第13話 冒険者ギルドのテンプレ
いつの間にかギルドの入り口付近に集まったマッチョ達は、大笑いをして居るアマゾネスと共に入口が埋まってしまい、とてもじゃないが中に入っていけない状態になってしまった。
──皆さん!いい加減にしてください──!
突然、鈴を鳴らしたような綺麗な声が、大きく響いた。
その声がした途端。騒いでいた連中は一斉にピタリと口を噤み、海が割れるがごとく、人垣が開けて行く──。
「どうもすみません。登録にいらしたんですよね。こちらへどうぞ」
マッチョな冒険者たちを左右に割り、堂々とこちらに歩いて来た女性が俺に声を掛けてきた。…恐る恐るその声に振り返ると…。
「モフモフは正義です!!!」
思わず、さっきまでの喧騒をはるかに上回る大声で騒いでしまった。
「──うるっさ!なに?もふ?せいぎ?」
耳を抑える皆さんと、冷や汗が流れる俺…。
「あ、あはは!……スイマセン。ちょっと情緒不安定になってしまったようです」
「…そうなんですね。こちらこそごめんなさいネ。ココは気の荒い人が多いから」
なにやら、違う勘違いをしてくれた様で彼女は逆に謝って来てくれたが、俺には全く聞こえていない。…ふわぁ、ワンコだ。耳がピコピコしてるぅ。…かわえぇ。
「──あの、大丈夫ですか?」
「あ、はいスイマセン。それで、登録は可能でしょうか?」
「はい。適性検査で合格すれば大丈夫ですよ。」
「…わかりました。頑張ります」
─…誰でもなれる訳じゃないのね。
「はい、ではこちらでまず、カードの確認と書類を作成しますのでカードをお出しください」
言われてカードを手渡すと、いつもの魔導器に通していた。
「はい、お返しします。─…ぇえとノートさん、でよろしいですか?」
「はいノートです20歳です!」
「ふふ、はい。私はキャロルと申します。このギルドで受付のチーフをしています。」
──キャロルさん。ええなぁ~かわえぇ…。あ、シッポ揺れてる。
「ではノートさん、得意なエモノはなんですか?」
「え?エモノ?って?」
「はい、得意な武器の事です」
当たり前の様に犬耳キャロルさんが聞いて来るが、もちろんそんなの在る訳ないし。…敢えて言えば、何だろ?あ、ずっと自炊してたから、包丁位なら……ないな。
「─…あのぅ。武器ってのは、あまり得意じゃないんですよね」
「え?ではどうやって戦闘を?」
「えぇと、魔術…とかです」
「え?!ノートさん!その若さで戦闘系の魔術が扱えるんですか!!」
キャロルさん声でかい!…って。
「へ?魔術って年齢関係あるんですか?」
「あぁ、いえ。そう言う訳じゃないんです。ただ、え~、ノートさんて20歳ですよね?それで、戦闘に魔術を使うとなると、魔力保有量、大丈夫なんですか?」
彼女の言葉に内心で焦りまくる。うあぁ、そんな縛りも在るのかよぉ。魔術の記憶マジ、ガバガバじゃんか。どう言う風に返事をしようかと曖昧に笑って誤魔化していると。”ずい”と彼女が顔を寄せて聞いて来る。
「もしかしてノートさん。……加護持ちですか?」
なにそのピンポイントなご指摘は?!ってか、それって有りなんか?
「ま、魔神さまの──」
「素晴らしい!!」
俺の返事に被せ気味に大きな声で叫ぶキャロルさん。わかったから!ボリューム下げて!お願いします!
「で、では、属性は?属性は幾つです?は!もしかしてフォース、それとも、マル──…。」
俺の心の叫びは全く届かず、次から次へと…。どうしよう~、明らかにキャロルさんのテンションが可笑しい。それに周りが何時の間にか静かなのがものすごく怖い。振り返れない…。
黙って指を5本だけ見せる。このぐらいにしておこう。しかしこれが大きな間違いだった。俺の示した手をまじまじと見たキャロルさんは、バンッとカウンターを叩き。
「しょ、少々おまちくだしゃい!」
それだけ言って、俺の書類を引っ掴んで奥のドアを蹴破る様に飛び込んでいく。
──…どないすんねん、これ。そう思って隣にいる受付のおねーちゃんに視線で訴えかけるが、彼女は全くこっちを見ない。おい!アンタ、誰も相手してないじゃん!お願いヘルプ!何とかしてよ~。
時間にすれば一分も経っていないのだろう。だが、沢山の人がいるこの部屋で、呼吸音すら聞こえない静寂ってどんなだよ!心音だけが耳に響き、心の中では絶叫しながら転がっている俺。マップ上に変化はない。大丈夫。大丈夫だ。…平常心、平常心。そう。イッツ・ソウ・クール!イエア!
暫くすると、さざめく様に音が聞こえてくる。ざわ、ざわ…ざわ、ざわ…。何処かで見たか、聴いたかのような雰囲気が漂い始める。
おをぅ。キャロル!カムバック・ヒヤ。なう!早く!今すぐ!
何時しか俺を遠巻きにしながら、取り囲むような雰囲気が感じられた時。
「お、おい兄ちゃん。…あんた、まじで」
”バン!”
「ノートさん!こちらへ!」
「はい!!」
間一髪のところで救世主の様に登場したキャロルに連れられて、なんとか揉みくちゃにされそうだった所を出てこれたのは良いんだが。…はぁ。この部屋には入りたくないなぁ。
”コンコンコン”
「マスター、お連れしました」
『どうぞ、入ってもらって』
一拍置いて部屋の主からの返事。
「失礼します」
キャロルさんは、ノブを捻りドアを開く。…うはぁ。マジで、ここ入るのかぁ。嫌々ながらも渋々、彼女に続いて、ドアを潜った。
部屋の真ん中には応接セットが置かれていた。正面向かって、左右には書棚がずらりと並び、その奥には書類の山積された、大きな机が在った。
「すまない。すぐに終わるので其処に座ってて」
その人は顔を上げずに書類の山に埋もれたままそう言った。
──……えろふだ…エロフがそこに居た。
流れる様な銀髪、肌は浅黒く艶に光っている。耳は長く、すっと伸びていて、大きく空いた胸の部分には、溢れんばかりの谷間が窮屈そうに主張していた。
「フッ」
を?見てるのバレた?てか、おいそこ!告げ口すんなし!
少しして、書物を終えた彼女はスッと立ち上がり、対面のソファに腰掛ける。…パーフェクツ・アァンドゥ・ダイナマイツ・バディ!ボン!・キュッ!!・アンド・ボン!○の微笑のシャロ○・スト○ンさながらに短いスカートを巧みに操り、ギリギリをこの矮小で、ワイ将!なチェリーオジサンに見せつけてくる。思わず赤面し、やや前傾姿勢を自然にとるのは致し方ない事、コレ自然の摂理…。
ソファの後ろに立つキャロルから、仄暗い何かが立ち上っていくような感じもしたが、そちらは敢えて見ない。
──ほら、ピキッて聴こえてない・・
「この方が?」
「はい。書類は此方です」
キャロルさんはそう言って、俺の書類を差し出す。
「──そう。」
ふぅ、と吐息の様に溜息を小さくつきながら、書類を一瞥した彼女は、キャロルを見て、二人にして欲しいと伝える。優雅な微笑をみせながら。
「──…っ!はい。」
静かにドアが閉じられる。彼女の表情は分からなかったが、尻尾は項垂れていた。
「はぁァ~~次から次へと…。問題山積ねぇ~」
さっきまでの態度からは想像もつかない程に、脱力からのクソでかため息。そしてボヤき…なんだ?
”ギヌロッ”
『お前が、イリス様の言っていたノートだな』
──なん…だと。あ、また言っちゃった。
い、今このエロフ、何て言った?瞬間、部屋の空気が変わる。寒いような、そしてひりつくような…。
彼女が俺を正視していた。
『エリオスめ、なんちゅうモノを創ったんだ』
いやいや。え?なんで?…ナニコレ、一体どうなってんだ?混乱して、ポカンとした俺を見た彼女が、俺に話しかけてくる。
『ん?なんだ、我が誰か判らんのか?』
いや、名前は分かってるんです。でもね、これって…鑑定(全)ではこんなん出てるんですよ。
Name セーリス(セレス・フィリア憑依中)
『なんだ。解かっておるではないか。そうだ、今私はこの者の体を借りている』
──いや、普通に怖いですが?
『馬鹿者、いいか?怖いのは此方の方だ。突然神託が降りたと思えば、【迷い人を降ろす。そいつは身体を失ったからエリオスが創った肉体を纏っている。よって殺すことは勿論、傷すら付けられない様頑丈にした。後はそっちに行ったら、出来るだけ面倒を見てやってくれ】だぞ。何で今、落ち着いている世界にそんな化物が来るんだ?と思うだろう?』
─面目次第もござりません。ってかセレス様、心読まないでください。チョット、トラウマってんですから…。
『はっ!何を今更殊勝なことを。止めてほしくばそのエロ視線をいい加減やめい!』
バレテタ。えへ。
「あ、アハハハ。余りにも見事なお胸様でしたので、ご利益に与ろうかと」
『よくもぬけぬけと。我はこんな小さな服は好かんのだがこの娘が、こんなのしか持っておらんから』
「そうですか。ところであのぅ、ナゼこちらに?ユーグドラシ──むぐっ」
強制的に口を閉じられる。ってかこの──。
『いくら結界内とは言えその発言はするな』
黙って頷くと開放された。
「ぷは、─ふぅ。このちびっこ精霊、物理干渉もできるんですねぇ。可愛いし」
俺がそう言いながら、小さな精霊達を眺めていると、セレス様は大げさに口をポカンと開けた後。
『視えてるんかい!!』
綺麗な突っ込み芸を披露してきた。勿論視えてましたよはい。最初から──。
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