第15話 そして配役は決まって行く
──ファ?
俺は言われた言葉が一瞬理解できず、変な声が出る。
『精神汚染というスキルじゃよ』
「何だよその物騒なスキルは!!」
その名前を聞いて堪らず俺は憤慨する。
《マスター落ち着いて下さい! それしか名前が相当しないからでしょう》
はぁ? 何じゃそれ? 余計に意味が分かんないですけど!
「余計にわからん! 何だよ汚染って!? 酷い事するのか!」
『いやいやいや! 待て待て待て! お主は何を勘違いしておるんじゃ!?』
グスノフがそう言ってくるが、汚染と言われて思いつくのはネガティブなイメージしかない。大気汚染に環境破壊や、放射能汚染……。全てが良くない事のオンパレードしかない。何でそんな事を彼女にしなくちゃいけないんだ!
俺がそんな事を考えて憤慨していると、グスノフが違う違うと言って来る。
「何がどう違うんです?! 汚染するって事は、そこの環境を変えてしまう事でしょう!」
『そうじゃよ! 眠った彼女の細胞を起こすためにお主の意識を移すんじゃから』
「───は?」
そこでまた俺は思考が止まる。意識を移す? ってなんだ?
『フゥ……。今からきちんと説明するからちゃんと聞いてくれ』
グスノフはそこからスキルの内容について説明を始めた。
現在マリアーベルのテロメアは封印されて眠った状態にある、それを覚醒させるにはどうするか。外的要因で起こす事は出来ない、なぜなら彼女の細胞全てに同時に接触する必要があるからだ。
ではどうするのか。
先述したようにテロメアの情報は全て脳で管理最適化されている。
故に彼女の脳、いわゆる記憶野に闇属性の魔術を使って干渉し、その情報源を直接書き換えるのだ。
つまり、彼女の眠ったままの記憶を元の起きた情報に書き換える。精神を汚染するという事になる。
「……な、なるほど。確かに他の言い方がぱっとは出てこないな」
『まぁ、この際名前については問題ではないからの』
「…え? それはどうしてです?」
『言ったように、彼女の記憶部分に闇魔術で入るという事は、お主自身も干渉を受けると言う事だ。じゃからこの術は禁忌になっておるし、下手をするとお主自身が汚染される』
そっちかよ!!
《…それについては大丈夫かと。私がバックアップできますので》
『なるほど! そうか。シスが常に監視して居れば戻って来るのは容易じゃな』
そうして、俺はグスノフ様から闇魔術である精神汚染の術式を聴き、創造スキルで完成させた。
********************************
「交渉できなかった?! どうしてですか?!」
シュタイナー司教の叫ぶような叱責に、ロンデルはただ地に頭をこすりつけていた。
「も、申し訳ございません! 衛兵のニクラウスとやらが、ダラダラと話をしてしまい、どうにもセリス様の怒りを買ってしまいました。故に、マルクス殿に帰れと言われ……」
小心者であるロンデルにとって嘘など付けるはずもなく…唯正直に顛末を話すだけだった。
「ニクラウス??」
それを聞いた司教は考える。
そもそも話を持ち掛けて来たのは衛兵隊長からだった。大体彼はなぜアレのことを知っているのだ? 話が来たときはそこまで頭が回らなかった。まずは見つかったことに安堵したのだ。そこから何故か彼らが取り戻す手伝いをしてやると言い、話に乗ってここまで来た。
だが、彼らに何のメリットがある?
衛兵隊長が聖教会の熱心な信者であるのは承知している。だがそれは一信徒としての彼でしかない。そう考えると、なにかがずれて来て見えた。
そうだ。彼らはこの領の一衛兵部隊。辺境伯様直属の騎士団副団長に物言える訳がない。それに聞いた話では彼らはキチンとこちらで保護すると言っていたのだ。
どうして誘拐嫌疑などと持ち掛けてきた? ……何かがおかしい。
この施設は教皇とこのカデクス教会の人間、後は限られた者しか知らないはず。審問官はもうすぐこの街に入る。
処断の通知の文を持って。
次々出てくる疑問に司教はロンデルのことを忘れ、その場で一人黙考してしまう。
──コワイデス……顔をあげられません……司教様……聖女様ぁ。
その後ロンデルはシュタイナーが振り返って、間違えて踏んづけるまで、気付かれなかった。
********************************
「ふむ…侵入は叶わなかったと…」
「は! 申し訳ございません。寸でのところで彼奴が裏口に荷物をと言い出しまして」
ニクラウスは、作戦失敗の内容を隊長に説明していた。
「なるほど。……探知系のスキルでも持っていたのか、あるいは……」
その言葉を聞き、ハッとする。そうか奴らは確か冒険者だ、ならばそう言ったスキルを持っている事も充分考えられる。奴らは高ランク冒険者。スキルも複数持ちの可能性がある。
次はその点も考慮しなければと思いを新たに隊長へと進言する。
「次はスキル関係を考慮した、作戦を──」
「いや、それはもういい。監視任務のみ続行してくれ」
「…え?」
隊長は今なんとおっしゃった?
監視のみ続行??
「あ、あの…」
「ん? なんだ」
「い、いえ、あの監視任務のみとは?」
その言葉を聞いた隊長は、ニクラウスの顔を見つめて話す。
「既に別の作戦を発動した。よってお前は男爵邸の出入りを監視報告するだけで良い」
苛ついた表情を隠しもせず、隊長はそう言ってニクラウスに退出を命じた。
二の句が継げず、ニクラウスは茫然自失のまま部屋を出て行く。
閉じたドアを見つめ、隊長は小声でぼそりと呟いた。
「……お前は生真面目だからな。精々暴発せぬようにな」
そう言った彼の顔には嫌な笑みが張り付いていた。
********************************
───陛下。影、ここに。
「うむ。…先程の件如何に思う?」
「…おそらくは、彼の者の事でありましょう」
「…例の迷い人か」
「は!」
皇帝カルロスⅧ世はそう言って考える。東に産まれると言われる異界の人間。千年前は勇者として顕現し、見事邪神を退けた。
それから既に千年経った。
世界を脅かすような存在を誰も知らないこの世の中で、なぜ今またそんな人間が? それとも何かが起こる前兆なのか?
懸念は幾らでも考えつく。
あの時は人類にとっての脅威だった。だが今は……。
もしや……いや、まさかな。
「まずは、探れ。娘であるならば───」
◇ ◇ ◇
「はぁ~~メンドクセェなぁ。やっとゲールに言われた仕事が終わったってのに、またこんなこすっかれぇ仕事廻してきやがって…ん? なんだぁ? おいおいおい、ここの皇帝って奴は鬼か畜生か? テメェの娘を……はぁ~めんどくせぇなぁ」
「貴様は仮にも傭兵であろう。ならば雇い主の内情に口を挟むな。言われたことを熟せばよいのだ」
ベイルズは「へいへい、了解です~」と叱責を軽くいなし、部屋を出て行く。
「ルクス公の推薦とは言え、アレを連れて行くとは……信用ならんな。おい、奴の行動は逐一報告しろ」
「は!」
その声は聞こえるが部屋には誰もおらず、気配も既に消えていた。
********************************
「先ずは人払いを」
オフィリアはジェレミアに頼み、通信室の人払いを頼む。
「はい、暫しお待ちを」
エリーの部隊はカデクスにもいるはず。先ずは審問官の足を止めてもらいましょう。そして彼らの移動を早めて貰えば──。
通信室に入るまでの間、彼女は部隊の立ち回りを考える。
どこに誰を向かわせるのか。エリー自体は顔を合わせているらしい。
ならば、他の誰を──。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマークなどしていただければ喜びます!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。