第20話 こんがらがって聞いた名は
「──…何だと?! 影が捕縛された? いつだ? その報告は何時のものだ?!」
「…は! …先程魔導通信にて入ってきた最新のものです」
「ええい! そうではない! 捕縛されたのが何時だと聞いておる!」
「──…あ、は! えぇと…捕縛されたのは…二日前、エクスの街にて屋敷を襲撃とのことです」
それを聞いた、帝国宰相ルクス・ド・ハイデマンは即座に頭を回転させる。影が捕縛された? どうやってだ? いやいやそんな事より、何故自害していない? 彼らは、特殊な紋が入れ墨として彫られている。万が一敵に捕縛された場合、魔力を流せば自爆できるはずなのに……。──まさか、その事すら封印されたのか?!
ここ最近の失態続きのせいで彼の思考はかなりマイナス方向へと傾いていた為、悪い方へと考えが流されていく。そんな悲壮な考えのせいで表情は既に大変な事になっていたが、報告者はそこへ容赦のないとどめを刺しに来た。
「──…さ、宰相閣下…」
「何だ?! まだ何かあるのか!」
「…じ、実は、捕縛された影のなかに居ないものがおりまして」
「……どうゆう事だ? 逃げおおせたのか」
「それが…計画実行前に逃亡したらしいのです」
「───…!? はぁ? …だ、誰だ、誰が逃げたのだ」
「……報告によりますと、影の【獣使い】と…傭兵の冒険者が連れ立って襲撃前に姿をくらませたそうです」
その言葉を聞いた瞬間彼の心臓はあり得ないほどの音が響いた気がした。
──傭兵だと……。それは一体どうゆう……。
「失礼します! 宰相閣下。…皇帝陛下がお呼びです」
◇ ◇ ◇
「──…宰相閣下、お越しになりました」
皇帝陛下の呼び出しと聞き、取る物も取りあえず使いの者について行くと、普段の謁見室ではなく陛下の使う執務室へと案内された。使いがノックし、返答の後、部屋に入るとそこには先客がいた。
「ルクス・ド・ハイデマン、お呼びと聞き、罷り越しました」
部屋の中央まで進んでそう言うと、その場で彼は跪く。俯いた視線で先客の足元をそっと見やれば、そこに居る者の見当が付いた。
「……面を上げよ。ここは我の私室…魔道具は既に機能して居る」
「──…は!」
そう言って立ち上がると、目の前で机に両肘をつき、頭を支えるような姿勢で、この国の最高権力者カルロス・ド・ハイドンⅧ世が大きくため息を吐いていた。
「──…貴様も報告は聞いているな」
俯いた姿勢で鋭い眼光と眉端を持ち上げこちらを見上げて来る皇帝に、何をなどとは聞けるはずもなく、当然先ほどの事と思い付いて端的に首肯する。
「…だそうだ、マキャベルリ公。…傭兵は確か教皇国からだったか?」
「は!…アルフレヒド枢機卿からの紹介です」
その話を聞いたルクスは頭にクエスチョンマークが並んだ。傭兵…あの冒険者は自分が推薦して影と行動を共にさせたはず。アレは確かに聖教会の教皇からの紹介だった。
「お、お待ちください陛下。…あの冒険者は私が聖教会の教皇から直接──」
「使いの密書を通じて紹介されたのだろう。──…その使いが教皇国だったのだ。こ奴に調べさせた」
「な!? そ、それは一体どうゆう事なのでしょ…──まさか! あれらは繋がっているのですか?!」
「──…いえ、宰相閣下。そうではなく…」
───…聖教会の教皇は初めからヒストリア教皇国の人間です──。
***************************
……ねぇ、このお姉ちゃんまだねんねしてるの? マリーちゃん、ダメですよ……。
…ノート……では……かのう。 …いや、……だか……。
───…何の声? さっきから騒がしいわね…私はまだねむ…!
「──…は! ここは?!」
「あ、ジーゼ! お姉ちゃん起きたよ~」
「あ、マリーちゃん! 危ないですぅ…うひゃぁ!」
気付くと私はソファに寝かされていた。さっきまで誰かが近くで話していたような気がしたのだけれど、周りを見ても子供と女性? が走って行く後ろ姿が見えただけ。気怠さと少しの悪寒が残る身体を起こすと、直ぐに先ほどの出来事を思い出した。
「──…あぁ、私は怒らせてしまったんだ」
「いえ、怒ってはいませんよ」
その発言で初めて俺を認識した彼女は、ソファから転げ落ち、その場で土下座をして謝り出した。
「さ、さっきは取り乱してしまい、申し訳ございませんでした! どうか! どうかお許しくださいます様! 伏してお詫び申し上げますぅ!」
まくし立てる様に一気にそこまで言うと、彼女はその場で床におでこをこすりつけ、小さくなって震えていた。
「あぁ、もう。だから怒ってなんかいませんて。さっきはいきなりだったんでこっちも感情が抑えられなかったんです。それについては謝りますから、顔を上げて下さい」
「──…それで。どう言った理由でこの街に?」
彼女を何とか落ち着かせて床からソファに戻すと、皆が部屋に戻ってきて、キャロがお茶を淹れてくれる。シェリーが質問をしていたが、マリーとサラはジゼルと一緒に部屋の反対側で、精霊を呼びだしてキャッキャッ、キャッキャッと言っていた。…あ、ハカセと居たあの三人組じゃねぇか。
「…こらノート。よそ見をするでない」
何故か、セーリスとセリスに挟まれて、エリーさんの対面に座らされていた。
彼女の言い分はこうだった。
俺達を村で見送った後、大きな作戦が入り、急遽部隊が集められた。勿論要請は聖女様からで、聞けば討伐任務だと聞いた。【レストリアの町に潜伏していると思しき異形を討伐せよ】調べた結果、その冒険者ギルドに居たギルマスと受付嬢がヒュームに擬態した異形と判明。名をマーカスとテレジアと確認。
両名を何とか作戦場所におびき出す事に成功した我等は、聖女様から賜った特殊兵装【次元マドウ具】にて、特殊結界を発動し、これらを殲滅する事に成功した。しかし代償も大きく、部隊員の半数以上が負傷、残った者たちの殆ども魔力枯渇状態になったっため、作戦の一時立て直しを図る事となった。特殊兵装については深刻で、既に修復不可能な状態にまで破損していた。
その後一度エリシアの村で静養していたが、カデクスの事件が同じ異形の犯行と分かり、別動隊の調査で、教皇が絡んでいることが判明。悪魔と名乗るその異形はどうやら彼の手引きによってヒストリアから流れてきたことまで調べが付いた。
「──…ちょっと待って! え? じゃぁ、教皇は、ヒストリア教皇国と繋がっているって事?!」
「…そこまでの確証はまだ…。ですが、悪魔種と呼ばれるバケモノ達はどうやら、ヒストリアの北、絶壁連山の向こうから現れたとの線が最も濃厚らしいのです。彼等自身に実体は無いのですが、条件を満たせば本来の姿を見せる事も可能なようで…」
そこまで聞いて思い出す、自分の記憶の齟齬の部分。俺の記憶には確かに悪魔が存在している。──…北の魔国と呼ばれる地域。還らずの森を超え、絶壁連山の向こうにあると言われる異界の国…。なぜ、天上の神が見れないのか? 不思議でたまらないが、分からないと言う以上、聞いた所で意味は無い。
それにしても、と考える。もし悪魔と言う存在がこの世界に居たとして、何故その存在が今まで出て来なかったんだ? 邪神の時代は知らないが、それ以降の歴史でそんなバケモノの話は知らないし、皆も聞いた事が無いと言っていた。それに悪魔と言えば地球の人間が作った想像上の怪物たちだ。一説には神の変じた姿とも言われている。言わば混沌の象徴……。それらが何故今この世界に…。まさかとは思うが……俺、が関係しているのか?
「──…ですから、教皇がその様なバケモノ達と関りがあると判った以上、このままでは聖女様の身に何が起こるか分かりません。故にノート様にお縋りしたく、お願いに参りました」
彼女の悲壮な訴えに嘘は無いのだろう。皆がそう思い納得しそうになった時、セリスが一言挟んできた。
「──…なぜお前はあの時、こ奴を勇者と呼んだのじゃ?」
そこは皆も俺も気になった事だ。こうなった原因でもあるし、そう言われたエリーは真っすぐ俺を見て言った。
───…オフィリア様に聞いたからです。マリアーベルを救ったのは勇者ノート様であると。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。