第11話 魔道具店
気付くと鳥の囀る声で目が醒めた。太陽が昇り始めたのか、空の色が青紫色に見え、遠くの方が赤く染まっていた。鎧戸を閉め忘れていた為、寒気を感じて身体をぶるっと震わせる。昨日は色々考えすぎて疲れて寝てしまったようだな…。
部屋を出て階下に降りると、廊下を歩くサラを見つけた。俺の足音に気付いたようで、恥ずかしそうにこちらを見上げて来た。
「お、おはよごじゃりましゅ!」
「…あぁ。おはようサラちゃん」
うん。もうそこはスルーしよう。
「顔、洗いたいんだけど、どこかな?」
「は、はい。こっちですぅ」
彼女に教えて貰った裏庭へ出ると、物干し台と井戸があった。井戸の横には台があり、桶が幾つかならんでいる。教わった通りにそこで洗顔を済ませ、食堂へ入ると二、三人の客がいた。
「おはようございます。今準備しますのでお好きな席へどうぞ」
女将さんの元気な声を聞きながら席へ着くと、間もなく食事が来た。おを!サラダにコンソメっぽいスープ。そして、普通のコッペパン。そう、普通の柔らかなコッペパンだった。定番の硬くて酸っぱい黒パンではない事に喜びながら、先ずは湯気を上げているスープを木匙で一口…。
──んまぁ~い!コンソメだ。コンソメスープだ!コレは嬉しい誤算だなぁ。スパイスや、調味料が充実してそうじゃんか。塩味だけとか、流石にきついかもって考えたのが馬鹿らしい。…サラダも、シャキシャキじゃん!
昨日、何も食わずに寝てしまったのも有ったのだろう。全ての食材が新鮮な事もあり、まさにがっつく勢いで食べ進める。
「美味しそうに食べてくれるわねぇ。昨日夕食に来なかったから、ちょっと心配してたんですよ」
「あはは。すいません、疲れが出たみたいでベッドに座ったら、そのまま寝ちゃってたんです」
「あらあら、じゃあ今夜はぜひ食べてくださいね。旦那の料理はうちの宿で一番の自慢なんですよ」
「はい!…今日は何も予定ないですから」
「おや?そうなの。…じゃぁ、朝市にでも行ったらどうです?」
特に予定がない事を告げると、女将さんがそんな提案をしてくれる。おお!いいねと思い場所を聞こうと思った時、視界にサラちゃんの姿が見えた。
見ると彼女はテーブルを拭きながら空いた木皿等を片付けていた。
”ドテン”「みぎゃ!」”カラン、カラン!”
「………」
「だからうちの皿は木皿なんですよ」
女将さんから場所を聞き、やって来ましたバザー!
その通りは屋台や露店が所狭しと並び、普通の店と混在しながら、まるでアジアのバザーさながらの人出で賑わっていた。異世界屋台のテッパンの串焼きもあれば、何かを煮込んだスープやフルーツ山盛りの店やらが有るかと思えば、何やら薬瓶の並ぶ怪しげな店まで…。まさに千差万別!見てて飽きない。
「安いよ!旨いよ!どうだい?そこの兄ちゃん?!」
通りを歩いていると、強烈に良い匂いのする屋台のオヤジに呼ばれて見ると、肉の焦げるいい香り。
「じゃぁ1本!」
「あいよ!15セムだ」
その場で焼いていた串を一本、タレ壺に突っ込むと、あいよ!と良い声で、小銭と交換で手渡してくれる。見た目は豚串?のような肉を一気にパクリと一口…ムグムグ…んまぁ~い!
醤油ではなく、ピリッとしたタレは、スパイシー!ほほぉ~やっぱり良いねぇ食が豊かってのは。
フラフラ、アチラを見たり、こちらで話してみたりと歩いているといつの間にやら日用品や雑貨の並ぶエリアに…あ、服!替えの服買っとかなきゃと思い、中古服?古着屋?の一軒へ。
ふぅ。やっぱ、服は高いのね。店を出て路地の入口辺りで鞄に詰めようとしていると、マップに黄色反応。…なんだ、注意信号?その光点はこの人混みを縫うようにしてまっすぐこちらへ向かって来る。
──なになに…え?
確かめるように、そっと視界をそちらに向けると、薄汚れた服にボサボサ髪の…昨日街の入口で俺の声を掛けてきたちびっこだった。
”ドンッ”
「ってぇな!気ぃつけなよ」
呆気に取られて茫然とする俺を怒鳴りつけると、彼女はそのまま雑踏に紛れて消える。…いや、ぶつかって来たのは君なんだが。そして、ふと腰に有った物が無くなっているのに気づく。あぁなるほど。彼女が掏ったのか。たくましい子供だなぁと、怒りよりも感心してしまう。
「ん~悪い事しちゃったかなぁ?」
しかし当然だが、小銭入れは空である。お金は全て異界庫だ。その理由はメニューに有る。異界庫に入れると残高表示が左下に出るのだ。なので、あの袋経由で全部出し入れしていた。彼女はそれを見ていたんだろう。
「やっぱ、スラム?とかの子なのかな。少し残しておけば良かったかなぁ」
と意味の無い事を考えながら、小銭入れの代わりを探しに雑貨屋を探す事にした。
「フフン。あの兄ちゃん田舎モンだねぇ。チョロいちょろ──!チッ!やられたのはこっちかよ!」
路地裏の陰の中、悪態をつきながら少女【ユマ】は空の袋を地面に叩きつけた。
雑貨屋らしき店はすぐに見つかったのだが──。
「あれ?ここ、店じゃないのか?」
入り口のドアを開け中をのぞくと、棚には物が雑多に積まれ、通路にも何やら部品なのか商品なのか判らないものが散乱していた。倉庫なのかな。そう思い、ドアを閉じようとした時。
──おや、珍しいね。
しゃがれた女性の声が暗い店の奥から聴こえて来た。突然の声にビクッとして、固まっていると奥で何かが動いた。
「んしょっと。…おや?若いお兄さん、お客じゃないのかい?」
うん。確かに声はしゃがれていた。年季の入ったお声だった。なのに…何だあの美人は!超美人じゃん!あまりに美しい顔の造形に、違う意味でまたしても俺は固まった。
「あぁ。エルフを見るのは初めてかい?まぁ、これでも二百は超えた婆さんだよ」
──エルフ!!あぁ生エルフ!!エロフじゃないけどエルフ!語彙が吹っ飛ぶ!美人だエルフ!イエアッ!!超ガッツポーズ!
「な、なんだい?変なのが来たねぇ。で?お客かい?」
「はい!変じゃない客です!実は今しがた、財布を掏られてしまって。代わりを買おうと思ってここに来ました」
「ははは。そりゃ災難だねぇ。…ん?じゃぁ金は有るのかい?」
「あぁ。はい。見せ財布でしたから」
「おやまぁ、賢い人だね。財布なら…そこの棚に幾つか有るよ」
そこって、何処の棚だよ。彼女に言われて周りを見るが、何がどれやら全くわかんねぇ。お、これか?
「ああ。それじゃないよ。それは異界鞄(小)だよ」
──へ?これ、魔道具なの?!ってこんな無造作に、埃塗れでポンと置いておいて良いのか?
「あ、あの不用心では?」
「ん?何言ってんだい?ここはそう云う店だよ。それに悪意のある者は入ってこれないからね」
そう言って美人の老婆エルフ。…美婆エルフ…ビバエルフ!はこっちに歩いてきた。
「──お兄さん。何か変なこと考えてないかい?」
ビバエルフさんのジト目頂きました!
「あははは!嫌だなぁ、ビバエルフさん!変なことなんてなんにも」
”バシィ”
「あたしゃそんなバカみたいな名前じゃないよ!【セリス】ってんだよ!」
「ナイスですっ!セリスさん!お名前魂に刻みました!」
「──変じゃなくて、ヤバいのが来ちまったよ」
ドン引きしながらも、セリスさんは財布の場所を教えてくれた。
「えぇと…あ、これでいいです。あと良ければ魔道具、見せて欲しいです」
「あぁ、構わないよ。どんな物がいいんだい?」
「ん~そうですねぇ。あ!やはり、野営に役立つものが良いです」
「ほぉ。旅にでも行くのかい?それともあんた冒険者かね?」
「いえ、すぐにどうこうとかじゃないんです。ただ、備えあれば何とかって言いますからね」
「若いのに殊勝だねぇ。ん~、ココ辺りが野営には良いかね。んで、あんた属性は?」
「あ、えぇと幾つかは」
「はぁ?だからどれだい?火、水、土、風、光?」
「うぅ。その辺りは全部…です」
「は?全部?まさか全部?──あんたヒュームだよね?」
「え?はい。」
言った直後に後悔する。あちゃぁ、まずった感じか?彼女は俺を爪先から頭のてっぺんまでを舐める様に眺めた後、うすら寒い笑顔でこちらを見る。
「──へぇ。…ヒュームで、マルチとはねぇ。長生きはするもんだねぇ」
「あ、あのセリスさん。出来れば内密でお願いしたいんですが」
「…ふぅん、訳ありかい。まぁいいさ。別に言いふらしはしないよ。」
その返事に安堵したが、彼女の笑みはさらに深くなっていた。
「その代わり、ちょいとこっち来な」
「──ハィ」
「別に悪いようにはしないさ」
そう言って魔道具の幾つかを持って彼女は店の奥へと進んでいった。
◇ ◇ ◇
「ほれ、ココに魔石が嵌っているだろう。ココに自身の魔力を込めることで作動させるのさ。ただ、目的によってその魔石には属性が付与されているからね。だから、違う属性の魔力を注いでも作動しないんだよ」
ここは店の裏庭。要するに使えるかどうかの実験の為に連れて来られただけだった。何だよちょっと変な勘違いしちゃったじゃないか。へぇ。属性付与かぁ。まぁそうだよなぁ、火の魔石に水属性の魔力って意味無いもんなぁ。それにしてもこの世界じゃ、魔石って電池扱いなんだね。
「判ったかい?じゃぁ、順番に魔石に魔力を込めてごらんよ。ここに有るのは総て属性が違うから。お前さんの言うことがホントだったら、纏めて安く売ってあげるよ」
そう言われ、順に少しずつ魔力を込めていく。
──セリスの頬を冷や汗が流れていく。其処には次々と満タンになり光る魔石が嵌った魔道具たちが並んでいた。まさか本当にマルチ属性だなんて。8大基礎が全部…。しかも全ての魔石の容量が一杯だよ。
正直、全く信じていなかった。ヒュームの小僧がマルチ属性だなんて。ただ、この店に入って来れたから。試してみる価値はあるかと思っただけだった。なのに、全ての魔石を満タンにまで…。
「マルチってのは本当みたいだねぇ、しかも全ての魔石を満たすなんて」
──彼女はそう言って、疲れたように笑っていた──。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
ランキングタグを設定しています。
良かったらポチって下さい。