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オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第4章 天網恢恢疎にして漏らさず
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第13話 後悔の念



『久しいのぉ。元気でやっておるか?』

「お久しぶりです。はい、俺は元気ですよ! 皆も元気です」


 グスノフ様からの返事を貰いすぐにチャットを繋いでもらった。


「早速なんですが俺達の状況って、把握してます?」


『──……うむ、イリス様やマリネラから聞いておるぞ。唯なぁ』

「な、何ですか?」

『エギルが難儀(なんぎ)しておるぞい。お主のスキル……ほとんど固有にしか出来んと』

「あ、あぁ、そっちですか。分かりました、そっちはもっと簡単なのを考えてみます」


 なんだろう、いつものグスノフ様らしくない感じ。何か言い出しにくいのか、回りくどいような。……なんなんだ?


「あのぉグスノフ様。もしかして何か、話しにくい事でも有るんですか?」


 俺がそう聞くと、グスノフ様はゆっくりと話し始める。


『い、いや……うむ、そうじゃな。確かに話しにくい事じゃ。今回の件は、儂の怠慢から来ておる事じゃからな。それにお主にとっては、我が事とあまりに重なり過ぎておる。それもあって、非常に申し訳ない気持ちなんじゃよ』



 ──グスノフ様の()()



「俺の事は今は置いておきましょう。確かにその事で余計に彼女に思い入れが在るのはわかっています。でもだからこそ、何とかしてあげたいんです。グスノフ様の怠慢の意味は分かりませんが、それなら是正すればいいだけじゃないですか」


「──そう言ってもらえるとは、有り難いかぎりじゃ……。そうじゃな。あの娘もこのままでは不憫じゃしな……じゃが一つだけ、いいかの」


「はい」


「即答か。では少し儂の話しを聞いて貰おうかの──。」

 

 ──グスノフ神。


 彼は現在農耕や、それにまつわる自然の生命の神として存在しているが、元々はそうではない。


 彼は本来、このイリステリア()()()()()を司っていた。


 ──全ての生命の神。そう、彼こそが本来この世界イリステリアの()()()だったのだ。この世界が産まれ、大神が最初に任命し託された神がグスノフであった。


 彼はこの世界に命を広げる為必死に頑張った。世界に満ちた魔素を使い、生命の元とした。大神の指示に沿って多種多様な生命を()()したのだった。まずは草木を。次いで動物たちを……そうして最後に人間を創った。それらは多様性を求めて色々な種にした。



 先ずはそこまで進めて、見守っていた。



 まず最初に問題が起きたのは、食料としての動物たちの乱獲が起きた。


 そこで人より強い動物や、森を険しくしたりした。そうして進んでいくにつれ、人は急速に知恵を付け進化していった。


 人種(ひとしゅ)による()()()()ができ、集落、村へ……それはどんどん拡大していく。


 順調に進化と昇華を繰り返し、同時に淘汰も始まっていた。


 そんな中、魔素溜まりという現象が動物たちに影響していることが判明する。


 それらは魔獣という別の進化を果たし、動物の乱獲に対する効果にもなっていた。


 そうした中、精霊族が使っていた魔法を模倣し、術として扱う人々が出てきた。何時しかそれは魔術と呼ばれ、人の間に拡がって行った。


 その頃の人は魔力を多量に扱えた。そもそも魔素を生命の元にしていたのだから、当然でもあった。それゆえ魔術は強力かつ、強大な物になって行った。


 このままでは大地が疲弊してしまうと考えたグスノフは、大神に相談。


 そして新たな神が召喚された。それがイリスだ。

 

 彼女は世界のありとあらゆる力や能力を情報化し、系統化細分化を行って、平均化作業を行った。これにより人の魔力は()()()され、能力は抑えられた。


 そうして緩やかに進む人の進化と世界の広がりの中、大神がある時提案をしてきた。


 ──試練を与えよ──。


 それは、人の進化に影響を与える為。スキルの発現を正当化させるための茶番劇。未だ人は同じ人同士で争い、憎しみ合うと言う不毛な騒乱を収める為のものでもあった。


 それに使われたのが瘴気。人同士で不毛な争いの果て、失われた命の痛恨や悔恨の念をもとに魔素と融合させ、異形を発生させた。人を憎悪し、ただ怒れるままにその力を行使する。



 それはある意味では人への罰。欲に対する業でもあった。



 斯くして人はそれらを克服し、スキルを手に入れ生活をより豊かに進化させていった。業は業として残したままに──。


「あ、あのグスノフ様。それ、今の状況に繋がるんです?」


 俺はたまらず口を挟んだ。さっきから言ってるのって完全に創世記じゃん。え? そこからじゃないと分かんないような事なの?


『む、おぉ! コリャいかんな。いやぁ年を取ると話が長くなってしまうのは、()()()()じゃ。肝心なところから話そうかの』


 え?! 今までのは何だったの? ま、まぁいいけど。


『儂がイリス様に管理者を譲ったのは彼女がそれに()()した能力を有していたからじゃ。おかげで儂はそこから生命の管理のみを引き受けたんじゃがの──』


 そこから色々な進化が起こり、二人では管理しきれなくなって大神に相談したら、エリオス、マリネラ、エギルの三柱を連れて来た。


 エリオスは武神として、武に関する様々な事を管理した。


 マリネラは、地母神として宗教を創った。始まりは土着信仰としての土地神から始めた。


 エギルは魔神として、魔術やスキルの管理作成を行ってくれた。


 こうして体制が整い管理が行き届き始めた頃、大神がアナディエルを連れて来た。



 そして始まる地獄の様な下界のディストピア…。ヒューム以外は虐げられ、ヒュームですらも優勢思想にはまり腐って行く。狂った世界で腐った人間が唯々繰り返す地獄の様な世界。


 そんな中、精霊たちは精霊王によって隔離され、なんとか力の均衡は保たれていた。


 すぐさま我等は大神に懇願した。()()をここに置いていればすぐに世界は無くなってしまうと。


 そうして君が呼ばれ、時間をかけて世界は救われた。


 じゃが、この件で報われなかった者もいた。

 

 ──勇者とその仲間たち。


 君は次元の狭間に飛ばされ、唯一生き残ったのは、君を心から好いていた聖女オフィリアだけじゃった。彼女は永い時を泣き続けた…涙は枯れ果て、同じく声が枯れ果てようとも。


 だが何時しか彼女は立ち上がり、その力で人を癒し始める。


 それは人々から見れば奇跡であり、まさに聖女だ。


 彼女にとっては、君を忘れる為の代償行為だったとしても…。


 それを見守るしか出来ん我等も同じじゃった。初めに心が折れたのはマリネラじゃ。


 いつの間に()()が完成していたのかは分からん。じゃが彼女はそれを使ってしもうた。



 ──魂の転写。



 生命の神である儂に、分からんはずもないのに。マリネラはすぐに懇願してきた。人間の生命の管理をさせて欲しいと。


 もちろん初めは彼女を叱った。神が何を肩入れするのかとな。禁忌を犯した者の魂は消滅が決まっておる。どんなにそれが正しかったとしてもだ。


 ………じゃが、結局儂にも出来んかった。 


 イリスはお主を救えなかった事で塞ぎ込み、疲れてもいた。そこで儂は彼女に適当な理由を告げ、マリネラに人間の生命の管理を移譲してもらったのじゃ。いずれ起きる()()に気付かずにな。


 そうして繰り返されていくオフィリアの魂の継承、マリネラもとうに判っていたはずじゃろう。


 報われる事の無い継承作業。いつしか教皇に利用され、権力の為に使われてしまう様になってしまった。


 儂もマリネラも悔いておる……。終わらせなければ、終わらせなければとずるずると引き摺ってしまった。


 ──オフィリアを失えば君も失う気がしてしまったから。


『これが儂の怠慢であり、君に対する後悔の念じゃよ。儂は神として失格じゃな』


 ──この神様たちって。人間臭いなぁ……優し過ぎると言うかなんというか。


「そうですか。ホントこの世界の神様たちは……優しいっすね」

『な、なにを言うか! 儂らはそのせいで何人ものオフィリアのぎせ──』

「それは分かっています。だからこその後悔や自責の念があるんでしょう?」

『……そ、それはそうじゃが』

「ならここでそれは終わらせます」

『…どうやって?』


「俺がオフィリアと会えばいいだけじゃないですか。そこは任せて下さい! それよりも今はマリアーベルさんの方です。俺は彼女を助けたい」


『──君、いやお主と言う奴は、本当の意味で()()じゃのう』



 ──そう言ったグスノフ様の声は、明るいいつもの爺ちゃんだった。

 



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