第2話 大きな網の目
「「作れるの!?」」
シェリーとセリスが、同時に俺に詰め寄って来る。シスの奴、要らん事を言いやがって。
正直言って作れると思う。設計したの元々俺だし、部品さえ集めれば、間違いなく出来るだろう。でも今は先に王都に行かなきゃダメじゃん。
それを二人に伝えようとしたら。
《ジ〇ニータイプなら一週間掛からず、可能です》
先回りされた! おい! どう言うつもりだシス!
《キャロルさんがもう持ちません》
「え?!」
そう言われて休憩所を見ると、彼女は一人で塞ぎ込んでいた。
共同竈の鍋を見つめ、ぼうとした表情のまま時折苦しそうな顔をする。拳をきつく握りしめ、きっと結んだ口元がとても辛そうに見えた。
「…キャロ…大丈夫?」
俺はそっと彼女の肩に手を置き、ゆっくりとした口調で話しかける。
「……ノートさん…今日はごめんなさい。何度も気絶しちゃって…」
竈の火に照らされた彼女は今にも泣きだしそうな、それでも耐えた表情で、気丈に俺に笑いかけて来る。
胸が締め付けられるとはこの事か。まるで自分事の様に悲しくて、思わず彼女を抱きしめる。
「…キャ…どうしたんですか、ノートさん」
「大丈夫! もう絶対大丈夫だから。…そんな哀しそうな顔しないで良いよ」
そう! もうこんなのは嫌だ! 絶対に守って見せる!!
「シス! 素材と材料、ピックアップして纏めておいてくれ! 出来たらセリスに集めさせてくれ!」
《…了解しました》
「ぬ? 儂が集めるのか?」
「あぁ。その方が早いだろう。シスは俺の素材は共有しているけど、セリスさんの分は分からないから。それも合わせれば早く出来る」
「…ノートさん、どうゆう事です?」
そこから皆で集まり、もう一台俺が直接魔導車を製作する事を告げ、セリスとシェリーに部品調達をお願いした。それを聞いたキャロルは、涙を流して喜び、尻尾がはち切れそうなほど揺らしていた。
「さあ、話しも決まった事だし食事にしよう」
「「「は~い」」」
日が完全に落ち、休憩所の周りに設置した魔道具の灯りが、周囲を照らす。この場所には、俺達以外の休憩者は居ない。ミニマップで周辺確認もしたが、周囲二キロ圏内には、人も魔獣なども見当たらなかった。
「このスープ、野菜が一杯で美味いな。」
「ふふふ、異界庫のおかげですね。普通なら乾物くらいしか無いですからね」
キャロルが嬉しそうに話してくれる。彼女は何気に料理が上手だ。
「このパンもふかふかだし、よくこんな短時間で作れるよな」
「そこは私の術で、時短しているから」
そしてシェリーも巧みに術を使った料理をする。
「…料理に関してだけは、儂は何も言えんの。感謝じゃ」
そう言いながら、セリスは黙々と食べていた。
「…ノート君、そう言えば此処はどの辺りなのだ? カデクスまでは
まだ距離があったと思うのだが」
マルクスさんがそう言って聞いて来る。
「え? あぁ、明日の午前中には着きますよ。この先の丘を越えれば
すぐみたいですから」
「え?! もうそこだったのか。…あれ? じゃあ何でこんな…あ」
そこまで言って固まる彼。恐らく思い出したんだろう、キャロの事を。
「ま、まぁここまで来たんだ。ゆっくりしても良いな。うん!」
なんだか変な纏め方をして、うんうん言いながらパンをかじっていた。
食事を終え、手分けして洗い物を済ませた後、マルクスさんが聞いて来る。
「さて、不寝番はどうするのだ? 我も当然させてもらうぞ。…そう言えば、天幕がないが、皆はどうやって寝るのだ?」
「え? 不寝番? 要らないですよ。…寝るのはこの車の中ですから」
そう言って、魔導車の外装をコンコンと叩く。
「え?…いや、広いのは分かるし、確かに頑丈だろうが。流石にこの人数は無理があるんじゃないか?」
そう言って、魔導車を眺めるマルクスさん。そうだった、部屋の事を
まだ教えていなかったんだった。
するとセリスが、ニヤニヤしながら『ついてこい』と、後部席から乗り込んで行った。そして聞こえる絶叫。
「……さぁ魔道具片づけて、俺達も入ろう」
「「ハイ」」
◇ ◇ ◇
リビングでけたけた笑うセリスを見ながら、マルクスさんに説明する。
「この車は元々この状況を考えて俺が特別に造った魔導車なんです。勿論、量産は出来ません。これは仲間の為の車ですから。なので、セリスたちに造る物にこの装備は着けません」
「…はぁ。ってかノート君、空間魔道具ってさこんな複雑に拡張出来ないよ。聞いたけどあれ、個人の部屋でしょ。頭おかしいよ! 普通は出来て一か所! このリビングだけだよ」
もう、彼の中では何かが壊れたんだろう、飾り言葉の類もなくカイゼル髭の先をフワフワさせながら、中性的な言葉でまくし立てて来る。
「まぁまぁ、落ち着いてください。辺境伯様から俺達の事は聞いてるでしょう?おおよそすべて事実です。だから規格外には慣れて下さい。じゃないとこの先もっと疲れます」
「うむ。諦めが肝心じゃ、儂でさえ未だついて行けぬ時もある。そんな時は、『ノートだから』で終わらせるんじゃ。理解せんでよい、受け入れろ」
セリスの言葉に、『貴女様でもですか』と言いながら俯き、懐に手を入れる。
「…コレも君の作品だよね」
手に持っていたのは、レシーバー。しかもあれは俺のオリジナルモデルだ。
「…あぁ、それで情報が早いんですね。もう一台は辺境伯様ですか?」
「…そうだ。現在コレは辺境伯様の所で止めている。意味は君なら分かるよね」
「まぁ。でも、おかしいですね。それにそこまでの遠距離通話機能は持たせて居なかったのに」
「それこそスキルだよ。我には固有スキルが有るからね。詳しくは言えないが」
《…非常に興味深いですね》
「は!…そ、それがシスと言うゴーレムか!」
「何で急に姿を見せるんだシス?」
《彼はすでに私の情報は持っていました。故に監視していましたが、不要と判断できましたので。それに彼のスキルには、興味が有ります》
「…儂もじゃな。固有スキルでそのレシーバーをどうやって扱っているのか、非常に気になるのぉ」
そう言って、セリスまでもがゴーレムを出す。
「待て待てセリス! 何こんな所でゴーレムを出すんだよ、仕舞え。それに内容は言えないって、マルクスさんは言ってたじゃんか」
《ですがマスター、これではせっかく作ったスマホが何時まで経っても使えません。いっそ、カメラを先に普及させますか?》
「だから待てって! マルクスさんが追い付いて来れなくなる! 先ずは彼の話を聞かないと」
そう言って二人を落ち着かせて、皆でソファに座る。キャロルはお茶の準備を始め、シェリーはマルクスのレシーバーをじっと見る。
「……ふぅ。君たち相手に、隠し事は出来そうもないな。シェリー殿は
気付いている様だしな。このレシーバーは改造済みだ」
そうして聞いた話は俺にとって驚愕だった。
辺境領内での新しい技術や発見は先ずその領都に集約され、本部に上がるシステムになっているらしい。そうする事で既存の物や重複する物等の選別を行わないと本部のギルドがパンクするからだ。
各領都で厳選されたそれらは初めて支部長会で確認され、本部へと送られる。そこでまた専門家たちで調べて確認の取れたものが、全国へと流通する。
まぁ、要するにダブルチェック機構だわな。そこまでは言われて納得だった。
だが、どこの国でも誰より先んじたいと言うバカは居る。それを監視するのもまた各領主の仕事でもあった。そうして引っ掛かったのがこのレシーバー。
エクスの錬金ギルドのマスターは、何を思ったかこのレシーバーを直接辺境伯に送ったらしい。魔導車の事も送りたかったが、あちらは既に魔導車協会が入っていたので、諦めた。現在彼は牢屋で尋問中だと言うが理由はどうやら王都に戻りたかったらしい。
要するに点数稼ぎとコネ作りの種に使ったんだろう。
辺境伯は届いたレシーバーを早速研究させた。そして複製も問題なく出来た。当然だ、出来る様に俺が創ったんだから。ただ辺境伯は切れ者だった。
──もっと通信距離を延ばせるんじゃないかと考えた。
部品を厳選し、魔石の大きさも変更したりして少しは伸びた。だが少しだった。そこで研究者たちは更に考えた。視点を変えて見方を変えようと。
先ずは中継器。中の部品を解析し、送られる魔素信号を方向性を付けて飛ばす。
不可能だった。まず、魔素信号が見えなかった。
別の研究者が言った一言で、事態は急変した。
「風を飛ばす属性持ちなら、方向を指定できるのでは?」
「…我の固有は魔眼。魔素の流れを視認できる。そして魔術属性は風と魔素増幅」
《…盲点ですね。そんなピンポイントな固有スキルと属性持ちとは》
…いや、言うんかい! しかもそれって狙ってるんじゃね? そんな抜け穴思いつかねぇし!!
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