第18話 取引
「──…改めまして。お初にお目にかかります、私エルデン・フリージア王国第二王女のミスリア・フォン・エルデンと申します。以後お見知りおきを」
魔導車から全員を降車させ、異界庫に仕舞ってから俺達の泊まっていた場所とは違う迎賓館へと案内されると、応接間で改まった挨拶が仕切り直しで始まった。因みに、ジゼルやマリーとサラは別室でお菓子やお茶を飲んで休ませることにした。
辺境伯や、マルクスさん達については面識があったので省かれたが、オズモンドさんともう一人が先程とは全く違った雰囲気で登場してきた時はさすがに緊張してしまう。
何しろこの国の王女様だ。それと、宮廷魔導士筆頭……。随分と偉い人たちが来ていたものだと考えていた。
「……ん? お主、デミストリアの所に居たクソ坊主か?」
王女の隣で、マントを取ったオズモンドさんがもじもじしていると、先程から彼の顔を見て変な顔をずっとしていたセリスが突然思い出したようにそう言った。
「──…! あ、あの、せ、セリスさ──」
「何じゃ!? やはりそうではないか! おいノート、このおと──」
「わーわーわー!! お師様! ここではおやめください! 何十年も前の事じゃないですか!」
今の今まで威厳たっぷりだったオズモンドさんは、セリスの言葉に慌てふためき、現在キャラを完全にぶち壊してセリスさんの口を塞ごうとしていた。
「………あ、あの──…うちのビバエルフがすいません」
「ムガ?! おいノート! 貴様また儂の事をビバとか変なあだ名で呼んだな? ムキャ──!」
「やかましいわ! じゃぁ残念エルフだ! この残念駄エルフ!」
「フギャ───!! な、な、なんじゃとぉぉぉおお! よし! 殲滅じゃ! 滅殺じゃ! デストロイじゃぁぁぁぁあ!」
そう言いながらゴーレムを異界庫から浮遊させ、照準を俺に向けてくるが。
「マスター権限使用! 目標をセリスに変更、カウンターショック準備! 発動!」
「…な! なんじゃと!? きさ──」
”バシィィィイン!”
「あばばばばばっばばばばばっばばばばばばばばばばばば!」
憐れ、俺に権限を強制的に奪われたゴーレムは主人であるセリスに向かい、低周波治療器の応用で創った電気痺れ魔術によって、全身が痺れ、その場でひっくり返ってしまう。 賊の捕縛用に作った魔術が、こんな所で役立つとは…。あれ? 何か静かだね。
《マスター…流石に皆さんドン引きです》
シスゥ! どこでそんな言い方覚えて来たぁ……。
「……お師様、だ、大丈夫ですか?」
流石にセリスの状態を見て慌てたのか、痺れてあばばば言っている彼女に不用意に近づく。
「あ! まだ近づいちゃ──」
”うびゃばばばばばば!”
──…何故かは分らない……分からないが、俺は現在ソファ横の床に直に正座させられ、ソファに俺以外が腰掛けた状態で何も無かった様に話が再開されていた。
「──…身内がとんだ失礼をした事深く謝罪いたします。彼は迷い人、そしてこちらは精霊王の孫娘……どちらも我等、人には到底制御しかねる者たち故、ご容赦願いたい」
何故かセーリスさんが俺とセリスを人外扱いしながら仕切って謝罪しているが、相手が王族だって事を完全に忘れてたよ。オズモンドさんにしても、国の重鎮なんだろうけど…相手がセリスだからなぁ。などと、ポケェッとした感じでやり取りを見ていたら、俺の横で同じ様に正座をしていたセリスがぶちぶち文句を垂れ始めた。
「儂は被害者だぞ! なのに何で、こ奴と同じ床に座らねばならんのじゃ! オズモンドはソファに寝そべっておるのに! 儂だって寝っ転がりたいわい! 寄ってたかって年寄りにひどい仕打ちをしおって!」
「お祖母様。──…ゴーレムを持ち出したのが原因でしょう? それに幾らお知り合いとは言え、相手の立場も考えてご発言なさってください」
ぴしゃりとセーリスに正論で諭されたセリスはぐぬぬと奥歯を噛み締めながら見返していたが、王女様が間を取り持ってくれた。
「──…まぁまぁお二人共、幸いオズモンド様も少し痺れた程度です。それにどうやらお二人は旧知の仲のご様子。我等はなにも気にしません。どうかそちらの方達もソファにお掛け下さいませ」
言われて二人で立ち上がると、セリスは正座に慣れていなかったのか、俺にもたれるようによろめいて来たので支えてやる。
「…おっと、大丈夫か?」
「大丈夫な訳ないじゃろが! そもそもお前が…まぁ、もういいわい」
彼女はそう言うと、よたよたとソファの縁につかまりながらベッドに潜り込むような仕草でソファに寝転んだ。俺はそれを横目で見ながら端にある一人掛け用のソファに腰を落とした。
「さ、さて。それではそろそろ、お話を進めてまいりましょうか」
「──…そうですね。では先ずはノート様…貴方様が迷い人である事は公言なされるのでしょうか?」
「…いえ、公言するつもりは一切ありません。辺境伯様にもその事は伝えて有ります」
やはりその質問から来るんだな……次は何だ? 取り込みか? 他国へ流れないようにする懐柔か? などと少し嫌な気分になって来る。だが逆に考えれば、当然ともいえるだろう。…俺はここに来て間もない頃に言われたセーリスの言葉が今も頭の片隅にずっと残っている。
──…お主はこの世界イリステリアを、征服するのか?──
セレス・フィリアが、彼女の身体を借りて言った言葉だ…──。
この世界に暮らす者にとって、俺は異物であり未知だ。神がトンデモチート盛りだくさんでこの世界に降ろした人のような存在。そんなのがもし地球に降りてきたら、俺達だってそうするだろう。核兵器を直撃させても死なない、見た事もない魔法を実際に使われたら……。取り込むか、殺すかしかない。正に彼女たちにとって俺はそんな人間モドキに見えているんだろうな。
そんな考えに至った時、嫌な気持ちはいつしか哀しい気持ちに変わって行った。だから続けて俺はこう告げた。
「先ず言っておきたいのは、どの国に味方するとかそう言うのは考えていません。神様…イリス様達に好きに生きて良いと言われました。この国に降りたのは、この国が最も差別や偏見がないと神様たちが言ったからです。だから、世界を巡りたいのが本音です。かかる火の粉は払える程度の力は持っています。ですが別に敵を作りたいわけでも揉めたい訳でも有りません。なので、今回はこの国で大きな事をしでかしてしまった自覚が有ります。だから国王に謁見する事を承諾しました。申し訳ありませんが、俺……いや、私の生きていた世界には貴族制度は廃れ、国王はほぼ象徴としての称号となってしまった国が大半です。私の居た国などはもっと凄くて、天皇と言う、現人神が治める国として発展してきたのです。まぁ、既にそれも衰退し現在は他国と同様に象徴になっていますが」
一気にそこまで言って話をいったん切る。そうして皆を見ると、全員が押し黙りじっとこちらを窺うような視線で何かを考えている様子だった。
「恐らく不敬な言動や、態度が目立つことでしょう。ですが私の生きた世界ではそれが常識であり、マナーとして通っています。そぐわないのは承知です。そこを踏まえてお聞かせください」
「──…は、はい」
王女は俺の言葉に一瞬身構える。
──…どうしても救いたい人がこの世界に居ます──。
その言葉に王女と体勢を直したばかりのオズモンドが絶句する…。
「勿論、手助け無用です。ですが便宜は図って頂きたい、そのための対価は支払うつもりです」
続けた言葉に、思わず息をのむ音が聞こえる。そうして切り出してきたのはオズモンドだった。
「──…宜しければ、その御方の名を聞いても宜しいか?」
──聖教会の聖女、オフィリア。俺の大切な妹です──。
”バン!”
思った通りにドアが勢いよく開くと、エリーさんが号泣しながら飛び込んできた。
「ノートさまぁぁぁぁぁぁあああ!」
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