第22話 齟齬
──悪魔族──
遥か太古の時代、我ら精霊種とは全く違う力を源とした種族。
我らが自然を力とするならば、彼らは贄を以て力を行使した。
故に彼らは我等の様に実体を不要とし、契約を以て実体を得る。
但し、その思想理念は邪悪であり、負の感情を糧とする。
その感情は瞬く間に連鎖し膨らみ、感情を持ったものはいつしか
自らの憎しみで滅んでしまう。
それらがいつ産まれたのか。どうして邪悪なのか。神ですらも知らない。
地上に降りた最後の邪神、アナディエルはこの悪魔の神と目され、勇者によって討伐された。
中央大陸の最北にあるとされる魔国。そこには人の身で超える事が出来ない還らずの森と絶壁山脈が連なり、その向こうに在ると言われてはいるが、それを確認出来る者は居ない。
何より実体を持たない彼らを認識できないのだ、神ですら見つけられなかった存在……。
何時しかそれは忘れ去られ、お伽噺からでさえ消えてしまった。
その生態も人数も、何もかもが闇の向こうに隠れた存在。
『……それが悪魔族だ』
魔導車のリビングでソファに深く腰掛けながら、セレス様は苦い顔をしながら説明してくれる。話を聞いていて俺は思い出したことを聞いてみた。
「セレス様、神魔戦争ってなかった? 悪魔族じゃなくて悪魔種ってのと」
俺がこの世界に来てすぐの頃、この世界の事を整理してた時考えて思い出してた事だ。勇者の邪神討伐よりもずっと前、そんな事があったと記憶の中には残っている。
『悪魔種? ……いや、邪神討伐以前に起きた事と言えば……魔獣とモンスターの大氾濫位だったと思うが』
「あぁ、スキル獲得のための試練ってやつか。グスノフ様に聞い──!?」
あれ? そう言えばグスノフ様は神魔戦争なんて言葉言ってないぞ!?
……どうゆう事だ? 俺の記憶はこの世界に来る前に神達からインストールされた記憶だ。ならなぜ神がその事を知らない? セレス様だって、世界創造から生きてるんだ。彼女は唯一この世界を見て来た一人。なら彼女の言う事に間違いはないだろう……。
──真実はどれだ?
事実は今セレス様やグスノフ様が言ってた事だろう。じゃあ俺の頭の記憶はなんだ? 勇者時代は今から千年以上前……。その時の記憶があれば何か分かるのか?
ふとそんな考えがよぎり、俺はシスを何の気なしに見つめていた。
「おにいちゃん!」
俺の部屋のドアが勢いよく開き、俺にそのままダイブした。
”ボスン!”
「うおを!」
「マリーちゃん! まだノートさんはお話し中です……あら、大丈夫ですか?」
マリーはソファに座る俺にダイブした。下腹部に向かって。瞬間目の前には火花が飛び○○がナニしてアレになってしまった。
「キュウ……」
《……ター、マスター、大丈夫ですか?》
「はぅわ! ……ってここは?」
気が付くとそこはソファとローテーブルがあり、目の前には大きなモニターが設置されていた。
「アカシックルーム……」
《はい。お久しぶりです》
そこにはメイド姿の女性型シス【メイ】が控えていた。
「あ。あぁ、久しぶり? いや実感ないけど」
《あはは、ですよね。本体とは何時も一緒ですし、声は本体と同じですから。あ、でも見た目は全く違うと思うのですが》
言われて彼女を見上げると、確かに見た目は超美人である。髪は亜麻色で、瞳は透き通ったアイスグリーン。鼻梁は細く真っすぐで高く、口は小さいが、ピンクに染まり、ぷっくりとしている。スタイルも良く胸はそのメイド服を押し上げるほどで、腰の細さを強調している。
だが、イリス様を知っている俺としてはこう、何と言うか……。ってそんなの今は関係ない!
「まぁ、そこはとりま置いておこう。ってか俺は何でここに?」
《むぅ。このボディの設計はマスターなんですよ! 少しは褒めて下さいよ!》
……なんだ? コイツこんなに我がままだったっけ? そんな事を考えながら、はいはい綺麗で美人だと、褒めるが余り納得せずにぶつぶつ言いながら、応えてくれる。
《え~、マリアーベルさんに金的を頂いたのは覚えています?》
「え?! あ、あぁ」
《その直前、マスターは記憶の事を考えていませんでしたか》
「あ! それで無意識にこっちへ飛んだのか」
《はい。……検索なさいますか?》
◇ ◇ ◇
「おにいちゃん! おにいちゃん! どうしよう!お にいちゃんが死んじゃった!!」
「お、落ち着いてマリーちゃん! 先ずはそこをどきましょう! でないと、ホントに不味いです」
マリーは動かなくなって白目を剥いた俺の上に覆いかぶさったまま、がっくんがっくん俺を揺さぶる。
キャロルはそんなマリーを宥めようと必死に身体を引き上げて、何とか俺の股間を死守してくれた。
『……つ、潰れては無いだろ』
流石のセレスも引き攣った顔で覗き込み、シェリーが傍に寄ってくる。
「そんな! ノート君! だいじょう──」
《皆さん落ち着いて下さい! マスターなら大丈夫です、今アカシックルームに意識を移動させているだけです。身体的にも問題は有りませんから》
「「「アカシックルーム?」」」
◇ ◇ ◇
「ではマルクス卿、よろしくお願いします。」
「うむ。賊はあのまま監視しておいてください。一切引き渡しは無用です」
「承知しています。会館までは馬車を使ってください。くれぐれもお気をつけて」
「恐縮です。では」
屋敷の執務室では、マルクスがロッテン男爵に会館へ出向く挨拶をしていた。家令を伴い玄関へと向かうマルクス。執務室に残ったロッテン男爵は一人、窓から裏庭を見ていた。
「彼らのせいか、おかげなのか……。良くも悪くも街は変わって行くのだな」
そう小さく呟いてから、部屋にいた侍従に建物の修理の手配を指示していく。
(ここが正念場となるだろう。気を引き締めねばな)
「マルクス様。評議会の事、よろしくお願い申します」
馬車に乗り込もうと足を上げた彼に、小さいながらもはっきり
聞こえるように家令が告げる。
「うむ。任された」
そう答え、彼は振り向かずに馬車の扉を自ら閉じる。
*****************************
カデクスギルド会館の会議室には各ギルドマスターを筆頭に、衛兵隊長ヤコビル、カデクス聖教会のシュタイナー司教など、評議会メンバーが総て揃っていた。
「それで司教殿、今回の件どうなさるおつもりか?」
ギルドマスター総括である、フィヨルド議長がシュタイナー司教に話しかける。
「え~、その件についてですが、あ~そのぉ。ですね、えぇ──」
「ええい! のらりくらりと一体何が言いたいのだ! はっきり言ってくださらんか!」
余りに意味のない文言にしびれを切らした評議の一人が大声で怒鳴る。
その大声にびくりと震え、直立不動で司教は答える。
「は! はいい! し、審問官が、もうこの街に来られますすす! さすれば!」
「あぁ、司教様。その事ですが、審問官殿ならばどうやらこの街の手前で引き返したそうですぞ」
「ファ?」
司教が言った答えを、フィヨルド議長が否定する。
「なにやら本部から連絡が届いた様で、大急ぎで戻って行かれたと連絡がありました」
「───は、はは」
議長の言葉に魂が抜けたようになった司教はそのまま倒れるように椅子へ腰を落とし、焦点が合わなくなった目で天井を見上げて薄ら笑いのままになる。
「どうやら司教様は、何も知らされていなかったようですな。それでヤコビル隊長、そちらの部隊が戻っていないと言うのはどういった事でしょう?」
会議室の最も端に、縮こまって身を潜めていたヤコビルに、議長の通る声が響く。指摘を受けた彼は額に球の汗を浮かべながら、何とか椅子から立ち上がる。ぎぃぃと嫌な音を響かせて椅子から立ち上がった彼は、俯き加減に言葉を紡ぐ。
「じ、実は昨晩、ある任務を実施したのですが…その部隊が戻っていません」
「ほう! 宜しければその任務とは?」
「い、いやそれについては……機密事項でありまして」
「……おい、貴様。この評議会で機密事項などとふざけた事を抜かすのか?」
先程とは全く違う議長の声音に、ヤコビルは汗が止まらなくなる。
元々今回の作戦は教皇と直接やり取りした案件。評議会を通していないのだ。だから、わざわざ特殊部隊の隠密スキル持ちを派遣した。予備のニクラウスまで使って。それなのに昨晩から全く連絡がない。ほぼ間違いなく捕縛されているだろう。
どうする? どうすれば良い? このままではこの評議会は勿論、教皇様にまで……。
「あ、あのです───」
”バン!”
ヤコビルが声を上げた瞬間、会議室のドアが大きな音を立てて開かれた。
「──失礼する! 我はフィヨルド・フォン・エリクス辺境伯、騎士団所属副団長マルクス・トッドである! この度、辺境伯様が勅命により評議会への疑義があり、参った!」
その声は会議室の端から端まで響き渡り、その場の全員は固まってしまった。
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