
いつもの様にフレーズを連呼することなく言い切ると、彼は魔道具のスイッチを入れる。瞬時に起動した魔道具は低い唸り声のような音をさせる。装置の上部が発光し始めると同時にホムンクルスが身体全体を震わせ、痙攣し始めた。特に顔の部分が激しく動き、閉じた瞼の裏側で眼球が激しく動いているのが見て取れた。
やがて魔道具の唸る音が静まると同時に光も収まり、身体の痙攣も収まった。リビエラはそれを確認すると、何も言わずにコード類を引き抜いて行く。
「──…ん? なんだ? 動かねぇぞ。失敗か?」
ベイルズが何も起こらないのを不審に思った瞬間に、変化は起きた。
「…臓器の音がこんなにも煩いとはな……これが新しい器か」
寝台の男がゆっくりとした口調でその低い声を震わせた。
「あぁ、まだ動いてはダメです。魂魄が定着するまで少し時間が掛かりますからね、カラネ」
「…ん? あぁ、身体の感覚がおかしいのはそのためか」
そんな二人のやり取りを聞きながら寝台に近づいて行くベイルズ達。
「……よぉ、身体が戻った気分はどうだい?」
「ん? あぁ、ベイルズか…まだ馴染んでないので何とも言えんな」
「…そうか。…それで、俺達の身体はどうなるんだ?」
ベイルズの質問に答えたゲールに、ネヴィルが横から違った質問を始める。
「…あぁ、その件についてはリビエラと決めてある。肉体自体の生成にはもっと人間が必要だ。種族が違えば尚いい。その特性を取り込めるからな」
「ですねぇ、だからそう言った意味でもこの国は大変宜しい! 差別がないので多種族がいますから、カラ」
「どうするんだ?」
「先ずはこの拠点を中心に素材集めだな。一度に大人数は流石に不味い。集落も二つほど潰したのだろう? これからは慎重に行う。俺は一度カデクスに向かう」
「ん? 何故だ?」
──…ノートに挨拶をしないとな。
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「──以上が現在判明している事実と、我らが考察している案ですが、何か意見などはおありでしょうか?」
ロッテン男爵が一通りの時系列と考察を述べた後、俺達に向かって意見を求めてくる。
事件のあらましは、評議会の会議に潜り込んでいた賊が、何らかの意図をもって評議員らを爆発術式で虐殺。賊自身は現在も逃亡中で、目下捜索を行ってはいるが、人相が余りにもありふれている為特定が難しく、難航しているとの事。またそれに付随して調べた所によると冒険者ギルドのマスターがそのマスタールームで殺害されていた。
「──…そう言えば、冒険者ギルドのマスター達が行方不明になったりとかが、多くないですか?」
「あぁ、その件ですね。そちらについては、エリーさん…よろしいですか」
「はい。その件についてなのですが、私達が調べた所、商業連邦の闇ギルドが関係しているようです。…ノート様、エクスで行った錬金ギルドの新作登録の件を覚えていらっしゃいますか?」
「え…あぁ、マスターが不正をして捕まったとかいうあれですか?」
「はい。ノート様が提出されたレシーバー、新型魔導車の機構云々。あれらは全て革命と言っていい程の発明でした。その情報は既に各国で検証、試作が行われておりますが、未だ完全な物は出来ておりません。そこで業を煮やした連邦の一部の人間が技術そのものを手に入れようと画策したのです。裏から手を回し、冒険者ギルドに彼の国の息のかかった人間をギルドマスターや受付嬢として派遣し、ノート様から直接聞きこみをかける予定だった模様です。ただ、その際何処からか情報が漏れたのでしょう。そこを聖教会に知られ、あのバケモノ達とすり替わっていた様なのです」
「え? じゃあ、聖教会があの悪魔種と繋がっているんですか?」
「いえ。──…教皇自身が繋がっているという意味です。故に先ほどお話したようにヒストリア教皇国との繋がりが浮上したのです」
…なるほど。それで俺達が行く先々の冒険者ギルドのマスター達がおかしかったって訳か。そこまで考えてふと思い出す。俺は異界庫に保管したままの遺体がある事に。
「──…あぁ、そう言えばレストリアのギルマスだったマーカスとテレジアだっけ?その二人の遺体持ってるんだよね」
「「「──…は?」」」
あは、アハハハ……。やっぱ、そう言う顔になるよね。
俺以外の人間が皆、ポカンとした表情でこちらを見ていた。
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