第27話 回顧
「──ブフォ!! アハハハハ!!」
「アハハハハハハハ!! ノ、ノート君! 何でそうなるのぉ!」
「だ、ダメですヨヨ……プッ! ダ、ダナハハハハ!」
『プギャ───!! ひゃハハハハ!』
「うりゅひゃい!! もお、にゃんれ、こうにゃる」
予感はしてたよ。この部屋に来た時からさぁ。でもさ、サラもマリーも居てさ。セーリスにちびっ子精霊帰せなんて……。言える訳ないじゃん。
特にこのちびワンコ、くりっくりのお目目のパグみたいな奴。何でコイツは俺の口に入りたいんだ? べろんべろんとそこらじゅうを舐めながら、口に執着し過ぎだろう。横では羽根つき妖精が爆笑しながら口広げてやがるし。
とにかく何故かは分らんが、俺の体には絶賛ちびっ子精霊達が群がり中なので半ばあきらめて、話をシスにしてもらう事にした。
話の内容は、現在俺達の周りではきな臭い事が起こっている内容と、このままでは間違いなく荒事になるだろうと言う予感。マリーは身体と精神が一致していない。だから連れ回すのは難しいと判断した。それに冒険者ギルドの行方不明事件……。エリシアからこっち、ギルドがどうも信用できない。その為このエクスで何かが起きるかもしれない。だから一度ここに戻って色々確認したくなったのだ。彼女の言葉を思い出したのも有るし。
──組織って物は化物だ。派閥という神輿を作り、頭をすげ替えながらドンドン膨らんでいく。
その真意を聞きたかった。ギルドが今どの様に動いているかを……。
《──と、言う事になっていまして。こちらにお邪魔した訳です》
「フム……フフッ。ぶははは! 駄目だ! ちょっと待ってくれ! おい! いい加減に勘弁してやれ、サラやマリーたちと遊んで来い」
セーリスがそう言うと、群がっていたちびっ子達は名残惜しそうにしながら、俺から離れて行く。ちびパグは最後まで抵抗していたが、妖精がパグを引き剥がして、ソファから離れて行った。
「あぁ~~~。あごがおかしくなってる感じだぁ……。ってか、わざと引っ張ってたな! うぅ、身体が何だかもぞもぞするぅ」
やっとちびっ子精霊達から解放されると同時に、セーリスの言葉で皆がわざとくっついていた事に気が付き、文句を言ってやる。
「ふん! お前は何時も厄介事を持ってくるからな! この位やらんと気が済まん!」
「グぬ……。強く言い返せない自分が情けない」
「まぁまぁ、仲が良いのは分かったから、そろそろ本題いいかしら」
「な、な、何でそうなるんだシェリー!」
「見てれば分かりますよセーリス」
「ふぎゃあ?! キャロまで!! っておばあ様ぁ! なんて目でこっちを見るんですかぁ!?」
「ん? いやぁ、お主にもやっとかと思うての。儂はやっと子供達に報告できるな。あの世──」
「死んでませんからぁ! 二人は森でイチャイチャしてますぅ!」
あ~あぁ。遊ばれちゃってるよ。顔真っ赤にしちゃって……。可愛いなぁもう。
”ギロ!”
「貴様、おかしな事を考えていないか?」
「ファ? 可愛いなぁって思っただけだよ?」
”ボフン!”
「───へぅ」
「「「「……あ!」」」」
結局ショートしてぶっ倒れたセーリスが起きるまで、皆でお茶を飲んだ。
「ところでノートよ。マリーはどうして精霊が見えておるのじゃ?」
セリスがお茶を飲みながら精霊達と遊ぶサラとマリーを見ながら聞いて来る。
「確か、あの娘は加護以外すべてを失ったんではなかったのか?」
そう。彼女のステータスを見た時、マリネラの加護以外スキルは全て譲渡されていた。にもかかわらず彼女には精霊が見え、意思の疎通さえ出来ているように見える。
「うん。今もステータスには変化はないよ。逆に精霊の事ならセレス様に聞いた方が早いんじゃないの?」
セレス・フィリア様は精霊の王だ。そっちに聞く方が手っ取り早いと思うのだが。
「いや、どうも良く分からんらしい。彼女は確か精霊術のスキル持ちだっただけじゃろ? ならそもそも、視えると言うのが分からんのじゃ。精霊は術者の文言によって力を貸すが、それ自体に視える視えないは関係ないからな」
「え?! そうなの?」
「なんじゃ、知らなかったのか。精霊術師は基本的に精霊と契約してはおらん。その時その場で文言によって精霊に自身の魔素を渡して発動させるのじゃ。じゃから、親和性の高い者や、精霊術のスキルを持つ者がその術を行使できるのじゃ」
「うはぁ。そう言う縛りだったんだぁ、俺はてっきり精霊と契約できないと魔法は使えないもんだと思ってたよ」
「あぁ。勿論そう言う方法もあるぞ。じゃがそんなにポンポン精霊と契約できる者がおれば、魔術自体が発展しておらんはずじゃ」
言われて納得だった。精霊魔法の方が魔素の使用効率もその効果も格段に違うんだから。術が開発されるより、そちらに注力するのは自明の理だ。
「あれ? じゃぁ何でマリーは──」
「う、うぅん」
「あ、セーリスが気づいたようです」
「前にも話したと思うが、このエクスで冒険者はかなり冷遇されている」
目覚めた途端にぶすくれ、拗ねまくったセーリスを何とか宥め、本題に入った。
「それはどうしてなんです? ここは会館とも別棟になっているし、凄い変ですよね」
「あぁ、それは───」
セーリスの語った話は彼女の前任のマスター時代からの事だった。
この最も辺境に有る街エクスが出来るまで、街はカデクスが最果てだった。元領都でもあったカデクス。それ故、ここに街が出来る事を良しとしない者達も存在していた。それは彼女の言った『パイの話し』だ。利権や管轄の話しで揉めまくったらしい。
それでも辺境伯の一言でここに街が出来る事になった。元々あった町を拡張し、周辺地域からの入植者も一気に増えた。そこで持ち上がるのがギルド会館のマスター問題。元は小さな町だったエクスに存在していたのは、冒険者ギルドと薬師ギルドだけだった。その為それ以外のギルドが、人員をカデクスから送ることになったのだ。商業、錬金、治癒師、魔技師など。
そこで起きたのが醜い派閥争い。それでなくともカデクスのギルドは評議会が存在するような歴史あるギルドだったのだ。当然栄転を望み領都に行きたがる者や、この争いに乗じて、評議になりたがる者も出てくる。カデクスでは相当醜い争いがあったのだろう。そうしてこの街に来たのは全てが、その敗残者……。プライドは高く、下手に人脈を持ったひねくれた人間たちが、このエクスへと送られた。唯一元からあった冒険者ギルドと薬師ギルドは、マスターが変わることなく、引き続きエクスの街のギルドマスターとなった。
ただ、ここで一つの問題が起こる。
冒険者ギルドの建物が存在する場所だった。
この街は新しく造られた街だ。その為ギルド会館は街の大通りに鎮座する大きな神殿を改築され、使う事となったのだ。元は聖教会の神殿だったが、街の拡張に伴い貴族街に教会は移った為、プライドの高いギルマスたちはその荘厳な場所に会館を作った。
だが冒険者ギルドはその仕事内容やいざと言う時の為に、外壁に面した場所に在るのが定石だった。
その為に前ギルドマスターはその事を固持し、外壁近くに元々あったギルドを拡張する形で冒険者ギルドを建設した。そのせいでカデクスから来たギルマスたちは、元々下に見ていた冒険者ギルドのギルマスを鼻つまみ者の様に思い、確執が産まれて広がって行った。
そうして何十年かが過ぎ、唯一仲が良かった薬師ギルドも代替わりする頃には、会館のギルマスたちと同じ様な存在になって行った。まぁ、当然懐柔されたのだが。そして今から六年ほど前。
ビーシアンの国で起きた小競り合いを発端とする戦争。シンデリス事変が起きた。その戦果は瞬く間に各地へ飛び火し、ヒュームとビーシアンがいがみ合うと言う、哀しい時期があった。
冒険者たちはその特性上、全くそんな事でのいがみ合いは起こらなかったが、他のギルドはそうもいかなかった。
そうしてこの街に居たビーシアン達は冷遇とまではいかなくとも、あまりいい気分ではなかったらしい。その頃、セーリスはソロで現役の冒険者だった。本来であればすぐにでも立ち去りたかった。でもそう言う訳にもいかない理由があった。
セリスがこの街に居たからだ。彼女もその頃は兼業で冒険者をしていたので二人でよく狩りにも行っていた。
そんな時、瀕死のビーシアン二人を森の奥で見つけた。キャロとシェリー。彼女たちはビーシアンの特殊部隊の生き残りだった。彼女達を保護し、匿ったのが前任のギルドマスターだった。彼女たちの怪我を治し、受付嬢として教育した。
しかし、その事をどこかで嗅ぎつけた会館のギルマスたちは許さなかった。マスターを背任行為だと訴えたのだ。ギルマスは、否定も肯定もせずに言った。
───人を助けただけだ。
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