第33話 オフィリアという少女
「──……ふぅ。」
追加で借りた個室のベッドに腰を掛け、落ち着くために大きく息を吐く。手紙を置いた机を眺め、頭の中を整理する。
ジゼルによると、俺が迷い人である事が、いろんな国の上層部が把握しているという事。俺の動向を探るため監視が何人かいる事。サーチで探ったところで判別は難しいだろう。こちらからの特定は出来ないし、明確な敵意が無ければ反応しない。曖昧な事をすれば精度が下がるだけだしな。大体、エクスに居る事がばれているんだ。転移まで使って移動してるのに。
──……モヤモヤとした気分がいつしか焦燥感へと変わっていく。
《マスター。今は冷静になりましょう。現状の明確な敵は悪魔たちだけです。その真意をはかるためにも、彼女の手紙は手掛かりになるはずです》
俺の感情に気付いたシスが、そう言って促してくる。そうだな、当面の大きな敵としては悪魔たちだ。他は多分俺を知りたがっているだけなんだろう。
「ありがとうシス、少し落ち着いた。アカシックルームには、自分の意思で行けるんだよな」
《はい。落ち着いて内面に気持ちを向ければ繋がります。部屋は結界で私が監視していますので、何かあればすぐ連絡します》
「……うん。お願いするよ」
ベッドに横になり、メイドシスを思い出すと自然と意識が混濁していく……。
◇ ◇ ◇
うっすらと目を開けると、俺はソファに座っていた。眼前には大きなモニター、テーブルにはキーボードとマウス。
「お帰りなさいませ、マスター」
「あぁ、ただいまメイ。もうファイル分けは」
「終わっています。人物フォルダも作成されていますので何時でも閲覧可能です」
メイド服に身を包んだメイと言う名の美少女が俺の横でタブレットを操作し、モニター画面を切り替えていく。
「彼女のどの部分から閲覧しますか?」
「ん~、まずは概略を知りたい。出会いや経緯なんかを──」
*******************************
俺がオフィリアと初めて会ったのは、地母神マリネラ様の神殿だった。魔術の修業中だった俺は、光魔術による治癒を会得する為に王都に有る大神殿へと通って居た。
「おはようございます。今日も朝のお祈りから始めましょう」
神官長はそう言って、聖堂に集まった子供たちに祝詞を教えていた。
「ノート殿、おはようございます」
「おはようございます、神官長。今朝はまた、一段と子供が多いようですが」
「……えぇ、実は──」
神官長の話では、近隣にあった町が教皇国軍の監査に引っ掛かったらしい。ビーシアン達を匿っていた事がばれ、大半の大人たちが異端審問にかけられ、強制労働で連れ去られたそうだ。老人と子供達だけが残され、その子たちを引き取ったそうだ。
そんな話を聞きながら、子供達を見ているとその中に一人、初めて見る修道女がいた。怪我をしているのか、足を引き摺る様にしながら、小さな子供たちの間を一生懸命歩き回っていた。
「彼女は?」
「ん? あの娘は、その町に居たシスター見習いです。本来なら彼女も連れて行かれそうになったんですが、見ての通り生まれつき足が不自由らしく、言葉もうまく話せないようでして。子供と一緒に放逐されたそうです」
──それが、俺が最初に見たオフィリアだった。
印象としては正直なところあまりなかった。あの時代は本当にどうしようもない程に胸糞だった為に、似た境遇の人々が沢山居た。
「こ、こうなのです?」
「ん? あぁ、それでいい。油を使うのは危ないから俺がする。リアは、ちび共と遊んでおいてくれ」
オフィリアとはすぐ打ち解けた。と、言うより懐かれた。俺はこの聖堂で修行する時には、奉仕活動の一環で孤児院の食事なんかの世話をしていたんだが、ちびっ子達に作る料理の中に唐揚げが有ったのだ。この世界で揚げ物料理というのは珍しかったらしく、瞬く間に大人気になった。これに彼女も飛び付いたのだ。それからは、行くたびにこれをせがまれた。作り方をシスターたちに教え、彼女達でも出来るようにしたのだが、オフィリアは何故か俺の作ったものにこだわった。
俺も子供たちと遊んだり、彼女達と一緒に行う光魔術の修業は、殺伐としたこの世界でふと地球時代の学校生活を感じたり出来て、楽しく過ごせる唯一の時間だった。
◇ ◇ ◇
「神官長。少しお話があるのですが」
修行も終盤になった頃、俺は思い切って話をする事にした。
俺の固有スキルには神眼がある。これは鑑定の最上位版であり、相手のステータスやスキルは勿論、視ようと思えば、相手の体の状態も分かる特殊なスキルだ。これはチート能力の一つで、相手の弱点看破などに使って来た。
そして、コレを使って出来る事の一つに、病気や怪我などの疾患も診る事が出来た。気づいたのはこの聖堂で光魔術を習得していく過程でだったが。
そこでオフィリアの足の事がふと気になって診てみた。
この世界では血液と同じ様に魔素が身体を循環している。コレは身体を正常に保ったり術の行使などに使うのだが、稀に何かの原因によって循環が上手く行っていない人が居た。大体は魔素が少なかったり、何かの原因で漏れていたりするのだ。大抵は漏れている場所を怪我していたりするのだが、オフィリアの場合は違った。
魔素が多すぎたのだ。
通常の人の倍近い量が彼女の体内を巡っていた。その為、彼女は常に放出しなければならない状態だった。それが足の付け根部分に有った。故に彼女の足はうまく機能せず、引き摺るような癖がついたのだろう。
何故多いのか、それは彼女の加護と、固有にあると気が付いた。彼女についた加護はマリネラ神とエギル神。固有には魔導と精霊魔術と言う特殊な固有スキルが付いていた。
「そ、それは一体どのようなスキルなんでしょう?」
「恐らくですが、マリネラ様は地母神様。エギル神は魔神様です、ならば精霊魔術は精霊術を魔術と合わせる事が出来るやもしれません。そうなればかなり大きな魔術を行使する事が出来るでしょう。精霊術と合わせれば効率が飛躍的に上がりますから。故に、地母神の加護で魔力の補正が掛かっているのだと思います。ただ、彼女はその事を自覚していません。それにああして、魔素が垂れ流しの状態です。俺ならそれを治療できます」
ほどなくして俺は彼女の治療を行った。そして彼女に奇跡が起きる。
──……ノート君、お久しぶり~!
彼女の体に地母神マリネラが顕現したのだった。
*******************************
「セレス・フィリア様みたいな事してやがるぅ!!」
ソファの上で仰け反ってしまう。
「アハハ。マリネラ様はお茶目ですからね」
「あ! 逆か! セレス・フィリア様がコレを真似したんだ!」
「マスター鋭い!」
「──……いや、バカな事言ってる場合じゃねぇ。何だよコレ、これじゃぁまるで、俺の仲間になるために……って、そう言う事なのか?」
「イリス様達は、マスターだけに負担を強いる事に相当の自責の念が有ったのでしょう。それ故の──」
「バカ野郎がぁ!! そんな! そんな事の為に彼女に負担を強いたのかよ!! それじゃ、本末転倒じゃねえか! 初めから神託でもして彼女に普通に合わせてくれればいいだけだろうが!!」
何で彼女にそんな過酷な思いをさせる必要があったんだと喚き散らしていると、メイドシスが伏し目がちに俺に告げて来る。
「今と同じことを、この時も仰っていました。そしてこの後、神達は神託を使う様になったのです」
──は?
「神達は、神託と言う物を知らなかったのです。あの頃の神達は大神の言いなりでした。故に地上に対して一切の施しを出来なかったのです」
「え? ど、どうゆう事だ?」
──……お忘れですか? マスターがどうやって呼ばれたのか。
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