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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第5章 その国の名は
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第17話 兆し(きざし)


 

 その村は廃村(はいそん)となってから既に何年も経っていた。建物は草木に(おお)われ、朽ちて崩れ去った村を覆っていた粗末な塀はもう何の役割も果たす事は無く、()()()()()()()森に(ぼっ)しようとしていた。唯一形を保っていたのはこの村の()()()()だった。コンクリートと鉄骨で作られた外壁は蔦が絡まり、窓にガラスなどは無かったが、建物の体は辛うじて保っていた。


 井戸があった場所にはその跡だけが残っており、水は枯れ、深く掘られた竪穴(たてあな)は草木がその()()()()()()()()()いた。


 ここはカデクスの街より北方に十キロほど進んだ森の中。住民たちは既に皆移住しており、誰も()()()()()()村だった。



 ”バキバキィ!” ”ズズゥン”


 そんな既に死んでしまった村に、突然大きな音が響き渡る。


「──…ッソだりぃな! なんでこんな事を俺がしなきゃぁなんねぇんだよ!」


 ”ズザザザザァァァ!”


「今は仕方ないだろう……俺達しかまともに動ける者がいないのだから」


 ベイルズとネヴィルはそんな事を言いながら、役場の周りを整地していた。


「クソっ…あの野郎は地下に(こも)ったまんまだし、()()()()から何から俺達任せっていい身分だぜ。ったくよう」


「──…もう間もなく、ゲールの(からだ)()()()()。そうすれば()()()を作らせればいい」


「はっ! その材料も結局は俺達が持ってこなきゃなんねえんだろうが! 俺ぁ()()じゃねえぞ」


「……そうは言っても、この間の集落を()()として(つぶ)していたのはお前だろう」


「──…ったりめえだろ?! そのくらい()()()()()()()()()()、やってらんねえってもんだぜ!」


「──お二人さ~んどこですか、デスか~。魔石の追加をお願いしたいんですがね、ガネェ!」


「「………。」」


 嫌々ながらも整地作業を行っていた二人に気の抜けた()()()な注文が届く。顔を見合わせた二人は同時にため息のような物を()くと、リビエラに向かって同時に言葉を叩き付けた。


「「()()かよ!」」




***************************




「──…この内容が真実なら、教皇様は一体何を…」


 秘匿書類を読んだオッペンハイマーの手はいつの間にか(かす)かに震えていた。その内容に驚愕したのはもちろんだったが、それによって起こるであろうこれからの事を想像してしまったからである。


 書類にはこう書かれていた。



 ──…教皇スイベール・ヘラルド猊下(げいか)下知(げち)により、聖教会大聖堂に()いて、聖女様、教皇様ご臨席による()()()()を取り行う事とする。


 ──…執り行う審問の内容は欺瞞(ぎまん)。対象者は()()()()()()全て。


 ──…裁可(さいか)即時発布(そくじはっぷ)され、()()()()()()とする。




 オッペンハイマーの背に()()()()()が落ちた気がした。


 これはまるで独裁者の行う、()()()()()()の何者でもないではないか。()()も何も関係なく、()()()()が裁かれるなんて()()()にでもなったつもりか? 大体欺瞞とは()()()()()欺瞞と言うのだ? 


 現在枢機卿は三人しかいない。疑義(ぎぎ)を挙げるには最低二人の枢機卿と()()()()()の認可が必要。しかしこの書類に神前審問の()()が書かれていない。果たして今から動いて間に合うのか? だが動かねば何も始まらない。その考えに至ったオッペンハイマーは、秘匿書類を懐奥にしまい込み、すぐさま魔道具を切って、見習いを呼ぶためにベルを鳴らした。




***************************




「──…オフィリア様、ジェレミア大司教がお見えです」


 大聖堂の最上階には、聖女と謁見する為の個室が設けられている。そこには日々、高位の聖職者たちやオフィリアが直接招いた者たちが彼女と()()に直接会える()()()()()でもあった。


「分かりました…」


 彼女は従者であり()()()()()()()()メアリにそう答えると、彼女の護衛騎士であるケルビンを(ともな)い、三人で謁見室へと向かう。


 部屋には既に(かしこま)まって()()()()()()()のジェレミアが黙ったままで待っていた。


「…お待たせしました。ジェレミア大司教」


「は!聖女様…本日は()()()()に参りました」


「それはありがとうございます。……それで、どのように進んでいますか?」


「はい、審問機関に付きましては既報の通り。現在、()()()にて、各々陣営を()()しておるようですが、枢機卿の動きが見えません。まだ発表すらされていないので、()()()()もおられると思います」


「──…やはり、そうですか」


「ええ。()()()()として()()()はおりますが、なにぶん急を要しましたのでこちらの()()に気付いて貰えるかは些か不安は残りますが」


「秘匿書類と一緒に()()()()()も?」


「はい。()()()()()()()()して頂ければ……気づかれるとは思うのですが」


「──…迂遠(うえん)になってしまうのは致し方ありませんね」


「…本来であれば、枢機卿等と言う()()()()()()()御方の()()()()など、あってはならん事です。大体、移動の際に護衛に()殿()()()()()()()事に誰も疑問を持たなかったという()()()()。オッペンハイマー卿や、ヘッツァー卿などは()()()()までなされていたのに…」


「──…魅了(チャーム)ですか。」


「聖女様…()()()は今は…」


「そうでしたね。それでは次にあの──。」


◇  ◇  ◇


 謁見室のドア前にはケルビンとメアリが立ち、部屋の声は聞こえない。メアリの術式によって結界が張られ、防音はもとより、あらゆる術式が無効化され、この部屋は完全に()()していた。


「──…いつも思うんだが、メアリ。君は本当に()()()()()()()ではないのか?」


 ドアの前で意識を通路に向けながら、ふと横に立つ少女に湧いた疑問をぶつける。

 

 ケルビン・テイルはエルデン・フリージア王国の伯爵家に仕える騎士爵の息子だった。嫡男(ちゃくなん)ではあったが、()()()()()()()()()()()()()()。その為、自身で功績を上げるか、士官先を見つけてそこの家に認めて貰えない限り自身に爵位は降りないと幼い頃より、父に言われ、日々の研鑽(けんさん)に励んできた。


 彼の持っていたユニークは剣豪。そのおかげもあり、剣術に関してはその才能を十二分に発揮して()()させていった。王国主催の剣術大会では若くして()()()を果たし、幾つもの貴族から、士官要請なども有った。だが、彼はそのどれもに興味を示さなかった。


 それは彼にとって()()()の事だった。王国主催の剣術大会で、初めて聖教会の聖女様を貴賓席に見つけた時だった。当時の彼はもう()()()であったが、女性に対してさほど興味が湧く事は無かった。剣術に()()し、スキルを剣聖に()()()()()()のも有るが、それ以前に恋愛感情自体が分からなかったからだ。


 だが、彼女を見た瞬間に全てが瓦解した。見るもの全てが変わってしまったのだ。……彼にとっての初恋。そして彼は、決勝戦で()()()()()()()。打ち込みの瞬間、それがフェイントと分かった時には既に遅く、カウンターをもろに頭に食らってしまった。試合であった為に、真剣ではなかったが相手が使っていたのは大振りのバスターソード。被っていたヘルムは砕け散り、鮮血が会場に拡がった。ケルビンはもちろん意識を失い、その場に昏倒。即座に治癒師が駆け寄ったが、頭部に大きな損傷を負ってしまった彼を治癒師たちは半ばあきらめかけていた。


 

 ──どいてください。私が見ます。



 ケルビンが気づいたのは既に聖女が去った後だった。


 その後彼は強烈な聖教会信者となり、入信後に騎士団へ所属して、現在の地位へと実力で昇って来たのだった。


 そんな彼が、自身の横に立つ()()()()()にそんな話をしたのはある意味では当然だろう。


 ──メアリ。シスター見習い。現聖女の傍付きにして精霊術師。


 聖教会の孤児院で育ち、精霊との()()()を見出された後に契約に成功。その時の年齢は()()だったと言う。聖女に()()教えを請い、()()()()でもあるが、まるで()()()()にも見えるほどに仲がいい。術にしてもその上達はすさまじく、精霊術を幾つも()()()()できるのは、教会でも聖女を含め数人しかいない。その為教会内ではもっぱら彼女が時代の聖女として育てられているんだろうと憶測は()()()()()()()()()()()()


「…違いますよ。もう、何度も言っているじゃないですか。ケルビン様まで変な噂を真に受けないで下さい」


 彼女はやれやれと言ったふうな態度で、ケルビンの言った言葉を否定すると心の中で絶対言えぬ言葉を繋いだ。



 ──…私はあんな()()にはなりたくありません──。 



 




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