第13話 後悔の念
『久しいのぉ。元気でやっておるか?』
「お久しぶりです。はい、俺は元気ですよ! 皆も元気です」
グスノフ様からの返事を貰いすぐにチャットを繋いでもらった。
「早速なんですが俺達の状況って、把握してます?」
『──……うむ、イリス様やマリネラから聞いておるぞ。唯なぁ』
「な、何ですか?」
『エギルが難儀しておるぞい。お主のスキル……ほとんど固有にしか出来んと』
「あ、あぁ、そっちですか。分かりました、そっちはもっと簡単なのを考えてみます」
なんだろう、いつものグスノフ様らしくない感じ。何か言い出しにくいのか、回りくどいような。……なんなんだ?
「あのぉグスノフ様。もしかして何か、話しにくい事でも有るんですか?」
俺がそう聞くと、グスノフ様はゆっくりと話し始める。
『い、いや……うむ、そうじゃな。確かに話しにくい事じゃ。今回の件は、儂の怠慢から来ておる事じゃからな。それにお主にとっては、我が事とあまりに重なり過ぎておる。それもあって、非常に申し訳ない気持ちなんじゃよ』
──グスノフ様の怠慢?
「俺の事は今は置いておきましょう。確かにその事で余計に彼女に思い入れが在るのはわかっています。でもだからこそ、何とかしてあげたいんです。グスノフ様の怠慢の意味は分かりませんが、それなら是正すればいいだけじゃないですか」
「──そう言ってもらえるとは、有り難いかぎりじゃ……。そうじゃな。あの娘もこのままでは不憫じゃしな……じゃが一つだけ、いいかの」
「はい」
「即答か。では少し儂の話しを聞いて貰おうかの──。」
──グスノフ神。
彼は現在農耕や、それにまつわる自然の生命の神として存在しているが、元々はそうではない。
彼は本来、このイリステリア全ての生命を司っていた。
──全ての生命の神。そう、彼こそが本来この世界イリステリアの管理神だったのだ。この世界が産まれ、大神が最初に任命し託された神がグスノフであった。
彼はこの世界に命を広げる為必死に頑張った。世界に満ちた魔素を使い、生命の元とした。大神の指示に沿って多種多様な生命を創造したのだった。まずは草木を。次いで動物たちを……そうして最後に人間を創った。それらは多様性を求めて色々な種にした。
先ずはそこまで進めて、見守っていた。
まず最初に問題が起きたのは、食料としての動物たちの乱獲が起きた。
そこで人より強い動物や、森を険しくしたりした。そうして進んでいくにつれ、人は急速に知恵を付け進化していった。
人種によるコロニーができ、集落、村へ……それはどんどん拡大していく。
順調に進化と昇華を繰り返し、同時に淘汰も始まっていた。
そんな中、魔素溜まりという現象が動物たちに影響していることが判明する。
それらは魔獣という別の進化を果たし、動物の乱獲に対する効果にもなっていた。
そうした中、精霊族が使っていた魔法を模倣し、術として扱う人々が出てきた。何時しかそれは魔術と呼ばれ、人の間に拡がって行った。
その頃の人は魔力を多量に扱えた。そもそも魔素を生命の元にしていたのだから、当然でもあった。それゆえ魔術は強力かつ、強大な物になって行った。
このままでは大地が疲弊してしまうと考えたグスノフは、大神に相談。
そして新たな神が召喚された。それがイリスだ。
彼女は世界のありとあらゆる力や能力を情報化し、系統化細分化を行って、平均化作業を行った。これにより人の魔力は規格化され、能力は抑えられた。
そうして緩やかに進む人の進化と世界の広がりの中、大神がある時提案をしてきた。
──試練を与えよ──。
それは、人の進化に影響を与える為。スキルの発現を正当化させるための茶番劇。未だ人は同じ人同士で争い、憎しみ合うと言う不毛な騒乱を収める為のものでもあった。
それに使われたのが瘴気。人同士で不毛な争いの果て、失われた命の痛恨や悔恨の念をもとに魔素と融合させ、異形を発生させた。人を憎悪し、ただ怒れるままにその力を行使する。
それはある意味では人への罰。欲に対する業でもあった。
斯くして人はそれらを克服し、スキルを手に入れ生活をより豊かに進化させていった。業は業として残したままに──。
「あ、あのグスノフ様。それ、今の状況に繋がるんです?」
俺はたまらず口を挟んだ。さっきから言ってるのって完全に創世記じゃん。え? そこからじゃないと分かんないような事なの?
『む、おぉ! コリャいかんな。いやぁ年を取ると話が長くなってしまうのは、てんぷれじゃ。肝心なところから話そうかの』
え?! 今までのは何だったの? ま、まぁいいけど。
『儂がイリス様に管理者を譲ったのは彼女がそれに特化した能力を有していたからじゃ。おかげで儂はそこから生命の管理のみを引き受けたんじゃがの──』
そこから色々な進化が起こり、二人では管理しきれなくなって大神に相談したら、エリオス、マリネラ、エギルの三柱を連れて来た。
エリオスは武神として、武に関する様々な事を管理した。
マリネラは、地母神として宗教を創った。始まりは土着信仰としての土地神から始めた。
エギルは魔神として、魔術やスキルの管理作成を行ってくれた。
こうして体制が整い管理が行き届き始めた頃、大神がアナディエルを連れて来た。
そして始まる地獄の様な下界のディストピア…。ヒューム以外は虐げられ、ヒュームですらも優勢思想にはまり腐って行く。狂った世界で腐った人間が唯々繰り返す地獄の様な世界。
そんな中、精霊たちは精霊王によって隔離され、なんとか力の均衡は保たれていた。
すぐさま我等は大神に懇願した。アレをここに置いていればすぐに世界は無くなってしまうと。
そうして君が呼ばれ、時間をかけて世界は救われた。
じゃが、この件で報われなかった者もいた。
──勇者とその仲間たち。
君は次元の狭間に飛ばされ、唯一生き残ったのは、君を心から好いていた聖女オフィリアだけじゃった。彼女は永い時を泣き続けた…涙は枯れ果て、同じく声が枯れ果てようとも。
だが何時しか彼女は立ち上がり、その力で人を癒し始める。
それは人々から見れば奇跡であり、まさに聖女だ。
彼女にとっては、君を忘れる為の代償行為だったとしても…。
それを見守るしか出来ん我等も同じじゃった。初めに心が折れたのはマリネラじゃ。
いつの間にそれが完成していたのかは分からん。じゃが彼女はそれを使ってしもうた。
──魂の転写。
生命の神である儂に、分からんはずもないのに。マリネラはすぐに懇願してきた。人間の生命の管理をさせて欲しいと。
もちろん初めは彼女を叱った。神が何を肩入れするのかとな。禁忌を犯した者の魂は消滅が決まっておる。どんなにそれが正しかったとしてもだ。
………じゃが、結局儂にも出来んかった。
イリスはお主を救えなかった事で塞ぎ込み、疲れてもいた。そこで儂は彼女に適当な理由を告げ、マリネラに人間の生命の管理を移譲してもらったのじゃ。いずれ起きる歪みに気付かずにな。
そうして繰り返されていくオフィリアの魂の継承、マリネラもとうに判っていたはずじゃろう。
報われる事の無い継承作業。いつしか教皇に利用され、権力の為に使われてしまう様になってしまった。
儂もマリネラも悔いておる……。終わらせなければ、終わらせなければとずるずると引き摺ってしまった。
──オフィリアを失えば君も失う気がしてしまったから。
『これが儂の怠慢であり、君に対する後悔の念じゃよ。儂は神として失格じゃな』
──この神様たちって。人間臭いなぁ……優し過ぎると言うかなんというか。
「そうですか。ホントこの世界の神様たちは……優しいっすね」
『な、なにを言うか! 儂らはそのせいで何人ものオフィリアのぎせ──』
「それは分かっています。だからこその後悔や自責の念があるんでしょう?」
『……そ、それはそうじゃが』
「ならここでそれは終わらせます」
『…どうやって?』
「俺がオフィリアと会えばいいだけじゃないですか。そこは任せて下さい! それよりも今はマリアーベルさんの方です。俺は彼女を助けたい」
『──君、いやお主と言う奴は、本当の意味で勇者じゃのう』
──そう言ったグスノフ様の声は、明るいいつもの爺ちゃんだった。
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