第8話 意味深長
「──…なんだ、お前?」
突然シスとは違う雰囲気になったゴーレムが、変わった声で話し始めた。マップ上に変化はないし、意識上あのゴーレムはシスのままだ。
【そう警戒しなくても大丈夫だよ。……そうだね、今はすこ~しハッキングしているようなものだからね。】
「シスはどうなっている?」
【勿論無事だよ。君の精神波動のせいで機能不全を少し起こしただけ】
「機能不全?」
【そんな事より、今は僕の話しを聞いて欲しいんだ】
そう言って俺の言葉をソレは遮って来る。
ハッキングの様なモノだと? 確かにシスはスキルだ。概念上スキルを
阻害、妨害は考えられる。だがこれは乗っ取りだ。術式介入でもしたのか?
「何の話だ?」
【お?! 聞いてくれるのかい。話が早くていいねぇ】
「前置きは良い。さっさと話せ! シスを早く解放しろ!」
【おやおや。嫌われてるねぇ──…まぁいい、ではよく聞いてね】
そう言って間を開けてから、それは言った。
【真実を信じるな。事実を見極めろ。】
「───……は?」
【ハハハ! 今はまだ分からないかもね、でも忘れるな! ……クソっ、もう見つかったか。……そろそろ時間だ】
「いやいやいや! おい! それじゃ何にも分からないぞ!」
《ガガガガ───…ピーピピ! ピ! リブートスタート》
「おい! 待て!!」
《…ピピ! 原状回復しました! ログを確認──…正常》
「……シスなのか?」
《はい、マスター落ち着きましたか?》
「え? あ、あぁ。お、お前乗っ取られていた事分からないのか?」
《…何の事でしょう? ログには何もありませんが》
俺はさっきの五分ほどの会話をシスに話し、乗っ取られていた事を伝えた。
《…少々お待ちください。───……全システムにアクセスしましたが、
現時間から遡行して機能不全の時間は五秒程ですが》
「は? そんな馬鹿な!! 現に俺はソイツと話を──」
『ねえ、ノート君』
「…は!! そうだ! マリネラ様! 聞いてましたよね!」
『──…今の今まで貴方が怒ってすぐにシスが起動したわよ。その話しなんて今初めて聞いたわ』
え? なんだ? どういう事だ?? それじゃまるで俺だけ時間が違う場所に──…!
時間が止まっていた!? いやいや。……もしくはスキルで干渉されて……。
駄目だ。全く意味が分からない。大体何だあの言葉、真実を信じるなって。事実を見極めるってなんの事実だ?
クソ! 何だってんだ一体、ここには神様までいるのに。
その後、もう一度二人に整理しながら話したが、全く分からない事が分かった。
『……どうゆう意味なのかしらね。真実を信じないって』
《…事実と真実を見極めるではないんですね》
「あぁ。真実を疑えって意味だったな。事実を確実に調べてって感じだ」
『──…その話し、オフィリアちゃんの事なのかな?』
「分からない。やっと話せたみたいなことを言ってたし。全く関係ないかもしれない」
『そう……。』
《…マスター。ドアの向こうでお三方がかなり慌てていますが》
「ファ? なんで?」
《恐らくは先程の怒気と殺気が原因かと》
言われてさっきの事を思い出す。結界を解いてドアを開けると皆が凄い形相で、なだれ込んで来た。
「「「何が起きた!!?」」」
◇ ◇ ◇
「──そんな…」
「そんな事が出来るスキルが──…」
「………。」
皆に状況を説明し、起きた振動と殺気や怒気はもう落ち着いたと話し、秘術の事を言って聞かせた。シスの異変については話していない。マリネラ様とはチャットを切って、今はパーティメンバーだけで部屋にいた。
「マリアーベルさんはどう?」
俺が聞くと、セリスは黙って首を振る。状況は何も変わっていないらしい。
「これからどうします?」
キャロルが控えめに聞いて来る。
「──そうだな。とにかく彼女の衰弱状態を何とかしてあげないと」
現在彼女は部屋に用意したベッドで横になっている。
衣服は着替えさせ、首輪も外した。風呂場でキャロとシェリーに洗ってもらい、傷の有無も確認してもらっている。
規則正しい呼吸音と起伏の薄い胸が上下している。
頬はこけ、長い間洗われてれていなかった髪は広がったまま、手足は小枝の様に細く、今にも簡単に折れそうだ。ステータスでの彼女は二十六歳だった。だが今その顔はとてもそんな感じはしない。まるで老婆の様な顔立ち。
そんな彼女を見ているだけで、腹の中に重く黒い何かが溜まって行く。
これが……こんな姿が聖女の終着だと言うのか……。
彼女の生い立ちは分からない。望んで聖女になったのかも分からない。
今調べるのは不味いだろう。向こうも必死で彼女を探しているはずだ。下手に動いて彼女を危険にさらす事は出来ない。
───オフィリア……。彼女に話を聞きたいが……今の俺では。
勇者の記憶──…相馬健二だった俺の記憶。
駄目だ。とにかく今は彼女を助けよう。
「シス、彼女の状態は栄養失調以外に体の異常は?」
《──サーチ完了。身体異常は見当たりません、栄養失調による拒食症状態の可能性は有ります》
「そうか。じゃぁまずはポーション関係だな。あとは──」
俺は皆に彼女の療養指標を話し、素材集めに動き出した。
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「はい、どうやらその様です。現在は彼らの部屋で面倒を見ています」
『フム──しかし、あれだな。彼らは動く度に何かしらが起こるのだな』
「は! それには同意いたします」
マルクスは辺境伯と連絡を取っていた。カデクスに着いた報告と現況の問題報告。……事は何しろ聖教会絡み、ほぼすべての国の国教なのだ。
そのトップの聖女の秘密に関するもの。とてもじゃないが、自身で負えるものではない。本音は衛兵に引き渡したかった。一刻でも早く、彼らを辺境伯の元へ連れて行きたかった。
だが彼等の意にそぐわない事は出来ない。セリスと言う国賓に加え、ノートと言う青年は迷い人──。
一領主の、しかもただの騎士でしかない自分に何が出来るのか。辺境伯様に連絡し、指示を受けるしかなかった。
『──そこに代官はいるかね?』
「は! ここに」
『少し手間をかけるやも知れんが、王からの願いでもある。彼らの要望には応えて欲しい。もちろん相応の見返りは用意する。済まんがよしなに頼む』
「御意!」
ロッテン・ヘルシオン男爵は、小さな小箱から聞こえるエリクスの声に唯肯定していた。
男爵としてこの街を任されて、今まで何の問題もなく過ごしてきた。
交易中継都市として細かないざこざは有ったものの、全ては自分の裁可の下で収まる出来事ばかりだった。
今回の件にしてもそうだ。最初、身分としては国賓だと聞き焦った。
だが聞いてみれば、通過するだけ。一~二泊するだけのお忍びだと言われた。
だから軽い気持ちで受けてしまった。断る選択肢もなかったが。
それなのに──襤褸の女を拾ってきたと思ったら、その女が聖教会絡み? 冗談じゃない!!──…と言いたいのはやまやまだが…言えるはずもなく。……あぁ神よ! 早くこの試練をおわらせ給え!
──彼はその元凶を作った神に祈りを捧げていた。
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「…ここがロッテン男爵邸か」
貴族街の大きな通りを挟んで、反対側の邸宅塀越しにその男は身を潜めていた。
「───…貴様にやってもらう任務は監視業務だ。代官のロッテン男爵邸を監視してもらう」
「は!」
「いいか。コレは極秘任務だ。報告は俺だけにしろ、内容は──」
「それにしても、邸宅の客人の出入り監視なんて。──犯罪者でも匿っているのか?」
衛兵隊長に監視任務を与えられたニクラウスは一人、呟きながらも男爵邸を眺めていた。
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