第39話 故郷
「──という事でオフィリアを助けに行くのが当面の目標とする!」
意気揚々と大部屋の扉を開いたが、そこはもぬけの殻だった。ポカンと口を開けて呆けているとシスが皆は食堂に行ったと伝えてくれる。気恥ずかしい気持ちを隠して食堂に向かうと、皆にぶちぶち文句を言われ、食事が余り摂れずに部屋に戻った。
「──……ノートよ、何が『という事』になったのか分からんのだが?」
俺の宣言に、いきなりケチをつけて来るセリス。
「だからぁ……って、あれ? 話して無かった?」
俺の言葉に無言で皆は頷き、そのまま抗議の視線で睨まれる。なぜだろう、セリス以外は怖いと思う前に可愛いと思ってしまう。
「ふぅ、とにかくまずは理由を話せ。話はそれからじゃ」
結局、個室に入ってからの話を一からさせられ、あの時の感情がよみがえってウルッとしてしまうが、そこはなんとか堪えて全ての気持ちを吐き出した。
直後にマリーがダイブしてきて、キャロとシェリーが抱き着いて来た。セーリスはまだ恥ずかしいのか、傍に来ただけだったが、手をしっかりと握ってくれた。ジゼルさんは、その場で顔を隠して号泣し、セリスも真っ赤な目をして黙って頷いてくれた。
「おにいちゃぁぁぁん! 聖女様を助けてぇ! おねがいぃぃぃ!」
「そうじゃ! なぜすぐに取り掛からんのじゃ!?」
「私達ならいつでも行きますよ!! ねぇ、シェリー、セーリス!」
「「もちろん!」」
「あぁ、オフィリア様。そんな想いで今まで……。うぅぅ」
「ありがとう皆……。でもまだ駄目なんだよ。先に片付けないといけない事がある」
俺の言葉に皆は疑問符の付いた顔でこちらを見て来る。
「そこに居るんだろ? 入っておいでサラちゃん」
部屋の扉を見ながら俺がそう言うと、全員の視線が其処へと注がれる。やがて、小さな軋みを上げて開いた扉からサラがぽろぽろ涙をこぼしながら部屋へと入って来る。その後ろにユマとタイラー、ハックを引き連れて。
「グスっ……。あ、あの、ごべんなざいぃ……ヒグッ、ぬ、盗みぎぎするずもりは……なぐでぇぇぇえええん!」
「ノート兄ぃ! わざとじゃぁないんだよぉぉお!」
「た、ただ……あそびにぃ、きだだげでぇぇ」
四人は、感極まったように大声で泣きながら、こちらに走り寄り謝って来る。彼女らの頭を撫でながら怒ってなんかいないと伝え、皆にもう一度これからの事を伝える。
「オフィリアの所に行く前に、俺自身の整理をしないとダメなんだよ。シス! 今この街に来ている奴らの事を話してくれ」
《了解しました。まずは帝国から──》
そう。現状のままオフィリアの元へ向かうのは得策じゃない。彼女が送ってきた手紙は俺への警告が大半だった。つまり俺自身だけじゃなく周りを巻き込む可能性が高いって事。特にこの最初の街では少なからず仲良くなった人たちがいる。
特にサラ。この娘は最も警戒しなくちゃいけない。何しろこの娘は精霊眼を持ち、光と生命の精霊と契約を結んだ真の聖女足り得る存在だ。帝国はもちろん今や各国が狙うのは目に見えている。ドワーフの魔導車技師のガントはもはや義理の爺さんになっちまった。報告に言ったら爆笑されて、代わりに新しい魔導車の設計図を作らされた。
──……この街は俺にとって第二の故郷だ。
ケンジが言ったように後々色んな記憶が出てくるんだろう。だとしてもだ。俺はもうノートなんだ!勇者でも英雄でも、何者でもないノートじゃない。
「フム、ではどうする? 土地でも買って屋敷でも作るか?」
黙って聴いていたセーリスがぼそりとそんな事を言った。
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「──隊長。先程の商人ですが」
衛兵隊詰所に戻ったコンクラン副隊長が、隊長室のカークマンに先程通した商隊の魔導車について報告していた。商人の名はオンズ。この街には商品の仕入れに来たという事だったが、商隊なのに荷馬車も連れず、しかし乗ってきた魔導車はかなりの大型。見ると中には六人の冒険者の様な身なりの男ばかりが居たと言う。不審に思い車を検めたが特に変わった所もなかった為、通したとの事。
「それで、誰か就けたのか?」
「は! ドミニクを」
「そうか。念のためにノートの所に誰か送ってくれ、取り越し苦労になる分には問題ないからな」
「了解です」
◇ ◇ ◇
大通りをゆっくり進む大型の魔導車は、中心街に向かって迷わず走って行く。その速度は一定で、急加速や減速などと言った危険な運転は一切ない。周りの馬車や魔導車と同じ様な車間距離をあけ、寄り道する事もなく進んでいった。
「……尾行者は、一人か。まぁいい、まずはいつもの宿へ向かえ」
魔導車のシートに座ったまま、どこを見るでもなくそう言ったアジーンは、その背を深く押し込み、目を伏せ次の行動を考察していく。
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「アマンダねぇちゃん!」
エクスの街にある教会裏の孤児院には今日もアマンダが顔を出していた。
「おう! なんだ?」
「ドーラシスター。いつ帰って来るかなぁ?」
アマンダの尻にいつも噛り付いていた小さな男の子がぽつりと俯きながらカサンドラの事を聞いて来る。他のシスターに聞いた所、彼女は教会の使いが来た後、彼女自身も別の使いとしてこの街を出て行ったとの事だった。それから全くの音沙汰もないまま、既に三週間以上が過ぎている。周りに聞いても使いの内容を聞く事は出来なかったそうだ。
「大丈夫だ、あのカサンドラだぞ! アイツにもしもなんて起こる訳ねぇだろ? どうせ、途中で魔獣とかを殺しまくってるんじゃねぇか? 気にしなくても必ず帰って来るさ。だからほら、いつも通りに皆と一緒に遊んで来い!」
「……わかった。いってくる!」
”ペシン!”
「うひゃ! 何で一々人の尻を! このガキはぁ!!」
うひょう! と言いながら、ちびっ子は皆が走り回っている輪の中に入って行った。それを見てアマンダはフゥと一息ついてから、何気無く空を見上げる。
「ホント、ドーラが居ねぇとアタシも調子が狂っちまうってもんだ。さっさと用事を終わらせて戻って来やがれ」
見上げた空は青く澄んでいて、雲がまばらに流れて行く。遠くに鳥が飛んでいるのが見えていた。
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「カデクスに向かう? それはまたどうして?」
「オフィリア様の指示です。辺境伯が現在、国家調査団と共に事件の調査に赴くとの事なので、そこで恐らくは彼等と合流するでしょう。その際に接触し、密書を手渡す命を受けています」
エリシアの村の教会で、エリーはカサンドラに自身の次の任務を話す。
「そう、私には?」
続けてカサンドラは自身への任務を聞くが、エリーは黙って首を振る。
「貴女はまず治療に専念してください。コレは隊長としてだけじゃなく、貴女の友達としてのお願いです」
「そう……。わかったわ。流石に今回は言う事を聞くことになるわねぇ」
笑顔でそうカサンドラは応えるが、心情として納得しきれていないのは手に取るように分かった。
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