表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第4章 天網恢恢疎にして漏らさず
137/266

第38話 脈動


「──カデクスの司教が死亡?」


 ハマナス商業連邦評議国。その中央に在る首都の更に中心部に聖教会本部は鎮座している。高さ約三百メートルを超える中央尖塔は、この世界で最も高く聳え、()()()とも呼ばれている。それは遥か千年もの昔、異界の勇者が邪神アナディエルをこの世界から葬った時に地上から立ち(のぼ)ったまばゆい光を後世に伝える為と聖典に記載されている。その巨大な尖塔を背負うような形で本聖堂が前面に拡がり、中央棟の部分には日が中天を指すときに本聖堂を正門から見上げると、光の柱が聖堂を貫き、太陽に向かって一直線に伸びて行くように設計されていた。尖塔を囲むように主神、魔神、地母神、大地神、鍛冶神、精霊と五つの神殿が建ち、まるで勇者を讃えるかのように、神像は皆、尖塔を見守る向きになっている。


 それら神事を司る場所から更に奥に進むと、この場所で従事する者達の宿舎や、管理運営などを行う事務棟など、現実的な建物群が並んでいた。


 信者たちが入って行けるのは大聖堂一階の祭壇まで。それ以降は、関係者以外は立ち入り禁止となっている。中央尖塔はもちろん、各神の神殿にも入る事は出来なかった。あの場所は聖域とされ、見る事さえも禁忌となっている為だった。故に、尖塔の下に色とりどりの花が咲き乱れる花園の存在など、この場所に来れる者以外、知る事は無い。


 大聖堂三階にある、枢機卿の執務部屋の一つで、オッペンハイマーは、魔導通信の内容を聞いていた。


「はい。どうやら、緊急評議会の最中に()()()()()()()が爆発呪文を使用した様でして」


「爆発呪文? 炸裂呪文ではなく?」

「は! どうやら、その事件の際、目撃者が現場に居たようでして、その者の発言により爆発呪文という事になったようです」


 その言葉を聞いたオッペンハイマー枢機卿は顔を(しか)める。それは先程問いただしたように、()()()()()()()()は似て非なる物だからだ。炸裂とは()()()を物体にぶつけて爆発させる。言うなれば、魔石に魔素を過充填し、臨界状態でぶつけるのと状態は同じで、火球を生成、魔素を増やしてぶつければ起こせる。しかし、爆発は根本が違う。()()()()()()()()()させなければいけない、相当な高等術式のはず。


「で、その者は?」

「は! 事件直後に現場確認をしたところ、その者の遺留物などが見当たらなかったため、恐らくは逃亡と判断。唯一の生き残りによって人相書きが起こされて、現在手配中との事です。……えぇと、これがその人相書きです。」


 書類の束をゴソゴソ広げ、見つけた一枚の人相書きを僧服を着た恰幅のいい男が手渡すと、オッペンハイマーは目を細める。


 そこには、特徴の書かれた文章と共に、大部分を使って描かれた男の顔があった。


 髪は短髪で散切り、色はくすんだ茶。目の色は濃い青緑。目鼻立ちは標準的で身長は百九十程。と書かれていた。オッペンハイマーはそれを読みながら、書かれた似顔絵らしきものを見て、愕然とする。


「──これが、その犯人だと?」

「は、はぁ、手配書にはそう書かれて──」

「こんなもの! 道を歩けばいくらでも居るじゃないですか! ヒュームで太っていなければ、大抵の男の特徴はこんなものです!!」


 この世界でのヒュームの一般的な男の特徴は髪の色は茶系かくすんだ金髪、瞳は青から緑の間で、身長の平均は百八十後半から二メートル程度である。年齢にしても、この見た目ならば、十八~四十まで、シワのあるなし程度の違いしか分からない。ザ・平凡だ。


「し、しかし、い……いえ、仰ることはごもっともです、はい」


 報告に来た男にとっては災難以外の何物でもなかった。何故、人相書きで自分が叱責を受けるのか。自身もその人相書きを見た時に、どこにでもいるなぁとは思ったが、まさかその事で追及を受けるとは思いもしなかった。だが相手はこの教会でトップの次に権力を持つ御方。これ以上言い返すなんて、自分の首を絞めると同義と考え、ただ頭を下げて、怒りが過ぎるのを待つしかなかった。


「グッ……ふぅ。すまない、お前に言っても詮無きことでした。それで、他の事は?」

「は、はい。えぇ今回の事件は──」




◇  ◇  ◇




 報告に来た男が下がった部屋で、オッペンハイマーは今一度資料と報告書を睨むように見ていた。


「今回の件、教皇様の諜報員(くさ)か? だが、()()らが顔を晒すような真似はせんだろう。まさか、帝国に()()()()()()のか?」


 そこまで言って、ふと資料を凝視する。

「ん? なぜ、異端審問官が引き返しているのだ? これでは──」


 部屋に設えられた執務机の豪奢な椅子に深く腰掛け、彼は思考の海へと進みだす。人知れず小声では有るが思ったことを垂れ流しながら。開いた窓の影が微かに動いた事に気付かないまま…。




*******************************




 大聖堂にはその階に応じて階級の決まった人間が生活をしている。もちろん最上階はこの教会のトップであり皆が崇める至高の存在聖女様。その階下はこの教会の実務を全て取り計らう教皇となる。この聖堂は大きく、教会部分が大半を占めるが、それでも部屋程度ならば幾らでも作れるほどに大きな建物であった。外観は地上三階建てのような形をしているが、実質構造は五階層に分かれ、二階には大司教らが三階は枢機卿の各人の部屋があった。無論各階には聖騎士が常駐し、彼等や傍付きの部屋もこの聖堂には備わっている。二階と三階には共通の階段で上がれるが、教皇と聖女様の階には別通路になっていて、専用の門からしか行けなくなっている。


「ここから先は教皇猊下の御座所。幾ら枢機卿であろうとも許可なき方をお通しする事は出来ません」


 教皇の部屋へと通じる門の前でハイネマン枢機卿は、聖騎士の二人にすげなく入室を断られていた。


「だから! 火急の用だと言っているだろう! 取り急ぎ繋いでくれ! ハイネマンが来たと!」


 彼は額に珠の汗をかきながら、必死の形相で二人に話しかける。


「申し訳ございません、我らは門番であり使いでは有りませ──」


 聖騎士が話している最中に門が内側から開かれる。


「ハイネマン枢機卿、教皇様がお待ちです。どうぞ」


 中から現れた、シスター服を着た女性がハイネマンを門へと招き入れた。

「おお! かたじけない……。どいてくれたまえ」


 突然開いた扉に呆気にとられた聖騎士たちを押しのける様に割って門をくぐり、再び扉は閉じられた。


「何なんだ一体」


 聖騎士の一人は意味が分からず、つい愚痴の様に言葉を漏らすと、もう一人の騎士が咎める様にその言葉を否定する。


「そのくらいでもうやめておけ。()()()()()に隔意を持っていると思われかねん。そうなればどうなるか……。貴様も()()の様にはなりたくあるまい」



◇  ◇   ◇


 


「いや、申し訳ない。どうしても教皇様にお伝えしなければならない事があってな、して今猊下はどちらに?」


「枢機卿。猊下は執務室にてお待ちです」




 彼女はそれだけ応えると、広く静かな通路を音もなく真っすぐ歩いて行く。ハイネマン枢機卿はその後姿を眺めながら、愛想の無い女だと思いながら、後を付いて行く。







最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ