第15話 見える尾と踏めない影
「──…結局ハイネマン枢機卿は音信不通のままか…」
聖教会総本部に有る枢機卿達の執務部屋が並んだ一室で、オッペンハイマー枢機卿は書類を整理しながら、一人小さな声で呟いた、
彼がこの本部を出てエルデン・フリージア王国の辺境に向かったのは聞いている。内容としては爆発事件の後始末と次代の司教選定との事だった。故にあの報告があった次の日にすぐ出発していったのは私自身も見送ったので覚えている。それが国境を越えた辺りで消息を絶った。確かに国境付近は治安が悪い。だがしかし、彼自身も魔術師としての資質は高かった。癒しについてはもちろんの事、攻撃呪文もかなり使えた筈だ。そんな彼がどうして……。派閥としても彼は教皇派の急先鋒だったのに。なぜ──…。
「──…さま、……ペンハイマー様!」
「は?! な、なんだ?」
深く思考の海に沈んでいた為、すぐ後ろにいた司祭見習いに声を掛けられている事に気付かなかった。慌てて振り返ると、彼は何やら書類を持って立っていた。
「オッペンハイマー様、通信部より定時連絡と、秘匿書類が届いております」
彼はそう言いながら、手に持っていた書類を掲げる様に枢機卿に手渡すと、深く礼をした後部屋を静かに出て行った。
「…秘匿書類? 一体どこから──…! 審問機関!」
その文字を見た途端、彼はすぐさま部屋の戸締りをし、執務机の下に隠していた結界魔道具を作動させる。そうしてから先ず定時連絡の報告書を読む。
「……やはり、カデクスに彼は到着していない…か。ん? 国家調査団が捜索? 何のためにだ? 本部で対応の為カデクスでは拒否…フム妥当だな。……──。他はいつも通りか。…国家調査団か…まぁ、今考えても仕方ないな…さて」
彼はその報告書を適当に机に置き、秘匿書類に魔力を流す。封に紋が一瞬走り閉じられた封が開く。中の書類を引き出すと、その書類にも魔紋を通して文面を追った。
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カデクスの街役場に急遽作られた大会議室では、聞き取りと現場検証などの摺合せの為に報告会が開かれていた。
「──…以上が、事件当日の会議室に出入りした従者たちの証言です」
まず最初に報告されたのが事件当日の評議会人員の動向、その際の被害者たちの供周りの者たちや出入り業者の証言などだった。
「フム…ここまでで大きな食い違いや齟齬などの相違は見当たりませんな」
会議室の一面には大きな掲示板があり、そこには調査の詳細が書かれたメモが時系列順や、人物別に貼り付けられ、それらを照らし合わせる様に証言を追加しながら貼って行く。
「……そうですね、証拠品や遺留品にも、おかしなものは無かったと…」
オズモンドは、証言の貼られた掲示板から、テーブルに置かれた幾つかの遺留品に目を移しながら呟く。
「それで? 肝心の冒険者ギルドは何と言っているのです?」
「は!サブマスターの証言では、ベイルズと言う冒険者は、事件の数日前にこの街に来たと言うのが魔導器による記録表で確認が取れています。ギルドにはその日のうちに寄っていますが、依頼は一切受けていなかったそうです。どうやら、直接ギルドマスターと話をしていたらしく、受付の証言では秘匿書類の任務でマスターに直接面会を望んだそうです」
「──…書類の発信元は分かっていないんですね」
「は! 確認は出来ません」
「…当然か──」
その後も、これと言った進展のないまま、無為に時間だけが流れ、その日の会議は終了した。
「いやはやこれは参りましたね。手掛かりは幾つもあるのに肝心な物は一切見えない。実行犯も特定されているのに全く足取りが追えない…黒幕の見当はついているのにその影すら踏めない。もどかしいやら、腹立たしいやら…如何ともしがたいですな」
辺境伯とマルクス、男爵とミスリアたちが残った会議室で、オズモンドは愚痴の様なモノを零す。それは皆も全くの同意見だった。そんな中、マルクスはふと思い出したようにオズモンドに話す。
「オズモンド殿、コレは本人に確認が取れていないのではっきりとは言えませんが、今回の事件前夜に起こった男爵邸の襲撃者、アレは確かに嫉妬の悪魔と自身で名乗っておりました。故にこの件、彼に今一度話をきちんと聞いた方がよろしいのでは?」
「そうできるのなら有難いですが、向こうも帝国の間者で厄介な事になっているのでは?」
「…それはそうなのですが、まずは───」
マルクスが続きを話そうとした時、ドアをノックする音が響く。ドア横に居た侍従が返答をすると、男爵邸の家令が顔を覗かせた。
「ん? どうしたのだわざわざ」
「…はい、ご一同様にどうしてもお目通り願うとお客様が屋敷にお出でです。それと先程連絡がございましてスレイヤーズ様一行が明日、一度こちらに来るとの事です」
それを聞いた瞬間に全員がその場の椅子を倒す勢いで立ち上がっていた。
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「カデクスに戻るぅ? 何でじゃ? 屋敷がまだ完成していないじゃないか」
「う~ん、それは分かるんだけど、向こうに来てる辺境伯様たちをほったらかしってのも不味いじゃん。ついでに転移陣も変更しようと思ってさ。あれからまた改良できたから便利になったし」
「──…か、改良?! 転移陣って改変できるのか?」
俺の言葉に驚愕した後、掴み掛る様に詰め寄ってくるセリスの顔を手で押しのけ、周りに居た皆にも話をする。
「あれから一週間もほったらかしは流石にまずいと思うからさ。顔見せだけでも行かない?魔草と魔虫の駆除はアマンダさんに依頼出そうと思うんだけど、どうかな?」
「はい、私は構いませんよ」
「…そうね、アマンダももう大丈夫そうだしね」
「…わ、私も良いぞ」
三人は即答で返事をくれる。
「お兄ちゃんが行くなら、マリーも行くよ!」
「私はマリーの付き添いですから」
「わ、私も行きたいですぅ」
マリアーベルとジゼルはワンセットなので問題なかったが、サラをどうするか迷う。別に連れて行くのは構わないんだが、勝手に連れて行くのはマズイだろう。なので、女将さんとオヤジさんに早速声を掛けに行く。
「良いんじゃないかい、ねぇあんた」
「あぁ、お師匠様も居るし、なんたって皆さんが居ればどこより安心だからな。」
「こっちの事はアタイたちが居るから問題ないよ! ノート兄ぃ」
あっさりと了承が貰えた。
その後、冒険者ギルドで、アマンダさんと屋敷の掃討作戦依頼を正式に発注し、何人かの冒険者たちに依頼を出した。
「魔草と魔虫の間引きなんかをまさかこんな街中で出来るなんて逆にラッキーだよ。ルーキーのいい経験になるさ」
確かに、魔草や魔虫は森の中層辺りまで入らなければ手に入らない。それらは薬草と同じ扱いだがレア度が段違いで高価になる。錬金術の素材になるからだ。しかし、森の中層になれば当然魔獣やモンスターも出現する。ベテランやパーティなら問題ないが、新人やソロにとっては危険な任務に変わるのだ。それが街中のしかも屋敷の庭で取り放題となれば、どうなるか。当然その依頼は新人たちの特別依頼に指定され、ルーキーたちは喜んで依頼に飛び付いていた。
「……アマンダさん、解毒ポーション作っておいたから、忘れず持たせてやってね。自宅の庭先にごろごろ死体が転がってたなんて、俺、嫌だからね」
「…魔虫、どれだけいるんだ?」
「確か…巣が四つと、コロニーが二カ所。キラービーと、痺れ蜘蛛だったと思う」
途端に彼女は真顔で俺に、こう言った。
──なぁ、依頼ランク上げて良い?
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