第11話 答えは未だ五里霧中
「──…で、結局はこうなってしまうか」
王が臨席する御前会議であったにもかかわらず、意地と見栄と虚勢の張り合いに終始した結果、何も決まらないと言う結果が決まった。
一方が議題を出せば潰され、打開策を聞けば既得権の取り合いに終始。結果、答えは出せずに持ち越し……。これでは何も進まない。だからと王権を使おうとすれば、派閥単位で諸説紛々となり収拾がつかなくなる。
そうして議論は空転、堂々巡りで先送り───…まさに会議は踊る…だ。
◇ ◇ ◇
「王様王様! これ見て下さい! 新しいの考えました! 予算下さい!」
「……ハッセル、お前…さっきからずっと何か書いてると思ってたら、術式書いてたのかよ」
騎士団長のドレファスと財務大臣のミダス、それ以外の敵対派閥の連中が居なくなった途端に、第二魔導団長のハッセルが重要文書の内容が読めなくなる程に何かを書き込んだモノを見せながら、嬉々とした様子で予算の請求をして来る。
隣にいた寡黙でいぶし銀だった壮年のキースは、そんなハッセルを呆れた様子で諫めている。
「大体お前は我らが王に対して、礼節一つなっていない! なんだ王様王様! とは。お前の親戚ではないのだぞ! 余りに気易すぎる!」
「何だよキースはぁ、細かいんだよ! 大体俺もお前も歳で言ったら王様と変わらんだろうが。お前が堅っ苦しいんだよ! 真面目か!」
さっきまでの雰囲気とは全く違う口調で言いあう二人を見ていると、さっきまでのささくれだった気持ちが少し和らいでいく。結局この部屋に残った者達は自分を含めて六人。まぁ、一人は姿どころか声も発していないが…。
「フゥ…。良いのだキースよ、ハッセルはわざと俺の気を紛らわせるために言ってるのだろうしな──」
そう、我等三人は年齢も近く、育った場所も近かった。先代が皆同じ任に居たと言うのも有るが、年齢が近かったので城でも良く一緒に教練したものだ。魔術に優れたハッセルは宮廷魔導士。剣術はキースと、面白い様にちゃんとユニークが受け継がれ、それらを二人は開花させている。我は王として通り一遍の教育は受けたが、いずれもユニークには至らず、歯痒い思いもしたものだ。
「…王よ、ハッセル殿は割と本気で予算請求しておりますぞ…」
横に来たブルミアがやれやれと言いながら、先程よりもこちらに近づけた椅子に腰掛けながらボヤく。
「はは…困ったものだな。……さて、皆座ってくれ。本題を話し合いたいのだ──」
***************************
「──…クソ! また恥を掻かされた! 何が偶々だ、分かっていながらあんな取ってつけた言い回しなぞ…ええい腹が立つ」
会議室を早々に立ち去ったドレファスは、羞恥に顔を歪ませながら、その鬱憤を吐き出す様に大きな声で喚く様に絨毯の敷き詰められた廊下を、装飾の凝った鉄靴で踏み均すかのように、音を立てながらガッチャガッチャと煩く歩いて行く。
そしてそのすぐ後ろを、侍従を二人連れた財務大臣のミダス・ニールセンが、煩い金属音に負けない程の声でドレファスの言葉に追従するような物言いを繋いでいく。
「まさに卿の仰る通りですな。アレでは愚弄を超えて、嘲弄ですぞ、あまりに無体な物言い。仮にも国軍の長に対して言って良い言葉では有りませんな」
「だろう?! しかも、それを聞いて尚、そ知らぬふりを通すあの二人も同じだ! ええい、腹の虫がおさまらん! ミダス殿、今夜の集会の人数はどうだ?」
「…その事についてはここでは…ただ、滞りなくとだけ」
「…そ、そうだったな、済まん。…しかしそうか、滞りないのであれば是非もない。そろそろ考えねばなるまい」
二人はそう言いながら、華やかに装飾された廊下を、ただただうるさい音を立てながら過ぎて行く。
◇ ◇ ◇
「──ではやはり、その迷い人が言った悪魔種で間違いないと?」
「ウム。我もにわかには信じられんかったがな。…先住の間諜が確認した。聖教会の連中と戦闘していたモノは見た事もないバケモノだったそうだ。それに……」
「次元マドウ…ですか。……陛下に言われてからこっち、魔導書も漁っては見ましたが…空間ならば分かるのですが、そもそも次元という言葉の意味が分かりません。文言自体は異界の勇者の記録にはあったのです。それが空間に作用するという事も。…唯意味が曖昧で…」
宰相が聞いた質問に王が返答していると、ハッセルが肝心な部分を引き継いで話を進めて行く。
「ならば、その迷い人に直接話を聞けばいいのでは?」
「……それが出来れば苦労は無いのだ。……だが今、彼はかなり厄介な状況にいるらしい」
キースのもっともな意見を諜報部門のパットが難しいと反論する。
「──…儘ならないものだな。どうして、こうも東の辺境に迷い人は降臨するのか…。神は我らに何をさせたいのであろうな」
「千年の時を経て再臨した迷い人……。世界に今どの様な脅威があるのでしょうか。邪神が居るわけでも、魔獣の大発生が起きた訳でも無いのに…。まさか、国のいざこざ程度で降りる事などないでしょうしね」
「…それこそ、悪魔種が関係しているのかもしれんな…。不帰の森より発見された太古の神殿遺跡に眠っていた【石板】。北の絶壁連山の更に北に有ったとされる魔国。既に人知を超えた問題だ。あの山を越える事は人間には出来ん。聖獣の眠る森を焼くのと同じような行為は何人たりともしてはいけない禁忌だ。犯せば人間世界は滅ぶ。故に神は今一度送ってこられたのかもしれん。場所に着いての疑問は残るがな」
王の言葉に皆が黙って考える。実際、なぜ今この時に…。神殿遺跡の話はつい最近聞いた事柄だ。それはユーグドラシルの森が存在するエルフたちの国から齎された情報だった。彼らの国は中央大陸の最も北東に位置し、絶壁連山とも接している。その南に行く手を阻むように未開の森が広がり、大陸の北側を覆うように続いている。不帰の森と呼ばれるそこには聖獣が眠っているとされ、浅層部ならばまだしも、奥に入った者で帰った人間は誰一人として存在していなかった。森の上空ではドラゴンが確認されていたし、行けば確実に死ぬと判っていたからだ。
そんな森で、見た事もない建築様式の神殿が発見されたと言う。見つけたのはエルフの冒険者たちだった。彼らは浅層部で貴重とされる特殊な薬草採取をして居たらしい。その時偶々モンスターに遭遇し、戦闘になった。しかし、力及ばず離脱を決定したメンバーは散りじりに分かれた。結果一人の冒険者が誤って中層部に至ってしまった。不思議な事にそこにはモンスターはおろか、魔獣すら存在せず、蔦の絡まった大きな神殿を見つけたのだ。傷を負っていた彼はそこへ逃げ込み、治療に専念する事が出来たおかげで生き延びる事が出来た。その際、証拠として壁に嵌まっていた文字らしきものが描かれた石板を持ち帰ったとの事だった。
その事が有ったのはもう一年も前の話だと言う。持ち帰った石板は現在も彼らが必死に解読しているが全く進まなかった。そこで、彼らは情報をドワーフの王と、ここエルデン・フリージア王国の王にだけ、密書という形で届けたのだ。情報が欲しいと…。
彼らは恐れたのだろうと王は言っていた。理由としてこの石板が発端となり、ハマナスやヒストリアと言った、同じように不帰の森と接する国がこぞって森を荒らすかもしれないという事を。もしそんな事をして、聖獣が起きてしまったら…。
それと、彼が言っていた悪魔種と言う者たちの出現。現在それらは何故か、聖女や、元聖女。それと彼を執拗に追っているらしい。何か関係があるのか? 情報が少なすぎて全く分からないが…。
──神が我らに何をさせたいのか…。次から次へと思いもよらない事を…。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。