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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
黄金の夜明け編

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正義の特訓

 イブに連れて行かれた先。ここはどうも五貴人居住区の中でも鍛錬用の空間らしい。真っ白な柱の立ち並ぶ中、そこは柱すら存在せず、真っ白な空間だけが異様に広がっていた。

 そこでは生徒会執行部の面々が、自身のアルカナカードの入ったカードフォルダーを抱えて、それぞれ魔力増強訓練を行っているようだったが。

 スピカたち一年生が授業で行うものよりも、そのスピードは激しい。

 過度な筋トレだと疲れて身動きが取れなくなるのと同じで、過度な魔力増強訓練だと翌朝足腰が立たなくなったりする。

 その特訓を、平然とイブが後輩たちに付けていたのに、スピカは頬を引きつらせていた。アレスも顔を引きつらせながら、訓練光景に指を差して尋ねる。


「ええっと……イブ先輩。俺たちはあれをしなきゃなんないんすかねえ……?」

「ああ! あれは聖夜に開催予定のテロ迎撃訓練ですから、ちょっと違いますよ! あちらの皆さんはご実家が騎士の方々でして。体力自慢が揃っていますから、あれくらいの魔力増強訓練、全然平気ですから! あなた方のは、ちょーっと違うんですよねえ。特にスピカちゃん」

「はいぃ~?」


 いきなり名指しで呼ばれ、思わずスピカは自分の指を差す。イブはそれに「はい」と元気よく頷いた。


「あなたは本来、【運命の輪】特化ですから、他のアルカナの能力が使えません。ですが、こたびの戦い、敵はテロリスト集団【黄金の夜明け】ですから、ひと筋縄ではいかないんですよ。あちらの持つアルカナカードも、全容のデータは現在ユダくんが過去情報から解析中ですけれど、こちらのアルカナカードとは仕様が違いますから、皆のアルカナの能力だけで戦える相手ではありませんから」

「ええっと……つまりは?」

「たしか、アレスくんは【愚者】でしたね?」

「は、はい」

「【愚者】の能力である、コピー能力、そして譲渡能力。それにより、周りに戦闘能力を読まれないように立ち回ってもらう……それが、現状の学園側のテロ対策戦術です」


 そうイブが、キリッとした顔で言う。

 それに、スピカとアレスは思わず顔を見合わせた。


「あのう……」

「なんですか、アレスくん」

「うちの生徒会長、こういう迎撃作戦とか、すっげえ苦手そうなんで、そんな頭のいいこと考えられたかなあと……」


 あの生真面目メガネのオシリスは、基本的に襲撃を受け続けては、革命組織に出し抜かれていた。それにしては、スピカに能力を転写させたり、アレスを有効活用しようとしたり、やけにアルカナカードの使い道を熟知した戦術を取るので、どうにも彼っぽくないのだ。

 それに先程までキリッとしていたイブの顔が、一瞬でむくれた顔に切り替わる。


「……私だってぇ、納得してる訳じゃないんですよぉ。でも会長がそうしようって頭下げるから……仕方なく……」

「ええっと……?」

「あの革命組織に、今回の迎撃作戦の指揮権引き渡したんですよぉ。なんかさんざん学校の中荒らし回ったのに、なぜか解散してないし、なぜか五貴人とか会長とかとも偉そうにしゃべってるし、本当にあの人なんなんですかぁぁぁぁ!?」


 そうがなり立てはじめたイブに、またしてもふたりは顔を見合わせた。

 あの普段は自身のゾーンに篭もってソファーで横になり、有事の際にはのそりと起き上がって戦車(チャリオット)を駆使して周りに指揮を執っていたカウス。

 このひと月どうも革命組織の動きはわからない上に、革命組織にいたはずのアルが五貴人入りしているし、入学前から知り合いのスカトすら心配して探し回っていたというのに。

 ちゃっかりとオシリスに頭を下げられていた彼らに、思わず笑ってしまった。


「よかったあ……カウス先輩、階級制度をどうにかしたかったみたいだから、アイオーン先輩がどうにかなったらもう用はないと退学するかもしれないって思ってた……」

「あの人、【世界】をどうにかするためだけに、ずっと留年して学校に居座ってた人だしなあ……せめてこんなとこにずっといるくらいなら、卒業はしといたほうがいいとは思うけど」


 ふたりがしゃべっている中、ようやくがなり続けていたイブの気が治まったらしく「はい、それまで!」と手をパンッと叩く。


「それでは、おふたりのそれぞれの課題に付き合ってくれる方々、お呼びしましたからね。それぞれから、きちんとアルカナの力を習ってくださいね! ちなみに訓練中の魔力については心配しなくてもいいですよ。アセルスさんがエリクシール皆さんに配ってますからね!」

「本当に今回、総力戦なんすね……」


 よく見たら、白い羽根を出してパタパタと飛びながら、魔力の枯渇で倒れかかっている面々にエリクシールを配り歩いているアセルスの姿が見えた。真っ白な五貴人居住区に、彼女の白い羽根はよく似合う。

 それはそうと、イブに言われてふたりは顔を見せると、そこに立っていたのは金髪の巻き毛に発光するほどの美貌を湛えた、あのタニアがツンとした姿で立っていたのだ。普段はドレス姿だというのに、珍しくも制服姿だ。


「……タニア先輩、ですか?」

「そうですわ。あなた方にわたくしの能力をコピーさせるというのは、少々気に障りますが。でも相手がトートアルカナである以上、わたくしたちも取り逃がした責任を果たさなければなりませんから」

「とーとあるかな?」


 思わずスピカが聞き返すと、タニアが髪を手で撫でつけた。


「【黄金の夜明け団】なんて恥知らずな名前、彼らにふさわしくはありませんわ。そもそもトートアルカナがあちらのアルカナ名でしたのに、自分たちは『黄金の夜明けのために』って聞こえのいい言葉を並べ立てて。そんな恥知らずな名前で呼ぶ必要はありまして?」


 どうにもタニアは、【黄金の夜明け団】に対して、相当思うところがあるらしい。そもそも、アイオーンがかつて彼らと対峙し、能力を搾取したと言っている以上、その場面にタニアもいたということだろうか。

 イブは「それでは、タニア先輩よろしくお願いします!」と頭を下げてから、彼女は生徒会執行部の面々の訓練へと戻っていった。

 タニアは「はあ……」と溜息をついてから、アレスとスピカになにかを投げつけた。それはどう見てもエリクシールである。


「あの?」

「今から死ぬほど苦しい目に遭いますもの。訓練が原因で魔力が枯渇してしまったら、元も子もありませんわね? きちんと魔力は取ってなさい」

「は、はい……」


 正直、ルヴィリエの一件があるため、タニアについては苦手意識が強いが。彼女は高慢な言動が目立つ貴族然とした人間なだけで、悪い人間ではないらしい。


(でも……)


 スピカは心配してアレスを盗み見る。アレスの貴族嫌いは、あのひと月前の騒動で治まった訳でもない。実際に学園内で革命が成功したからと言って、彼の大事な人が学園内で死んだ事実は変えようがないのだから。

 だが、アレスは心底憎悪の目でタニアを睨むことはなかった。ただいつもの挑発的な口調でタニアに難癖をつけるだけだった。


「で? タニア先輩は俺たちにいったいどんな訓練を付けるつもりで?」

「決まっていますでしょう? ゾーン展開の訓練ですわ」

「…………はい?」


 ふたりは顔を引きつらせた。

 ゾーン。大アルカナの中でも上位に位置するアルカナカードでなかったら使えない魔法であり、そもそもそのゾーンの維持には膨大な魔力がかかる。

 そのせいで日頃からカウスは魔力を肩代わりするデネボラを傍に置いて離れない訳だし、アイオーンもまた、回復能力を持つヨハネと行動を共にしている。

 膨大な魔力を持って維持している人々でさえ、対策を立てねば維持できない魔法なのだ。それを、新入生であるアレスとスピカにコピーさせようとしているのは、正気の沙汰とは思えなかった。

 一度アレスはカウスのゾーンをコピーした上で展開したことはあるものの、あれは魔力の補助をデネボラからいただいていたからできた芸当だ。自力の魔力だけで賄おうとしたら、普通は魔力枯渇で死に至る。


「俺たち死にません?」

「死ねばそれまでですわね。どのみち、放っておいたら弱い国民は根こそぎ死ぬのです。あなた方が死ぬか、学園外の人間が死ぬかの違いですわね」

「言ってること無茶苦茶おっかないですよ?」

「あら?」


 アレスの言葉に、タニアは挑発的な笑みを浮かべ返す。


「わたくしたちに完膚なきまでに恥を掻かせた人間が、できないからと恥を掻かせたままおめおめ逃げ帰りますの? 革命組織の子飼いは、大したことありませんのね?」


 その言葉に、スピカは頭の中で彼女の評価を訂正する。


(この人は別に、あの革命の最中で反省したとか、そういうのじゃないんだ……ただ、この人にとっては、革命組織だろうが、侵略者だろうが、敵だから叩き潰す……完全に辺境伯領の人の考えだ)


 辺境伯領は基本的に常に他国との小競り合いの前線に出ている。敵を叩き潰すというのに余念がないのは当たり前だった。

 タニアの言葉に、スピカは「アレス」と口を開いた。


「死なないように頑張ろう」

「……頑張ってできることとできないことはあるけど、まっ、そうだな」


 ふたりはアルカナカードを構えた。

 タニアはそれに微笑んだ。


「本当に……革命組織の子飼いは、生意気ですわね」


 その言葉の辛辣さとは裏腹に、彼女は心底楽しそうだった。

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