第1話 落っこちて異世界
始まりはテンプレな異世界転生物語。
少~し妄想癖のあるおじさんのちょっとおバカな俺Tueeかと思っていたら…。
いつの間にやら色々巻き込み、思ってもない方向へ転がり始める。
さて、長いお話の始まりです。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています
『……本当にこれで良かったのですか?』
【──あぁ、これでいい】
『しかしこのままでは****は……』
【良いんだ。このままじゃ、奴らのオモチャにされてしまうからな】
『──そうですか……』
(頼んだぞ。今度こそ……今度こそ、彼女を救うために)
*****************************
───んぁ。……ここは、何処だ?
気が付くと、見渡す限り白い世界、上下も左右もわからない。
……へ? まじでなんだここ? え? なにこれ怖いんですけど。
生まれも育ちも田舎で、平々凡々。顔立ちだって平均以下。なんとか三流大学卒業して、就職したのはブラック会社だった。朝から晩まで必死に働き、早三十年、親の死に目にも会えず、気づけばボッチの初老になっていた……。
俺の名は太田零士。今年五十歳になったヨレヨレのおじさんだ。
高校時代に一度だけ彼女と言えるものが出来たなぁ。確か名前は、華ちゃんだったっけ。そう言えば風の噂で、今度孫が生まれるってって聞いたなぁ。ふと、郷愁に涙が滲んで……。いやいや、そんな自己紹介してる場合じゃねぇ!
今日もいつも通りに朝から晩まで会社でひいこらサビ残終わらせて、終電間際で自宅に帰ったはずだ。そして、風呂に入って、あ! コンビニ弁当食うの忘れてた。それから、えぇと。そのまま布団になだれ込んだんだよなぁ。
──え? 布団、いつ敷いたっけ?
確かに男五十の寡婦暮らしでも、そこはやっぱきちんとしてたからな。ちょっと潔癖気味なんですよ俺。じゃなくて!
「あれ? なんか、でも白い……ふとんに」
無意識に声に出して、話した時だった。
──狭間に堕ちたんですよ。
いきなり、知らない声が聴こえた。
「んぎゃあ! なになに??」
「あらあら、驚かせたようでごめんなさい」
とても謝っているような声音ではなく。まるで事務的な声だった。
「ど、何処に?」
周りを見回すが、人どころか何もない。全くの白の空間。オロオロしていると突然、目の前にフラッシュが焚かれたように光った。
「まぶしっ!」
「これでわかりますか?」
目を瞬かせながら見てみると、目の前に、人型のシルエットの様なモノが見えた。
「ひっ! お、おばけ!」
「おばけ? 違いますよ。ただ、あなたが知覚できないだけです。身体が有りませんから」
そう言うとおばけ? は居住まいを正し(てる感じに見える)て話しかけて来た。
「太田零士さん。残念ですが先程、あなたはお亡くなりになりました。」
なんともテンプレートな臨終宣言だなぁ。と他人事のように聞いていた。
(ん? もしかしてあれか? 所謂異世界転生、チートもらってウハウハじゃ!てやつか?)
俺は、この年になってもそう言う物語や、ゲームなんかが大好きだった。だからこの先の展開を一人、妄想し始めようとしていたが。
「あなたには、もう肉体が存在しません。このままその御霊を清め、輪廻の輪へと還す事もできます。」
──ん?
「ただ残念なことですが、地球ではなくここイリステリアに堕ちて来ました。ですので、この世界の環に入ることになります」
……い、いりす、なに? 何処それ?
「そして、新たな生を受け、イリステリアでまた新しい天寿を──」
「チョ~~っと待ったぁ!」
「??」
「いやいや、お待ち下さい。何処ですか? それ。てか、落ちたとは?」
「ふぅ~。そこからですか」
なぜにため息? え、俺なんか悪い事でもした? いや、普通に家で布団? で寝てたよね。
「いいえ。あなたは堕ちてきたのです」
──……は? 喋ってないよな今。なぜ返事が?
「あなたの今の状況で言葉が出せると?」
そう言われて見下ろすと……。な~~んにもない。か、からだが、ない。
「先程お伝えしましたよ。肉体は存在しないと」
おうふ。白かったのは周りだけじゃなかったよ。所謂、人魂? ……なんとも超古典的な。フヨフヨと所在なく、本当の意味で真っ白になりかけながら、俺はもう一度キチンと説明を求めたのだった。
「すみません。全く此方に来た時の記憶がないのです。お解りになるようでしたら説明をお願いいたします」
平身低頭、懇切丁寧。ブラック企業戦士の処世術。ザ・土下座である。出来ないけど、気持ちだ! その気概!
「はぁ~~~~~。仕方ないですね。では説明します」
クソでかため息。ほんとに聴く事ができるとは。それにしてもこの人? 女性なのかな? かなり事務的に喋っているから判り難いが、綺麗な声だよなぁ。
「ん、ンンッ」
あ! やべ。俺の思考筒抜けだったわ。
「よろしいですか? 始めますよ」
「はい! お願いします!」
彼女? の説明ではこうだった。
俺は電車に乗り、駅から自宅へ戻る最中かなりふらついていたらしい。おそらく過労だったのだろう。途中、幽鬼の様な表情で、コンビニ弁当を買い、またフラフラと自宅へ戻ったそうだ。そして風呂に入って、体力が限界だったのだろう。風呂を出て、そのまま寝室で発呪し、暴走、次元が開いてそこに落ちたらしい。
──うん。おかしい。
なぜ、会社から電車に乗った場面を知ってるの? とかは許そう。でも最後の方。ハツジュとか、次元が暴走? なんだ? 全く意味がわからん。
「あの、ハツジュ? とは?」
「そのままの言葉ですよ」
「いえ、ですからそれ、なんですか?」
「魔術の発動呪文です。恐らく、かなり体力、精神力をすり減らしてらっしゃったので、生命力自体を触媒にしたのでしょう」
──なん……だと?!
うわ! テンプレ発言しちゃったよ。てか、は? 魔術? いやいや、え? 地球人ですよ俺!
「おや? そう言えばそちらの世界は物質至上世界でしたね。なぜ発動したんです?」
「俺が聞きたいです! てか、魔術なんて物語にしかなかったし、魔素もマナもない世界のはずですよね?」
そうだよ! 判るわけ無いじゃん! それともあれか? 俺の中に暗黒なんちゃら、ホニャララマターでも眠っていたのか? それが、【瞳】なのか、【右か左腕】から、飛び出してったのか? ふぅ、やべぇ。妄想が止めどなく溢れる。落ち着け、俺。深呼吸しようと顔をあげ、彼女の方を見てみると……。
「…………。」
彼女は黙って長考しているようだった。
「ど、どうしたんですか?」
不安になり声をかけた瞬間、それはいきなり起こった。
“ゴウ!”
俺の周りで突然、突風が渦巻いたかと思うと、瞬く間に大小様々なシルエットが、取り囲んでいた。
突如現れたシルエットに、俺が固唾を呑んでいると、最初から居た彼女が、傍らのシルエットに話しかける。
「どう思います? エギル。この者は物質世界の理をどうやって逸脱したのですか?」
「フム……」
エギルと呼ばれた、かなり細めの背が高いシルエットが、一歩俺に近づく。
「管理者イリスよ。この者の肉体は?」
「狭間で微塵になりましたよ。ただ、一応回収はしましたが」
おうふ。か、管理者! 彼女管理者なの! 偉い人じゃんか! なに? 役職世界があるの此処? うわ~~世界って何処も似てるのねぇ。てか微塵になったの俺の身体? 回収って、ゴミ集めたよみたいに簡単に言わんでも。
「む? ではどうやって此処へ?」
エギルとは違う、普通身長のシルエットが問う。
「そのままですよ。その魂魄のまま此処へ堕ちてきました」
「管理者イリスよ。ここへ魂魄のまま来られる者など存在するのか?」
先程とはまた違う少し背の低いシルエットが聞く。
「……そう言えばそうですね。このアストラルフィールドで、自我を確立させたまま、存在している事自体──」
「ねぇねぇ、イリス様ぁ。この子、地球人なんだよねぇ」
なんとも舌っ足らずなちびっこシルエットが言う。
「おや、マリネラ。貴女まで来たのですか」
さも、今気づいたような口調で、ちびっこに応えるイリス様。
「管理者イリスよ、その肉体を見せてほしいのだが」
先程ののっぽシルエットがイリスに近づく。
「コレです」
言うと、イリス様は右手を翳す。すると、その袖口あたりから、ぼとぼとと細切れになった何かが、白い床? 辺りに溢れ出す。うをっ! グロ! くねぇなあんまり。あぁ、血塗れだったり、内蔵だったりが解らないほど綺麗に何かで裁断された様になっているからか……。
「ふむ」
少しの間、その溢れた肉塊? を見詰めるのっぽシルエット。そして徐ろに、それに手を翳す。すると、それらはグニャグニャと突然蠢きだし、何らかの形を創り出す。
──あ、俺だ……。
懐かしき平々凡々な肢体。所々何かが足りないのか、黒く穴が空いているようにも見えるが、間違いなく俺の身体だ。生まれて五十年もの間、酷使しながらも、ヒイコラ言いながらも壊れることだけはなかった、俺の肉体。
「色々足りんが、まぁ、良かろう……ん?」
のっぽさん(ドンドン端折ってるよな、ま、いいか)が、俺の身体の一部を見ながら呟く。
「おや? コレは──」
彼の言葉に釣られる様に、シルエットが集まっていく。
俺ともう一人を除いて。
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