第16話 初めてのお使い(クエスト)
マスタールームを出て、受付の在る部屋へ戻ってみるとキャロルさんは行列を捌いていた。やっぱり朝の冒険者ギルドってこれだよね~。朝一に張り出される依頼票を巡っての攻防戦…そして看板受付嬢への行列!うんうん、これぞテンプレ!ファンタズィー!!
…ポケェと見てても、しゃあない。他の依頼票でも見て時間を…。
「おう!ノート!早速依頼受けに来たのか?」
ン?ぁ。アマゾネ…じゃなかった。
「おはようございます。アマンダさん」
「お!名前覚えてくれてたんだ!嬉しいねぇ。んで、決まったのかい?」
彼女は俺が名前で呼んだのが嬉しかったのか、ニコニコしながら寄ってきた。
「決めたというか、決まってたですね~。初心者用の常時依頼です」
「あぁ。お使いクエか。アタイらも昔はやったなぁ・・」
「あぁ、やったなぁ」
といつの間にやら周りに居た連中も一緒になって遠い目をする。
いや、常時依頼だからね。アンタ達だって何時やっても良いんだよコレ。
「ま、ルーキーなら誰もが通る道だ。頑張りなよ」
フッと、カッコつけて肩をぽんと叩いて行くオッサン…だから常時はやれよ。何カッコつけてんだよ。なんか釈然としない気持ちになっていると列が捌けて来ていたのでキャロルさんの元へ向かう。
「はい。次の方。あ!ノートさん。おはよう御座います」
朝のごった返したギルドの喧騒の中に在って、綺麗なお顔と可愛い声。はぁ…。癒やされるぅ。そして耳がピコピコ、かわええなぁ──。
「どうしました?」
「は!いえ!受注確認、お願いします」
「はい。カードと依頼票をお願いします。あ、常時受け付けのこれは記録されません。何時でも持ってきてくだされば処理しますので。えぇと、はい。セリス様の依頼ですね。受注しました、初依頼がんばってくださいね」
──くぅ・笑顔がまぶすぃ!
「頑張ります!あ、それとですね。書架について教えていただきたいんですけど」
「はい。書架は2階に有りますよ。他になにか?」
「実は──」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの階段を上り、通路を進むと途中から明らかに作りが変わる。あぁ、ここで元の会館と繋がっているんだと思いながら、されに進むと 通路の先にはまた、小さなカウンターが在った。
「あの、すみません」
声を掛けると書類を見ていたピッチリ七・三分けの神経質そうな男が顔を上げる。
「何か?」
顔を上げた男は俺の身なりを見て、あからさまに顔を顰めて、ぶっきらぼうに聞いて来る。…何だこの人?なんか、態度悪いな。
「はぁ。調べ物をしたいので書架を利用したいんですが」
「──カードを」
俺の言葉を聞き小さくため息を漏らしながら、仕方がないと言った表情を隠そうともせずに、カードを渡せと手を出してくる。その手にカードを手渡すと、傍に置かれた魔導器に読み込ませると、ずいと突き返す様にして、事務的に話し始める。
「此処から先は、冒険者ギルドではありません。共有区域となります。武器は勿論、一切の危険物は持ち込めません。また、中にある物や本を持ち出すことも厳禁です。よろしいですね」
あぁ。この人冒険者ギルドの関係者じゃないんだ、だからか。
「はい。理解りました。今、武器や危険物は持っていません」
両手を広げ、その場でくるりと回って見せる。
「──分かりました。では入室を許可しますが、くれぐれもお静かに願います。何か在った場合は出禁もありますので」
クドクド言われ、辟易しながら書架へと入った。
*****************************
ノートが冒険者ギルドへ向かって少したった頃、サラは日課の商店街への買い出しに来ていた。
「んしょっ、と。今日もお野菜一杯ですぅ」
籠一杯の野菜を抱え、嬉しそうにヨロヨロ歩く。フラフラと足元を見ながら何かを呟くサラ。小声のため周りには聞こえない。
「んしょ、んしょ。あ、またぁ。お願い今はダメですぅ…ちょ、ちょっと待って下さい。え?あっち?」
ブツブツと独り言を呟きながら、彼女はそのまま路地へと向かう。
「──ユマちゃん!?」
そこには空腹で蹲り、壁に寄り掛かったユマが居た。
浮浪児でいつも腹を空かせたユマはよく路地裏のごみ置き場で残飯を漁る。市場の売れ残りの痛んだ野菜や、客の食べ残しなど。食堂の残飯などは腐っていないので、特に競争率が高かった。
サラの宿は比較的路地に近い古い通りあり、人通りも少なかった為、ユマにとっては絶好の食事場だった。ゴミ置き場を漁るユマ。宿で手伝いをするサラ。当然ゴミ出しはサラの仕事だったから、出会うのは必然だった。
「はぐっ、はぐ…もぐっ」
「ユマちゃん、そんなに急がなくても」
サラに分けてもらったパンに勢いよく齧り付くユマ。
「はぐっ、んっ、はぁ。悪いね…。ここ二~三日まともに歩けなくてさ。残飯漁りも仕事も出来なかったんだよ」
そう言ってユマは腫れあがった足首を見せてくる。それは、連中にやられた名残。身体自体も実は痛むが、足首は特に酷かった。腫れあがったその部分は青紫色になっており、このままだと間違いなく壊死するような状態だった。
「だ、だいじょうぶなの?」
「ん~わかんない。けどほっときゃ治るんじゃね?いつつ」
そうやって強がるユマを心配そうに見つめるサラ。しかし、いきなり変なことを言い出す。
「え?ここ触るの?」
「は?何言ってんだサ──」
「こう?」
訝しむユマをそのままにいきなり、サラはユマの患部に触れる。
「あぐっ!サラなにを」
ユマの抗議を無視したサラは、目を閉じ、文言を【発動】させる。
──***@*
その瞬間に、光がユマの身体を包み込む。
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──精霊の癒しか。
静かな書架の中、俺は魔術関連の本を漁っていたんだが、途中で《精霊術》所謂魔法も気になって、調べていた。【精霊の奇跡と魔法の成り立ち】その中に【精霊の癒し】があった。
精霊は元々自然界に存在する力そのもである。その為、その力を行使できる人は少ない。相性もあり、妖精種などは比較的魔法を使えるが、ヒュームやビーシアンとは相性が悪くほぼ、居ない。そんな中で最も希少とされるのが魔法で行う癒しである。これには光の精霊と命の精霊の加護が不可欠。また、精霊と契約していなければ加護があっても発動しない。故に、【精霊の癒し】は【精霊の奇跡】とも言われ、これを扱えるものは手厚く保護される。
「へぇー。すげぇなぁ。でもこの保護って部分、ものすんごく嫌なニホヒがするのは穿ち過ぎかな。ふぅ、大体の事は調べたし。そろそろ行きますか」
──などと、補足説明を入れて書架を後にする。
相変わらず閑古鳥が鳴いている、小汚い店の中に有無を言わさず、勝手知ったる何とやらで、ズカズカ入っていく。
「セリスさ~~ん!ノートですぅ!依頼を受けてきましたぁ」
ごちゃごちゃとした物の奥、カウンター越しに動く影。
「ん?おや、あんたかい。依頼?なんだいそりゃ?」
「──これ。出したのセリスさんでしょ」
何言ってんだこの人は、もしかしてボケてんのか?そう考えて依頼票を見せる。
「ん~?あぁ!出した出した。よくもまぁこんな塩漬け見つけてきたねぇ」
「お孫さんから頼まれたんですよ」
「ブフォッ!あ、あんた。その事なんで」
「なんでって、本人から言われたんですよ。」
「セーリスが?」
「はい。ってか、こんな依頼こなせるの俺だけですし、セリスさんも言ってたじゃないですか。俺にも得になるって」
「ま、まぁそれは言ったが。…あの娘がねぇ」
「なんです?何か不都合が?」
「いや、そんなことはないんだが」
「だが?」
「まぁ良いよ。それじゃ早速手伝って貰おうかね」
そう言って、こっちだよと歩き出すセリスさんの後をついて行った。
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