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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
黄金の夜明け編

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後始末の中の異変

 生徒会執行部は、先日まで行われていたアルカナ集め及び革命組織のテロにより、後始末に追われててんてこ舞いになっていた。


「やってもやっても仕事が終わらないですぅ……どうしてですかぁ……」


 本来は体を動かすほうが好きなイブが、後始末が原因で日を追うごとに弱っていっていた。

 それを苦笑しながら、「頑張れー」とエルナトが言っていた。こちらはこちらで、ほぼ毎日のように生徒たちをゾーンの中に入れては詰問を繰り返していたため、魔力の枯渇でフラフラしている。五貴人ほどの魔力もなければ、革命組織のように常に魔力の補給ができる環境でもないため、体調不良が続いている。


「学園内だけでこれだけ大変ですのに、本当に外部の人を呼び入れて大丈夫なんですか、会長?」


 イシスは全員の体力魔力を、どうにか休ませて回復するよう気を配り続けているが、それでもなかなか全員回復には及ばない。

 イシス個人としては、頭を下げてでも革命組織の人々に頭を下げて、生徒会執行部全員の魔力回復の手伝いをしてもらったほうがいいとは思っているが、生徒会執行部の副会長としてみれば、表立って生徒会執行部と革命組織が手を組んだと触れ回られれば、またいらぬ火の粉が散りそうで困る。

 そして話を振られたオシリスはというと、このところずっと生徒会執務室と五貴人居区域を忙しそうに行ったり来たりしている。

 五貴人の内、ふたりが空席になったとき、当然ながら次期宰相が確約されているオシリスにも五貴人に入る打診は来たが、オシリスは「これ以上忙しくされてたまるか」と断っていた。

 イシスは口でこそオシリスはそんな悪態をついているが、おそらくは五貴人に取り込まれたら、今までのようにアイオーンに直接文句を言うことができないからだろうと踏んでいる。

 口こそうるさいものの、オシリスは五貴人と生徒会の間に入り、そして学園内の人々からの文句を一身に受けて五貴人の盾になっている。そういうことができる人物はなかなかいないため、これ以上どうこう言うこともできないだろうと、せめてものお礼に、休憩時間にはお茶と一緒に甘いバームクーヘンを出している。

 オシリスは疲労でペタンとへなってしまった髪を掻き上げながら、書類に目を通しつつ言った。


「度重なる騒動の前から決まっていたことだからな。そんなこちらが無理だからという理由だけで断ることもできまいよ」

「それはそうなのですが……先日のこともありますから、警備は増やさなければなりませんが。現状生徒会執行部は立て直しができていません。万全とは言えない状態で警備に当たっても、一般生徒たちに多大な迷惑がかかるだけでは?」

「……本来ならば、この企画はその一般生徒たちのためのガス抜きだったんだが……どうしてこうも問題ばかりが起こるのか」


 そう言ってオシリスが頭を引っ掻いた。

 元々決まっていた行事。それは国内でも有数の女優であるフリーダ・フォルトゥナの公演会であった。

 ただでさえ学園アルカナは、卒業まではいかなる理由があっても外出は禁止。学園内に大きな町がつくられていて、買い物もアルバイトもその中でできるとはいえども、完全な外の情報を得ることができない環境でストレスを溜める生徒たちもいるために、定期的にガス抜きのために外部から客人を招いて催し物を開催していた。

 本来ならば【世界】のゾーン内に入った時点で監視対象になるため、【世界】の指示の元、警備を重点的に置けば滞りなく催し物は終えられるのだが。

 唯一の懸念材料は、一度【運命の輪】により、【世界】が今まで行っていたアルカナの剥奪と譲渡が初期化されたという点である。

 もちろん行ったのは在校生のスピカであり、彼女も魔力は飛び抜けて多くはないため、影響力は学園内だけに留まったように見えているが。

 それは正確な結果ではない。

 スピカの影響力は、アイオーンにのみ適応されている。そちらが問題なのである。

 そしてアイオーンは王族であり、次期国王。彼は入学前にも国からの指示で、たびたび剥奪と譲渡を繰り返している。

 皆が皆、金に物を言わせて大アルカナを買い取りに来た貴族であるならば、初期化されたところであまり大きな影響力はないのだが……もちろん、買い取った貴族たちからしてみればたまったものではないのだが、彼らの影響力は五貴人には及ばないのだから……なにもアイオーンが剥奪と譲渡を行っていたのは、金に物を言わせた貴族たちの傲慢だけではないのだ。

 現在、学園アルカナでは、そのアイオーンが過去に剥奪を行った人間について、国内にシェアを誇っているスチルボン商店に依頼して追跡調査が行われているがまだ終わってはいない。

 その中、「こんにちはー、交代に来ましたー」と仕事交代の声が聞こえてきた。

 相変わらずスカトとルヴィリエは、ここでせっせと仕事を手伝ってくれていた。

 スカトはルヴィリエを助けたい一心で生徒会に潜り込んでいたし、ルヴィリエ本人は五貴人により一度は心を壊されて人形状態になっていたのを預けられていた。

 そのことについて、生徒会側も思うところもない訳ではないのだが。

 このふたりのことを必死で庇ったのは、正義感の強いイブであった。


「この子たちはいい子たちです。裏切者とか言って追い出すのは、なんか違いますよぉ」


 実際問題、彼らは革命組織と懇意にしているとは言えども、悪いこともしていないのだ。ただ優先順位が学園の秩序よりも友達なだけで。

 結果として、人手不足も相まって、今も生徒会で仕事をしている。

 ふたりの顔を見た途端に、イブがへにゃりと笑った。


「ふわぁーん。お仕事交代しましょう交代しましょう。ありがとうございますぅー」

「ああ、イブ先輩。疲れ過ぎですよっ! ちゃんとご飯食べましたかっ!?」

「食べてますよぉ。全然足りませんけど」

「それ食べてないのと一緒ですよー」


 へにゃりとして抱き着くイブをポンポンとルヴィリエが慰めるように肩を叩いた途端に、彼女はビクンッと肩を震わせた。


「……ええ?」

「あれ、ルヴィリエちゃん……?」


 イブはきょとんとした顔で見ているが、その途端に生徒会執務室に緊張が走った。


「おい、なにが見えた?」


 オシリスがきつい物言いになったのを見かねて、イシスが「会長」とたしなめてから、やんわりとルヴィリエに問いかける。


「あなたの預言で、なにが見えましたか?」

「えっと……」


 ルヴィリエの所持アルカナ【正義】は肩を叩いた相手の三日以内の預言ができる。ただし三日以内の緩い預言なため、変えようと思えば変えられてしまうため、三日以内で預言の結果が必ず反映される訳ではない。

 そのため、彼女が口に出してまで違和感を持つということは珍しい。


「【世界】のゾーンが……溶けてたんですけど……解除されるんじゃなくって、溶けるってなんなんですか……?」


 ルヴィリエ自身も、見えた光景にいまいち自信が持てないらしく、困惑しながらも口にした内容に、周りもますます困惑する。


「ゾーンって、外側からの攻撃で壊すことはできるけど、それじゃなくて?」


 それを何度か遭遇しているスカトが尋ねると、ルヴィリエは首を振る。


「そういうのじゃなかった……私も、なんでそうなってるのかわからなかった……ただ、学園内が、前の舞踏会みたいに、騒然として……」


 そこでルヴィリエは喉を詰まらせたのに、スカトは「悪い……」と謝る。

 表向きは回復しているように見えるが、心の傷は表面だけではわからない。ましてやルヴィリエは入念に心が壊れるまで閉じ込められていたのだから、余計にだ。彼女にとって舞踏会の記憶は、彼女自身のトラウマに直結してしまっている。

 周りがおろおろとした空気になったが、空気を読まない声が飛んできた。


「うん、それってフリーダ・フォルトゥナの公演会で合っているかな?」


 いきなり声が聞こえ、皆は一斉に生徒会執務室の隠し通路のほうに視線を向けた。

 そこからちょうど、アイオーンが上がってきたのだ。


「やあ。できれば君のアルカナで、生徒会執行部の全員分の預言を見て欲しいな。できれば時期をずらしたほうが正確性が上がるだろうから、五貴人の預言は少しだけ様子を見て欲しいんだけど。どうかな?」

「どうかな、じゃないだろ。彼女のことを……」


 オシリスはアイオーンのあまりにも空気を読まない言葉をたしなめようとしたが、それより先にルヴィリエが口を開いた。


「……学園、大変なことになったら、またスピカが狙われますか?」

「どうだろうねえ? 【運命の輪】はそりゃもう、この国では芥のごとく嫌われるけれど、侵略者が全員目の敵にしているとは思わないかなあ。でも、戦う力がない人間は、侵略者が簡単に踏み潰してしまうから。自衛手段がない子たちは、危険だと思うよ」

「やります」


 ルヴィリエの宣言に、イブは抗議と困惑を込めた顔で「会長~!」と声を上げた。

 オシリスはアイオーンの言葉に苦虫を噛み潰したような顔をする。


「……うちの生徒会の子だ。貴様の好き勝手に潰してくれるなよ」

「ひどいなあ、オシリス。僕は常に、この国のことを思っているのに」

「すぐ胡散臭くなにか企んでいるようなことばかり言うから誤解されるんだ」


 ふたりのやり取りを聞きながら、スカトは心配そうにルヴィリエを見つめた。


「本当に大丈夫か? 先輩たちのを見たあとは……」

「……スカトは昨日見たけど、特になにもなかったから、二日後までは預言はできないよ。アレスは明日まで見れないし……でもスピカはもうそろそろ三日経つから預言が見られると思う」

「そうか。魔力が足りなくなったら言えよ。ちゃんとアセルスさんに頼んできてやるから」

「ありがとう」


 そう言いながら、ルヴィリエは生徒会執行部全員分の預言に着手するのだった。

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