第19話 茶番劇
「「消えた!!」」
俺とマリアーベルさんがベッド上で消えその姿が見えなくなった事に
マルクスさんとロッテン男爵が驚愕する。
「気にするな、魔道具で見えなくなっているだけじゃ。二人は今もそこにおる」
セリスが何でもないように答える。
「……そ、その様な魔道具、見聞きした事が有りませんが」
「ぬふふ。これじゃ。コイツの機能の一つじゃ」
そう言って、彼女は自慢げにゴーレムをこれ見よがしに見せつける。
「「おお!これぞアーティファクト!」」
二人はまんまと言いくるめられていた。
「あぁ、なるほど。ああやってゴーレムのせいにしておけば、セリス様のゴーレムで片付くと言う訳ね。……ノート君も考えたわね」
「ホントだねぇ、セリスさんも満足そうだし。一石二鳥? ってやつだね」
俺がマリアーベルさんの精神に干渉している間、部屋はそんな感じで、
穏やかに過ぎていた。
マップに反応があるまでは──。
「……ん?」
最初に気付いたのはロッテン男爵だった。
「ロッテン殿、どうかなされたのか?」
皆でソファで寛いでいると、男爵がマップを見つめている事に気付いたマルクスが声を掛ける。
「え、いや、この……あ、ほら路地の二人、移動しています」
──ロッテン男爵の言葉にマップへ一斉に視線が集まる。
◇ ◇ ◇
衛兵特殊部隊である隠密スキル持ちの二人組は現在、隊長からの密命で
作戦実行中だった。
「おいマイス、これでホントにニクラウスが動くのか?」
二人組の片割れであるリドルは、これといった特徴のない男だった。相棒の名はマイス、こちらも平凡な風体の男だ。
二人にはこれと言った特徴がない。故にスキルとの相性は抜群でもあった。特徴がない為、ひとたびスキルを発動すれば、昼の街中であっても、彼らを見つける事は出来ないほど。
その二人がこの闇世の中、スキルを発動させて男爵屋敷の傍の塀の影に潜んでいる。
「あぁ? あいつはクソ真面目だからな。恐らく動くだろうさ」
マイスはそう言って、ニクラウスの事をあざける様に言う。
彼ら二人は基本的にはペアで任務に従事するが、特殊任務が早々ある訳ではない。普段は彼等も普通に衛兵として働いているのだ。マイスはそんな普段のチームで、ニクラウスの居るチームに所属している。
「アイツは何時だってそうだ。何でも規律がどうの、国法が何だと抜かしやがって、融通は効かないうえに、何でも隊長、隊長と…。そんな奴が、大好きな隊長に役立たずだなんて思われたと考えたら、どうすると思う? その上アレは直情型のこじれた正義感野郎だぜ」
「なんだかメンドクセェ奴なんだな」
「あいつにとっては隊長の言ったことが正義なんだ。その隊長に見放されるかも知れないなんて、考えられないからな。」
「あぁ、だから俺達が場を作ってやれば──。」
「後は勝手に動くさ」
◇ ◇ ◇
ニクラウスはいつもの屋敷の影から、男爵邸を眺めていた。
──クソ! こんなはずじゃなかったのに。このままじゃ何もできない! せっかく貰えた任務なのに!
そんな苛つきを石壁にぶつけながら、憎々し気に屋敷を見上げていると、背後の気配に振り返る。
「──誰だ?!」
素早く腰を落とし、振り向いた先に立って居たのは、特徴のない男マイス。
「よお。おいおい、何を殺気立ってんだよ。それじゃ監視任務も下手するぞ」
マイスは片手をあげながら、近づいて来る。
「マイス……お前は、ここで何をしている?」
そこには隠密スキルを持つ同僚のマイスがにやけた表情で、こちらに
近付いて来るのが見えた。
──何でこいつがここに来るんだ? もしや別動隊ってのはこいつ等の事か? だとしたらなぜ今こいつは一人なんだ?
ニクラウスは瞬時に幾つかの疑問を覚える。
「そんなに構えるなよ。分かってんだろ? 別動隊の事」
「あぁ、隊長から聞いている。それで、別任務中のお前が何故ここに? 他の奴は?」
「あぁ。その事でお前の相談しに来たんだよ」
「相談?」
マイスの話はこうだった。
──現在監視対象になっているセリス一行が逗留している屋敷に今夜侵入し、教会関係者を捜索、出来れば確保せよ。侵入には隠密を使い、裏口から速やかに行え。密命であるため、衛兵の身分は使用不可とする。
「それで? 俺はそんなスキル持っていないぞ」
「分かっているさ。でもな、リドルが言ってたんだよ。侵入の際、お前が居た方が都合が良いってさ。お前は連中の顔知っているからな」
確かに俺はセリス一行と顔を合わせている。だがそれに何の意味が? 俺が訝っていると、マイスは声を潜めて言ってきた。
「考えても見ろ。俺達が入るのはこの街の領主様の屋敷だぜ? 万が一そんな連中の誰かに、怪我でもさせたらどうなる? わかるだろ」
言われた瞬間に合点がいく。今夜は荒事も辞さない任務なのかと。
「そうか。隊長は本気なんだな。で、俺はどう動けばいいんだ?」
「おお、分かってくれたか。じゃあここから──」
◇ ◇ ◇
「ふむ。彼奴も移動を始めた様だな」
マップを眺めていたマルクスが、ニクラウスも移動したことに気付く。
「キャロ、そっちはどうじゃ?」
「まだなにも。お二人共静かにしている様で動きはありません」
「そうか。マルクス卿、玄関を任せて良いかの? 儂はコレで裏を固めるでな」
セリスはそう言って、ゴーレムと共に裏口へ向かおうと席を立つ。
「了解しました、男爵様たちはここに。恐らくここが一番安全でしょうから」
「は、はぁ」
「マルクス様には私が付きます。キャロ、この部屋お願いね」
「はい。シェリーも気を付けて」
そうして二人は連れ立って玄関口へと向かっていった。
「……だ、大丈夫でしょうか?」
「問題ないですよ。そんな事より、衛兵がこんな事をしてしまうなんて、責任問題どうするんでしょう」
「そうですな。辺境伯様の裁可次第でしょう」
◇ ◇ ◇
「皆さん、これから賊が来るかもしれません。落ち着いて食堂ホールに移動してください」
シェリーとマルクスは玄関に向かう途中で、メイドや家令たちに声を掛けて行く。
「え?! 賊が!?」
従者たちは慌てるが、家令が諫めて移動を開始する。
「それで、主人は今どこに?」
「男爵様なら私達の部屋です。問題ありませんから安心してください」
「いいか、俺達は玄関口から音を出してそちらに気を引く。お前はその騒動のスキを狙って裏口から侵入しろ。俺達もそのまま隠密で入る、合流は客間だ」
マリスの言葉の後、裏口付近まで近付いたニクラウスは、騒ぎが起きるのを待ち構えていた。
──そこで貴様は何をしている?
「──!!」
ニクラウスはその言葉に振り向くが、そこには誰も居ない。なんだ? と思った瞬間、頭上に何かが降ってくる。
”ゴイン!!”
「くわっ!」
一瞬で意識を刈られ、その場に倒れるニクラウス。裏口の扉が開くとセリスが呆れ声で呟いた。
「本当に阿呆な奴じゃの……」
彼女のゴーレムが浮遊したままニクラウスの頭部付近から戻ってくる。
隠密スキルを発動させ、玄関口に近づいたマイスとリドルは顔を見合わせ頷いた。
(やるぞ!)
(了解!)
マイスが玄関に向かって拳大の石を投げる……が、全く音が返ってこない。不審に思って玄関を見ると、大きく扉が開いていた。
(なんだぁ?)
(おい! 玄関が開いてるぞ! どうなって……ぎゃん!)
「リドル!」
気付くと先程投げた石がリドルにクリーンヒットして、彼はそのまま昏倒する。
「あら、折角のスキルが声を出したらダメじゃない」
マイスは後ろから聴こえた声にしまったと思いながらも後はニクラウスがと考え、両手を上げて降参した。
「ま、まて! 俺達はこの街の衛兵だ! 手出しは無用だ──」
「いい訳は男爵の前でしてね。」
シェリーはそう言いながら、二人を拘束していった。
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