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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第4章 天網恢恢疎にして漏らさず
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第25話 なんちゃって和食



 ──俺はこう見えても自炊歴は結構長い。


 確かにブラック企業で年中無休で朝から夜中近くまで働きづめでは有ったが、給料なんて雀の涙だった。当然外食やコンビニ弁当ばかりをいつも買えるほど裕福でもない。だから食費を浮かせるためには自炊は必須だった。常備菜を作っては冷蔵し、下味をして冷凍保存も毎週何とか出来ていた。だからと言う訳ではないが、和食は当たり前のように作れた。レパートリーは少なかったが。


 鮭のホイル焼きは下処理さえ終わっていれば、フライパンで蒸し焼きするだけだったし、鰤の照り焼きもフライパン一つ。


 鯖だって同じだ。全部調味液に浸して冷凍後、フライパンで蒸し焼きすれば簡単に出来た。米だってまとめて炊いて、タッパで小分けし即冷凍。変に冷ましたり、冷蔵なんかすると味が落ちるので、炊き立てを冷凍するのがコツだ。おかげで冷凍庫だけ別に買ったんだ。


 そんな事を思い出しながら、食品を扱う通りに案内してもらった。


「なぁ、エライ()()()()()()が、お主なにかあったのか?」


 セリスが俺の浮かれっぷりに変なモノを見る目で聞いて来る。


「失礼な目で見るな! まぁ、確かに浮かれてるのは認めるが」

「何かいいことあったんですか?」


 キャロの言葉に大きく頷き返事をする。


「ああ! 俺の元居た世界の調味料がこの世界にも有ってさ! 俺の住んでた場所では殆どの料理に使ってた調味料なんだよ」


「へぇ、そんなに何にでも合う物なの?」


 今度はシェリーが聞いて来る。


「ああ! さっき食べた串焼きに使われてた甘じょっぱいタレ。アレもそれを使った一つなんだよ」


「あの串焼きおいしかったねぇ! また食べたい!」

「おう! 俺がもっと色んなもの作ってやる!」

「やったー!!」


 マリアーベルが喜びピョンピョンその場で飛び跳ねる。


「ノート様、あちらが食材や調味料などを扱う店です」

 

「おお! 食材がこんなに!」


 店には所狭しと棚が並び、全ての棚には調味料や食材がきれいに陳列されていた。その為、色々な匂いが混ざってしまい、肝心の醤油が何処か分からない。


「すみません、黒ソウスは何処に有りますか?」


 俺は店先に居た背の低い店員に声を掛けて聞いてみた。


「はい?! 黒ソウスですか。あちらの棚に並んでいますよ」


 彼女はそう言ってこちらに振り返った。



 ──き、キツネ耳ぃ!! かわえぇ!


 その店員さんはビーシアンの狐種だった。大きくとがった耳にクリッとした目、尻尾は多分、仕事上外に出してはいけないんだろう、大きく長いスカートに隠されている。


「か、可愛いお耳だ」

「ふぇ?」


 思わず呟いてしまった俺の声に彼女は顔を赤くして、目をぱちくりと仰天する。


「「ノートさん!(君!)」」


 その言葉に後ろの二人がすぐさま反応、俺の両耳を別々に引き延ばしていく。


「ぎゃぁぁぁあ! 取れる取れる! 千切れてしまうう!」


 幾ら頑丈と言っても痛いものは痛い! 堪らず俺が叫んでいると奥から人が飛んできた。


「何だ!! どうしました!?」

 


「アハハハ! そうでしたか。確かにうちの看板娘ですからね! な、エイミー」

「もう! お父さん! 恥ずかしいからそんな事大きい声で言わないで!」


 飛び出してきた店の主人に事の顛末を話し、謝罪をするとそんな言葉が返ってきた。この店は主人である狐種のダルクさん一家が経営する食材店で、家族や親戚一同で、何店舗かを切り盛りしているそうだった。


「へぇ。狐種の人達は頭がいいって聞いてたけど、やっぱり商才があるのね」

「いえいえ。偶々農家をしていた親戚が居たんですよ、それが縁で始めたのが切っ掛けです」


 シェリーやキャロル達とにこやかに話すダルクさんを見ていると、ビーシアンの人達って、種族によってもそう言った特性のような物が有るんだなぁと思っていた。


「それで? お探しのものは黒ソウスだけで良いんですか? 他にもいろいろありますよ」


「あ、じゃあ色々聞きたいんですけど──」




******************************




 治癒院を出た馬車はロッテン男爵の屋敷内に入り、裏口側へと回り込む。連絡を受けていた家令が扉を開けると、従者と思しき者達だけが五人降りてくる。


「──…!! お、お帰りなさいませ」


 なぜかその中の大柄な一人に、家令は目を見張りながらも出迎えの挨拶を小声で話し、屋敷の中へと入って行った。




「──…ま、まさに()()ですな」


 役所に来た使いと共に大急ぎで屋敷に戻って居た男爵は、その姿を見て感嘆の声を漏らす。


 彼の執務室に入ってきた大柄の男性。それは紛れもなくマルクスだった。身体に一切の欠損はなく、傷までも無くなった彼は失ったカイゼル髭以外は完全に昨日朝に見送った、そのままの彼だった。


「うむ。未だに我も信じられぬよ。かの御仁は正に()使()と言われても納得します。エリクサーを作り、光の魔術を併用して部位そのものを再構築等と……。今も夢を見ておるようです」


「はぁ~~。迷い人とは……。まるで異界の勇者様の様ですな」

 男爵はそう言って昔に読んだお伽噺を思い出す。

 

 ──曰く勇者はあらゆる魔術を創造した。


 ──曰く勇者はあらゆる癒しを齎した。


 ──曰く勇者はあらゆる薬を創造した。


 勇者はそれらを仲間に伝え、魔導師と聖女が誕生した。


 邪神を討伐し、自らの身をもってそれと共に封印した。


 そうして勇者は神に認められ、神の使いとなった。


 これが世間一般に出回っている勇者のお伽噺の概要。

 

「ところで、その皆さんは今どこに?」

「ム? 彼等も治癒院は一緒に出た筈ですが」


 

 結局二人の心配をよそに、俺達は夕刻近くに屋敷に戻った。




「はぁ? 厨房を使うのですか?」

「駄目でしょうか?」

「いえ、それは全く構わないのですが、我が家の食事に至らない所でも?」

「ああ、全然そう言う事ではないんです。えぇとですね、黒ソウスをご存じですよね」

「え? ええ。この町の特産品ですからね。それが?」

「そのソウス、俺の住んでた場所の料理には必ずと言っていい程使っていたんです。なのでこちらの食材を使って俺の郷土料理を作りたくなって」


「なるほど! それはこちらとしても興味が有りますな! 是非ご相伴にあずかりたいものです」


「はい。じゃあ早速ですがお借りしますね」


 そう言って俺は皆と一緒に厨房へ入る。料理長や他の人も見学したいと言って来たので、結構な大人数になったが、気にしない事にした。


 先ずは異界庫から仕入れてきた調味料を取り出し並べて行く。


 醤油(黒ソウス) 味噌(レッドペースト) 味醂(ブラウンリカー) (ホワイトグレイン)


 何と欲しかった日本のものが別名でほぼ揃ったのだった。砂糖や塩、コショウなどはポピュラーなので、厨房にもあった。そこでシンプルに和食の()()を作る事に決めた。


「じゃあ、この米を先ずは研いでもらって──」


 シェリーやキャロにはコメ研ぎや野菜の洗い等を頼み、俺は魚を捌くことにした。


 この世界で魚と言えば川魚しか出回っていない。海は大型海生魔獣が居る為、そもそも漁業が発達していない。だが川魚と言っても小さい魚ばかりではない。イワナやマスと言った大型も生息している。そうした魚を生簀で養殖している場所も有る。なんだかちぐはぐな感じもするが、そこはファンタジーで考えるのを辞めた。


 見た目はイワナのようなしかし大きさは鮭ほどもある魚の頭を落とし、腹を捌いて内臓を抜く。水で綺麗に洗ってから三枚におろし、その後切り身にしていく。味見の為に小さく切った身を焼くと、淡白な白身魚の味がした、ほんのり脂も感じられたので、こいつは照り焼きに決定。


 米に水を吸わせている間、皆には野菜を乱切りにしてもらう。使った野菜はニンジン、タケノコ、里芋のような物、インゲン、それに鶏肉を一緒に切ってもらう。惜しむらくはこんにゃくが見つからなかった事だった。


 それらを先ずは野菜だけで水から煮る。その際、出来心で結界を使い圧力を掛けて見ると、あっさり出来た。鶏肉をさっと焼いてからそこに入れて醤油、みりん、塩コショウで味を決めて行く。


 味噌汁には白ネギを使った。豆腐も見当たらなかったので仕方ない。


 魚の照り焼きは、切り身に小麦粉をまぶしてからフライパンに入れ、片面を焼いてから、ひっくり返して蓋をする。その間に照り焼きのたれを調合し、頃合いを見てフライパンに流し込む。何度も表面に掛けながら、たれが絡まりとろみが出れば完成だ。


◇  ◇  ◇


 テーブルの上にはごはん、味噌汁、魚の照り焼き。そして大皿に盛った筑前煮風が並ぶ。漬物が無いのが寂しいが、そこまで作り方を知らないのでそれは諦めた。


「これが、ノート殿の国の料理ですか」

「はい。『和食』と言います。本来であれば、出汁(だし)を使いたかったんですが、見つからなかったので、この味噌汁(みそしる)には魚の()()を使ってだしを取っています。全体的に塩味が効いていますので、この米と交互に食べるのが良いと思います」



 そう言って俺がフォークとナイフを使って食べ始めると、皆も真似をしながら食べ始めた。

 

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