表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第5章 その国の名は
148/266

第8話 禁忌の探求者



 その瞬間は()()()()かのように起こった。


 その光景を見たひとりが悲鳴を上げると、次々に恐怖は伝播(でんぱ)し、騒然どころの騒ぎではない。絶叫は()()()の様に一帯を包みこんだ。男の治験後、()()()()を受けた者達は皆自分も同じようになると思って喚き散らし、恐怖がその場を支配した。その場は正に阿鼻叫喚(あびきょうかん)の場と化す。


 騒ぎを聞きつけた衛兵が、そこに居る者達に事情を聴いて落ち着かせようとするが、誰もまともに答える者がいない。困った隊員は当時の隊長の元へ駈け込んで説明するが、要領(ようりょう)を得ず、現場は更に混乱(カオス)状態となっていく。


 そんな貧民街には当然ながら、様々な年齢(ねんれい)の人間が居た。下は産まれたての赤子から、明日には寿命で()()()しまいそうな老人まで。様々な人間で()()()()()()いる。そんな場所へパニック状態が伝播すればどうなるか。そこらじゅうを走り回る大人たちに巻き込まれ、小さな子供たちは蹴飛(けと)ばされ、年寄り連中は()()()()()()()。どんなに衛兵が大声で止めようとも、そんな程度で()()()()()者など誰一人としていなかった。


 ゼストはそんな貧民街の中で、子供達を(まと)めてちょっとした()()()()()()()()()のリーダー格だった。端的に言ってしまえば()()()()だ。街中(まちなか)に住む平民の子供ならば、もう見習いとなって働いていてもおかしく無い十二歳、子供たちの中で最も年長者。だが、貧民街の子供に街中(まちなか)の連中はゴミ掃除か、ドブ(さら)い程度の()()()()の日雇いしか出さない。常に仕事にあぶれ、暇だけが彼等にはあった。いつものように()()()の何か遊びの()()は無いかと皆でうろうろしていると、()()を感じて調べてきたのはそのグループの一人。通りで誰かが倒れたそうだと言ってきた。子供たちはそれを見に行こうとしたが、()()()とも取れるような音に驚いていると、人が一気に()()()()に押し寄せて来たのだ。慌てて建物に避難したが、貧民街の建物が()()にできている訳もなく。あっという間に小屋は破壊され、子供たちは散りじりになってしまった。


「──クソっ、何だってんだよ! 何が起きてやがんだ! おい、モリスー、ケイン! どこだぁ?」


 ゼストはあらん限りの声で叫ぶが人の波に押し流され、どこにも届かないままに、何時しか()()に辿り着いていた。


 街の最も外壁沿いに建つ、何かの倉庫街のような場所。その一角にある薬師の研究所前。


「おい! 何の薬を飲ませたんだ! アイツは()()()()()()()()死んじまったぞ!」

「責任者はどこだ!? 出て来て説明しろぉ!」

解毒薬(げどくやく)を出せぇ! まだ死にたくねぇ!」

「ここを開けろ! おい! 早くしろ!」


 そこには治験で薬を飲んだ連中が解毒を求めて殺到し、怒号が飛び交い騒然として、今にも門を破壊して暴動(ぼうどう)になりそうな状態になっていた。



「おい! 静まれ! ここは私有地だぞ、一体此処で何をしているんだ?」


 貧民街の騒動から抜け出してきた衛兵たちの何人かが、こちらの騒ぎを聞きつけてこちらにも向かって来た。


「何を言ってやがる! おめぇらは通りの()()()()を見てねぇのかよ。アレを起こした()()()がここの薬師だ!」


 一人の男が目を血走らせながら、鬼気迫る表情で衛兵隊に詰め寄っていく。


「何だと? じゃぁ、あの()()はここの者が引き起こしているのか?」


 何人かいた衛兵の後ろから、少し偉そうな服装の隊員が出てきた。


「私はこのエクスの街の衛兵隊長を任されている、ドノバンと言う者だ。誰かこの騒動の説明をしてくれんか」


 ゼストはその様子を、通りを挟んだ石壁にもたれ掛かりながら茫然(ぼうぜん)と眺めていた。話の内容は良く分からなかったが、騒いでいた連中には見覚えがあった。確かアイツらは治験に参加していた連中だ。解毒剤がどうとか言ってたが、毒でも飲んじまったって事なのか? 等とぼんやり考えていた。


 ”ズドォォォォォォォオオオン!”


 とんでもない大音響とともに、腹に響く様な地響きが伝わってきた。ゼストは慌ててその場に(うずくま)り、何が起きたと周りを見回すが、低くなった視界からは何も見える事は無かった。


「なんだ? 今の音は。ばくは──! 表の通りか?!」

「おい、()()は何だ。た、竜巻か?!」


 そう言った彼らの視線は通りの上空を見上げていた。ゼストも釣られてそちらを見ると、建物の隙間から上空に向かい、大きな()()()が空に舞い上がって行くのが見えた。


「おい()()()()()()とか言う薬師の居場所はここか?」


 いつの間にそこに居たのか。それとも()()()()()()来たんだろうか。気づくとその人は自身のすぐ隣に立っていた。


「あ、……へ?」


「ん? なんじゃ、聴こえんかったか。あの目の前の建物に、リビエラとか言う頭のおかしな奴がおるのかと聞いてい──」


「セリス様! どうしてこちらに。あ、もしかして先ほどの竜巻は、セリス様が」


「そんな事はどうでもいい! 彼奴(きゃつ)はここに居るのか?」

「……え? 彼奴とは?」

「リビエラじゃ。薬師とほざいておるそうじゃが、あ奴め……。どうなんじゃ!」


 彼女は相当怒って居る様で、今にも暴れ出しそうな雰囲気を撒き散らしながら、衛兵隊長に詰め寄っていく。


「お、お待ちください。確かにここはその者の研究所だそうですが、今他の者たちにも事情を聴いておりまして」


 それを聞いた彼女は先程騒いでいた連中を睨みつける。


「──貴様ら、あ奴に何をされた?」


「毒だ! 毒を飲まされたんだよ」

(だま)されたんだ! 薬だって聞いてたのに!」


 次々に出てくる話に彼女はどんどん機嫌が悪くなっていく。何時しか彼女は俯き、拳を強く握り込んでいた。


「……何の薬と言われて飲んだのだ?」

「た、確か…()()()()()とかなんとか」

「俺は()()()()()()()って言われたぞ…」


「……そうか」


 俯いた状態で、周りの連中の話を聞いた後、隊長の方へ体ごと向き直る。


「奴を呼び出せ、今すぐにだ」

「……ひぅ」


 発せられたその声は、その場にいた全員が黙るのに十分なほど、殺気が(こも)っていた。その声を一番近くで聞いていた隊長は、真っ青になり他の人達と一緒に後退ってしまうほど。


 隊員たちに声を掛け、門に向かった衛兵隊を見ながら、セリス様は他の連中に声を掛ける。


「お前たちは、ここから離れた方が良い。恐らくここは()()になるぞ」


 その言葉を聞いた者達は、一斉に頷き我先(われさき)にと急ぐように走って行ってしまう。そんな状況にあって尚、ゼストはそこを動かなかった。いや、動けなかった。



 ──こんなに綺麗な人が、この世界には居たんだ。



 超不純な理由だった。



「お前もはようにげ──」


 ”バガァァァァァアアン!!”

「ぐわぁあ」

「貴様ぁ!」


 その声に二人で振り返ると、鉄製で出来た門扉(もんぴ)が内側から弾き飛ばされ、衛兵隊が一緒に巻き込まれて転がって来る。


「ヴォォォォオ! オオアアア!」

「グルルルル」


 門扉を破壊しながら出てきた者達は、魔獣でもモンスターでも、ましてや人でもなかった。それらすべてを掛け合わせ、子供が粘土でこねたように歪な形をした異形が、二体並んでいた。


「……何ですかぁ。いきなり大きな声で人の敷地に怒鳴り込んで来る()()()な方々はぁ」


 その異形の背後から、一人の()()()()な外套を(まと)った男が現れる。その男の風体は痩せてはいるが、おかしな部分は見当たらない。腕も二本肩から伸びているし、人間と同じ様に二足歩行していた。



 ──貴様がリビエラか。



「──んんぅ? おや! そう言う貴女はエルダー・エルフのセリスさんじゃないですか。何です、私の研究にご協力なさってくれるのですか?! いやはや、誠にそれは素晴らしい! 貴女様のような()()()()()ならば、研究者であり探究者である私の探求に必ずや功績(こうせき)(もたら)してくれるでしょう! ささ、どうぞこちらに」



 ──阿呆(あほう)が、死ね。



 ”ズドドドドドドドドドドドド!”


 セリスがそう言った瞬間、数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの氷の槍が、リビエラに殺到していった。






最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ