第12話 やってきました総合ギルド
セリスは言葉通り、格安で魔道具を譲ってくれた。…だが同時に、一つお願いもされた。
──ギルドで冒険者と魔技師のライセンスを貰ってこいと…。
理由を聞いた所、俺の魔力が必要だと言われた。
彼女は魔道具技師で魔道具を創れるそうだ。ただ属性の件があって、魔技師ってのに都度、別々に魔力補填して貰う必要が有るらしい。だが俺なら全部一人で賄えるから手っ取り早いと言われた。
「それに、お前さんも資格を持っときゃ、アタシからの依頼に出来るんだ。損じゃないだろう?」
要するにアレだ、俺を電池扱いしたいって事だ。…ふぅ。ま、綺麗なお婆ちゃんだし、いっか。
そうして半ば流されるようにして、約束をしてしまった──。
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「おい、ユマ!どうだったんだよ?」
チッ、メンドクサイのが来やがった。
何処のどんな世界でも人が集まる場所には、日向も有れば日陰も出来る。街が栄えれば人が増え、そしてパイの奪い合いが始まる。強者は日向へ、弱者は日陰へ。そして弱者が更に劣る弱者を追い込む吹き溜まりが出来る。スラムとはそういう場所だ。例え、世界が変わっても、そのサイクルは変わらなかった…。
それはこの街エクスも例外ではない。そこは街の最も外周部、そして街の入口から離れた日の差し込まない、壁の縁に在った。
「何だよ、あんた達には関係ねぇじゃんか」
「あ?!」
ユマの年齢は八歳程度、対する彼らは十~十二歳程。お互い正確な歳なんて分からない。ココには痩せっぽっちの襤褸を纏った薄汚れた子供達しか居なかった。
ユマは一人。対する彼らは4人だ。数の優位は絶対だった。
「…チッ!テメェ、新参の流れ者のくせに偉そうな口叩きやがって!」
最も背の高いタイラーが怒鳴る。スラムの最も外れにあるこの場所で、集まって生活している子供たちのリーダー格の男の子だ。所謂、お山の大将だった彼にとって、この小さい新人は全くいう事を聞かない厄介な異物だった。
「皆!やっちまえ!!」
◇ ◇ ◇
──クソッ。なんで…なんでアタシがこんな目に。
片眼が腫れ上がり、前が見にくい。口の中は切れたのか、鉄の味がする。体中が、殴られ、蹴られて言うことを効かない…痛い。
彼女はやがて土と埃の溜まった路地にへたり込んでしまう。
──ねぇパパ。なんで、なんで死んじゃったの──。
死ぬならアタシもいっしょに…つれ……て…。
彼女はそこで、気を失った。
ユマがこの街で浮浪児になったのは最近だった。彼女の父は辺境巡りの行商人。荷車一つ、ロバ1頭で村から村を廻っていた。
彼の妻は病弱だった、故に子供は諦めていた。なのに彼女はそれでも子供を欲しがった。何度も話し合ったが彼女は頑なに譲らなかった。…結果、二人の間に子供が産まれた。彼女の命と引き換えに──。
だから彼は頑張った。…頑張りすぎた。
彼女の忘れ形見を幸せに…。ただただそんな一心で──。
エクスに行けばもっと割の良い商売ができると信じて。
長い長い道のりを乳飲み子とともに巡る旅。故郷に在った金目のものは総て旅費に消えた。やっとの思いで街に入って、相棒の荷車とロバも売ったのに。
彼の命もそこで尽きてしまう。大切な大切な娘をたった一人残して。
気を失う時に父のことを思い出したからだろう。昔の記憶が蘇ってしまった。昔と言ってもほんの少し前だが。
パパ。なんで、アタシだけ生き残って……悔しい。悲しい──。
路地裏に彼女の啜り泣く声だけが静かに響いていた。
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「ただいま、女将さん」
「おや、お帰りなさい。朝市はどうでした?」
「ええ!楽しかったです。ちょっとした知り合いも出来ました」
「あら、それは良かったですねぇ」
「はい。あ、チョット休憩したら又出ます」
「はい。ごゆっくり」
部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。ふぅ、チョット落ち着いた。それにしてもエルフ!いやぁ綺麗だった。アレでお婆ちゃんとか…。なら若い子なら俺はどうなっちゃうんだ?!
……ヤベェ。変な所に逝きそうだった。やっぱり一度自分の能力ちゃんと把握しないとマズイな…。
戦闘にしてもそうだ。やった事なんて無いのに記憶が有るって変だし。特に魔術はキチンと常識的なことを実地で擦り合わせしないと自分の中にある記憶となんかズレてね?て感じだし。
金策については、当面セリスが言ってた方向で何とかなる…かな。
ギルドに登録、行かないとな。名前は総合ギルドだっけ。商業ギルドが国規模ででっかくなったんで、傭兵ギルドと闇ギルド以外はほぼ総てのギルドを纏めたんだよな。役所みたいな感じかな。良し、そうと決まったら早速ギルド、行きますか。それから帰りに基礎魔術や、錬金の本でも買ってこよう。…よし!
ドアを開け、階下へ向かう。
「女将さ~ん!また道をおしえてほしいんだけど~」
◇ ◇ ◇
「ナニコレ、でっけぇ……」
──エクス総合ギルド会館。
そこにはまるで、パルテノン神殿の様な巨大な建造物が鎮座していた。冒険者や商人、鍛冶屋、薬師に大工等、ありとあらゆる働く人の組合会館。ここに所属しないギルドは、所謂国の認可がない、もしくは非合法ギルドとなるそうだ。何しろ、商人ギルドの総本部は国だもんね。全部を纏めて管理したほうが、意思決定も早いよね。
そんなデッカイ建物に、恐る恐る入って行く。中も広〜い!てか、天井たっか!…あ、天井絵。マジ神殿か教会だったんじゃね?
つい、ぽけぇっと見上げて口を開けていた。
「いらっしゃいませ。総合ギルドエクス支部へようこそ!」
突然の声掛けにビックリして、叫びそうになりながら見ると目の前に、受付と書かれたカウンターに立つ、綺麗なお姉様達が居た。
「本日はどの様なご用向でしょう?」
「は、ハイ。あ、あの今日は登録に」
「はい。行政関係の登録、提出ならば二番です。商業又は工事や、魔技師、薬師等の関係ですと、そちらの階段からお二階に上がって六番になります」
「え、ええと冒険者ギルドの部署は?」
「──…?あ、ご依頼ですか。それでしたら、この先の一番の窓口に…」
「あ、いえいえ、冒険者の登録なんですが」
俺の登録と言う発言に一瞬すんと真顔になった後、ニコリと笑い。
「…申し訳ありません、冒険者様の入り口はこちらではなく、ここを出まして、建物の真裏に入り口がございます。お手数ですがそちらへお廻りください」
「あ、あぁそうなんですか。分かりました、ありがとうございます」
なんだ、あの突然のゴミを見つけたような冷たい目は。…まぁ、いいや行こうっと。そうして建物を回り込むこと数分。成程、わかり易い区別だ。種々雑多な武器を身に着け、薄汚れた鎧や袋を持ったむくつけきモノノフ共がガラの悪い大きな声で闊歩していた。
その様子を遠巻きに眺めていたが、ふと目線を建物に移してみると、この建物ここからなんだか、感じが違うな。おをっ!よく見ると、ギルド自体はでっかい建物に有るんだが、皆が入って行く場所はまるで、後からくっつけたようになっとる。…これじゃ区別じゃなくて差別じゃん。
そんなしょうもないことを考えながら、徐ろにドアに近づいてしまった。
”ドカッ!”
「うひゃぁ!」
「ああ!?んだてめぇ喧嘩売ってんのかぁ!」
「おお!買ってやるよ!表ぇでろや!」
俺を挟んで今にもつかみ合いをはじめそうなモノノフ。自然と注目を浴びる俺。パーフェクツ・フラグメント!
「何だ兄ちゃん?」
「邪魔すんのか?それとも間違えてここ来ちゃったか?迷子なのか?」
”だははははははははは!” ”ぎゃははははははは!”
現場は大盛りあがりの大爆笑である。何笑ってんだよこいつ等…。
「あはは。スイマセン。偶々お二人の間に入ってしまっただけです、俺は登録に来ただけなんで」
誤魔化し笑いでやり過ごしてそのまま中へ行こうとしたんだが。
「えぇ?登録ぅ?あんたみたいなもやしみたいのが?」
モノノフの横合いから女性の野太い声が。何だと思い、そちらに目をやると。
ズンズンとこちらに向かってくるアマゾネス!
「いいかい兄ちゃん。ココは冒険者ギルドの入り口だよ?就職斡旋所じゃないよ。丁稚奉公先を探すなら表口に行きなよ。可愛いお姉さんが案内してくれるぞ。それとも何かい?あたしが連れてってやろうか」
──…のぉぉぉぉお!ムッキムキはムリムリムリムリ!
「アハハハハ!アマンダのショタ好きが出ちまったぞ!」
”だはははははははははは!”
無理っ!むりむりムリムリムリムリムリムリ…ぁぁああ俺のチェリーが、こんなムッキムッキに!?
断固拒否権を行使させていただきたい!
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