第26話 動き始める悪意
「──どう……かな?」
「「………。」」
恐る恐る聞いてみるが、皆黙ったまま手を止めずに食事を進める。
なんだ? 不味いのか? 俺的には問題ない味なんだが……。
そんな不安が募って来た頃、初めに手を止めたのはセリスだった。
「ノート! コレおかわりくれ!!」
「「わたしも!」」
「我はこのチクゼンニが気に入った!」
「おにいちゃん! このテリヤキ美味しい!!」
「……このスープ、何とも味わい深い」
「は……はは、良かったぁ~。黙ってるから、不味いのかと思ったよ」
「いやいや違うぞ! このような味は初めてじゃったし、この米? なんぞはほぼ味がしない。じゃが、お主の言ったように他の物と一緒に食べた途端、超美味になる! 何じゃこれ! うははは! 旨い! おかわりじゃ!」
セリスの言葉に皆が頷き、料理長たちも試食して頷きまくっている。
良かったぁ。でも昆布やカツオなんかが無いから、出汁が作れないのがなぁ。
出汁があればレパートリーは一気に膨らむのに等と考えながら、皆と
ワイワイ食事を進めた。
食事後、ある程度のレシピを書き料理長に渡す。基本のモノや調味料などを伝え、アレンジをお任せした。やはり専門職に頼んだ方が色々考えてくれると思ったからだ。当然彼等もお任せ下さいと早速、食材と調味料集めに厨房へと消えて行く。
「いやぁ、まさかお主があれほど料理が上手いとはのう」
「まぁ、一人での生活が長かったからね」
「それにしてもじゃ! 普通の男は屋台飯や飲み屋で済ませるのが普通じゃからの」
「そうですよ、私もほとんど宿の料理や屋台が殆どでしたもん」
あぁ、キャロはそれで……。ま、人それぞれだもんな。
屋敷のリビングに皆で集まり、お茶を飲みながらゆったりと話をして過ごす。そんな事をしているとマルクスさんが改まって礼を言ってくる。
「ノート殿、此度の我の癒し…誠にありがとうございます。其方が居なければ、今頃我はとうに死んでいたでしょう。本当に心から感謝いたします」
「いや良いんですよ、頭を上げて下さい。今回の事件は確実に俺達が関係していると思いますから」
そう、間違いなく今回の件は俺達の事に巻き込んだ形だ。聖女の話が関係しているのがその証拠だし……そして悪魔の件もある。たぶんだけど……全部まとめて俺のせいなんだろうなぁ。
そんな考えに至って自己嫌悪になりかけた時、マリーが俺の傍に来て、何も言わずに頭を撫でてくれる。彼女を見るとニコニコとほほ笑んでいた。
「──どうし」
「お兄ちゃんはやさしいのです。妖精さんが一杯いて、楽しそうにしています。マリーはそんなお兄ちゃんが大好きです。だからいい子いい子するのです」
──妖精か……。
ハカセは元気にしているかな? サラやユマたちは……。
そこまで考えてふと思いつく。移動が出来ない時間があるなら……。
「シス! 皆、ちょっと聞いて欲しい事が有るんだけど──」
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「──で、アレがノート。迷い人って奴か」
冒険者ギルドカデクス支部のマスタールームで、ベイルズが応接ソファでふんぞり返ってギルマスと話していた。
「そうだ。我ら影が確認したので間違いはない。貴様なら問題なく殺せるだろう。そののち、奴の庇護下にいる娘を攫ってこい。いいか、殺すのはノートとその一味、スレイヤーズだけだ。娘は殺すな。これは絶対だ、傷一つ付けることは許されん」
「あぁ? んだよクソだりぃ注文だなぁ。メンドクセェのはキレェなんだ」
「……貴様には、充分な金を払っている。皇帝陛下のご下命だ。あの娘を
正妃様の息女と確認できるまで、その命を奪う事は許されていない」
──はぁ、皇帝陛下ねぇ。ゲールの野郎……。クソだりぃ事押し付けやがって。
「へいへい、了解っす~。ところでアンタ、ここのマスターどうやって操ってんの? 俺でもその糸しか見えないんだけど」
「──…チッ、魔眼持ちめ。固有スキルだ、話す訳なかろう」
「アハハハ! んじゃ今日はお役御免てところで!」
ベイルズは、上辺だけの軽薄な笑いを残し、部屋を出て行く。
──魔眼なんか持ってねぇよ。普通に見えるだけだよニンゲン。
ベイルズは心の中で呟いて扉を閉める。
「ふん、貴様はしょせん駒に過ぎん。ネヴィル、アレの監視は問題ないか?」
「は! 我が眷属にて抜かりなく」
「ならばよし。何かあれば即座に殺れ」
「は!」
一人で喋り続けるギルドマスターの影が一瞬揺れ、またもとの形の戻る。
「さて、こちらも準備を始めねばならんな」
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「し、審問官様、誠に宜しいのでしょうか?」
馬車の手綱を握る御者が、恐る恐る後ろの客室部分を覗き込みながら、言葉を発する。
カデクスの街に入る手前の小さな町に入った時だった。何時もの様に、聖教会の支部に立ち寄った時、慌てた司教から通信文を貰った。
──至急。本部に戻れ──
通信文の平文にはそう書かれていた。しかし、その発信者を確認して審問官はギョッとした。
──オフィリア様だと!?
彼は審問官であっても異端審問官である。故に彼が動くときは大抵が咎人への処断である。その性質上、行動は常に秘密である。唯一それを知るのは教皇と審問機関のごく一部のみ。
当然では有るが、今回の件については聖女様は知らない。筈であった。
──異端審問官。彼らは審問機関の暗部であり、処刑人である。常にそれを行う者を引き連れ、時には何人もの咎人を処断してきた。
ある時は家族諸共……村ごと焼いた事すらも……。
聖教会はヒュームにとって唯一の宗教でなければいけないのだ。国法でもそう定められている。故にそれ以外の神は存在しない。それ以外は邪神である。聖女様はその唯一神がヒュームに与え給うた神の御使い様。
清廉であり、潔白であり、清楚、可憐。慈愛に満ち、全てのヒュームの慈母であらせられる至高の御方。
その様なお方に我らの存在を知られていたとは──。
審問官は即座に御者に告げた。
「今すぐ本部へ戻ります!」
マズイぞ。この事を教皇はお知りなのか?! 今回の事は最も聖女に知られてはならぬ事。下手をすれば、聖女の交代を視野に入れねばならぬ……。ぬぅ、代替わりは行われたばかりなのに。告げ鳥は送ったが……如何様になさるおつもりか──。
「構わん! 急げ!! 馬ならば幾らでも替えて構わん! まずは本部へ!!」
「か、畏まりましたぁ!」
”ピシィ!” ”ヒヒィン!”
御者が鞭を打ち、嘶きを上げて馬車は加速していく。従えた幌馬車と共に…。
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「ほ、本当に来た……」
セーリスは隠し扉から出てきた面々を見て腰が砕けそうになる。
「ノートしゃん!! うひゃぁ!」
駆け寄ってきたサラが、床板の継ぎ目に引っ掛かり綺麗にボディアタックを決めて来る。
”ボスン!”
「おっと、大丈夫? 久しぶりだね二人共」
「痛いですぅ」
突っ込んできた時にどこかぶつけたのか、頭を抱えて蹲るサラを撫でながら、セーリスに向かって声を掛ける。
「あれ? ハカセに言ったんだけど……って、なにこの部屋」
──妖精さんがいっぱいですぅ!!
「……! この女性が?!」
「っと、うわ、ホントだ。懐かしい! あ、セーリス!」
「そう、マリアーベルさん。でも今はこの子ね」
セーリスの言葉に、反応したのはシェリーだけだった。
『ただいま、久しいの。元気だったか?』
最後に扉から出てきたセレス様が、セーリスに挨拶をして隠し扉はステルスによってその姿を消していく。
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