第5話 変わり者のエルガー婆さん
ストックが切れてきました...
せめて休みまで持ってくれ...
クロの言葉についての実験が一通り済んだため、僕たちは家のお手伝いをしていた。今は残っている麦などを、粉ひきのエルガー婆さんの元に運んでいる。麦などを挽き粉にしてもらい、パンを作るためだ。
「うぅ、これ重いね…。明日腕が筋肉痛になりそう…」
『全く、普段から鍛えてないからだよ?これに懲りたら、もっとお手伝いをして鍛えておくんだね』
「はい……。というか!なんで何も持っていないクロが、そんなに偉そうにしてるんだ!」
『私がそれを運べると思う?上に乗っけられただけで潰れちゃうよ!』
「そうだけれどもさぁ…」
そんな感じでクロと話しながら歩いていると、エルガー婆さんの住む水車小屋が見えてくる。川に面している小さな小屋で、大きな水車がついている。水車が水の心地いい音を立てながら回る様は、いつまでも見ていられる。というか、前に暇だからと一日中見ていたことがあった。
『わぁ!あれが君が言ってた水車小屋?』
「うん、そうだよ…!」
水車小屋をまるで宝石かのように、興味深く見ているクロを横目に、重い袋を背負いなおす。そして力を振り絞って、水車小屋まで進んでいく。
水車小屋のドアの前まで来ると、ドアを3回叩く。薄いの木の、コツコツ、という音が響く。ドアを3回叩くと仕事、5回叩くと私用、1回叩くとそれ以外になっている。わざわざこんなことが決めているのは、ただひたすらに、エルガー婆さんが変わり者だからだ。
エルガー婆さんは変なことにこだわりを持っていて、色々と面倒くさい。だが、村に粉ひきはエルガー婆さんしかいないため、みんな我慢して仕事を頼んでいる。
『エルガー婆さん…どんな人なんだろう…!』
「クロが想像しているような人じゃないと思うけど…。正直僕、あの人苦手だし…」
扉を叩いてしばらくすると、エルガー婆さんが出てくる。曲がった腰に、白髪、そして木でできた杖。一見ただのお婆さんだが、中身を知れば誰でも変人だと思う事だろう。
「なんだい、フェリかい!仕事ならさっさと麦をよこしな!」
「は、はい!わかりました…」
「本当にかったのかい?返事はもっとはっきり言いなと何度も言っているだろう!」
「え、あ…すみません…」
「謝るんじゃない!あたしゃ、分かったのかどうかと聞いてんのよ!」
強めの口調で厳しく僕を叱るエルガー婆さん。僕が何をしても、難癖をつけて叱ってくる、嫌な人だ。でも、麦を粉にしてもらわないと困るため、言われた通りに答える。
「はい!わかっています!」
そう言いながら、袋をエルガー婆さんに渡す。僕より少し高いくらいの身長しかないのに、僕が散々苦労した袋を軽々と持ち上げる。
『この人、見かけによらず力持ちだね!』
エルガー婆さんにバレないように、こっそりクロの方を見て、苦笑いをする。
その後、エルガー婆さんが仕事をする様子をそばで見せられ、しばらくして終わったら代金を渡して粉を受け取る。
(ふぅ、やっと帰れる…)
そう安心しながら、粉を家に運ぶ。粉をパンにしてもらうのはまたいつかのため、とりあえずは家に置いておくのだ。
帰り道、行きと同じ道を歩きながら、クロに話しかける。
「ほらね、変わり者だったでしょ?」
『まぁ確かに、変わった人だったね…。でも、悪い人には見えなかったよ!』
「そうかなぁ…細かいことで叱ってくるし、嫌な人だと思うのだけれども…」
『私には、君のことを思って叱っているように見えたよ。感情をぶつけてるとかじゃなくて、しっかり君の成長のために怒っていた…と思う。まぁ、ちょっと怖かったけど…』
「やっぱりクロも怖かったんじゃん!」
『いや、だってさぁ……』
いつもなら暇な時間も、クロと一緒なら、楽しい時間になる。あの時勇気を出してよかったと思い、同時にエルガー婆さんに言われたことを思い出す。「返事はもっとはっきり」、エルガー婆さんのことは嫌いだけれども、その言葉だけは意識しようと思った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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それでは、またいつか